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ヒロインなんですが誰も攻略してくれません!~誰か攻略してください~  作者: minori
第九章 楽しい日々が帰ってきたと思ったのに……

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99.ヒロインなんですが、大司教様の匂わせに混乱しております


 ティアーユ様がベッドの傍に来てくださった。

 挨拶をする為にベッドから降りようとすると、そのままでと手で制される。

 私はまた先ほどのベッドに座る形のまま、小さく頭を下げた。


「すみません、急に来て頂いて」

「久しぶりに君たちに会いたかったから良いんだよ。本当に大丈夫? 気分が悪いとか、何もない?」


 小さな子どものような容姿なのに、とても落ち着いた調子で尋ねてくれる違和感に相変わらず慣れない。けれど、親しいおじいさんが優しく様子を聞いてくださるようなそんな穏やかな空気にふっと肩の力が抜けた。


「少しだるいくらいで大丈夫です。せっかく来て頂いたのに、こんな元気で申し訳ないくらいです」

「ううん、大丈夫だよ。良かった。少し手を握らせてね」


 ティアーユ様は目を伏せながら、そっと私の手を握った。

 ふわっと優しく温かな感覚がティアーユ様の握った手から伝わってくるようだ。

 不思議な心地良さを感じていると、ティアーユ様がしばらくして目を開けた。


「……うん、ちょっと無理したね」

「あ、そう……なんですかね? すみません、無意識で」

「少し外れてるな、どうしようか」

「え?」


 外れている、とはなんだろう。

 ふと溢れ出てしまった言葉のようで、小さ過ぎて私にしか聞こえないような呟きだった。


 私が聞き返すと、ティアーユ様はにっこりと微笑む。それ以上何か聞く事ができないような、そんな圧があった。

 結局、その笑顔と空気に、私は黙りこむしかなかった。


「まぁ、大丈夫だろう。このくらいならすぐ回復できる。でも、あの魔法はしばらく使わない方が良い。消費が激しいからね」


 今度は皆に聞こえるような声でそう言うと、ティアーユ様は今度は両手で私の握っていた手をそっと祈るような形で包み込んだ。

 小さな白い光がかすみ草のように両手から溢れ出していく。

 それと同時に胸の中で花が咲くようなあたたかで不思議で優しく穏やかな幸福感があった。

 これが祝福か、あたたかくて優しい。

 体がぽかぽかとしたあたたかさに包まれると、そっとティアーユ様が手を離した。


 手を離してもなお、体のあたたかさかは変わらない。あまりの出来事に握られていた手をぼんやりと見つめた。


「これですぐに楽になるからね」

「あ、ありがとうございます」


 優しく微笑まれて、慌ててお礼を言う。

 私の様子が大丈夫そうなことに安堵した空気が部屋に漂った。


「まったく、こうなる前になんとかしないといけないのに。うちの孫は何をしていたんだろうね、すまないね皆」

「仕方ないだろ、今日は元々休みの予定だったんだから」

「始業式があるだろう。期の始まりの挨拶は大事なんだから、きちんと行かないと」

「だって授業はないだろ……」


 ティアーユ様がそう窘めると、ソファに座ったままのロベリアンから不機嫌そうな空気が流れてくる。顔が見えなくても分かるほどのその不貞腐れた様子に、ティアーユ様がはぁと小さくため息をついた。


「こんな性格だから色々と苦労をかけるだろうけど、よろしくね」

「いえいえ。こちらこそ、よろしくお願いします」

「本当に人付き合いが嫌いでね、この子は。色々と大変だろう」

「そんな事ないですよ」


 そう言うと、ティアーユ様が小さく目を見開いて私を見つめた。


「最近はパーティーでもファビアン先生と談笑される時間もありましたし、よく生徒会室にも入り浸って皆で話したりもするし」

「それはそれで問題なんだけどね」


 私の言葉にローランが苦笑する。

 そうか、生徒会役員以外が生徒会室に入り浸るのは良くないか。

 

 失言だった、と笑っていると、ティアーユ様は嬉しそうに私たちを見て微笑んだ。


「そう……よかった。うまくやっているんだね。私以外とまともに口をきいているところを見たことがなかったから」


 ティアーユ様がロベリアンの方を見つめる。

 そして、また小さく呟いた。

 

「やっぱり、フルール姉様が選んだだけあるね」


 フルール様が私を選んだ……?


 どういう事だろうか、と聞いてみようとすると、壁にかかった時計を見て、ティアーユ様が声を上げた。


「おっと……ごめんね、実はこの後もう予定が入っていて。すぐに帰らなくては。もし何かあったらすぐに連絡をしてください。では、私はこれで」


 ティアーユ様はそう言うと、深々とお辞儀をして小さな足をパタパタと動かしながら、早足で保健室から出て行った。

 慌てて皆がお礼を言い、送りますとローランとセージがティアーユ様の後姿を追いかけていく。


 最後の言葉が気になって、きちんとお礼が言えなかったな。

 どういう意味だろう。

 私は近くにいたヴィオレにあの言葉について聞いてみた。


「ねぇ、フルール様が私を選んだってどういう事だろう」

「え? 普通に光魔法の使い手に選ばれたって事じゃないのか?」

「そっか……そうだよね」


 ヴィオレには、そんなに不思議な言葉にも感じなかったみたいだ。

 私もそう言われると、そうなんだろうなとしか思えないんだけど。


 でも……どうもティアーユ様が何かを知っているようなそんな気がする。けど、聞いてもあの笑顔ではぐらかされてしまうんだろうな。


 ティアーユ様の祝福によってあたたかくなった胸に小さな違和感を残しながら、エリオントの学園襲来事件は静かに幕を下ろした。


読んで頂きましてありがとうございました。

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