96.ヒロインなんですが、ピンチを回避できたようです
禍々しい光の魔法がこちらへ向かってくる。
エリオントは首を傾げながらその光を見ていた。
「この速さじゃクロトンもヴィオレもセージも間に合わないじゃないか」
ローランが震えた声でそう呟く。
そんな中でもクロトンはヴィオレに抱えられながらも、必死にエリオントに呼びかける。
「エリオント、飛んでくれ!!」
エリオントが言われた通り飛んでみると、禍々しい光の魔法も軌道を少し変える。
どうやら追跡魔法も組み込まれているようだ。
「くそ……」
「そんな……」
ローランと私が同時にそう呟く。
エリオントがあの攻撃魔法を避ける事は出来ないようだ。
エリオントは自分が動いた事で軌道を変えた魔法に怯えた様子だった。
つぶらな黄金の瞳が不安で揺らいだ時、身体が酷く熱く、鼓動が早くなっていくのを感じた。
そして、禍々しい光を放つ魔法がヴィオレ達を巻き込もうとする時にその熱さは身体の中でピークに達していく。
エリオント達に手を伸ばしながら溢れ出る気持ちをそのまま喉が痛む程大きく叫んだ。
「やめて!!」
そう叫んだ瞬間、身体の中で何がピキッと音を立てたのを感じた。
その違和感を気に留める間もなく、手の先から出た光の粒がエリオント達の元へ飛んでいき、分厚い光の壁がエリオントの前に現れる。
そして、エリオント達にあの禍々しい光がぶつかる直前に分厚い光の壁がその魔法を止め、そのまま消滅させた。
「……何、これ」
助かったのは分かるが、急な展開に皆が何が起こったのか分からないといった風に呆然と立ち尽くす。
エリオントだけが、何度も首を傾げながら現れた光の壁を見て鼻先をツンツンと当てていた。
「ローラン、すぐに軍へ伝達を!!」
そんな中一番先に声を上げたのはセージだった。
セージがそう叫んだ否や、ローランがハッと我に帰りクロトン達に向かって叫ぶ。
「クロトン! すぐに僕の声を軍へ届けてくれ!」
「わ、分かった!」
ヴィオレがクロトンを抱えたまま、こちらへ走ってくる。
ローランが息を大きく吸い、クロトンがヴィオレに抱えられながらローランの声を届けるために風の魔法を使った。
ローランの声が大きく響く。
『ドラゴンは平静を取り戻している! 攻撃は無用だ!』
揺らめいでいた軍の動きがピタリと止まる。
ヴィオレ達、セージが軍が見える位置にと私達の方へやってきて軍の方をじっと見つめる。
少しして、また先ほどと同じように私たちの元へ声が届いた。
『承知いたしました、殿下』
その声が聞こえた瞬間、私たちはへたり込み、その場に座り込んだ。
とにかく、何がどうなったのか分からないが、私達は助かったみたい……。
「今回の学期は多分大波乱だな……」
ローランのこの言葉に皆どんよりとした顔で肩を落とした。
***
新学期早々だが、こんな事態なので冬期休暇延長といった形で全生徒は帰宅することとなった。
破壊された校舎の代替の場所を組み込んだり、校舎の修復に時間がかかりそうだ。
目処がつき次第の冬期休暇明けとする事とした。
その方針が決まると様々な事が動き出した。
まず、エリオント来襲の報告を受けたドラゴンの特別飼育員の方達が見た事もない位顔を青くして学園に来て、何やら先生方と話をしている。
セージとローランが間に入り、少し顔色が和らいだところを見るとうまくあの2人を取り持っているみたいだ。
飼育員の方達曰く、エリオントの家を成長に合わせて大きなものに変えて、そのお引越し中の隙をついて逃げ出してしまったそうだ。
飼育員の方達もずっと血相を変えて探していたらしい。
その間にも、校舎の瓦礫の片付けを外部から来た業者の方々が片付け始めた。
私とヴィオレは保険医の先生の手伝いで、怪我をしている生徒の手当をしたり、帰宅する為にやってきた馬車までそれぞれの生徒を送り届ける。
全ての生徒達を馬車に乗せ終わった後、生徒の親達からのクレームヤバそうだなぁ、とヴィオレが遠い目をしながら呟いた。
ヴィオレに言われてその事実に気がついた私も、ヴィオレと同じ顔で小さくなっていく馬車を見つめていた。
その間、クロトンはエリオントの側に居た。
エリオントはすっかりと落ち着きを取り戻したそうで、ずっとクロトンに顔を擦り付けて甘えている。
時折、未だに消えない光の壁を面白そうに鼻先で小突いているみたいだ。
ひと段落した私達は、エリオントとクロトンの2人の元へ向かった。
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