95.ヒロインなんですが、またピンチです
私はローランに言われた通り、すぐに保険医の元へ行き重傷者の回復に当たった。
流石は王立魔法学園の上級生や教師達といったところか、魔力切れや軽症者が多く、重傷者は数名だった。頭の怪我で出血量の多い人、火傷の範囲が広い人達に光魔法を当てる。
彼らの傷や火傷はみるみるうちに回復し、またエリオントとの戦いに戻ろうとしたところを、本調子でもないくせに調子に乗るなと保険医に怒鳴られ、手当をする班へと回されていた。
その間にも、エリオントとの攻防は続いていく。
エリオントの吐く炎にヴィオレが対抗し、同等の炎で迎え撃つ。その間に地の魔法でエリオントの周囲の地面を隆起させ、足止めを謀るローラン。ついに足を隆起させた岩々でしっかりと封じ込めて動けなくさせてしまった。
そして、ヴィオレがエリオントの吐く炎を押し切り、エリオントが面食らう。そこをセージが上空から水魔法で思い切り頭から強く大きな水球を投げつけ、ずぶ濡れにさせた。
頭を何度も振り嫌がるエリオントの四肢や翼をファビアン先生が拘束魔法で縛り付け、動けなくさせた。
あまりに連携の取れたチームプレイに、倒れていた生徒たちが希望の目で見つめる。
「すげぇ、さすが生徒会だ」
クロトンが風魔法で上空に舞い上がり、エリオントの顔の前に立ちはだかる。
何か伝えているようだが、エリオントは濡れた顔を嫌がるように目を瞑って何度も首を横に振ったままで声が届いていない。
その様子を見た保険医の先生が、手当を一時中断させ、立ち上がり目を見開きながら焦ったような口調でクロトンを注視する。
「なんでファビアンは止めないんだ! あんな位置に居て、また火を吹いたら……!」
その声が耳に入った瞬間、私はまたクロトン達の元へと走り出した。
クロトンがエリオントの炎に焼かれてしまったら、という嫌な想像が勝手に私の足を動かしたのだ。
クロトンは自分の声が聞こえないエリオントの顔に大きく風を浴びせ、自分の口元からエリオントの耳へと手を大きく動かし叫んだ。
「エリオント! 僕だ! ママだよ!!」
風の魔法を使って強く確実に響いた声が確実にエリオントの耳に届いた。
そして、エリオントの動きが止まる。エリオントが目を開く。その目はまだ赤かった。
クロトンが目の前にキーホルダーを取り出し、ゆらゆらと揺らしながら見せている内に、エリオントの赤かった瞳がだんだんと黄金色の瞳へと変わっていく。
「ママ!」
そして、完全に黄金色へと瞳が変わったころ、エリオントは人懐っこい表情でクロトンに顔を摺り寄せた。クロトンは涙を流しながら、エリオントの顔に抱きついた。
私はその様子に安堵し、そのままがくんと力が抜けて座り込んでしまった。
よかった、クロトンも無事だし、エリオントも落ち着きを取り戻した。
これで、軍から攻撃されることもないし、エリオントも無事だ。
そう思うと、自然と目から涙が溢れ出した。
ローランが私の傍に駆け寄り、私の隣に腰を落とす。
泣いている私を見て、くすりと笑い、いつもの優しくて穏やかな調子に戻りながら私の背中を摩った。
「クロトンはさすがだね、風魔法でうまく声を届かせるのって結構コントロールがいるんだけど。本当に良かった、アイリスも戻ってきてくれてありがとう」
ローランたちが一番疲れているはずなのに、私自身は何もできていないのに。
嗚咽で話せなくなっている私は、何度も首を横に振ることしかできなかった。
ローランはそんな様子の私を困ったな、といった風に笑いながら何度も背中を摩る。そして、壁の向こうにいた軍隊をチラリと見た。
「よかった、これでエリオントは無事……おい、何しているんだ」
安心したような口調から急に焦ったような口調に変わったかと思えば、目線は私から軍の方へと変わり、信じられないといった様子で目を見開いているローラン。
私も同じく、ローランの視線の先を見つめる。そして、目を見開いた。
何をしているのか、なんて口を開く前に軍がクロトンがやったように風魔法で遠い位置から軍が私たちに声を届ける。
『王立魔法学園のものたち、三十秒以内にドラゴンから離れなさい。ドラゴンを粛清します、傍にいたら貴方達の命もありません、早く距離を置いてください』
そして、禍々しい色の光を持った魔法がエリオントへと放たれようと、どんどんと大きくなっていく。
「そんな、ようやくエリオントが落ち着いたのに。飛べ! エリオント!」
クロトンがエリオントにそう怒鳴る。
そんなクロトンにセージが怒鳴った。
「ダメだ、間に合わない! クロトンお前だけでも……!」
「そんな事出来るわけないだろう!!」
そんなやり取りをしている間にヴィオレがエリオントの体の上を何度も飛び上がり、クロトンを引っ掴み地へと引きずり下ろした。
クロトンはエリオントの名前を泣き叫びながら呼びながら、ヴィオレと一緒に地へと降り立った。離れようとしないクロトンを無理やり抱えて走り出すヴィオレ。
「おい、軍!! 攻撃をやめろ! もうドラゴンは落ち着いた!!」
ローランがそう軍へ向かって叫ぶも、虚しくも遠すぎて声が届かない。
そして、ついに魔法がこちらに放たれてしまった。
読んで頂きましてありがとうございました。
スピンオフを含めてなんと100話目となりました、ここまでお付き合いくださいました方ありがとうございます。
皆さんの反応や寄せて頂いた感想がここまで私の頭の中にあったお話を具現化させてくださいました。
最近完結させました異世界転生恋愛『ただ隣にいたからという理由で俺様公爵の婚約者になっただけなのに、何故か溺愛されています』もございますので、完結作品を読まれたい方はそちらも読んでいただけたら嬉しいです。
こちらはのんびりと完結まで筆を走らせる予定ですので、今しばらくお付き合いいただけますと幸いです。
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