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13. 椎名泉、フラグを立てる

 さて、俺とショウが改めて「よろしく」をした翌日の昼。


「あー……あまりにもうまい……」


 そう言いながら、俺はショウの飯をかきこんでいた。

 今日は猪肉のステーキに、ショウ特製のにんにくとバターが香るソースがけ。やわらかな赤身に、濃厚なソースがからんで口の中でとろけていく。最高である。もし白米があれば、俺はきっともう3杯はおかわりしているだろう。


「お前、本当に料理うまいな。いくらでも食える気がする」

「そう?ありがとう」

「これだけ美味かったら店開けるんじゃないか?」

「はは、まぁ、こういうのは趣味で楽しむのがいいんだよ」


 料理を手放しで褒めれば、ショウははにかんで答える。そして「もっと食べて大きくなるんだよ〜」と冗談めかしておかわりをくれた。ありがたい。

 その後も勧められるまま食べ続け、もう食べられないというところまで来て、ようやく飯を食う手が止まった。

 

「はぁー……今日の飯もうまかった。ごちそうさま」

「お口に合ってよかったよ」

「じゃあ、洗い物は俺がやっておくから――」


 そう言って食器を回収しようとしたところで、ショウが思い出したように「あ、そうだ」と声を上げた。


「シーナ、これからいっしょに買い物行かない?」

「買い物?」


 人手がいるような大きい買い物でもしたいのだろうか。もちろん手伝いはさせてもらいたいが、俺は腕力ないし、社畜時代の名残で腰痛持ちだし、どこまで戦力になれるだろうか……と思っていたところ、ショウはびっと俺の服を指さしながら言った。


「シーナの夏服、買いに行こう!」

「………え?」






 そんな会話の数十分後、俺はショウに連れられて町の中央の市場に来ていた。巨大な屋根の下に机がずらりと列を作っており、その卓上には食料品から衣料品、生活用品まで、さまざまものが陳列されている。


「んー、どれがいいかな?」


 そう言って、ショウは衣服店が集まっているエリアを見渡す。俺はというと、そんなショウの腕を引いてなんとか引き止めようとしていた。


「いや、だからいいって。要らないって。俺金持ってないし」


 今は服からアクセサリー類まですべてショウのものを借りている状態だ。ずっと借りっぱなしの状態なのも悪いが、新しいものを買わせるのはさらに悪い。


「これからだんだん暑くなってくるからさ、洗い替えにもう1着か2着あった方がいいよ。お金は俺が出すから」

「そんなわけにいくか。家も食べ物も世話になってるのに服代まで出させるわけには……」

「でもシーナは家事とか畑の世話してくれてるじゃない? そのお礼だと思って」

「家事っていっても料理はお前担当だし、俺は大したことしてないだろ。畑だって家庭菜園レベルの畑だし。子供のお手伝い程度だぞ……」

「いやあ、本当に助かってるよ。最近日中はずっと仕事だったから、あんまり畑の手入れできてなかったんだよね――」

「雑な嘘だなおい。あれだけすくすく育ってて手入れしてなかったわけないだろ」

「さ、どれがいいかな――?シーナなら落ち着いたデザインのがいいよね」

「話の逸らし方も雑……」


 ショウは俺の反論など聞かないふりで服を物色していく。そんな様子を見て、俺はがっくりと肩を落した。

 ……今回はおとなしく好意に甘えて、後で必ず出世払いしよう。


「で、シーナはどんなのがいい?」


 そう言ってショウが指差す先には、ハンガーに吊られた衣服の数々。どれも白いリネンの襟付きシャツに、赤色の刺繍が施されている。このシャツにベストを合わせるのが、この辺りでは一般的な衣装らしかった。


「どれでもいいよ。俺用になるなら一番安い奴で……」

「だめだめ!めったに買うものじゃないんだから、ちゃんと気に入ったやつにしよ?ほら遠慮しないで!」

「そ……そう言われてもな……」


 ちらっと値札を見た感じ、どれもだいたい2万リタス前後の値段。この世界の1リタスは、1円とほぼ同価値――普段ファストファッションの服しか買ってこなかった俺に、この値段のものを遠慮せずに買えというのは無理な話である。


「えーと……刺繍があんまりないやつがいいな」

「……それ、そっちのが安いからそう言ってるんだよね?」


 そう言って、ショウはジトリとした目で俺を見る。

 ……完全に見透かされているようだ。この男、普段驚くほど素直でポヤポヤしている印象だが、きちんと行間や心情を読めるらしい。


「そ……んなことはない。そうだ、俺が元々着てた服を思い出してくれ」

「シーナが着てた服……? うーんと、サラサラの高そうなシャツだったね!」

「ポリエステルだからサラサラなだけで、高いわけじゃ……って、まぁそれはさておき、ほら、あのシャツに刺繍なんか入ってなかっただろ? 俺の故郷じゃ男は刺繍のついた服をあんまり着ないんだよ。だからできるだけシンプルなやつがいい」


 ……これは俺の本心だ。刺繍のついたリネンのシャツなんか、俺が着てもただのコスプレにしか見えない。ショウは『似合うよ〜!』と言ってくれていたが、内心結構恥ずかしかったのである。


「むぅー……わかった、じゃあ探してみようか!」

「あぁ、頼む」


 なんとか納得してくれたらしいショウと店を見て回る。しかし、地味で安いものはあまり見当たらない。やはり高い買い物をするしかないのか……と諦めかけていたところ。


「オウ!ショウ、シーナ!今日は買い物か?」


 ショウの家のご近所さん、ザンさんに後ろから声をかけられた。

 そういえばこの人、市場で店出してるんだったな。


「シーナの夏服を買いに来たんだよ。これから暑くなるからさ」

「お、ならウチの店に来るかァ?特別に3割引いてやるよ!」

「え……いいのか?」

「ザンさん太っ腹!ありがとー!」

「ワハハ! なーに、助け合い助け合い!リスミスタよ!」


 ザンさんはそう言って豪快に笑う。そのまま彼に連れられてショウと露店を訪れた。主に革製品や武器を扱っているようだが、何着か服も置いてあるようだ。

 ザンさんの娘、アカシアさんが店番をしていたようで、俺たちの姿を見てパッと笑顔で声をかけてくれる。


「あれ、ショウさん、シーナさんっ! いらっしゃーいっ!!」

「どうも、アカシアさん」

「お買い物に来てくれたんですか!? 超全力で大歓迎です――っ!」


 相変わらずの元気一杯ハイパワーエンジン少女だ。その勢いに吹き飛ばされそうになりつつ、ぺこりと挨拶を返した。


「それでザンさん、刺繍少なめのシャツとかあるかな?」

「そういうの良いのか? 珍しいなァ! ならこいつァどうだ?」


 珍しげな顔をしつつ、取り出してくれたのは2着のリネンシャツ。襟周りに細い幾何学模様があるだけで、糸色も深い赤色で、地味な仕上がりだ。


「これいいな。……ちなみにお値段は」

「8000リタスでどうだ?」

「……え、そんな安値でいいのか?」

「そうだね、それじゃザンさんの利益が出ないんじゃない?」

「モチロンいいですよっ!オトモダチ割引です!ねー、ザン!」

「あぁ、気にせず持ってけ!その代わり今後とも贔屓にしてくれよォ!」


 そう言って親子は揃って親指を立てた手を突きだす。

 ……おおかた金を持っていない俺と、俺の生活を支えてくれているショウを気遣ってのことだろう。この世界では本当に優しい人間とばかり出会えて、ありがたいことだ。

 そう感慨にふけっていると、いつの間にかショウとアカシアさんが盛り上がり始めていた。


「2人ともありがとね! お礼といっちゃなんだけど売上に貢献させてもらうよ。俺の服もここで買っていくね」

「やたっ毎度ありです――っ!ショウさんだったらこっちですかね――……、いやいや、もしくはこっち?」

「あ、それ良さそう。花模様にすべきか雷模様にすべきか悩むね……」

「究極の選択デス……! 今の流行はお花なんですけどね――……!」


 ……結構掛かりそうだな。

 店先にいても邪魔になりそうなので、少し離れたところで待つことにする。同じく服にこだわりのなさそうなザンさんが2人の会話から離脱して、こちらにやって来た。


「……ありがとうな、ザンさん。余所者の俺にいつも良くしてくれて」

「まァ、リスミスタだからな! 当然だ!」

「近い内に恩は返すよ。そろそろ働き始めようと思ってるし」

「ワハハ、気にすんなって!」


 そう言ってザンさんは豪快に笑う。相変わらず気のいい親父である。


「この町は優しい人ばかりで、本当にありがたい」

「ハハ、ここは国の中でもかなり穏やかな町だからなァ!」


 ぽろりと零れ落ちた本心に、ザンさんは笑って答える。……しかしすぐに真剣な表情に変わって、俺を真っ直ぐに見据えた。


「でもまァ……なんだ、あんま油断すんなよ」

「……え?」


 ザンさんらしからぬ固く低い声に、思わず聞き返す。


「俺やアカシアは、確かに悪い人間じゃあねェよ。ショウ至っては極端に人の好い奴だ。……だがな、この国にも悪い人間は沢山居る」

「……あぁ、肝に銘じておくよ」


 ……そういえばショウにも言われてたな。

 一応、その辺りは気を付けているつもりだが、世界平和度指数上位国・日本から飛んできているわけだし、確かに人より平和ボケしているのは間違いないだろう。


「そうだなァ、例えば……最近だと、ピヌス団とかレヴレア団とか、デッケェ盗賊団が台頭してきてんだ。町の外は勿論、中でも気ィ付けろよ」

「盗賊か……ショウも言ってたな」

「ピヌス団は特にヤベェって噂だぞ。なんでも奴らが通った後にはなーんにも残んねェんだってよ」

「……何も残らない? 金目の物を根こそぎ持って行くってことか?」

「それだけじゃねェ。町も人も残んねェんだ。噂じゃァ害獣を使って町を襲わせて略奪してるんだと。狙われたら最後、町は瓦礫、人間は骨しか残らねェ。特に防衛手段の乏しい小せえ町や村が襲われることが多いんだが、襲われた所は概ね全滅してやがる」

「……それは……怖いな」


 盗賊団は異世界物なら噛ませ犬になることが多いイメージだが、現実に存在すると思うとゾッとする。転移能力があれば1人2人ならなんとかなるかもしれないが、獣なんか使われて物量で押されたら普通に死ぬだろう。……狙われないことを祈るばかりだ。


「まっ、こんな東の最果てにあるような町には来ねェだろうけどな!」

「おい、フラグを立てるなよ……」

「あ?ふらぐ?って何だ?」


 首を傾げるザンさんの横で、俺は苦笑する。

 まぁ確かに、この長閑な街で犯罪が起きるなんて、あんまり想像できないけどな。

 

 ……と、まぁ、ザンさんにつられて俺もフラグを立てに行ったところ。


「ひ、ひったくりよ――っ!誰か捕まえて――っ!」


「……マジか」


 市場の向こう側で上がった悲鳴によって、フラグは無事回収されたのであった。



お読みくださりありがとうございます。

ブックマーク、非常に励みになります。本当にありがとうございます。

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