表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/93

14. 椎名泉、成敗する

「なんだァ!?ひったくり!?」

「角の石屋のおばーちゃんの声だ!」


 そう言ってショウが指さした方には、倒れた老婆の姿と走り去る犯人と思しき影。


「俺、追いかけてくる! ザンさん、アカシアさん、おばーちゃんをよろしく!」

「あっちょっショウ!?」


 危ないぞ、と止める間もなくショウは走り去ってしまう。アカシアさんは慌てて老婆のもとに駆けつけて抱き起こしている。


「おばーちゃんっ大丈夫ですか――っ!?」

「え、えぇ……ありがとうね、アカシアちゃん。鞄は取られちゃったけど、私は大丈夫よ……」


 どうやらひったくられた拍子にバランスを崩しただけで、彼女に大事はないらしい。


 ……が。


 ショウ……あいつ1人で大丈夫なのか? 魔法苦手って言ってたし、危ないんじゃないだろうか。


「……ザンさん、俺、ショウを追いかけてくる」

「お? おぉ、気ィつけろよ!」


 やばい盗賊団とかならまだしも、ひったくり程度なら俺だって戦力になるだろ。大して戦えるわけじゃないが、人数は多いほうがいいはずだ。

 そう思いながら、俺は駆け出した。


「えっと……確か、こっちに走って行ったよな」


 とりあえず2人が駆け込んでいった路地に入るが、狭い上に障害物が多く、薄暗い。犯人は追跡されにくいこの道を逃走経路として選んだのだろう。

 しかし、2人共足が速いのか、もう影も見えなかった。舗装されていない路地だったのが幸いし、足跡が残っていたのでその跡を追うことにしたのだが……




「………マジか」


 途中の路地に、真新しい戦闘の跡が残っていた。石の壁や地面が濡れており、一部が抉られたような状態になっている。犯人が水魔法使いなのかもしれない。


 ……いや、石の壁が抉れるって。

 ひったくりだったらなんとかなると思ったが、とんでもない。

 舐めプでした。こんなのブチ込まれたら普通に死ぬぞ。


「……戻ったほうがいいかもしれないな。俺が行っても足手まといになる未来しか見えん」


 それに戦闘の跡のせいで、足跡はこの先はぐちゃぐちゃになっており、どこに行ったかは分からない。素直に諦めて警察を呼んだほうがいいだろう。


 俺は踵を返そうとしたが、そこで角から誰かが走ってくる気配。


「……ん?」


 ショウかと思ってそちらを振り向くと、黒いマントを羽織った青年が現れた。シルエットは先程ショウが追いかけていった人影に似ている。


「あ、お前さっきの」


 ひったくり犯か、と言葉を続けようとしたところ、男は問答無用で右手を俺に向かって突き出した。


「チッまた追手か!【水よ】!」

「え」


 突き出された右手に水がうずまき、やがて球体に収束したそれが、俺に向かってまっすぐ飛んでくる。バランスボールよりひと回り小さいくらいの大きさだ。当たったらタダでは済まないだろう。

 

「うわっ……て、【転移】!」


 急展開に驚く暇もなく、俺はストラップを持っていた左手を咄嗟に振り抜いた。水の玉とトラックが事故った瞬間、水の玉はふっと消える――転移成功だ。


「……ハァッ………?」


 男は目の前で起こった超常現象に、呆然とした表情になっている。

 ……まぁ、それはそうだろう。

 風によって水が飛散したわけでもなく、炎で蒸発したわけでもなさそうな現象。文字通り魔法が消えたのだ。男は何が起こっているのかよくわかっていない様子である。


 対して俺は、魔法も転移できたことに安堵の息を漏らした。『魔法も転移できるのか』は、以前より検証したかった項目のひとつなのだが、これは自分一人で試せなかったため諦めていたのだ。


「相殺……チッ……炎魔法使いか? いやそれにしては……」


 男はブツブツとつぶやきながら、俺と距離を取る。得体のしれない魔法を使われたことに警戒しているのだろう。


「……フン、なら………【霧よ】」

「えっ」


 男が突き出した手から、ブシュンと霧が発生する。それはたちまち視界を覆うほどに広まった。

 ……まずい、視界不良で逃げられるならまだ良いが、霧に紛れて反撃されたら普通に死ぬ。

 俺は急いで左腕を振りかぶる。


「て……【転移】!」


 イチかバチかで霧にトラックを埋めると、その瞬間辺りの霧がざっと晴れる。『この辺の霧全部』とざっくりとしたイメージで転移させたが、どうやらうまく行ったらしい。


「ハ……!? なんだ………なんなんだテメェはッ!? 一体何しやがったッ!?」

「なんでもいいだろ。それよりショウは……俺の前にお前を追ってた男がいただろ、あいつはどうした?」


 そう問い詰めながら、男の次の一手を注視する。俺の転移能力は一撃必殺だが、俺にとっては向こうの攻撃も一撃必殺だ。気は抜けない。


「ク……、クソがぁっ!!」

 

 しかし男は得体のしれない力を振るう俺と戦う気はないらしい。男はそう吐き捨てて、背を向けて走り出す。

 ――とはいえ、逃がすわけには行かない。


「待て逃げるな!【転移】!」

「う、うわぁっ!」


 俺はとっさにしゃがんで地面にトラックをぶつけ、『辺りの地表の20cm程』を転移させる。ぼこんと地表が下がり、男は突然の浮遊感にバランスを崩して倒れ込んだ。

 “降りきったと思った階段がまだ一段残っていた”ような感触だろう。地味に嫌な攻撃である。

 その拍子に男は足をひねったらしく、起き上がりづらそうにしている。


「我ながらなんでもありだな。しかし、ここからどうするか…………」


 また魔法が飛んでくるかもしれない以上、迂闊には近づけない。それに近接格闘術の心得がない俺に制圧は難しいだろう。


「まぁ、こいつを転移させれば話は早いんだろうが……」


 それをやればこの男は異空間で飢えて死んでしまう。流石にそれはやりたくない。そもそも俺は人を殺すのが嫌でこの異世界に逃げてきたのだ。


 さてどうしたものかと頭をひねっていたところ、道の角から息を切らしたショウが現れた。


「――シーナ!?なんでここに……」

「ショウ!よかった、無事だったか!」


 あの状況では、ショウが単に犯人に撒かれたのか、やられてしまったのか判断ができなかったのだ。目立った傷を負っていないことに、俺はとりあえず安堵した。


「う、うん、大丈夫だけど……え、何これどういう状況なの?」

「話は後だ。悪いけど、取り押さえるのを――」


 手伝ってくれ、と言いながら男に近づこうとした瞬間、男は右手を俺に向かって突き出した。


「クソが、【水……」


 その距離なんと20cm。距離が近すぎてトラックをぶつける動作を行うだけの余裕がない――転移が、間に合わない。

 そこまで迫った死の予感に、心臓がひゅんと跳ねる。


 ……が。


お読みくださりありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ