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襲われる女神


アルバとコプラが連行された秘密警察とは、主に国に対する反逆や国家転覆を思想する者を捉え、裁く組織だ。完全に閉ざされた世界で、民は勿論のこと、軍の上層部や国王近くにいる内官でもその実態は知らなかった。


「案外、普通の建物だな…。」


修道服を着たアルバは、馬車から降ろされその秘密警察の建物を見上げるとそう漏らした。茶色の石で組まれたその建物はそこらへんの事務所や店とあまり変わりがない。

建物は3階建てだが、この手の組織の建物には犯罪者を閉じ込める牢屋が必ずある。そしてそれは地下が多い。


「アルバ殿。ここからは手荒にいきます。お許しを。」


アルバがボウ〜っと建物を見てると、彼の手縄をもっていたテーバスはそう小声で言う。アルバは彼の顔を一度見ると、大きく頷いた。やがて、そのテーバスはアルバの手縄を思いっきり引っ張り、建物の入り口にいた秘密警察の2人の男のところまでアルバとコプラを引きずるように連れて行く。

秘密警察の服は、ロフテンの象徴色の黄色と黒のツートンだ。

テーバスはその2人の前に行くと、小さく頭を下げた。


「ロフテン軍北方部隊所属テーバスです。先に書類で知らせてあります例の修道士を引き渡しにきました。」


テーバスがそう話しかけると秘密警察の2人は無言で、手を差し出した。それは手綱を渡せという合図だ。テーバスは、そのままアルバとコプラの手を縛った綱をおとなしく手渡す。やがて、一人の男がその手綱を持ち2人を建物の中へと引きづり込むように引っ張る。そしてもう一人の男はテーバスを見下すような目で話しかけてきた。


「テーバスとやら。ご苦労。おまえは、書類に引き取り書を出す。それを手に早々帰られよ。」


「…わかりました。では…」


テーバスは何の感情のない秘密警察の言葉に、苦々しい顔をしながらそのまま書類を受け取りに事務所へよ向かう。(アルバ殿、頼みましたぞ)一度彼を振り返りそう願ったが、すでに2人は建物の中に連行された後だった。





アルバが連れて行かれた場所は、その建物の2階だった。角部屋の様だったが、窓はなく明かりはロウソクだけで重苦しさが部屋全体を漂っている。アルバはその部屋の中央に置いてあった一つの椅子に強引に座らされた。だが、手縄はそのままで窮屈な事極まりない。


「ここで待て。」


連行してきた男は、それだけ話すとニヤリとした顔を一瞬見せ、そのまま部屋を出て行った。

アルバはその表情に(怖っ!)と思い肩を竦める。顔が無表情で感情が読み取りにくいことも面倒だ…とアルバは思った。


とりあえず秘密警察に捕まった修道士たちがどう過ごしているか、またこの国の王子クラクスが本当に彼らに捕まっているかの確認が今回のアルバの役目となった。サーシャがとピオ司祭が探す人物がここに捕まっていることがわかれば、一石二鳥だ。


ドンッ!


急にドアが開く音が部屋に響く。アルバが顔を上げると、黄色と黒の服を着た男と、紫の法衣をきた男2名がゆっくりと入ってきた。2人とも体型は普通だが、筋肉質なことは確かなようだ。そして両人とも黒く小さい丸メガネを掛けていて、ガラス部分まで真っ黒だ。恐らく目の動きを悟られないようにするためだろうとアルバは推測する。


やがて黄黒の男が小さな丸椅子を隅から手に取ると、アルバの座る椅子の前にドカッと置いてそのまま座った。そして、手に持っていた書類にそっと目をやり、アルバの目と交互に見ている。やがてその男は、しばらくアルバを観察した後、声を上げた。


「私は、メヘター。君、名前は?」


「アルです。」


「歳は?」


「18。」


「どこから来た?」


「サイです。」


「仕事は?」


「修道士です。」


アルバが彼の短い問いにそう明確に答えていき、それを書類で一々確認していた秘密警察のメヘターという男は、そこまで終わると急に書類を床に向かって投げ捨てた。そして、そのまま無表情にアルバへの質問を続ける。


「なぜ、ここに捕まっていると思う?」


「わかりません。」


「さて、アルくん。僕たちも忙しくてね。手間をかけさせないでくれ。」


その男はそう話すと、いきなりアルバの腹目掛けて拳を打ち付けた。「くっ!」アルバはそのままその拳に耐えるが、次にそのメヘターが座りながら回し蹴りをかましてきた。アルバはそれを左ほほにモロに受けて、手を縛られていたアルバは椅子ごと床に倒れこむ。すると、その男はゆっくりとアルバの横に立つと、一気に話し始めた。


「アル・エバント。18歳。ロハン教会の修道士で、セドリーヌ司祭の諜報部員。今回、サイからの旅の修道士を装い我らがロフテンの修道士及び信者の陽動及び反乱の指導員として不法侵入。最初、軍に捕獲されたが君の持っていた手紙から国家転覆を企む修道士と判明し、ここに連れてこられた…これでいいかな?」


その話を聞いてアルバは思わず頬が緩む。(テーバスさん、盛りすぎだ。)そう思っていると、今度は倒れこんだアルバの腹にまた厳しい蹴りが打ち込まれる。


「お、俺は知らない…。」アルバは必死に声を上げるがその男は構わず、同じところを蹴り続ける。相手は尖った革靴を履いている。激しい痛みが襲うはずだ。(はいと答えないとやめないのね…)アルバは苦笑して、再び口を開いた。


「わ、わかった。認める。」アルバがそう声をあげると、メヘターはようやく足を止めた。そして、そのまま自分の丸椅子に座る。咳き込むアルバに構わず、メヘターは質問を続けた。


「誰の指示だ?」


「ロハン教会。」


「ロハン教会だけでこんな大それた事はできまい。ロハン軍の関係者もこの国に来ているのではないか?」


「俺のような下っ端は、そんなこと知らない。」


「質問を変えよう。アルバ、サーシャ、サカテ、ベルトラン、コルドバ。この中で、共に来た名はあるか?」


自分の本当の名を言われ一瞬驚いたが、その質問でどうやら自分の正体はばれていない事が分かった。アルバは「知らない。」と答えると、今度はその男の足がアルバの顔を踏みつけてきた。アルバの頬が切れて血が滲む。


「ぐぐっ…。」


「我々の所にもそれなりに情報が入ってくるのだ。」


「…ベルトラン。」


アルバは咄嗟にそう答えた。彼女は顔半分が刺青だ。どうにも目立ってしまう。もし、顔が割れていなくて正体がバレるのはベルトランだけだ。すると予想通り、メヘターは足をアルバの顔からどかした。

そして紫の服を着た男に2〜3言話すと、何かを伝えるように指示する。そして、再び彼はアルバを見下ろした。


「ベルトランは、位置が特定できている。だがあの化け物がここに助けにくるとは思わないことだ。」


「来ると思うけど?」


「悪いがそれはない。化け物には化け物だ。我々もそれなりに準備ができているのだ。」


メヘターの言葉にアルバは、顔を曇らせた。ベルトランは「意志の力」が使える世界に名を馳せた狂戦士だ。普通の兵では、何万きても近づくことさえ難しい。となれば、恐らく魔人を用意しているだろう…アルバはそう予想した。また魔術師に頼んだが、エディアに頼んだか…それは不明だったが。だがその男はその事については言及はしてこず、話題を変えた。それは昨日アルバたちが起こした出来事だった。


「君は、ソンガーの宴という店を知っているか?」


「知らない。」


「そこで昨晩、うちの工作員10名が散々な目に遭わされた様だ。おまえの仲間ではないのか?」


その男の質問は間違いなく、昨日のあの出来事だ。アルバが大きく首を横に振ると、メヘターは倒れこんでいるアルバの脇に足をドカッと載せた。


「それは信じよう。お前は間抜けにも修道服を来て堂々と乗り込んできた。理由はわかる。ロフテンの反逆者に自分の存在をわかりやすくするため。だが、あの店に来ていた敵は普通の服だった。変装していたってことだ。」


その言葉を聞いてアルバは(深読みしすぎだな、こいつ)と心の中でほくそ笑んだ。だが、敵がそうとらえてくれたのはこちらに都合がいい。さすがに昨日の連中に面通しされれば正体がばれるかもしれないからだ。


「まぁ、いい。そっちは我々とは違う組織が動いている。すぐに解決する。お前はしばらく地下牢で大人しくしているんだな。すぐにお友達も捕まえて、まとめて処刑してやる。」


メヘターはそう話すと怪しく笑った。









その頃、サーシャとユラは再び飲み屋「ソンガーの宴」を再び訪れていた。昨晩、アルバとサーシャはこの国の秘密警察を散々な目に合わせている。店に危害が及ぶのを恐れた2人は、アルバが諜報から戻るまでここに残ることにした。もう一人のピオ司祭は、自身が探し求めるこの国の王位第一継承権を持つ王子クラクスの情報集めに外へ出ている。


「サーシャ様はとてもお節介なんですね。」


この店で歌う歌手のバイシャリはそう言って、サーシャの横に座った。夕方が近づき店の開店時間はもうすぐだったが、その僅かな時間はバイシャリにとって、落ち着ける休憩時間だった。しかも今日の出番は後半だ。彼女はウィスキーのグラスと瓶を机に置いて一気に飲み干す。するとサーシャは少し気まずそうな顔をして彼女を見た。


「よく言われます。でも、自分ではそんな事思ってないんですよ。」


サーシャはそう話すと自分もテーブルに置いてあった果樹酒を口に運ぶ。


「ふふ。教団で一番偉い方が、店の用心棒だなんて…お節介以外の言葉が見つからないわ。」


「私が偉い人に見えますか?」


サーシャがそう聞くと、バイシャリは微かに微笑み水を口につけた。そして散々昨日イチャイチャをかましていたアルバとの事を尋ねた。


「アルバ様とは、長いの?」


「えっと…本当のところを言えば14年経ちます。」


「まぁ!それは驚きだわ。幼なじみ…なんですか?」


バイシャリはその長い期間に驚いて尋ねる。彼女は、このサーシャが教団の女神である事は知っている。だが、サーシャはどうやらその事で遠慮されたり、崇められたりする事が好きではないらしい。その事に気付いたバイシャリは、なるべく普通に話しかける事にしていた。


「まぁ…そんなものかも知れません。あ、でも私はそうなんですけど、彼から見たら2年ちょっとですけど…ね。」


「え?それはどういう事なのかしら?」


「彼、昔の記憶が消えているんです。子供の頃の記憶が全部抜け落ちているの。」


「まぁ…。」サーシャの言葉にバイシャリは更に驚く。だが、それを話す女神の顔は明らかに曇ってしまった。(なにか深い事情があるのね…)バイシャリはそう思い、それ以上その話をするのを遠慮した。彼女は少し話題を変えた。


「サーシャ様は、ずっとアルバ様一筋なんですね。」


「はい。アルバしか愛した人がいないんです。」


「それは、羨ましいことね。」


「あ、でも一度危ない時がありました。」


「まぁ…」


女神の突然の告白に、さしものポーカーフェイスのバイシャリも目を見開く。相手は教団の最高位の司祭サーシャ。普通なら声をかけることも憚れる遥か雲の上の存在。そんな彼女からいきなりプライベート…しかも恋愛の話をしてきた事に驚いたのだ。ちなみにサーシャが話した危ない時というのは、彼女が17の時に見合いで出会ったシャウエンというフィルファの王子との出来事だった。


「アルバがある事情で私の前から消えて7年が経った時に、その方と出会ったんです。仕草とか性格とかやる事成す事が、全部アルバに似てて…。」


「まぁ…。それは、心揺れても仕方がないわ。その事はアルバ様は知っているの?」


「はい。でも一つだけ話していない事があるんです。」


「へぇ。それはどんな事なの?」


「えっと…。その方に、抱きしめられてしまった事です。」


サーシャはその事をとても申し訳なさそうにバイシャリに言った。だが、その事はバイシャリにとっては「それがどうしたの?」という内容だ。しかしこの清廉な女神にしてみれば、とても、はしたない事なんだろうと思い直し、小さく頷く。なにせ普通の人とは、生まれも育ちが違う。


「他の人にしてみれば、どうでも良い事なのかも知れませんが。アルバだけを愛していた自分には信じられない事だったの…。」


「女神様も女だもの。そんな時もありますわ。」


バイシャリがそう小さく応えると、やはりサーシャは後悔しているように手で顔を抑えた。その仕草に、バイシャリはその女神がとても可愛く見えてしまう。世界最高の権威、教団の支配者でもサーシャは22歳だ。そんなことを思っていると、彼女はバイシャリの事を尋ねてきた。


「バイシャリさんは、恋をいっぱいしてきましたか?」


「はい?」


「あ、いきなり差し出がましい事、聞いてしまいました。ゴメンなさい。」


サーシャはそう言って頭を下げ、非礼を詫びた。そして再び顔を横に向ける。(女神様も恋に悩むのね…)バイシャリは彼女のあまりに美しい横顔を眺めながらそう思った。そして、いろいろ話してくれた彼女の問いに応える。


「サーシャ様。私はこれまで多くの人と恋をしたわ。あなたが驚くくらい。」


「まぁ…。そうなんですね。」


サーシャはその言葉に目を見開いて、再びバイシャリに顔を向けた。そして、今度は体を乗り出してきてバイシャリの肩に自分の肩をくっつける。その様子に、(まさか、本当にサーシャ様は恋に悩んでおいでなのかしら)と驚く。サーシャのミドルネームはハトホル…愛の神の名だ。恋の女神が悩んでいたら、世界中の恋人たちはどうなるのだろう…そんなつまらぬ事を頭をよぎった。


「私は…ずっとアルバを愛しています。これまでも、これからも。でも私は神様ではないですから、アルバにもそう思って貰わないと…死んでしまいます。」


「でも…アルバ様は貴女の事を心から愛しているわよ。それは私が保証するわ。」


バイシャリの言葉にサーシャは、(ありがとう)と小さく呟くと笑顔を見せた。そして「はい、存じてます。」と顔を赤らめてそう応える。だが、少しして再びサーシャはバイシャリに真剣な顔を向けた。


「私は…心が見難いんです。本当に自分で自分が嫌になるくらい。」


「ふふ…。女神様の心が醜ければ、この世に美しいという言葉すら存在しませんよ。」


「私は女神に相応しくないの。アルバの事で嫉妬もするし、意地悪もするし、彼の姿が少しでも見えないとオロオロするし。彼とその…先日初めて結ばれたのに、全然治らないんです。」


「サーシャ様!」


サーシャの言葉を切るように、バイシャリは急に大きな声を上げた。サーシャが驚いて顔を上げると、バイシャリはまるで女神を諭すように話しかけた。


「私は、今、サーシャ様がなぜこれ程までに世界中の人々から愛されるのかが、わかったわ。あなたは女神に相応しい唯一の女性よ。」


バイシャリはその時とても優しい笑みで女神を見返していた。サーシャはその一切曇りのない優しい瞳に吸い込まれそうなくらいだった。本当なら、このまま彼女を抱きしめて泣いてしまいたいくらいだ。それは世界でサーシャしか感じ取れない重圧とも関係している。


「バイシャリさん…。」サーシャはその想いを彼女の名前を呼ぶことで伝えた。


「サーシャ様は、アルバ様がお可哀そうだと思っているのでしょう?」


バイシャリは急にそう切り出した。それは確かにサーシャが常日頃思っている事である。だが、彼女はそれを大きく否定しだした。


「サーシャ様は、ご自分がワガママで、人一倍焼き餅焼きで、教団の女神という宿命も背負っていらっしゃる。そんな貴女様に縛られているアルバ様が可哀そうとでも考えているのかしら?」


「え?どうして分かるんですか?」と返す。(正解!)サーシャは心でも叫ぶ。


「ふふ。サーシャ様は本当にお優しすぎです。アルバ様が、あなたを見る目をご存知でないでしょう?見えない羽をずっとパタパタさせているんですよ。早く2人きりになりたくて。まるで貴女に片思いしている少年みたいに。出会ってお付き合いして、時も経っているのに…。あれは一生変わらないわ。」


バイシャリがそう話すと、サーシャは「え?」という顔をした。流石にそんな事を感じたことはなかった。


「私は今年で35よ。さっきも言った通りいっぱい恋をしてきたわ。いくら、サーシャ様でも男を見る目は負けませんよ。あの方は、確かに言葉は少ないわ。でも想いはだだ漏れ。だから、周りのみんなが呆れ返るのよ。」


「…そうなんですか?」


「そうですよ。あなた方はお互いが好きすぎて、近すぎて…そういう事が見えなくなってるのよ。嘘だと思うなら、違う人と付き合ってご覧なさい。浮気でもいいわ。その違いに驚いて数時間で別れるわよ!」


「えっと…それは…」


「私は、サーシャ様の方がお可哀そうだわ。あんな素敵な人に恋したら、どんな男も小さく見えちゃう。どこの世界に、エディアっていう大国を敵に回して、たった一人で貴女をちゃんと迎えに来る男がいるの?半年間もほっといたのに!」


バイシャリはそう言ってちょっと妬くような顔を見せた。それは、もはや世界中で語り草になっている「ライカ」という地での出来事だ。実は裏には、天才戦術家モモが考えた壮大な作戦の締めくくりではあったのだが、世間ではエディアに攫われたサーシャを、アルバが単身救いにきたという事になっている。だが、サーシャにしてみればバイシャリの言った事の方が正しい。アルバはきちんと自分との約束を守って、最高の方法でサーシャを助けに来てくれたのだ。もうあの時は心が人生で一番キャーキャー言っていた。


「ふふ。私は歌手。しかも教団の歌と共に愛の歌も多いの。いっぱい恋をして、いっぱい幸せ貰ったこと、いっぱい泣いた事、いっぱい失敗したことを歌にするの。その方が、心に届くでしょ?だって私の本当の恋話が題材ですもの。」


「確かにそうですね…。」


「そんな立場から言わせてもらえれば、本当はサーシャ様もアルバ様意外の方とも恋をして、いろんな男に抱かれる方がいいわ。それはアルバ様も同じ。でも、あなた方には無理!だって、最初から最高のお相手に出会ってしまったんですもの。」


「ふふ、それは間違いないです。」サーシャはそう言って、思わず自分の腕で、自分を抱きしめる。アルバが出かけてから時間がそんなに経ってないのに、会いたくて仕方がなかった。


「だから、サーシャ様もアルバ様もお可哀そうよ。お互い、モテモテなのに他に行けないんだもの。もし私がサーシャ様くらいお若い時にそんなにモテたら…そこら中でつまみ食いしちゃってるわ。」


バイシャリはそう言って、唇に指を添えた。それを大人で色気満点の彼女がやると本当に官能的だった。もちろん、バイシャリは「騎士と聖女」の理は知らない。それを説明しても詮無いことだとも言える。


「ふふ。私は、そんなにモテませんよ。私のことを本当に愛してくれるのはアルバ一人なの。彼は、私をただの女の子としてみてくれる唯一の人なの。」


「そうね。教団の最高位の司祭なんていったら、恐ろしくて常人には近づけないわ。だからそれを受け入れた彼は本当にあなたを愛してる。でも…サーシャ様は本当にアルバ様意外でいいなぁ…とかカッコいいなって思う人はいなかったんですか?」


「う〜ん。いないわ。彼は私のヒーローだもの。もうねぇ、いつでもキュンキュンしてます。」


サーシャはそう言って笑った。そのあまりに女子満載の表情と言葉にバイシャリは彼女が教団の女神ということすら忘れてしまうほどだ。


「サーシャ様…。」


バイシャリはとても色っぽい声を出し彼女の名を呼んだ。そのあまりの可愛さにバイシャリは思わず意地悪をしたくなってしまった。彼女は恐れ多くもサーシャの肩を抱きしめた。酒に酔っていたせいもあったが。


「え?え?」サーシャは突然の事に驚く。するとバイシャリは指でサーシャの唇をなぞった。流石にそんな事は親友のサカテやモモにもされた事はない。


「サーシャ様…。今夜はアルバ様もいらっしゃいませんし…ベッドもお寒いですわ。」


「あ…えっと…その…。」


「私は敬虔な教団の信者でございます。その頂に居られるサーシャ様からすれば私は下僕。今夜は…お慰めしましょうか?」


サーシャは、バイシャリに肩を抱かれていたので逃げることもできず、ただただ目をぱちくりして彼女を見つめる。ちらっと後ろを見ると自分を護衛するユラがいたが、彼女は相手が女性のバイシャリだと知っているので、まさかこんな事になっているとは露ほども知らず、全くこちらに気がついていない。


「バイシャリさん…飲み過ぎかと…」


サーシャが顔を真っ赤にして彼女の体を抑えるが彼女はやめてくれなかった。この人生初めての非常事態にさすがの教団の女神も焦った。まさか女から言い寄られるなど想像だにしていない。その為、対処法も知らない。

やがて彼女はサーシャの首筋に優しくキスをしてきた。(ちょ…ちょっと待って〜)サーシャは必死に声を上げるのを我慢する。すると、いつの間にかバイシャリの顔が目の前にあった。そしてゆっくりと話し出す


「サーシャ様…。」


「は、はい…。」


「サーシャ様は、押しに弱すぎです!心配です!」


バイシャリは急に真面目な声でそう言うと、小さく舌を出した。「あふう…。」サーシャはそのことが冗談だと分かると、なんとも女神らしくない声をあげ、全身の力が一気に抜けた。バイシャリはいっても芸術肌の女性だ、思考がやはり通常とは変わっている。彼女の悪戯は本気でサーシャを焦られた。


「もう!バイシャリさん。罰としてこれからは私の恋の相談に乗ってもらうから!時間無制限で!」


「はいはい。女神様のお願いは私たち信者には、どうせお断りできませんわ。」


バイシャリはそう言って女神の願いを快諾した。



(アルバ〜!早く帰ってきて〜!あなたがいないと怖いことばかりです…。)


ケタケタと笑うバイシャリを尻目にサーシャは涙目でそう思った。

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