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コプラのサーシャ論


アルバはテーバスと食事をした後、馬車で傭兵のコプラと共にロフテンの秘密警察へと連行されることになった。どうやら秘密警察の建物は、ここから馬で半日ほど行った所にあるロフテン国の帝都「チェンナイ」にあるという。再び、手を縄で占められ牢屋のような作りの馬車に乗せられた2人は、悪路がつづく道を一路チェンナイへと向かう。


「おい!結局、俺たちは秘密警察に送られるのかよ!」


傭兵のコプラはあからさまに文句を言う。アルバは、「ごめん、ごめん。」と適当に彼をあしらうとそっと馬車の外を見る。この道はロフテンの帝都へ向かう道にあるのに関わらず荒れていて、人も少ない。国が如何に、開発に手を抜いているかよく分かる光景だ。(ロイスさんが見たら、怒り出しそうだ…)アルバはふと、自分の街の凄腕執政であるロイスの顔を思い出して思わず笑みが漏れた。すると、そのアルバの顔を見たコプラは、


「なんだよ。あの女の事でも思い出して、にやけてるのかよ!こんな時にやらしい奴だ!」


と文句を言った。すると、アルバは肯定するでも否定するでもなくただ微かに笑う。


「あんたは、どうにもサーシャが気になるようだな?」


「あ?悪いかよ!あんたよりは長生きしてるが、俺はあんないい女、見た事ねぇんだ。」


「好きなタイプだったわけね。」


アルバはそう話すとあからさまに苦笑した。まさかその「気になる女」の彼氏の前でここまで、サーシャへの想いの話をしたがる彼が可笑しかったのだ。ある意味、実直で言葉を飾らず人間臭いこの男にアルバは興味を持った。


「そういうこと。俺は諦めねぇぜ。絶対、モノにしてやる!」


「それ、俺に言うか?もっとコッソリやれよ。」


「あ?ああ、そうだな…悪い。」


コプラは流石に言いすぎたと思ったのかバツが悪そうに顔を顰めた。アルバはその様子が面白くてまた笑ってしまった。そのアルバの笑顔を苦々しく見ていたコプラはゆっくりと話し始める。


「まぁよ。半分は冗談だから、気にすんな。あんたを怒らせる気はねぇよ。」


「半分は本気って事だな?」


「嫌なこと言うねぇ。だが、俺が誰を好きになろうが誰の指図も受けねぇよ。隙を見せたら俺が、サクって持ってくぜ!」


「そりゃ、気をつけないとな。」


アルバは意外にもこの男には腹が立たなかった。前に共に旅したクリスという修道士を思い出す。彼もサーシャが好きだったが、この男と同じように堂々と自分にその事を告げにきていた。その潔さみたいなものが、アルバには気持ち良く感じられたのかもしれない。


「なぁ、あんな綺麗な姉ちゃんとどうやって知り合ったんだ?どうやって落とした?」


「う〜ん。覚えてない!」


アルバはそう言い切った。勿論、鮮明に覚えているがその全てを話した相手は皆無だ。親友のジャンにでも少ししか話していない。あとは、サーシャから聞いたサカテくらいだろう。それはサーシャとアルバだけの大切な秘密だった。コプラは、そのアルバの物言いに顔を顰める。


「けっ!秘密主義かよ…つまんない奴だ。だけど、あんないい女なんて隙を見せたらすぐに持ってかれるぜ。言っとくが、あの女をいい女って言うのは見た目だけじゃねぇぜ。あれは、一緒にいる男の全てを幸せにする…そんな奴だ。」


如何にも分かったような口を聞く彼だったが、アルバは妙に納得して頷く。この男は、年も自分より上だし、色々な女と出会って恋をしてきたんだろう…アルバはそう思うとちょっと男女について話したくなった。アルバは、サーシャ意外と恋をしたことがない。いくら、英雄だ、国主だと祭り上げられても所詮18の少年だ。


「…そうかもな。」


「そうだぜ。お前はイマイチあの女の良さを分かってねぇんじゃないか?」


「そんなことはないさ。これでも毎日サーシャには感謝しているんだ。」


「おまえさ、あの女意外と付き合ったことねぇだろ?」


コプラは、ふと気になってアルバに尋ねた。すると、アルバは苦笑いを浮かべながら小さく頷く。すると、コプラは大きく目を見開いてまるで文句を言うように話し出した。


「本当かよ!?そりゃ、勿体無いな。お前は金もあるし、見た目も今時に受ける顔してる。それに、強いし…普通ならモテモテだぞ!」


「…そういう経験はないな。」


アルバがそう否定すると、コプラは縛られた体でアルバににじり寄ってきた。


「お前、他の女と付き合ってみろよ。もう、浮気とか遊びで構わないからよぉ!」


「あはは。想像できない。」


「そうすりゃ、あの姉ちゃんにも隙ができる。俺はそこを突くぜ!」


アルバはその彼の言葉に思わず苦笑いを浮かべた。この男に騎士と聖女の理を話しても分からないだろう。


「でも…コプラさんはすごい自信家だな。俺は、サーシャが自分の事を愛してるんだと信じるまでに凄く時間がかかった。」


「アホ!そうじゃねぇよ。ただ、女に自分を好きにさせるんだよ!俺みたいなチビで岩石みたいなツラじゃ、女が寄ってくることはまずねぇ!だから、いい女を手に入れたきゃ、そういう隙を見逃さないのさ!つっても、タイミングだけどな。」


「なるほどね…」


「よく似合わないカップルっているだろ?凄い綺麗な姉ちゃんと汚いおっさんとかさぁ…。ああいうの見るとよぉ、カッコイイ彼氏から女の隙をついて奪い取ったとしか思えねぇしな。」


彼の意見はだいぶ偏っているが、アルバはその話しに、ふとある女性の姿が浮かんだ。それは勿論サーシャではない。


ファティ大司祭だ。


彼女は500年前を生きた女神でサーシャの祖先だ。彼女の騎士であるジルは、女好きで遊び人だった。もし、ジルに浮気され精神が弱っている時に他の男が寄ってきたら…その神のような女も、他の男に体をあずけることがあるのだろうか…。アルバはふと、コプラに尋ねた。


「コプラさん。サーシャみたいに心が純粋で一人を思い続けるような女性でも、何かのきっかけで他の男に行くこともあると思うか?」


「あ?おまえは自信があるのか、ねぇのか分からねぇ奴だな。そりゃ、あるだろうよ。」


「その…自分の騎士以外に、体を預けちゃうことも?あんな高貴で清廉な女でも?」


コプラはアルバの言う「騎士」という言葉は分からなかったが、言いたい意味はわかった。ただ、アルバがあまりに真剣に聞いてくるので若干引く。この男を怒らせでもしたら、自分などあっという間に真っ二つだ。


「まぁ…その…なんだ。男と女だぞ?おまえは若いから、女っていうのを特別視しちゃうかもな…。しかも相手が女神だから幻想をいだいてるんだよ!。清廉だ、なんだぁっていうのは、おまえが勝手に作ってる妄想かもしれんぞ?」


「そうなのか?」


「俺ら男は、女の体に妙に惹かれるけどよ。女にとっては、自分の体なんてのは、日常で特別なもんじゃねぇ。女は感情の生き物だ。それが、女神だろうが売春婦だろうが一緒だ。万一…万一だぞ!お前があの女を悲しませることがあったとしよう。しかも、お前がその事に気付いてないとするだろ。」


「うん。」


「そうしたら、お前は彼女が何を怒ってるかすら分からない。そんな時にそれを分かる男が現れてよぉ。優しくどこまでも酒だ、食事だに付き合って話を聞いてあげりゃぁよ。2人でいる時間がやがて逆転してよぉ。そうしたら、そういう雰囲気になる時がくる確率は高くなると思わねぇか?」


「う〜ん。だからって、サーシャみたいな女が心と体を許すか?」


「お前は俺の話をちゃんと聞いてたんかい!だから、女にとって自分の体は日常なんだよ!ちゃんと、男が脱ぐ理由を作ってくれれば、女は脱ぐさ!彼氏がいてもな!」


アルバは懸命に、ファティ大司祭とジルの事を思い浮かべた。もしコプラの話を信じるなら、そういうこともあってもおかしくはない。ファティは、伝書では自分一人で子供作ったとある。それが、アルバには信じられなかったのだ。そうなると、その間男がサーシャの祖先なんて事になる。

しかし、コプラは当然この少年がサーシャの事で迷っている思っていて、寧ろ悩ましてしまったかと思い、焦る。サーシャは欲しいがこの男を怒らせたら、全てが水の泡と消える。


「男と女には必ず終わりがくる。そりゃ、人生の理でどうすることも出来ねぇ。ただ、それが明日か死ぬ時かって話だ。」


「コプラさんの話は面白い!俺の周りにはそんな話をする奴らがいなくてな。」


「へぇへぇ、どうせ俺は下品だよ!だがどう着飾っても、最後にやることは一緒だ!あの姉ちゃんだって、結局お前とはやってんだから、清廉もへったくれもあるかよぉ!」


コプラがなにか物欲しそうに文句をたらすと、いきなり馬車が停まった。やがて、馬車の檻の錠が降りる音が響き、一人の兵士が顔を覗かせた。


「降りろ!!」


すっかりサーシャの話で盛り上がったいた2人はいきなり現実に引き戻された。

いよいよ、2人は秘密警察の本拠地に乗り込むことになったのだ。

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