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アルバvsコルドバ



ジャンとモモがこの世界の未来予想図を共に話し合っていた頃、アルバはサーシャを連れて城の最上階の庭で、コルドバことユラと模擬戦をしていた。

コルドバは世界に名が知れ渡るほどの英雄で、世界を股にかける傭兵でもあった。たまに士官しては金を稼いでいたが、いつも上司や王とぶつかりクビになる。だが今は禹王曲折あって、アルバとサーシャに仕える事になっている。


ロハンの執政であるロイスが言うには、このコルドバという女は二重人格だという。アルバはその言葉を半信半疑で聞いていたが、実際に話したり戦ったしてみると彼の言う通りだと感じるようになった。コルドバは普段は地味で打たれ弱く、内気な女であったが、こと戦いになるといきなり強気で傲慢になり、まるで殺戮者のような行動と言動を発してしまう。


しかも…彼女の強さは噂以上だった。


恐らくコルドバは、生まれながらに「意志の力」という不思議な力を持っていたのだろう。その使い方が非常に洗練されていて、これにはアルバも驚くほどだった。

意志の力は、精霊の力と似ていて火、風、水、大地、光、空、宇宙、木、石、魔、天、次元の12種に分かれているとされている事が、最近モモがそのことをエディアの文献から発見していた。ただ、精霊の力の「光」だけはサーシャ以外使えないとされているので、恐らく意志の力もそうだろうと彼女は言っていたが。


ちなみに、コルドバが使うのは「水」である。


彼女はどこからでも水を呼び出すことができる。そしてその水の力で宙に浮かぶことも可能だ。そしてなんと彼女は自らの暗剣と聖剣をその「水」の中に隠すことができる。完全に「意志の力」を自在にコントロールできる証だ。


「こりゃ、まいったな!」


アルバは空中に浮かぶコルドバを見てそう漏らした。彼に着いてきたサーシャもすっかり呆れ顔だ。別に空中に浮かぶのはいいのだが、彼らを困らせていたのは彼女の変貌ぶりだった。


「ひゃひゃひゃ!!噂に聞く、ロハンの領主の実力はこんなものか!!?いつでも殺せるぞ!!ひゃひゃひゃ!」


コルドバことユラは、水の力に守られながら空中でそう騒いでいる。サーシャはそのあまりに変わり果てたユラを見て、呆れたようにアルバに話しかけた。


「アルバ…。普段は、ユラさんと呼びましょう。そして、こう変身したらコルドバさんといいましょう。そうでないと混乱しちゃいます。」


「だな。確かに強いけど…取り扱い注意だ!」


「そうですね。また、ベルトランとは違った魅力がありますけどね。」


サーシャは指を口に当ててそう微笑んだ。ベルトランも、コルドバと同じ意志の力を使え、凶暴で野獣のようだが、仲間の言うことはよく聞く。


「あはは。あいつは可愛いもんだ。しかし…こいつは力で押さえつけないと、味方だとしても面倒だ。」


「そうね…。ユラさんはいい娘だけど。こうなるとね!」


「俺、勝てるかな?」


「ふふ。私の騎士様はこんなことへっちゃらです。でも、お城は壊さないでね。」


「…そっちは自信ない。」


アルバはそう言い残すといきなり、コルドバに切り込んだ。大きくジャンプして宙に浮かぶコルドバに黒剣を向けて立ち向かう。


「ハハハッー!!そんなん届かねーよーーー!!」


コルドバは、素早くアルバの一撃を避けると、自分の身を守る水を「渦巻き」に変形させてそのままアルバに向けて放った。その容赦のない濁流のような水はアルバを軽々と捉えたが間一髪、彼は黒剣でその力を消し去った。


(黒剣で消したということは…意志の力も精霊の力と原理は一緒ってことか)アルバはその時、初めてそのことに気づいた。


アルバが、宙返りをしてなんとか城の庭に着地すると、コルドバは余裕の表情でそのまま空中で見下ろした。


「女神の騎士さんよ〜!それじゃ、我には勝てん勝てん!!どうだ!?女神と二人がかりでこいよーーー!!ひゃひゃひゃ!」


「はっ?いやいや、流石にサーシャには戦わせられねーよ。」


「あん?我に逆らうのか!!この弱き者め!!」


「困ったな…。」その言動にさすがのアルバも呆れ果てて頭を掻いた。まずは、この言葉遣いやら態度を変えて貰わないと、後々面倒だなと今更ながらに思った。だが、コルドバはその態度を変えることもなく、いきなりとんでもないことを言い出した。


「ひゃひゃひゃ!ならば、女神を襲ってみるか!」


コルドバはそう喚くように話すと、いきなりその空中から自分の暗剣を振るう。するといきなり水の柱が空中に浮かび上がり、その水の先が刃のような形を作り上げ一直線にサーシャを襲った。


「まぁ…困った娘だわ。」


サーシャはその様子にも表情を変えることなくそう呟く。そしてその水の刃がサーシャに到達しそうになった時、いきなりサーシャの目の前にアルバが現れた。それは、瞬間移動ともいうべき彼の「神速」という技だった。そして、素早く黒剣を振るうとその水の刃は彼の目の前で砕け散る。


「ひゃひゃひゃ!やるじゃ…ん!?」


コルドバは最初先ほどのように余裕で笑っていたが、いきなり言葉を止めた。アルバの体から…溢れんばかりの黒い炎のようなものが沸き立っていたからだ。その光景は、戦いに明け暮れていた傭兵として、世界をめぐり様々な強敵と戦ってきたコルドバでも初めて感じる感覚だった。


「きさま…サーシャに剣を向けたな…?」


アルバもコルドバのように態度を一変させた。その言葉が終わるかどうか…彼の黒いオーラが天まで登り、大きく大地を揺らした。それは空中にも振動を伝わらせ、コルドバも大きくバランスを崩した。ロハン城もまるで地震のように激しく揺れる。


「アルバ…。あの…模擬戦ですからね。無茶しちゃダメですよ。」


サーシャは、心配そうに彼にそう声をかける。だが、怒りに震えたアルバにはその言葉は、届かなかった。アルバは、大きく大剣を天に掲げるといきなり空中に浮かぶコルドバに襲い掛かった。その速さは先ほどと違い、さしものコルドバにも見えなかったほどだ。


「へっ!!?」


消えたアルバを慌ててコルドバは探すが、どこにも姿は見えない。と、「ここだ!!」と、いきなり後ろから声がした。「ば、ばかな!!?」と慌てて後ろを振り返る。彼女にとってみればいつの間にか後ろを取られていたことも驚きだったが、アルバの一撃は尚も素早かった。コルドバは「意志の力」で、その彼の一撃をはね返そうしたが、なんと彼女の「水」の力はアルバに飲み込まれてしまう。黒いオーラに吸い込まれてしまったのだ。


「ひっ!!?」


コルドバは慌てて、自らの暗剣でアルバの一撃を受けた。だがその遅れた防御に、アルバの渾身の一撃を防ぐ力はない…


ガキィーーーーーン!!


と、暗剣同士がぶつかる音が鳴り響くと、なんとコルドバは空中から、一気にそのまま地面まで叩きつけられた。


「いでぇーー!!」


コルドバは、背中を強打しそのまま城の中庭で悶絶する。だが、休む間もなくアルバは、彼女の目の前まで急速に落下してきた。黒剣を振りかざし、コルドバの首めがけて一直線につき動く。その時のアルバの目は、まるで魔術師のように「漆黒」だ。「ひっー!!」と声を上げたコルドバはなんとか体制を立て直そうと、「意志の力」を導き出そうとするが…なぜかすぐにその力はアルバの黒いオーラに飲み込まれていく。まるで万物の理を無視するような如く、水が天に昇っていくのだ。


「アルバ!!そこまでです!!」


サーシャが慌てて大声を出すと、アルバの黒剣がコルドバの喉元ギリギリで止まった。

それはまるで、戦いの彫刻ような姿だった。倒れこんだコルドバの肩にアルバの手が彼女を押さえつけていて、黒剣が彼女の首元寸前で止まっている。


「ひゃ…ひゃ…す、すいません…。」


「コルドバ。二度とサーシャに剣を向けるな…。」


「ひゃ…ひゃい…。」


「ユラに従え。もう二度と勝手に振る舞うな…。」


「は、はい。」


「伝えたぞ?二度目はないと思え。」


アルバはそこまで話すとゆっくりと立ち上がり、黒剣を背中に収めた。サーシャはそんな彼を見て安心したのか、小さくため息を落とすとゆっくりと2人に近づいていく。


「サ、サーシャ様…。」


女神の心配そうな顔を見て、その水の騎士はコルドバが消えてユラが顔をのぞかせた。顔つきや目つきまで変わるその様子に、サーシャは思わず苦笑いする。アルバもサーシャの顔が近づいてきて正気に戻る。黒い目が元の優しい少年の瞳にもどると、「やばっ!」彼はそう叫び慌てて、ユラの元へ駆け寄った。


「ユラさん!大丈夫か!?」


アルバは彼女の肩をゆすって心配そうに顔を覗き込む。前に同じ状況で仲間のサカテに怪我を負わせたことがあったアルバは、焦りまくった。だがユラはそんなアルバに微笑むといつものゆっくりした口調で話し始めた。


「アルバ様はやっぱりお強いわ。さすが、私の王です。」


「いや…すまない。あれは…その…なんだ…。」


「ふふっ。自分より強い方に従えるなんて、幸せです。私ね、戦いのときはいつも彼に支配されてしまうの。でも…アルバ様がきつく言ってくだされたから、これからは彼も言う事を聞いてくれそうです。」


ユラは、そう話すとゆっくりと体を起こした。そして、ゆっくりと歩いてきたサーシャを見ると申し訳なさそうに一度頭を下げた。それはコルドバという人格に支配されていた時に、サーシャに攻撃を仕掛けてしまったことだ。


「サーシャ様。すいませんでした。」


「フフッ。大丈夫ですよ。私には騎士様がいるから…それより怪我はないですか?」


「はい。怪我はありません。」


「まったく、あなた達は似た者同士ですね。加減を学びましょう。…でもいいお仲間になれそうです。」


女神がそう話すと、アルバはいつものように頭を掻いて小さく笑った。






アルバとサーシャが、ロハン場内にある2人の部屋に戻ったのは夕方だった。相変わらず忙しい日々が続いている2人は、部屋に戻るとそのままベッドに倒れこんだ。


「サーシャ、疲れたね。」


「そうですね。でも、またのんびりできる日が来ることを楽しみにしてましょう。」


アルバの言葉にサーシャはそういつものように前向きな言葉を言って微笑んだ。2人は、ジャンとパオラを出会わせて、サイ国のジンボという街を牛耳っていた司祭を追放してからというもの休みがなかった。ジンボの街で知り合ったイザベラという探検家がとんでもない発見をしていたからだ。それは、500年前を生きた女神ファティ大司祭が残した日記だった。その日記には、教団の最高位の司祭であるサーシャですら知らなかった教団の秘密が載っていて、仲間の旅の目的もそれによって変化していった。とりあえず、アルバたち4人の仲間は、探検家イザベラが発見した日記があった「湖の洞窟」へと足を運んだが、そこはすでにイザベラが発掘したもの以外は何もなく、もぬけの殻だった。唯一、その洞窟の奥には祭壇が見つかっていたが、そこで何が祀られていたかは不明だった。


そして、ロハンに戻ってみればこの騒ぎである。


だがようやく今はロハンの支配する地域は落ち着きを見せ、今日を迎えていた。だが、明日は朝から、フィルファのジャンとイストのラルがこのロハンにやってくる。それは、自分たちの仲間であるモモが、これまでの旅の成果を発表するためだ。


「明日は大きな新発見を発表する!」


モモはそう息巻いている。頭脳明晰な軍略家でもある彼女がそう言うなら、さぞや大きな発見があったのだろうとサーシャは楽しみしている一方、少し不安だった。また彼女がアルバと離れ離れになる作戦を考えをしてないか…それを恐れていたのだ。

モモは彼女の親友ではあるが、こと作戦にはシビアだ。もちろんそれで仲間は何度も作戦を成功させ、勝利してきたがサーシャにとってアルバがすべてだ。


サーシャは、ベッドの上に倒れこんだアルバの上にそっと体を乗せた。彼女は華奢なので特に重くはないのだが、うち伏せで寝転がるアルバはさすがに少し息苦しい。


「大好きなサーシャさん、苦しいです…。」


「まぁ…。」


二年前から変わらないその話しっぷりにサーシャは満足そうにそう呟いた。そして、彼の頬まで顔を寄せるとそのまま擦り寄せて話し始める。


「今日の御飯はどうしますか?なにか食べたいものはありますか?」


「…サーシャも疲れてるだろ?今日は食べにいこうよ?」


「ふふ。駄目です。あなたのご飯を作るのは私のお役目ですよ。だって、また旅に出たら作れないもの。」


「そうだな…。じゃあさ、今日は一緒につくろうよ。」


「まぁ…。嬉しいこと言ってくれますね。」


「サーシャのスープ…作れるようになりたいんだ。」


「あれは、私のすべてが詰まってますからね〜。いくら騎士様でも真似できませんよ。」


サーシャはそう話すと、ゆっくりと彼の頬に唇を添えた。サーシャのスープはエディアの伝統料理の芋のスープで、彼女の力作だ。アルバが記憶をなくし離れ離れになってから彼女は10年間もそのスープを作り続けた。下手なシェフよりそのスープを作った回数は多いかもしれない。


「そうそう、アルバ。この前、サカテに言われました。騎士と聖女は、楽だなぁって!」


「へ?なんでだよ!結構、大変だよね…。」


「フフッ、そうですよね。でも好きな相手が生まれながらに決まっていて、出会ったらずっと好きでいるんだからって。ほら、相手を探す手間もなくて、出会ったら宿命を背負っているから別れることもない。お気軽だって、言われました。」


サーシャはそう言って笑った。確かにサカテの言葉にも一理ある…アルバもそう感じ思わず苦笑いした。恐らく、サカテは一度出会ってしまえば、(この人が運命の人かしら?)と迷う必要もないし、言い伝えが本当なら相手を嫌いになることもない。ずっとずっと最初に出会った頃のように、好きでいられるという事に、サカテは一度出会ってしまえば、楽だと言いたいのだろう。


「俺はまだ2年だけど…サーシャは俺がシアンだったころから数えると12年か。」


アルバはふとそんなことを口にした。彼は子供の頃の記憶がない。サーシャとはどうやら10年間離れ離れであったらしいから、数えるとそんな年数がたっている。だが、サーシャは彼の言葉をすぐに否定した。


「いえいえ、違いますよ。私があなたに会ったのは8歳の時ですから、もう14年です。」


「あ、そうか!離れ離れになって12年で、出会ってからは14年か。」


「そうです。」


「サーシャはさぁ…。14年も一人の男を愛しているのか…。」


「まぁ…。そんな他人事のように言って。それは、あなたですよ。」


サーシャは、少しだけ頬を膨らませて文句を言った。その彼女の癖にアルバは若干笑ってしまう。言葉では存在するが、実際にそれをやる女性はサーシャ以外見たことがない。アルバはふと、真面目な顔になってふと思い立ったことを話してみた。


「なぁ、サーシャ。俺たちって、騎士と聖女じゃなかったら…出会ってないのかな。」


「フフッ。アルバはそういう話が好きですね。」


「だって、サーシャとの出会いは奇跡の連続だからさ。一つでも歯車が狂っていたら会えてないだろ?」


「そうですか?私には全部必然ですよ。騎士と聖女じゃなくたって出会ってます。」


「だって、おまえは教団の最高位の司祭だぞ?俺は、ただの田舎町の物売り。出会ってたって、普通話しすらしないだろ?」


彼のその言葉を聞いて、サーシャは呆れるように笑った。「貴方はもうすぐ王になるのですよ?」と言い添えるとアルバの頭を撫でる。サーシャにしてみれば、アルバはもう十分自分が望んでいたように強くなった。そして記憶こそ取り戻していなかったが、彼女が願っていた通り恋人として結ばれ、いつの間にか婚約すらしている。10年間の寂しさや苦労が吹き飛ぶような嬉しい「今」がある。


「2年前、あなたと私は再会しました。最高位の司祭と物を売っている方として。最初、私はあなたが師匠であることを知らなかったんですよ?どんな形であれ、出会って、恋に落ちて、こうしてます。」


サーシャはそう話すと、アルバと唇を重ねた。そしてうっとりするような目でアルバを見つめると話を続ける。


「アルバ。私はこう思うんです。騎士と聖女だって、運命や宿命は置いておいても、恋はします。運命や宿命だけだったら、別に友達や仲間でもいいはずでしょう?」


「そうだな。確かに恋人である必要はないな。」


「だから、騎士と聖女も普通の恋人と同じだと思っています。だって、嫉妬もしますし浮気だってするんですから、一緒です。本当にずっと別れないと決まっているなら、嫉妬とかしないでしょう?」


そう話すと、サーシャはアルバの頬を軽くつねった。その仕草も彼女の癖のようなものだ。10年前、シアンと呼ばれていたであろう自分もされたのだろうか…アルバはそう思うと少し笑顔を浮かべる。


「確かに…。でも、なんで別れないって決まっているのかな?そういうの…流石に神様でもコントロールできないと思うけど。」


「それは、私たちで探していきましょう。なにせ、私たちは絶対に別れないですからね!」


「今の言葉、覚えておくからな。」


アルバはサーシャの顔を両手で優しく包んで、そう話す。するとサーシャは彼の両手に手を添えて、再び顔を膨らませた。サーシャが彼に唯一不満があるとすれば、このサーシャに対する自信のなさだった。最近はその事も滅多に感じなくなったが、ごく稀に今でも顔を覗かせることがある。


「もう!アルバはまだ私のことに対して自信がないのですか?貴方は私の唯一の騎士様なのですよ?」


「自信はあります。おまえを守れるのは俺だけだと、思ってる。」


「フフッ。そのお言葉、覚えておきます。」


その言葉通りサーシャはギュッと強く彼を抱きしめる。サーシャにとってみれば、アルバは常に自分より強くあって欲しかった。そしてそれは現実になりつつある。試したことはないが、今の彼なら自分の神の力さえ効かないような気がする。再開した当時は、彼女は彼を守っていた。だが、今は逆に守られていると感じられる。それが思いの外嬉しく感じられる。つい先ほども、模擬戦で豹変したユラから彼は自分を守ってくれた。彼女はふとその事を口にした。


「ユラさんは、大丈夫でしょうか?」


「うん。二重人格がどういうものかよくわからないけど…。要は、ユラっていう人格とコルドバっていう人格が、一つの体に宿っているってことだろ?」


「そうですね…。」


「ユラの人格が、コルドバを支配すればいいことかな…って思ったんだ。そうすれば、優しいユラさんがコルドバの力を使える。あくまで予想だけど…。」


「あなたは「意志の力」が使える最強の騎士です。その貴方が思ったのならそういうことですよ、きっと。」


サーシャがそう話すとアルバは自嘲気味に小さく笑った。


「俺も人のことは言えないけどな…。どうもサーシャに剣を向けられると敏感に反応する…。」


「フフッ。それは貴方が私の騎士様である証拠です。大丈夫です。あなたを止めるのも私のお役目ですから。共にいれば何も問題ありません。」


彼の言葉にサーシャは嬉しそうにそう言い切る。アルバもその言葉に大きく頷いた。「サーシャはいつも優しいね。」と呟くように言うと、サーシャは黄金色の髪をゆすっていつものようにアルバを擽った。そして「でも意地悪もしますよ。」と笑う。アルバは、そんな彼女を見て、ふと昔、ジャンが言っていた言葉を思い出した。それは以前、ここロハンのバーで彼とアタナトと飲んだ時の出来事だ。


「そういえば…前に、ジャンに言われたことがある。サーシャはベッドの上でも弾糾するのか?…って」


「はい?弾糾ですか?」


「所属と名前をいえ!…みたいな?」


それはサーシャが、教団の人間が「人の道」を外したりした時に言い放つ言葉だ。一瞬、サーシャは彼の言葉が理解できなかったがすぐに思い立つと、思い切り笑ってしまった。


「きゃははは…。それ、面白いです!と、いうかジャンさんは、私が貴方に何を弾糾してると思っているのかしら?」


「さぁ…。あいつの頭の中は摩訶不思議だから、俺にもわからん!」


「本当ですね!今度なにを妄想してるか聞いてきてください。」


「我はサーシャ・ハトホル・カスティリャ枢機卿である!控えよ!とか、言われてるかと思ってるのかなぁ…。それで何をするのかは想像出来ないけど…・」


「もはやそれは、趣味の世界ですね。ジャンさんにそんなご趣味があったとは。今度、パオラに聞いてみます。」


サーシャはそう言って、苦笑いした。それは、すべて彼女の仕事や職務で発した言葉であってプライベートでは関係がない。そもそも彼女は、仲間や友人にはかなり腰が低い。アルバはそんなところも彼女の魅力の一つだと思っているが。と、


コンコンっとドアをノックする音が聞こえた。


「はい。どうぞ。」


サーシャが明るく声を出すと、扉が開いてサーシャ直属の修道士アカネと魔術師のラメレスが顔を出した。


「げっ!?」


「わっ!」


部屋に入ってきた2人は同時に声を上げた。それは、アルバとサーシャがベッドの上でそのまま抱き合っていたからだ。「え?あ、ラメレスさんもいらしたのね…」サーシャは素早くアルバから体を離し、ベッドに座り直すとにっこりと微笑んだ。この城の中枢には気心がしれた仲間以外いないためサーシャはすっかり油断していた。


「で、アカネ。どうしたのですか?」


「はい。今日の夜のお食事ですけど、サカテさんがみんなで食べないかって。」


アカネは、目のやり場に困りながらそう話すとサーシャは少し驚いた顔をした。


「え?まぁ、もうそんな時間ですか…。アルバ…どうしよう?」


「サーシャ。城に戻ってから、みんなと食事してないんだ。今日は食堂でみんなと食べないか?」


「はい。そうします。騎士様。」


アルバの言葉にサーシャは嬉しそうに素直に従った。その様子を呆れてみていたアカネとラメレスにサーシャは


「では、準備したらすぐに食堂に行きますと、みんなに伝えてくださいね。」


とアカネに話した。アカネは「はい。お待ちしています!」と言い残すと、そそくさとサーシャの部屋から出て行った。





魔術師のラメレスは、あの現場をみて目を丸くしっぱなしだった。そして、呆れたような顔で横を歩くアカネに尋ねる。


「なぁ、アカネ。あの人達は…その…いつもああなのか?」


「そうね…。ほっとくとずっとイチャイチャしてるから。たまに釘ささないと!」


「なんか、おまえらって本当に変わってるな…いろいろわかんない。」


魔術師のラメレスはそう呟くとそのままアカネの背中に従って歩いて行った。

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