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口が滑った魔術師

やがて結論がでると3人は、みんなが待つアルバの執務室に再び戻った。

その入口で彼らを出迎えた執政ロイスは、3人のすっきりとした顔を見て


「領主様、サーシャ様。どうやら、いい結論が出たようですね。」


と笑顔で話しかけた。アルバとサーシャは、彼の言葉に笑顔で大きく頷いた。ただ、当人のユラはよく知らねロイスに戸惑っているようだ。そんなユラを見たサーシャは


「この方は、ロハンを束ねる執政のロイスさんです。とても立派な方なので、私たちがいない時は、彼の言うことを聞くのですよ。」


と優しい声でユラに話す。すると、ユラはロイスに「あ、あの、よろしくお願いします。」と、緊張しながら小さく頭を下げた。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします。ユラさんの処遇は後ほど考えましょう。」


「あ、いえ。私など、一兵卒で大丈夫です。」


「はは。世界に名を轟かす貴女を一兵卒にしたら、アルバ様とサーシャ様が世間から、才能の無駄遣いだと笑われてしまいます。人には、能力によって適材適所があるものです。それは私たちの仕事。お任せあれ。」


既にもう何かを考えてあるような口ぶりでロイスはそう言った。常に先を読む彼のことだ。また、アルバとサーシャが驚くようなことを考えついていることだろう。


「アルバ様、サーシャ様。その事はまた後でお話ししましょう。それより最後に、難問が残っております。」


「あの魔術師のことか?」


「そうです。まだ、彼女にも伝えていませんが…サカテさんが捉えてきたレイアという魔術師と、キルドで捉えたあのラメレスという魔術師はどうやら、姉妹のようなんです。」


「まぁ…。それはまた偶然ですね。」


ロイスの言葉に、サーシャは驚いた顔で一度アルバを見る。アルバはその言葉に少し戸惑っていたが、この世界の出会いには本当に色々と意味がある。敵である魔術師の姉妹が生きたままこのロハンにいることにも、なにか意味がありそうだ…彼はそう感じた。


「ユラさん、あのラメレスという魔術師の事はどう見てます?」


アルバは、実際にラメレスと戦ったユラにまずそう質問した。ユラは、アルバを見上げながら


「はい。彼女は、おそらく魔術師の中でも駆け出しだと、お見受けしました。連れていた魔人は、下位の魔人で、風の精霊です。珠を使った魔術も弱く、普通の兵士でも盾で受ければ、怪我すらしないかもしれません。」


と明確に話した。ユラは、アルバとサーシャが自分の主となったことで急に、自分のしっかりとした立ち位置ができて安心したのだろうか、なにか言動までしっかりしている。


「アルバ。とりあえず、彼女の気持ちを聞いてみましょう。レイアさんからも、魔術師の話は少し聞けたけど…モモはなにか凄いことを考えているみたいだから、少しでも情報が多い方がいいわ。」


サーシャもそう言いながら、アルバとユラ、そしてロイスと共に部屋に入っていった。









部屋はやかましかった。なんと、ルンの修道士でアタナトの聖女であるアカネと魔術師ラメレスが口喧嘩をしていたからだ。ミナミとアタナトは特にその様子を気にするでもなく、2人から離れた場所で談笑していた。


(まぁ…流石、アカネだわ)サーシャはその様子を見て思わずほくそ笑んだ。アカネは誰とでも仲良くなる人間的な魅力を持っている。喧嘩をしているという事は、自分の意見を忌憚なく言える相手だともいえる。恐らく、あの魔術師は知らぬ間にアカネに心を掴まれてしまったんだろう…サーシャはそう思った。


「お待たせしまた。」


サーシャは2人にそう声をかけると、アカネとラメレスは急に顔を向けて


「サーシャ様!この分からず屋に、サーシャ様が女神だと教えてやってくださいよ

!もう、本当に腹が立つ!」


「うるさい!こいつがなんで悪魔と呼ばれているか、あれだけ説明してあげたのに!なんで、わからないんだ、このチビ!」


と、口々に叫んだ。その様子にサーシャばかりかアルバ達も思わず失笑した。アルバとサーシャは、並んでそのままラメレスの前に座ると彼女をまっすぐと見つめる。こう見ると、姉のレイアと顔がとても似ている。


「アカネ。人にはそれぞれ立場というのがあるんです。彼女が私を悪魔だと言っても、それは仕方がない事かもしれませんよ。」


サーシャはまずそう言ってアカネに優しく諭すように言った。


「ラメレスさん、どうも。」


アルバがそう若い魔術師に話しかける。ラメレスは、魔術師特有の黒い法衣を着ていて、目も白眼がない真っ黒だ。それは、先日捉えたレイアという魔術師と同じだった。


「おまえが悪魔の騎士か?言っておくが、おまえも我ら魔術師の標的だからな!」


ラメレスはアカネと喧嘩していたので興奮状態だ。そのため、勝手に色々と話してしまっていた。自分たちの標的など、普通は言わない。暗殺しにくくなるからだ。


「あの…お手やわからにお願いします。俺、こう見えても魔人とか、精霊の力とかよく分からないものは怖いんだ。」


アルバが戯けてそう話し、手を軽く振った。するとラメレスは体を半分飛び出させて


「魔人とか言うな!我の友は精霊人だ!」


と、叫ぶ。ラメレスは姉のレイアと違って若い分、血の気が多そうだ…アルバはそう思った。そして彼女の右腕に巻かれた包帯を見ながら話しを続ける。


「その怪我は、どうしたんだ?」


「あ?ああ、そこに突っ立ている地味女にやられたんだ!」


「ユラさんか…。まだ、痛むのか?」


アルバのそのボーっとした緊張感のない言葉にラメレスは一瞬戸惑った。(へんなやつだな…)と呆れるように彼を睨む。


「い、痛いに決まっている!腕ごと叩き切られたんだぞ!」


「それは痛そうだな…ちゃんと指は動くのか?」


「…動く…。」


「それなら大丈夫だ。神経がちゃんと伝わっていれば、元に戻る。」


ラメレスは彼の不思議な感覚に、一度体が止まった。それは、体験したことのない不思議な感覚だったからだ。彼から微かに感じる「意志の力」も初めてのものだった。


「くっ!そんなことより、とっとと我の処分を決めよ!もうお前らに付き合うのは飽きたわ!」


ラメレスはそのどうにも呑気な悪魔の騎士にそう吐き捨てた。アルバはそんな彼女の言葉を聞いて「あ、ああ。」と苦笑しながら、悩むように見る。すると、ラメレスの横に座るアカネが


「アルバ様!その女は、アタナトに怪我を負わせたのよ!ビンタの刑とかにしてくださいよ!私が、引っ叩いてやるわ!それか、教典の刑がいいわ。あなたの横で一日中、教典読み聞かせてあげるわ!死ぬほど眠くなっても寝かさないから!」


騒ぎ立てた。そのあまりに可愛い刑を聞いて、その場にいた一同が笑い始めてしまった。


「ロイスさん、この場合はロハンの刑法だとどうなるんだ?」


アルバがふと、ロハンの執政ロイスに尋ねた。すると彼は、一歩前に出てはっきりと話しだした。


「誰も死んでいないし、軍にも被害もないので通常なら傷害罪で1月くらい牢屋暮らしかと。但し、彼女は軍を率いて、我らが女神の命を狙ってここにきました。そうなると軍法裁判となります。サーシャ様のお命を狙ったのです。裁判官は即刻「死刑」を言い渡すと思われます。」


「死刑ですか…。」


「はい。そうしないと、教団からもクレームがきます。」


ロイスは、アルバの問いにそう明確に答えた。だが、ロイスの顔はどちらかというと和かだ。こういう時の彼は、心の中では別のことを考えている。そのことは、アルバもサーシャも分かっていた。むしろ彼の顔は今にも笑いだしそうだ。すると、案の定アカネが再び騒ぎ始める。


「ちょ、ちょっと待ってください!いくらなんでも死刑なんて…。駄目です!駄目!」


「…おまえさぁ。我の刑を決められるほど偉いのか?」


「うるさいわね!あなたが死んだら、絶対化けて出るから嫌なの!前もいったでしょ!」


「安心しろ!顔中血だらけで、天井から睨むから!」


「悪夢だわ!」


2人の言い合いを見て、ついにロイスは大笑いを始めてしまった。いつも冷静沈着な彼がここまで笑うのは珍しいことだ。よほど、ツボにはいったのだろう。サーシャは、そんな彼を楽しそうに見ながらも、視線をラメレスに移した。


「ラメレスさん。私が悪魔かなんなのかは置いておいて。貴女は、罰せられません。アタナトさん、ミナミ、アカネの怪我のことは、あなたも腕に重傷を負ったので不問にします。ただひとつお願いがあります。」


「…なんだ?」


「私は、エディアの出身ですが魔術師の事はほとんど知りません。そして何故、貴女達が私の命を狙うのか知りません。理由を教えていただけませんか?」


「そんなもん、誰が言うか!」


サーシャの言葉に、ラメレスはそう吐き捨てた。それは彼女ら魔術師に伝わる伝書の最重要機密だからだ。すると彼女の横にいたアカネが、パンっとラメレスの頭を叩く。


「あんたねぇ!サーシャ様になんて口きくのよ!」


「もう!痛いわね!燃やすぞ!」


「杖も持ってないんだから、そんな事できるわけないでしょ!普通の喧嘩ならあんたなんかに負けないわ!」


ラメレスは、この喚き散らすアカネにはほとほと手を焼いていた。ズカズカと勝手に心の中に入ってくるし、煩いし、チビのくせに生意気だ。何より盲目的にサーシャと教団を信じている。ラメレスはそれが何故か悔しくて、意地でも彼女の思い違いを正したかった。そしてその思いが頂点に達した時、つい口が滑ってしまった。


「いいか!アカネ!この女の一族は、500年前に我ら魔術師の一族を散々迫害したんだ!」


「…どういうことよ?」


「魔術師は、魔人の精霊の力を借りて民の様々な願いを聞いていた一族だったんだ。普通に平和に、民と共に暮らし、人々からも神と崇められ、尊敬されていた!」


「…だったら、今もそうしなさいよ!つーかそれならサーシャ様と同士じゃん!」


「最後まで話を聞け!だけどな、急にカスティリャ家の一族が自分達こそ本当の神だと名乗って、我ら魔術師を街から追い出したんだ。しかも、人里離れた山にひっそりと精霊人ともども隠れていた我々を皆殺しにきたんだ!」


「はぁ!?サーシャ様がそんな事するはずないでしょ!馬鹿じゃないの!つーか、頭悪すぎ〜!」


「だからしたんだって!この分からず屋!!あー、もう!イライラする!!」


「皆殺しにされたんだったら、あなたも生きてないでしょうよ!!」


「我ら一族を助けてくれた人がいたの!その悪魔の一族の目を盗んで、普通に街に暮らさせてくれた!だから、我らは、生きのびた!!」


「あんたねー!!普通なら、その助けてくれた人がサーシャ様よ!あんたらが、騙されてるんじゃなの?魔術師の一族って馬鹿なの?」


「はぁ!!?我らを愚弄するな!!」


「そんなに言うなら証拠を出しなさいよ!証拠!ほら、今出せ!すぐ出せ!そこで出せ!」


アカネのあまりに幼稚な物言いに、流石のラメレスも返す言葉が出なかった。いつの間にか、2人は胸グラを掴みあっていて顔は目の前だ。アカネは、その大きな澄んだ目でまっすぐに自分を見ていた。(なんで、こいつは私の事を怖がらないんだ…)ラメレスはそれも気になった。魔術師の自分は、目がすべて漆黒だ。普通なら、勇敢な兵士でも自分のことは恐れと軽蔑した目で見てくる。だが、アカネはまるで自分を普通の人間のように扱ってくる。こんな無力な一介の修道士が…それがラメレスには謎だった。


「なるほど。それが、魔術師たちがサーシャを付け狙う理由か。」


アルバは二人の言い合いを聞いてそう呟いた。要は500年前の敵討ちを彼らは、ずっと続けていたことになる。その事は、ラメレスの姉でロハンにいるレイアでさえ、言わなかった。アカネの大手柄だ。


「サーシャ。今の事は、歴書の記述に載っていないんだろう?」


「う〜ん。私は見たことがないわ。モモに確信して貰いましょう。」


アルバの問いにサーシャは、そう答えた。「そうか…。」アルバはそう呟くように答えるともう一度ラメレスを見る。目の前の2人は、まだ睨み合っている。


「ラメレスさん。先ほどサーシャが言ったように、貴女の罪は不問にします。実は、この城には貴女のお姉さんのレイアさんもいます。」


「なっ!?姉さんがいるのか!?ここに!?」


アルバの言葉は、ラメレスにとって大きな驚きだった。


「はい。ですから姉妹で話して、これからの事を決めてください。ここに居るも良し。魔術師集団に帰るも良し。ここに居てくれるなら、家も用意します。但し、ロハンの民に危害を加えるのは勘弁です。文句があるなら、俺のところに直接きてくれ。」


アルバは最後にそう言ってラメレスに笑いかけた。

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