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モモとレイア


白の槍使いは


私に仲間になれと、言ってきた。


脅しではなく、


ただ、誘ってきた。


だが、一族の宿命を背負った私が


はい、そうですか と


返事できる訳がない。







レイアは、正直戸惑っていた。


それは、次々と起こる不測の事態の連続に…だ。

敵であるはずの教団の連中に自分は命を救われ、共にいた12歳の少年アンドレも手厚く保護されていた。アンドレに至っては、サカテという白の槍使いにすっかり懐き、彼女の仲間とも遊んでいるようだ。更に、真逆の思想と立場にあるレイアに対して、サカテは仲間にならないかと誘ってきた。


そしてあろうことか、レイアは仇敵であるはずのサーシャにも会ってしまっていた。


一族の仇である。500年前からの積年の恨みつらみがある。ずっと、魔術師の一族はカスティリャ家を討ち滅ぼすことを第一目標としてきた。サカテに話した通り、自分はサーシャと会えばすぐにわかると思っていた。


だが…わからなかった。


そればかりか、会った瞬間に頭を下げてしまった。今、思えば髪は金髪だったし、肌も白かった…それは確かに仇敵の特徴だった。だが、彼女は白ローブを着ておらず、エプロン姿。スープを作ってくれていたので、その姿は理解出来るが。


(こんなに驚きの連続だと…思考が止まるわ。)


そんなことを思っていると、今度は部屋に赤い髪の女が入ってきた。このサカテもそうだが、その女も美しく何より目力がある。


「サカテ、終わった?」


「説得中!」


「無駄だと思うけど…。」


「これでも、頑張ってるぞ!」


「頑張って解決するなら、神も悪魔もいらないわ。ちょっと、どいて。」


その赤い髪の女がそう言うと、サカテは素直に席を譲った。そして、その女はゆっくりと椅子に腰掛けると、いきなり身を乗り出して真っ直ぐにレイアを見据えた。レイアはこの女の冷酷とも思える目に、思わず体を仰け反らしてしまう。何か…妙な迫力があったからだ。


「こんにちは。私は、モモ。貴女は…レイアさんでいいかしら?」


モモと名乗った女の声は冷静だった。そしてこの目の前の女が、天才戦術家として最近有名になり始めた人物であることをレイアは理解する。だが、思っていたよりかなり若い。あの老練で抜け目のない悪魔のような戦術を考えた女とはとても思えない。


「…ああ。」


レイアはその女の迫力に負けて、狼狽しながら答える。…この女は、サーシャやサカテと違って声が冷たい、そう感じた。


「あら、あなた。挨拶もできないなんて驚いだわ。」


モモは呆れたような声を出した。レイアも負けじと言葉を返す。


「敵に、あいさつなどするか!」


「あは。その調子!」


モモはまるでレイアを揶揄うようにそう言って笑う。レイアは、その態度と言葉に少しムッとしたがとりあえず押し黙って、女を睨んだ。モモはその様子を満足そうに見ると話を始めた。


「さて、レイアさん。本当はサカテに任せたかったけど、多分私の方がいっぱい文句を言えるから楽しいわよ。それに私は、サーシャやこのサカテみたいに甘くないわ。性善説なんてこれっぽっちも信じてないし、感情にも流されない。ただ、事実を見るだけ。あなたもその方がいいでしょ?」


「…。」その人を喰ったような物言いについに、レイアは視線を外した。だが、それでもモモは構わず話を続ける。


「あんたたち魔術師の世界では、サーシャは悪魔だっけ?ちゃんちゃら可笑しいわ。あんなお節介でお涙頂戴大好きな彼女が悪魔って言うなら、私は差し詰め悪の大魔王かしら。中々、いい気分だわ。」


モモは自分の赤い髪を触りながら、肩を竦める。サーシャの名を出されたら黙っているわけにはいかない。レイアは、再びモモの目を見て尋ねる。


「何が言いたい?」


「まぁ、それはおいおい話すとして。まず、私はあなたたち、エディアを絶対に許さないわ。他国の何の関係もない兵士に戦いをさせて、自分たちは傍観者を決め込む。今度の戦いでいったい何人の人間が死んだと思ってるの?」


レイアは、この言葉にカチンときた。


「教団…カスティリャ家だって、われら一族を皆殺しにした!それと何が違う!」


「あはは。自分がやられたから、相手にもやっていいって?それ、いいわ。私の哲学にあってる。でもあんたたちは、喧嘩を売る相手を間違ってるけどね。そんなにカスティリャ家が憎ければ、私たちの所かエディアの聖地に来なさいよ。」


「行けるのなら、行っている!我らは、エディアの指示の元、動いているのだ!」


その言葉を聞いて、モモはニヤリとした。この魔術師はあっさり、自分の親玉を晒してしまったのだ。なにせ、相手は自分と同じ年くらいの女だ。感情に左右され易いことは予想がついていたし、先ほどまでのサカテとの話を盗み聞きしていたモモには想定済みだった。その為にモモはワザと辛辣で失礼な言葉を続ける。


「ふふ。魔術師って、指示待ちの種族なのね。意外だわ、もっと独自の文化があると思ったわ。」


「違う!我々は、元々人々に敬愛された至高の種族だ。長い歴史を紡ぐ、伝承の書より伝わっている!」


「ふうん。伝承の書ね…。ひとつ、内容当てましょうか?我らの仇敵カスティリャ家を滅ぼせ、ファティの種族を抹殺せよ…なぁんて事が書いてあるんじゃない?」


モモのその急な言葉に、レイアは目を見開いて驚いた。その通りなのだが、言葉が続かない。そのレイアの顔を見て、モモは嬉しそうに手をパチパチ叩いた。


「当たったのね。で、その伝承の書に書いてある事を、貴女たち魔術師の一族は続けているのね。…500年たった今も!」


「…。」


無言を押し通すレイアを見て、モモは肩を竦めた。だが、そんなことは彼女にとって想定の範囲内だったようだ。


「流石にこれは答えないか。でも、私はそう思っている。」


モモは急に真面目な顔になって、そう話しかけた。レイアはその言葉に、額に汗がにじむを感じた。伝承の書の中身だけは一族以外の他人に話してはいけない。そのまま口を噤み続けるレイアに、モモは小さいため息をつくと顔を傾げて彼女に尋ねた。


「ひとつ、聞いてもいい?貴女は、その伝承の書を信じてるの?」


「…もちろんだ。我らが祖先が残したものだぞ。親からも聞かされている。」


「ふ〜ん。でも私には、それが信じられない。頭の中がお花畑になってるとしか思えない。」


モモのその言葉に、レイアは血が頭に昇るのを感じた。


「なっ!?我らを愚弄するのか!」


「愚弄?そりゃするわよ。何にも自分で見ないで、盲目的に人の話や伝書を信じるのだから。視野が狭い!物事を全然俯瞰から見てない!あきれるわ。」


「きさま!!」


ついにレイアは耐えかねて、モモの胸グラを掴んだ。だが、その赤い髪の女は、眉ひとつ動かさない。ただ、自分をまっすぐと見据えていた。暫くモモは、そのまま彼女を見つめ無言だった。彼女の後ろにいるサカテも無表情にそう様子を眺めているだけだ。

やがて、モモは話を今回の戦争の事に戻した。


「あんたたちが起こしたこの戦争で得をするのは誰かしら。貴女はそれを考えたことがある?」


「得…だと?」


「物事には必ず裏がある。それが個人でも国でも。今回の戦争で、連合軍とロハン合わせて13万人の兵が動いた。国は疲弊したけど、武器も馬も生活品もたくさん売れたでしょうね。さて、問題。その金は誰の懐に入ると思う?」


「金?そんなの、商人や武器職人ではないのか?」


「ふふ。それなら街の住民は潤うわ。みんな大金持ち。でも、そうはならない事は流石の貴女でも知っているでしょ?さて、そのお金はどこに消えたでしょう?」


「それは…どういう…。」


「あんたたちが戦争するだけで、ボロ儲けする連中がいる。全く自分たちの腹を痛めないで、寝ているだけでお金がザックザク。毛がモサモサの猫を膝に置いて、ワイングラスをくるくる回して、遠く空の上から笑っているの。そいつらは、あんたら魔術師の恨みとか、500年前とかどうでもいいの。人間も魔人も、そして英雄たちも。彼らはチェスのゲームのようにその駒を自由に操って、自分のしたいようにするの。」


レイアは、その金がどこに消えたのかはさっぱりわからなかったが、空の上で世界を牛耳っている一族は知っている。


「それをしているのは…カスティリャ家なんだろ?」


レイアはそう吐き捨てるように言った。教団を束ねるカスティリャ家は、自分たち魔術師と魔人の敵で、人々の生活を支配している殺戮者であり簒奪者だ。だが、モモはその言葉を聞くと微かに笑みを浮かべた。


「は?サーシャがそんな輩だったら、あんたなんかにスープ運んでこないわよ。スープの代わりに剣を持って、貴女を突き刺しにくるでしょうね。」


「くっ!じゃ、カスティリャ家でなければ誰だというのだ?」


「それが簡単に分かったら、苦労しないわ。ただその連中が滅多に表に出て来ない事だけは分かっている。いい?さっきも言ったでしょ。物事には、表と裏があるって。表に名前が出ている権力者なんて所詮、下っ端の「駒」よ。カスティリャ家も…ね。」


モモは、目を妖しく光らせるようにそう話した。その話は、レイアに大きな驚きと疑問を投げかける事になった。わからない…わからない事が恐ろしくなった。


「そ、そなたは、カスティリャ家すら操る権力者がいると言いたいのか?」


「操る…という表現は相応しくない。さっきも言った通り、その連中は表に出て来ない。「そう仕向ける」と言った方が適切だ。」


「仕向ける…?」


「人は集団になると利害関係が発生する。土地、物、食料、そして金と権力。更には貴女達の様に、目的を生きる糧とする集団もいる。その連中は、そういう人々の欲望や目的を上手く利用するの。」


レイアは彼女の言葉の意味が理解できなかった。話が大きすぎて実感がないからだ。なにせ、自分たち魔術師集団は、妥当カスティリャ家だけを掲げて存在しているようなものだ。レイア自身もその事には疑問を持ったことすらない。

だが、もし仮にこのモモという女が言っている事が正しいとすれば、自分たちの存在はどうなるのだろう…そう思うと怖かった。だが、このサーシャの仲間たちはいったい何をしているのかは気になる。彼らの目的は世界をより支配すること…そう教えられていたからだ。


「そなたらはそんな連中を調べて、何をしようというのだ?」


レイアのその言葉に、モモはニンマリとした表情を見せた。この魔術師は、話に乗ってきた…そう感じたからだ。ここからは、彼女の感情をあまり刺激しないよう淡々と話を続けた。


「その連中は、私の大事な友達…サーシャの敵なの。そいつらは、彼女を散々な目に合わせて、好き放題利用して、今度は抹殺しようとしている。その連中はね…ルール無用なの。当たり前よね、自分たちでルールを作って、都合が悪くなったら、ルールそのものを変えてしまうんだから。だから私たちは、そいつらをルールのあるチェス盤の上に、引きづり降ろしたいの。ルールがある戦いなら私たちは絶対に負けないわ。」


モモのその言葉は、レイアに軽い衝撃を与えた。自分たちの他にも、サーシャを殺そうとしている集団がいると言うのか…。しかもそいつらは、元々サーシャを利用していた?レイアはますます頭が混乱した。


「し、しかし…。そいつらはなぜ…急にサーシャを殺そうとしているのだ?そなたの話を信じるなら…元々はサーシャやカスティリャ家は、その連中にとっては手下みたいなモノだったのだろう?」


「ここからは、私の推測よ。その輩にとって元々、サーシャは有効な駒だった。そりゃそうよね、人を支配するのにあんなに適した駒はない。綺麗で、優しくて、正義感あふれて、弱いものの味方。大衆も修道士も熱狂するわ。でも、サーシャの力はその輩の想像を大きく超えて巨大なものになってしまった。更に厄介なことに…その女神は、彼らが絶対に出会わせてはいけないと思っていた騎士まで取り戻してしまったの。さぁ、大変。サーシャは、その輩の思惑を超えて、勝手に動く駒になってしまった。クィーンが意思を持っちゃたの。そりゃ、プレイヤーは大慌てだわ。なにせ最強の駒が自由に動かせないんだから。自分が、動かせない駒がいるとチェス盤は支配できない。そしたら、消しちゃうよね。そんな駒。さて、その次はどうすると思う?」


「!!」


レイアはその言葉で、モモの言いたい事が分かってしまった。体が震える。汗がにじみ出て、額から溢れ出るが拭う事も出来ないほど考え込んでしまっていた。モモはそんな彼女を叩き込むように話を続けた。


「サーシャやカスティリャ家に恨みのある連中を利用する。サーシャに近づく方法を教え、その為の状況までご丁寧にお膳立てする。今回の戦争は…そんなトコかしら。」


「…我らは、利用されたのか。そいつらに…。」


レイアは大きく肩を落とした。何か脱力感のようなモノを感じて一気に疲れが体を巡る。モモは、この時レイアの手をそっと握って話を続けた。


「カスティリャ家が500年もの間、自分たちの命を付け狙う魔術師の一族がいるのに、生きながらえた証明にもなるわ。サーシャが出てくるまで、彼らにとってカスティリャ家は非常に言うことを聞く、便利な駒だったの。そりゃ、消さないわよね。だから彼らは、カスティリャ家に魔術師を近づかせないように、いろいろ手を尽くしていたと思うわ。例えば、人の住む世界から排除するとか…ね!」


「そ、それは…!!?」


レイアは思わず声を上げた。確かに魔術師集団は、500年前に迫害を受けて、街や村から次々と追放され、山奥に籠もったと伝承には記載されている。


「この話は27歳の小娘である私が考えた独り言よ。でも。私はその答えを導き出すために、サーシャとともに危険な旅をしてこの目で見てきた。エデイアにも侵入したわ。そして、エディア側から見た世界の書物を読み、世界に散らばる国の伝書を読み、ファティ大司祭の日記も読んでる。あなた方、魔術師の背負った運命は過酷だわ。それは、私にもなんとなくわかる。でもね、表に見える事だけでなく、裏に潜む真実も見て欲しい。サカテが、仲間になってくれと言ったのは、別に私たちと行動を共にしろっと言っているわけじゃないの。貴女にも自分の目で真実をみてほしい。それは、魔術師集団の中に留まってもできることよ。」


「モモさん。言いたいことは分かった。だが、それを飲み込めと言っても…我にもすぐには…。」


賢いレイアはようやく彼女の言いたいことを理解した。そして自然と彼女の名前を呼んでしまっている。だが、彼女の20数年は、カスティリャ家打倒の為の月日に等しい。すぐに、はい、そうですか…とはとても言えない。



「すぐに何て言わない。ただ、ゆっくりでもいいから自分の頭で考えて欲しい。ここに居たければいてもいい。サーシャを自分の目でみて感じるのもいい。でも彼女を殺すのは、諦めて貰うわ。もしそんな素振りを少しでも見せたら、貴女は女神の騎士に真っ二つにされちゃうから。これ、脅しじゃないわよ?」


モモは目配せしてそう話す。

レイアは言葉を返せなかった。きっと今の自分は、顔面蒼白なのだろう…血の気が引くとはこのことだ。その彼女の表情を見て、モモは満足そうにゆっくりと立ち上がった。


「ここには、さっきサカテが言った通り、いろんな人が集まっている。話を聞いてみたら?」


彼女はそう提案してきた。レイアはすぐに言葉を返せなかったが、この時にずっと最初から疑問に思っていたことを自然と口にしていた。


「…。ひとつ聞いてもいいか?なぜ、我は殺されない?そなたらにとって我は…。」


「それはアンドレに感謝なさい。あなたを殺さないでと、サーシャとアルバに泣きついたのは彼なんだから。」


モモはその言葉を残すと、無表情な白の槍使い…サカテを連れて部屋から出て行った。

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