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無理なお願い



守るモノがある人間は、強くなる。


だが、本当にそうだろうか…。


私は、守るものが出来ると…弱くなると思う。


弱点が生まれてしまうからだ。


そこを突かれると、人は何も出来なくなってしまうものだ。


私は知り合った、小さい男の子を助けられなかった。


それは戦いの最中に作ってしまった自分の弱点だった。


なにか浮かれていた自分は


まるで、自分の運命を忘れてしまったかのようだった。


彼といた時間は短かったが


それはそれは、楽しかった。


だが彼は、


この敵討ちという、


500年前から続く呪われた


私の背負う運命を知ったら


なんと答えるだろうか。


彼は、私が散々罵った人物が


実は多くの人が敬愛する


教会の女神だと知ったら


私を許してくれるだろうか






だが一つ変わらない思いがある


彼は私にとって


天から遣わされた


天使そのものだった。






彼は…どうなったのだろう。



家にちゃんと帰れただろうか。



お母さんに会えたのだろうか。











暖かい優しい光を感じて、彼女はゆっくりと目を開けた。

天井は高く、白い。彼女は暖かな大きいベッドの中にいた。鳥のさえずりと、ガラス戸を叩く風の優しい音が聞こえる。彼女が体を起こすと、そこが大きな誰かの部屋であることがわかった。木でできた家具が部屋を囲み、棚の上には水差しとコップがある。


「ここは…。」


頭はぼーっとしている。確か…自分は、港町「ベニア」に向かう途中、敵の奇襲にあい、白の槍使いに襲われて彼女の刃に倒れたはずだ。と、いうことはこの場所は、死後の世界だろうか…。それにしては、快適だ。ふと自分の体を見ると、真新しい絹の白い肌着を着ている。慌てて、部屋を見渡すが魔術師の黒の法衣や杖、荷物は見つからない。


ガチャ。


と、部屋のドアが開く音がした。自然とレイアはその音がした方に目がいく。


「まぁ…。目が覚めたんですね。」


そこにいたのは、女だった。黄金色の美しい髪を左肩に結んでいて、大きなブラウン色の瞳がまっすぐレイアを見て、微笑んでいる。そのあまりの美しさと清廉な雰囲気に、レイアは息をのんだ。自分が女であることを忘れるかのように、その美しい女性に吸い込まれそうだった。そして、部屋一面が清められ爽やかな風が通っている。


レイアは自然と頭を下げた。


その様子をにっこりと見ていた美しい女性は、手に持っていた器をすこし上にあげ、


「そろそろ、起きる頃かと思ったので、スープをお持ちしました。如何ですか?」


と言って、黄金色の髪を揺らしながらゆっくりと近づいてくる。そして、やがてベッドの横に置いてあった椅子の腰掛けると、ベッドの上で固まっていたレイアにゆっくりとスープ皿を差し出した。レイアがその器を恐る恐る覗き込むと、それはエディアの伝統料理である芋のスープだった。


「あ、ありがとう。」


レイアはそれを静かに受け取ると、木のスプーンを手にとりゆっくりと口に運んだ。


「美味しい…。」


「あは。それは、私が作ったんです。お口にあってよかったわ。」


その女性は、レイアの感嘆の声を聞き嬉しそうにそう微笑んだ。不思議と、彼女といると心が和む、まるで優しいなにかに包まれ、守られているような感覚に陥る。


「体で痛むところはありませんか?」


「あ、はい。大丈夫です。」


その美しい女は、レイアの返事をうんうんと頷いて聞いてから、水差しから水を汲んでレイアに手渡してくれた。


レイアは、そんな優しくしてくれる彼女を不思議そうに見ながらそのコップを受けとる。


「あの…ここは?」


「はい、ここは私の部屋です。安心なさって。」


その美しい女はそう言って微笑むとゆっくりと立ち上がった。そして、彼女を見て


「貴女のお友達を呼んできますね。」


と言い残すと、そのままゆっくりと部屋を出て行った。



「お友達…って…。」


レイアが不思議そうにそう考えていると、バタバタと、なにか廊下を駆けてくる音がする。それは、軽い足音で歩幅が狭い。(ま、まさか…)レイアはベッドの上でスープ皿を落としそうになってしまった。やがて、いきなりドアが開いた。


「レイアさん!!」


「アンドレ!!」


2人は同時に目が合わせ、そして名前を呼びあった。アンドレは、彼女を見て一瞬泣きそうになったが必死に涙をこらえると、そのままレイアに走り寄って、彼女の胸の中に飛び込んだ。彼の小さな体を、レイアは優しくベッドの中で受け止める。

スープ皿は結局、床に落ちてしまったが、彼女にはそんな事を気にしてられない。


嬉しい…。その感覚が頭いっぱいに広がる。


彼女は心がパッと明るくなるのを感じた。まるで、自分の生き別れた弟や子供に会った気分だった。あれから、そんなに時は立っていないだろう。それでも、まるで数年ぶりに会う感覚だった。


「もう!もう!!アンドレ!!」


レイアは、子供のようにはしゃいで彼の小さな顔を手で包んでくしゃくしゃにする。アンドレも負けじと喜びながら彼女の肩をパンパン叩く。


「おまえら、恋人か!!」


と、皮肉たっぷりの声が聞こえる。レイアは聞き覚えのあるその声に、一瞬体が固まった。アンドレをすっと抱きしめて、その声の主を驚いた顔で見る。それは、見間違うことのない自分とアンドレを追い詰めた、白い槍使いだった。だが、今は槍を持っていないし、なぜか顔は穏やかだ。


「レイアさん、大丈夫だよ。この人が僕たちを助けてくれたんだ。」


驚いているレイアに、アンドレは顔を彼女の目の前に突き出し笑ってそう説明する。やがて何も言わないレイアに、その白い槍使いはため息をついて


「おまえさぁ、助けてやったんだから、礼の一つも言えよ!」


と、悪態をつくとそのままベッドに寄ってきて、先ほどまで黄金色の髪をした美しい女性が座っていた椅子に、ドカッと胡座をかいて座り込んだ。そして、小さいその槍使いは、レイアを見上げながら話しかける。


「僕は、サカテだ。おまえ、名前は?」


「…レイア。」


レイアはどう対処していいか判らなかったが、武器を何一つ持っていない自分にはどうしようもない。素直に名を名乗った。どうせ、アンドレから聞いていることだろうから、隠しても意味はない。すると、アンドレがその様子を見て、体を伸ばしてサカテと名乗った白の槍使いの頬をいきなり抓った。


「サカテ!レイアさんにもっと優しくして!」


(ちょ、ちょっと!アンドレ!!)彼のいきなりの暴挙に、レイアは驚いて声すらあげられない。だが、サカテはそのアンドレを呆れたような目で睨むと


「いてーな。アンドレ!礼儀のなってないヤツは、僕は嫌いなんだよ!」


と言って、アンドレの手を優しく掴み、仕返しとばかりにアンドレの脇腹をくすぐった。


「ははは、サカテ!やめて!あははは!」


アンドレは、ベッドの上ではしゃぎながら笑い転げている。


レイアはその様子を見て、思わず手で口を押さえて驚いた。なにか、この2人は友達のように仲がいい。悪魔の手先として、今や世界中から恐れられる白の槍使いが…全く怖さを感じない。だがその様子を見て、なぜかレイアは自分を取り戻した。


「アンドレを助けてくれたことには、感謝してる。だが…、なんで我を殺さない?」


「おまえを殺すと食いもんでも出てくるのか?」


「ふざけるな。我は真面目に聞いてるんだ。我は魔術師の末裔だ!おまえらの…」


「おい、おまえはこの子の前でそれを話す気か?」


サカテはいきなり強い言葉で、彼女の話を止めた。アンドレは、急に言い合いを始めた2人を驚いた顔で見ている。レイアは、ハッとなって口を塞いだ。確かに、このアンドレに聞かせる話ではない。


「アンドレ、僕はレイアと大事な話がある。さっきの部屋にカエデっつう綺麗なねーちゃんがいたろ?あいつと遊んで来い。」


サカテは、微かに微笑んで彼にそう話しかけた。アンドレはキョトンとサカテを見たが、


「サカテはレイアさんに酷いことしない?」


と、心配そうに聞いてくる。だが、その言葉にレイアは彼を一度抱きしめてから


「アンドレ、大丈夫だから遊んでおいで。」


と優しく言い聞かせた。彼は、少しの間レイアを見ていたがやがて、小さく頷き「後でね。」と言い残すと、何度もレイアを振り返りながら部屋を出て行った。







「さて、レイア。先に言っておく。いくつか質問するが、素直に答えてほしい。でないと、ここにモモという尋問のプロを呼ばなきゃなんねー。それは出来ればしたくない。」


アンドレが部屋から出て行くと、サカテは開口一番そう切り出した。


「…、答えるかは質問の内容による。だが、その前に我に願いがひとつある。聞いてくれるか?」


「…なんだ?」


「アンドレを…あの子をきちんと村に返してほしい。あいつの母親が待ってる。」


レイアはまず彼女にとって最も大切なことを切り出した。それは、アンドレの身の安全を確保することだ。そして、出来れば彼との約束通り村に返して欲しかった。だが、サカテの返事は意外なものだった。


「悪いがおまえらが、攻めてきたお陰でロハンはみんな手一杯だ。連れて帰りたければ、おまえが勝手に連れてけ!」


「なっ!?きさまらは、我を釈放するのか?」


「お前はアホか!お前に手錠でもついてるか?釈放も何も、僕たちはそもそもおまえを拘束してない。」


サカテは、そう言ってレイアを見据えた。確かに、自分は監禁はされていない。そもそもここは普通の部屋だ。牢屋ですらない。だが、敵である自分を逃がすことなどあるのだろうか…。だが、彼女の言葉は更にレイアの予想を遥かに上回っていた。


「…わかった。では、質問しろ」


「僕は面倒が嫌いだ。だから単刀直入に聞く。…おまえ、ここに住まないか?」


「はぁ!?あんた、馬鹿か?ふざけるのもいい加減にしろ!」


「僕は大真面目だ。」


サカテは、その言葉通りレイアの目をまっすぐに見つめていて視線を外さない。だがそれは、自分に裏切れといっているのと同じだ。このサカテという白い槍使いが何故そんな事を言い出したのかは分からなかったが。


「我ら魔術師の一族は、お前らが女神と仰ぐサーシャという女を付け狙っている一族だぞ。」


「そこだよ。僕たちは、500年前の謎を解く為に世界を旅している。これは僕たちの憶測だが、おまえらがサーシャを付け狙っているのは500年前に原因があるんじゃないか?」


「…。」


何も答えないレイアにもサカテは、話を続けた。


「一緒に探してみないか?真実はひとつだ。教団が悪いのか、エディアが悪いのか、魔人が悪いのか、人間が悪いのか。」


「我らは、教団が悪だ、神こそが世界を壊し、我らの一族を根絶やしにした。」


「僕らの選択肢の中にもそれがある。だから、その謎を解き明かしたい。」


「もし、教団が悪かったらおまえらはどうするのだ?」


「もしそうなら、サーシャは教団を潰すよ。」


「バカバカしい。そんなはず…」


「これは本当だ。彼女は、間違いなくそれをする。そういう女だ。」


「…」


彼女の信じられない言葉に、レイアは再び口を噤んだ。だが、サカテの信じられない話はまだまだ続いていく。


「勘違いしないでほしい。僕らは教団の味方ではない。仲間にサーシャがいるから誤解されるが、僕らは赤ローブを着た司祭を2人も追放しているし、聖騎士でさえ殺した。教団の中にも、反サーシャ派はいる。だいたい、あいつは今や家出同然だ。」


「それを言うなら、我らは反教団ではなく、反カスティリャ家だ。」


「違うだろ?おまえらは、反ファティのはずだ。サーシャはファティじゃない。ただ、顔が似ていて、神の力が使えるから混同しているんだ。大体、サーシャはファティのように力を持っていない。」


「しかし…」


「レイア、お前はおかしいと思わないか?もし、魔術師集団が反カスティリャ家なら、あの一族を滅ぼす機会は、この500年でいくらでもあったはずだ。何故なら、カスティリャ家でも歴代の大司祭は、神の力を持っていなかった。ということは、ファティとサーシャ以外は普通の人間だ。いくら、聖騎士が守っているとしても、おまえらは魔人を扱える。暗殺なんてお手のもんだろ?」


サカテの意見は確かに的を得ていた。


「僕はおまえを言い包めたい訳じゃない。やり込めたい訳でもない。ただ、一緒に探してー。それだけだ。」


「なぜ、我を?」


「僕の仲間には、いろんな奴がいる。教団の最高位の司祭もいれば、物売りだった奴もいる。軍略家もいれば、宮廷騎士もいるし、聖騎士に追われ続けたお尋ね者もいる。超ワガママな修道士もいれば、売春婦だった奴もいる。それに最近じゃ、世界を旅した傭兵まで加わりそうだ。みんな国も生まれも育ちもバラバラだ。だが、いままでサーシャ以外のエディアの出身者と魔術師はいなかった。」


「…」


「僕はこの世界の真実をいろんな奴の目で見て欲しいんだ。偏らない多くの様々な頭と心で感じて欲しいんだ。真実ってそうじゃないと見つからないし、意味がない。そう思わないか?」


サカテは言葉通りにレイアにそう語りかけるように話した。レイアは、彼女の言葉にかすかな戸惑いを見せていた。確かに、サカテの言うことには説得力があった。だが一族を抜けて仇敵のところにいけるだろうか…甚だ疑問だ。そのことをサカテに問うと


「別に魔術師集団は抜けなくてもいい。おまえが、そっちが正しいと思ったら帰ってこなくてもいい。うちらは来るもの拒まず、去る者…おう時もあるけど…まぁ、上手くやれ!」


と、最後はなんともいい加減なことを言った。レイアは、その言葉を聞いて不覚にも笑ってしまった。サカテは、レイアを無表情に見ていただけだったが、やがて恥ずかしそうに顔を赤くした。


「あんだけ怖かった白の槍使いも、照れるのね。」


「つーか、なんだよその変な名前。僕は、サカテっていうちゃんとした名前がある。」


サカテがそう話すと、レイアは一瞬真顔になった。そして、彼女をちゃんと向き直して


「サカテ。私は、悪魔…いえ、サーシャを許せない。それは子供の時から言われ続けてきたの。私たちの仇だって。」


「それでいい。おまえ自身があいつを側で見て、悪魔か神かただの人か…判断しろ!」


「でも、私はきっと彼女を見ただけで、悪魔って罵るわ。もしかしたら、殺そうとするかもしれない。悪魔だもの、見ただけでわかるわ。きっとそういうオーラが出てる。」


「は?見ただけでわかるのか?サーシャだって?」


「当たり前よ。私たち、魔術師は魔族や悪魔に準じてるものはすぐに嗅ぎ分けるわ。」


レイアがそう話すと、サカテは一瞬目を丸くしてやがて大きく笑った。そして「おまえら、魔術師も案外いい加減だな!」と揶揄った。レイアは若干ムッとして、サカテの方を叩くと


「なにがよ!」


と不機嫌な声でそう突っ込む。するとサカテは笑うのをやめて


「最初にスープを持ってきた、綺麗な姉ちゃんがいたろ?あいつが、サーシャだ。」


と言って、再び大笑いした。

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