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末っ子転生王子のもふもふ精霊無双〜厄介払いで送られた辺境領で精霊たちを撫で回していたらみんな神級になっていた〜  作者: 戸津 秋太
二章

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第38話 契約

「撫でるだけで、精霊に力を……ッ!?」

「……?」


 戸惑うサイラスさんと僕へ、セルワーレさんが見解を口にする。


「もちろん、ただ撫でるだけではそうはならないだろう。君が儂を撫でても、力が移ることはない。……試しにやってみるかい?」

「とと、とんでもございませんっ」


 ぶんぶんと首を振るサイラスさん。


「もったいない……」


 僕がつい思ったことを口にすると、セルワーレさんは愉快そうに笑った。


「しかしそれが普通の人の反応だとも。もし儂ら精霊を撫でたとしても、そこには必ず畏怖が付き纏う。……しかし、君はそうではないだろう。シリル、君は儂やその子たちを撫でる時、何を考えている」

「かんがえてること……?」


 そんなこと言われても。

 もふもふさんをもふる時に考えていることなんて決まってる。


「『かわいい』と『きもちいい?』と『ありがとう』……?」

「なっ」


 サイラスさんが唖然としていた。

 今日はあの顔をよくしてるなぁ。


 それにしても、セルワーレさんは一つ勘違いしている。


「ぼくもせいれいさんたちをなでるとき、いふ? してるよ」

「うむぅ?」

「もふらせていただいて、ほんとうにいいんですかー! って」

「ふははっ、それは畏怖とはまた別のものだよ」


 笑われた。

 ……しゃ、釈然としない。


 セルワーレさんは大口を開いて一頻(ひとしき)り笑うと、不意に遠くを見るような眼差しで語り出す。


「対等な隣人として扱い、慈愛と奉仕に満ちたその心根が、契約を超えた繋がりを精霊との間に生み出しているのだろうね。君は精霊を愛し、精霊は君を愛している。そのことが君の周りにいる子たちからも伝わってくるよ」

「な、なんだかてれる……」


 皆んなが僕のことを好きでいてくれてるなら嬉しい。

 僕はもちろん、みんなのこと大好きだけど!


「恐れながら、一つよろしいでしょうか」


 おずおずと、サイラスさんがセルワーレさんへ手を上げた。

 セルワーレさんが視線で先を促すと、「では」と喉を鳴らして切り出す。


「精霊様がシリル王子のお力で存在を取り戻されたということは、精霊様とシリル王子の間には契約を超えた繋がりが結ばれた……という認識で構わないのでしょうか」

「その通り」

「で、では」


 サイラスさんは前のめりになる。


「シリル王子の守護精霊となっていただくことは、可能なのでしょうか」

「さいらす……?」


 どうしてそんな話に?

 不思議に思っていると、セルワーレさんは小さく息を吐き出した。


「儂を救ってくれたシリルの力になりたいのは山々。でもね、そういうわけにもいかない。再三言ったように、儂には契約が残っている。人や場所を守護する繋がりを保つには、契約という厳格で強固なものが必要になる。儂は確かにシリルと繋がったが、それは触れ合っている間だけなのだよ」

「そ、そうですか……」

「しかし契約というなら、儂のような老体に拘(こだわ)る理由もない」

「と、申されますと?」


 セルワーレさんは僕の周りを見て、眩しげに告げる。


「シリル、君の周りに揺蕩う精霊たちは皆、君との契約を望んでいるようだ」





    ◆ ◆ ◆





「せいれいさんが、ぼくとけいやくを……?」

「正確には、君に名をつけてもらいたがっているようだね」

「名前ッ!」


 セルワーレさんの補足に、サイラスさんが驚く。


「どういうこと?」

「シリル王子。精霊との契約において最も一般的な手法は、精霊に名を与えるというものなのです。所定の魔法陣を刻み、精霊と契約内容を共有し、最後に名づける。この儀式をもって契約が為されます」


 ……名前。

 そっか、だからセルワーレさんにも名前があるんだ。

 昔、妖精族(エルフ)の人から与えられた名前が。


「儂ら精霊は何もない自然から生まれ出でたもの。この世に生まれたものは、等しく誰かに名を呼ばれたいと欲するものだよ。人と精霊の契約によって精霊が得る最大のものは、力そのものではなく、名前かもしれないね」


 そう語るセルワーレさんは、また遠い目をしていた。

 たぶん、その瞳にはセルワーレさんの大好きな人が映っているんだろう。


「私の目に、その精霊たちは見えませんが……しかしシリル王子、でしたらせっかくの機会です。その精霊たちと契約を結ばれませんか?」

「えっ?」

「幸い、契約の魔法陣は私が用意できますので」

「それがいい。君の周りにいる六体の精霊の格は、契約に耐えうるだろう」


 六体の精霊って、小鳥さんや子猫さんたちのことかな。


 契約……契約かぁ。


「……むっ、どうかしたかな?」

「ううん、なんでもない」


 じっとセルワーレさんを見つめていると、不思議がられた。

 首を振って誤魔化しながら、僕はセルワーレさんが石みたいになっていた姿を思い返す。


 セルワーレさんは、妖精族(エルフ)の人と契約をして、その契約を守り続けてあんな姿になっていた。

 あんな姿になるまで、契約を守り続けていたんだ。


 僕は、もふもふさんたちは自由でいてほしいし、元気でいてほしい。

 もちろん傍にいてくれたり、もふらせてくれたら嬉しいけど……僕に縛られたり、僕のために傷ついたりはしてほしくないんだ。


 だったら、僕とみんなの間に契約なんて必要ないと思う。


「……ねえ、けいやくをしないで、なまえをつけるだけじゃ、だめかな?」

「シリル王子……?」


 僕はおずおずとセルワーレさんを見上げて訊ねる。

 サイラスさんは不思議そうにしているけど、僕は精霊さんたちと契約したいとは思えない。


 セルワーレさんの萌葱(もえぎ)色の瞳が静かに僕を捉える。

 そうしてふっと、優しい笑みを浮かべた。


「それがいい。そういう君だから、精霊と新しい繋がりが育まれているんだろうね。落ち着いたら、名前をつけてあげるといい。そうしたら彼らも喜ぶ」

「う、うん!」





    ◆ ◆ ◆





 空がオレンジ色に染まり始めていたことに気づき、僕たちは慌てて森林の入り口へと戻った。

 セルワーレさんのところへまた会いに行くと約束して。


 そうして馬車へ乗り込み、領都オリーゴへの帰路に就きながら、僕はサイラスさんへ頭を下げる。


「ごめんね」

「と、突然どうされましたか!?」

「せいれいさんとのけいやく、やりたくないっていって」


 僕の言葉にサイラスさんはふっと微笑むと、僕よりも深く頭を下げてきた。


「私の方こそ、舞い上がってしまい、不躾な真似をいたしました。確かに、精霊との契約は負荷のかかるもの。不用意に契約を交わしては、いずれ支障をきたしましょう」

「う、うん」


 サイラスさんも僕の気持ちを汲んでくれたみたいだ。


 それにしても――。


 チラリと馬車内に目を向ける。

 小鳥さんや子猫さん、カワウソさんや小兎さん、そして豆柴さんたちが心なしかいつもより楽しげに揺蕩っている。


 そっか、みんな名前を呼ばれたがっていたんだ。

 確かに僕も、人間さんとか三歳児さんとか呼ばれたくはない……か。


 考えてみれば当たり前のことだった。


 よぅし、帰ったらみんなの名前を考えるぞ!

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