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末っ子転生王子のもふもふ精霊無双〜厄介払いで送られた辺境領で精霊たちを撫で回していたらみんな神級になっていた〜  作者: 戸津 秋太
二章 領主着任編

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第33話 わがまま

「広い部屋に住みたい?」


 昼食の場で、僕は早速エイダさんに持ちかける。


「うん。いまのおへや、せまくって」

「…………」


 エイダさんは手にしていたスプーンを置くと、ナプキンで口元を拭う。

 そして諭すように言った。


「いいこと、シリル。確かにあなたは、昨日見て回ったこの町の……いいえ、それだけじゃないわね。この辺り一帯を統べる領主です。だけどね、勘違いしてはいけないわ。今こうして食べている物も、住んでいる場所も、領民の生活の上に成り立っているということを」

「う、うん」

「それにあなたの部屋はこの屋敷で一番広い部屋。もっと贅沢をしたいというのなら、大きくなって、自分でしっかりと稼いだお金で贅沢なさい」

「……ご、ごめんなさい……」


 怒られた。

 いや、至極もっともな話だけど。


 ……何が、王子で領主で、多少のことはなんとかできるはず――だ!

 僕は何の力もないただの三歳児だよ!


「わかったのならいいの。さ、シリル。冷めないうちに食べましょう」

「は、はぁい」


 僕がしゅんとしていると、エイダさんは一転、優しい声音で促してくる。

 その揺れ幅にどうしようもなく泣きそうなあたり、僕は性根までこの人の子どものようだ。


 ……また怒られてしまった。





    ◆ ◆ ◆





 午後は部屋で机に向かっていた。

 机の上には紙の束が積み上がっている。

 僕はそれを、対面に座るサイラスさんの説明を交えながら読み進めていた。


 正直なところ、まだ幼く、王侯(おうこう)教育も始まっていない僕がここまでする必要はない。

 領内のことは家宰のアドルフさんに一任しておけばいいのだし、そのために彼がいる。


 だから、僕のすることといえば精々がお願いされた書類に判を押すぐらい。


 だけど僕はサイラスさんに「書類も読みたい」とお願いしたのだ。


 文字は読めば読むほど学びになる。

 こういう公文書は同じような表現が多い上によく纏まっていて、より勉強になった。


 文字をたくさん覚えれば覚えるほど、サイラスさんの力を借りなくても本を読み進められる。

 それは結果として、もふもふさん探しにも役立つはずだ。


 そんなつもりでサイラスさんにお願いしたら、「そのお歳で領地に目を向けられるとは……」と感動していた。

 ……なんか、サイラスさんのその反応も慣れてきたというかなんというか。


 ちなみにサイラスさんは僕の護衛魔術師なのに、まるで秘書官のような仕事までしてくれている。

 宮廷勤めだったのでこういうのは慣れっこなのだそう。


 それにしても、こうして書類と向き合っていると会社員時代を思い出す。

 読めない文字と数字の羅列な分、余計に疲れてしまう。

 だけどあの頃よりは遥かにマシだ。

 何せ今は、視界の至る所にもふもふさんがいるんだから!


「ンナァ……?」


 机の上に、子猫さんが現れる。

 書面が子猫さんに隠された。


 んふふ、こらこら、んふ、だめだって……。

 いやもうしょーがないなぁ。

 え? いえいえ、しょうがなくなんてありませんよ。むしろ光栄です、んへへ。


 僕は子猫さんに手を伸ばし、さわさわと撫で回す。

 疲労が一気に吹き飛んでいく。


「シリル王子」

「!? な、なにっ、あそんでないよ!?」

「それはもちろん存じておりますが……?」


 不意にサイラスさんから声をかけられた。

 慌てて居住まいを正す。


「実はエイダ王妃から、シリル王子が贅沢を覚えてしまったと嘆きの声をいただきまして」

「えっ?」

「なんでも、シリル王子から『部屋が狭いから広くして』と我儘を言われたと」

「あ、あはは……」


 エイダさん、サイラスさんにも相談していたのかッ。


「王宮の外へ出て世界が広がった分、良くない影響が出ているかもしれない。悪い道へ進まないように、しっかりと見てあげてほしいと」


 ま、まあ確かに。

 ここ最近は立て続けに良くないことしてるもんね。

 馬車を飛び出して魔物の方へ向かったりとか。


 でもそれは誤解で――。


「もちろんシリル王子のことです、何か事情がおありなのでしょう。よろしければ、このサイラスにご相談いただけませんか?」


 ……! サ、サイラスさぁぁん!!


「さいらす、だいすき!!」

「んぐっ、ぐぅ……」

「さいらす……?」


 よろよろとよろめくサイラスさん。

 彼の後方に漂っていた毛玉さんが慌てて避けていった。


 言われてみれば、精霊さんのことを話せるのはサイラスさんだけなんだし、彼に相談するのが一番。


 ということで、なぜか口元を覆っているサイラスさんへ、僕は事情を話す。

 王都からここまでの道のりで精霊さんたちがついてきたこと。

 そしてそんな彼らが窮屈そうにしていることを。


「精霊が、シリル王子のお傍を離れない、でございますか」


 事情を聞いたサイラスさんは、俄かには信じられないといった様子で眉間を押さえる。


「恐れながら、シリル王子は本当に、精霊との契約は交わしておられないのですよね?」

「うん。だってぼく、けいやくのしかたもわからないよ?」

「野良の精霊が自らの意思で……? そんな話は聞いたことが……」


 またぶつぶつとつぶやくサイラスさん。

 窺うように周囲へ視線を巡らせる。


「この室内に、精霊が?」

「うん。いるよ」

「……馬車で息苦しさを感じていたのは、精霊の神威に当てられていたということですか」


 それは単にぎゅうぎゅうだったから、だと思うけどなぁ。


「承知いたしました。確かにエイダ王妃には話せないご事情でございましたね」

「そうなんだよ」

「しかし私はこの辺りに明るくなく、魔術特訓の場を見つけるのにも難航している始末……。どちらも、少しお時間をいただくことになりますが」

「しかたないよ。さいらす、ずっとおうきゅうにいたんでしょ?」


 長きに渡り宮廷魔術師として働いてきた人だ。

 王都から遠く離れたこのニール公領について何も知らないのも当然。


 ……ん、待てよ。


「じゃあさ」

「はい?」

「あどるふに、きいてみようよ!」





    ◆ ◆ ◆





 ということで。

 早速、僕はアドルフさんを呼び出した。


 家宰である彼は、日中はこの屋敷の執務室で仕事をしているそう。

 暇な時でいいよと伝えたはずなのに、アドルフさんはすぐに部屋に現れた。


「し、失礼いたします」


 上擦った声と共に現れたアドルフさん。

 青い目は伏し目がちで、顔には汗が滲んでいる。


 体調、悪いのかな。


「ごめんね、とつぜん」

「いえ、とんでもございません。……それで、ご用件は」


 おずおずと探るような声に、僕は答える。


「あどるふにききたいことがあるんだ」

「……はい」

「――このあたりに、しぜんのおおいばしょってないかな?」

「……は? 自然の多い場所、ですか?」


 アドルフさんが固まる。

 予想外の質問の呆気に取られている。


「うん。せっかくおうきゅうをでたし、のんびりしたくって。みどりのおおいところで、あそべたらなーって」

「は、はぁ、なるほど……」


 僕は無邪気に、遊び盛りの子どもを装って補足する。

 精霊さんを連れ出すためであることが、間違っても悟られないための偽装だ。


「いやはや、そうですよね」


 アドルフさんは何事か呟くと、先ほどまでとは打って変わって、にこりとした笑顔を向けてくる。


「でしたら町の北方に広がる森林はいかがでしょう」

「しんりん?」

「ええ。王都からいらっしゃった王子は、町の南方の景色しかご存知ないでしょう。ですが北方には、その先の山脈へと続く森林が広がっているのです」


 確かに市壁に阻まれて北側の景色は見たことがないけど、そんな風になっていたんだ。

 森林なら、自然が大好きな精霊さんたちも楽しめるかも。


「お待ちください。森林となると、魔物が出現する可能性も」

「えっ」


 それまで静観していたサイラスさんが割って入る。

 魔物がいるなら、精霊さんたちを連れて行くわけには……。


「ご安心を。その森林一帯は、かつて妖精族と契約を交わした守護精霊によって、魔物の寄り付かぬ聖域となっているのです」

「……!」


 せ、精霊だって!?

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