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末っ子転生王子のもふもふ精霊無双〜厄介払いで送られた辺境領で精霊たちを撫で回していたらみんな神級になっていた〜  作者: 戸津 秋太
二章 領主着任編

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第32話 ぎゅうぎゅう

 町の視察を終えて屋敷へ戻り、夕食を摂り終えた後は、待ちに待った魔術のお勉強の時間。

 自室へ戻って少しして、サイラスさんが何冊もの本を抱えて現れる。


「今日は昨夜の続きから。シリル王子の属性適性をお調べいたしましょう」


 サイラスさんの提案に僕はごくりと喉を鳴らす。

 属性適性は、六要素を司る精霊さんたちにどれだけ好かれているか。

 ……いや、まあ魔力が好みかどうかっていう話ではあるんだけど、せっかくなら好かれたいでしょっ。


 ということで、僕はサイラスさんから教わった魔術の詠唱を行う。

 昨日光属性に適性があることはわかったし、水と風は治癒魔術を使えたことから免除。

 残る三属性の魔術を行使する。


「《ひのせいれいよ そのじあいをもって ぬくもりをやどしたまえ》――【発火(いぐにす)】」


 広い部屋の只中。水の張られた桶の上に立てられた蝋燭がぽぅと燃える。


「火属性の適性まで……」


 続いてサイラスさんは、紙束を縦にして置いた。


「《つちのせいれいよ そのじあいをもって かのしょうへきをうがちたまえ》――【石弾(すとーん)】」


 かざした手の先に魔力が渦巻き、小さな石礫が現れる。

 それはサイラスさんが設置した紙束へ向けて放たれ、十枚分貫いた。


「ご、五属性目……」


 最後にサイラスさんが持ち出したのは、小さな燭台。

 三本の蝋燭がゆらゆらと灯りを放っている。


「《やみのせいれいよ そのじあいをもって かのかがやきをおおいたまえ》――【暗化(だーく)】」


 三本のうちの一本、僕が狙いを定めた蝋燭の明かりが弱まる。


 やった、成功だ!


 狙いを定めるために突き出していた手を体の前へ引き戻し、ぐっと握り込む。

 火、土、闇。三つの属性魔術がそれぞれ成功したということは――。


「ぜ、全属性適性持ち……」


 よかった!

 少なくとも僕の魔力を嫌う精霊さんはいないみたいだ……!


 って、あれ? サイラスさん……?


 どこか放心状態のサイラスさん。

 不思議そうに見つめていると、程なくして弾かれたように動き出す。


「ぜ、全属性適性持ちとなると、複合属性の魔術もあらゆる組み合わせで扱えることにッ、いやそれだけではなく、守護精霊との契約も属性に縛られない選択肢が浮上したということで――」

「さ、さいらす……?」


 何やら早口で呟いている。

 僕が呼びかけると、サイラスさんはいつもの柔和な垂れ目を血走らせてぎゅんと僕の方を向いた。


「申し訳ございません、シリル王子。王子の可能性の雄大さにこのサイラス、思わず我を失っておりました」


 可能性の雄大さって。


「もしかして、ぜんぞくせいってすごいの?」

「凄いなんてものではございません! 妖精族ならばいざ知らず、私たち人族で全属性持ちなど、歴史上でも数えられるほど」

「そ、そんなに?」

「反属性への適性を持つこと自体が稀でございますから。大抵の者は、多くとも三属性への適性に留まります」

「はんぞくせい……?」


 またまた出てきた新単語に首を傾げる。


「光と闇、火と水、そして土と風。これらの組み合わせを反属性と言うのです」

「へぇ〜」


 光の精霊さんが好きな魔力は闇の精霊さんが苦手、ということかな。

 そうやって想像してみると、確かに納得の話ではある。


「しかしこうなると、シリル王子にはどのような魔術をお勧めすればよいやら……。王子は何か使いたい魔術はございますか?」

「つかいたいまじゅつ……」


 僕が欲しい力は、エイダさんを心配させることなく、精霊さんたちを魔物から守れるもの。

 パッと思い浮かんだのは、あの街道で魔物を閉じ込めた闇の現象。


 でも、サイラスさんはあれを精霊さんの力だって言っていた。

 僕自身、あれをどうやって発動したのかわからない以上、下手にあの現象を再現しようとするより、素直に魔術を教わった方が良さそうだ。


 だから、僕は端的に答える。


「まものをたおせるまじゅつ!」

「! 魔物を……ッ」


 僕の答えにサイラスさんは息を呑んだ。


「強くなりたいと仰っていましたが、まさか魔物を倒されるおつもりだったとは……」


 神妙な面持ちで室内を見回して、サイラスさんは悩ましげに呟く。


「しかしそのような魔術を室内で使うわけにはまいりません」

「そ、そうだよね」


 部屋の中が荒れ果てちゃう。


「シリル王子が魔術を扱えることは、まだ周囲には秘密にしたいところ。……そうなると、屋敷の庭を使うのも難しい。……シリル王子、この話、持ち帰らせていただけませんか?」

「ご、ごめんね、こまらせちゃって」

「とんでもございません! 必ず、シリル王子がご存分に力をお振るいになれる場所を確保してまいりますッ」


 な、なんだか大事になりそう……。




    ◆ ◆ ◆





 翌日。僕は昨日と同じように朝食をエイダさんと摂って、部屋へ戻った。

 ベッドの上ではなく、部屋の中央に陣取って、次々と膝の上へ飛び込んでくる毛玉さんたちを撫で回す。


 毛玉さんたちは僕の膝の上だけじゃなくて、肩や頭、それから体の周りにひしめき合うようにして転がっている。

 室内に誰かがいる時は、みんな空中を飛び回っているけど、こうして一人でいる時は我先にと集まってくれるんだ。


「しあわせだ……」


 毛玉さんのもふもふを全身で感じていると、体の奥底から湧き上がる熱――魔力が、いつものように毛玉さんを撫でている手の先へ伝わっていく。

 ……が、今日はそれに加えて全身に広がっていった。


 僕が撫でている毛玉さんだけじゃない。

 僕の体に密着する毛玉さんへも、全身を通して熱が伝わっていくんだ。


 そのせいで体はすぐに暑くなるけど、治癒魔術で治す。

 魔鉱石がなくても魔術は使えるってわかったからね。

 魔術の対象を魔鉱石じゃなくて僕自身へ向ければ、毛玉さんたちをもふりながらも魔術が行使できる。


 おかげで一度たりとも手を止めることなくもふりを続けることができるのだ!


 それにしても……。


「みんなも、おっきくなったね」


 王都から領都オリーゴへの道中で出会った毛玉さんたち。

 かつてのカワウソさんや小狐さん、小鳥さんたちのように、赤ちゃんの手のひらサイズだった毛玉さんは、今では頭ほどの大きさ。

 キュートなあんよも姿を見せて、幸せが倍増している。


 ただ、問題もあった。


 道中で出会った毛玉さんたちの数は、悠に数十を越えている。

 そんな毛玉さんたちがみんな大きくなったらどうなるか。


 もうね、部屋がぎゅうぎゅう!

 いや僕はいいんだよ。僕は幸せだから!

 もふもふに押しつぶされるなら、それも本望!


 でも。


「チュンチュン!」

「クゥゥン」

「キュキュイキュイキュー!」

「ンナァ!」


 小鳥さんやカワウソさんや子兎さんたちが中空を飛び回っては、毛玉さんたちとぶつかって悲鳴を上げている。

 子猫さんに至っては、尻尾を踏まれて怒っていた。


 その姿は、孤児院の裏庭を楽しそうに飛び回っていたところと比べるとあまりにも窮屈そうで、可哀そうに見えてしまう。

 そりゃあ、仮にも王子で領主でもある僕の部屋は普通よりも広いけど、これだけの数のもふもふさんが留まるには手狭と言わざるを得ない。


「みんな、せまかったら、そとにいってもいいんだよ?」


 僕は窓の傍の机をよじ登って、窓を開く。

 そうして寂しさを押し殺しながらみんなに伝える。


 だけど、誰一人として窓の外から飛び立とうとしなかった。

 どころか抗議するような目と鳴き声で僕に訴えてくる。


「みんな、ぼくからはなれたくないの……?」

「チュンッ」「コゥン」「キュイキュイ!」「キャン!」「キュキュ!」「ンナァ!」


 みんながみんな、胸を張って口々に鳴く。

 それは僕の問いを肯定してくれているようで。


 えぇ、なにそれ。みんなのこと好きになっちゃうよ。いや、もうとっくに大好きだけどさぁ……。


 この上ない多幸感に包まれつつも、溺れはしない。

 僕のことを好きでいてくれるみんなに、窮屈な思いばかりさせられないからね。


 そうだ、僕は王子で領主なんだ。

 多少のことはなんとかできるはず!


 ……な、なんだか悪役みたいだけど、もふもふさんのためだ。

 使えるものはなんだって使うぞ。

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