第29話 属性適性
どうやら今回魔力測定に使った魔道具は、王宮で使われるものの簡易版らしい。
測定できる魔力量に限度があって、その限界を超えたために魔道具が壊れてしまったとのこと。
混乱する僕に捲し立てるような勢いで、そう説明してくれたサイラスさん。
勢いそのままに、砕け散った魔道具を魔術で集めながらどこか誇らしげに続ける。
「簡易版、といっても通常の魔力量であれば十二分に測定できるものなのです。実際、教会や冒険者ギルドではこの魔道具が用いられていますから」
冒険者ギルド。
やっぱりそういうのもあるんだ。
まぁ魔物が存在してるし、それを倒す職業があっても不思議じゃないか。
「しかし、今回の魔力測定はシリル王子の属性適性をお調べするつもりだったのですが、魔道具が壊れるのが早く、確認ができませんでしたね」
「ぞくせいてきせい?」
「おや、お話ししていませんでしたか」
聞いたことない。
サイラスさんは少し考え込むと、魔道具の破片を箱の中へ仕舞ってから、また僕の前に座る。
「そもそも私たちが扱う魔術の起源は、《精霊眼保持者》が精霊と契約を交わして引き起こす精霊魔法なのです。素養のないものが、精霊の力なしに似たような力を引き起こせないか――そうして生まれたのが、魔術になります」
なるほど。
昔は精霊魔法しか存在しなかったってことだ。
「以前にもお話ししたとおり、精霊は自然が形と意思を持って具現化した存在。その力もまた、自然界を構成する六要素に分類されます。すなわち、火・水・風・土・光・闇でございますね」
「そういえば、しゅごせいれいが、ひをつかさどるって」
以前にこのオブライエン王国に存在した守護精霊は、火を司る精霊だったという話だった。
そっか。精霊は自然が具現化した存在。
言い換えれば火がそのままもふもふさんになったってことだ。
……えっ、この世界、もしかして素敵すぎない?
僕がそんなことを考えていると、サイラスさんは嬉しそうに頷く。
「流石でございます。精霊が司る力は、それぞれの存在につき一要素……一属性のみとなります。そして精霊の力を模倣して生まれた魔術もまた、この形式に則っているのです」
「でも、ぼくたちはしぜんからうまれてないのに、どうしてぞくせいがあるの?」
「良いご指摘でございます!」
サイラスさんがまた前のめりになる。
というか近い。すごく近い。
「詠唱などによって発動する魔術もまた、究極的には自然を改変する行為に他なりません。自然が精霊と近しい存在である以上、そこで扱う魔力と彼らとの親和性は重要になるのです。……っと、申し訳ございません。つい興奮してしまい」
うん、サイラスさんが興奮してるのはわかってるよ。
難しい言い回しを、どう言い替えるか。
悩ましげに考えるサイラスさん。
でもなんとなく理屈はわかった。
たぶん、《精霊眼保持者》であっても、契約できる精霊には相性がある。
で、その相性が属性のことを指すんだ。
例えば火を司る精霊と契約できた者の魔力は、火と相性のいい――火属性の魔力。水を司る精霊と契約できた者の魔力は、水属性の魔力といった具合。
この精霊に好かれる魔力というのは、魔術を使う上でも大事なんだろう。
火の精霊に好かれる魔力は、火の魔術を使いやすい。逆に嫌われていると、てんでダメ。
要するに魔力の属性とは、その魔力がどの六要素を司る精霊に好かれているか、ということを指すんだ。
僕の解釈をサイラスさんに語ると、「シリル王子は本当に聡明であらせられます」と感服した様子で頭を下げてくる。
な、なんだか照れ臭い。
でもそっか、精霊さんに好かれているかどうかが、属性適性でわかるんだ。
そんなの全属性に適性があって欲しいんだけど……!
「ほかに、てきせいはしらべられない?」
魔道具以外に適性を調べる方法がないか訊ねてみる。
精霊さんに好かれている魔力かどうか、今すぐにでも知りたくて落ち着かない。
もし嫌われていたらなんとかして好きになってもらえるように方法を模索するしかないからね!
「そうですね、完全にわかるというわけではございませんが、各属性の魔術行使ができれば、その属性の適性があるということになります。ただ、魔道具での計測と違い、魔力操作やその他要因で魔術が発動しないこともございますが」
「かくぞくせいの、まじゅつ……」
「シリル王子はすでに治癒魔術、【癒しの手】をお使いになられておいでです。ということは、水と風属性への適性はお持ちということになるのです」
よ、よかった。
あれ、待てよ?
部屋を抜け出す前に、【導きの灯】を失敗したことを思い出す。
あれが発動しなかったの、僕に適性がないから!?
いやいや、まだ詠唱が間違えていた可能性だってある。
「さ、さいらす。らいとのえいしょうだけど」
そう言って、僕は部屋で行った詠唱を再び口にする。
するとサイラスさんは目を丸くしていた。
「一度きりの詠唱を、よくお覚えになられておいででしたね。はい、【導きの灯】の詠唱は正しいです。光属性の魔術になりますね」
「……もうぼくはだめだ」
「シリル王子!?」
がっくしと項垂れる。
光属性のもふもふさんには嫌われてるってことでしょ。
つらい。くるしいよぉ……。
「らいとのまじゅつ、つかえなかったんだ。ぼくには、ひかりのてきせいがない」
「そのように落ち込まれずとも。二属性に適性があるだけでもかなりの素養ですのに」
「だって……」
落ち込む僕に、サイラスさんは優しく声をかけてくれる。
「先ほども申しましたように、魔術が発動しなかったからといって、直ちに適性がないというわけではございません。そうです、少し私にお見せいただけませんか?」
「さいらすに?」
「はい」
確かに、サイラスさんに見てもらえたら、別の要因があるかわかりそう。
というかそうであって欲しい。
僕は懐から緑と青の魔鉱石を取り出して、手をかざす。
「シリル王子、【導きの灯】にその魔鉱石は使えません」
「えっ?」
「それは風と水の属性を帯びておりますので、光の魔術には適さないのでございます。……もしかすると、シリル王子が失敗なさった時、この魔鉱石に魔力を?」
こくりと頷く。
「一度、宙へ魔力を放つイメージでお使いになってください」
「でも、まじゅつにはばいかいがひつようって」
「ええ。詠唱が媒介となって、魔術は発動されます」
「……!」
サイラスさんの言葉に僕は思わず固まった。
そうだ、サイラスさんは言っていたじゃないか。
魔術の発動に必要な媒介は、魔鉱石のような特殊な物質、魔法陣的な文字図形の術式、そして何よりも詠唱があたるって。
僕はなんで魔鉱石がないと魔術が使えないって勘違いしていたんだろう。
「治癒魔術に魔鉱石を用いるのは、効果を定着させるためでございます。魔法が機能している間、術者がそばを離れてもいいように。そうした理由などがなければ、魔術は詠唱だけで発動いたします」
僕の勘違いを正すように、サイラスさんが捕捉してくれる。
これまで魔術に興味を示さなかったツケが、今ありありと回ってきた感じだ。
いや、後悔している場合じゃない。
僕は強くなりたい。
何より、精霊さんに嫌われていたくない。
僕に光の適性があることを証明するためにも、この魔術、今度こそは成功させる!
僕はサイラスさんとは逆の方向へ手をかざし、魔力を昂らせる。
「『ひかりのせいれいよ そのじあいをもって わがみちをてらしたまえ』――【導きの灯】」
魔力が手の先から空中へ放たれるのがわかる。
それは光を司る自然の寵愛をもって、形を成していく。
夜の薄暗い部屋。燭台の灯りだけが頼りだったこの場所に、白い光が現れる。
魔術の光。成功した。成功したんだ。
「三属性目……」
その輝きに目を細めながら、サイラスさんは静かに呻いた。
◆ ◆ ◆
ライトの魔術が成功した後、僕はそのままの勢いで他の属性の魔術も教えてもらおうとした。
だけど夜遅いということで、サイラスさんにはまた後日にしましょうと断られてしまった。
かくして部屋に戻り、迎えた翌朝。
「ふぁぁ……」
食堂で料理の配膳を待つ間、僕は思わずあくびを漏らしていた。
「ふふっ、昨日は夜更かししたのでしょう。初めて一人で迎える夜だったものね。眠れないのも無理はないけれど」
向いに座るエイダさんが呆れ半分、心配半分といった感じで指摘してくる。
昨夜も思ったけど、こうして同じ食卓を囲むのは新鮮で……少し嬉しい。
僕が魔術を使えることや精霊が見えることは、サイラスさんとの約束で話せない。
曖昧に笑って誤魔化す。
「後で顔を洗ってらっしゃい。今日は朝食を済ませたらお出かけなんだから」
「おでかけ? どこに?」
昨夜はあまり精霊さんたちをもふれなかったので、部屋に戻ったら思う存分もふると決めていた僕にはまさに寝耳に水。
首を傾げる僕へ、エイダさんは微笑む。
「この領都オリーゴよ。あなたが陛下から賜ったこの町の視察をするの。新領主であるあなたのお披露目も兼ねてね」
そうだ。
前任のアドルフさんがすべてしてくれるつもりだったけど、名目上は僕が領主になっている。
な、なんだか緊張するなぁ。




