第19話 金髪の美丈夫とふわふわ
守護精霊という、すごくもふもふしていそうな存在を知った僕は、なんとか会いに行けないかと考えた。
そこでサイラスさんにお願いして、守護精霊についての情報を集めることにした。
「守護精霊について、知りたい……でございますか」
「うん。だめ?」
「とんでもございません。すぐに守護精霊について記された文献をお持ちいたしましょう。しかしシリル王子がそこまで意欲的とは、このサイラス、感動いたしましたっ」
「……?」
よくわからないけど、サイラスさんは約束通り守護精霊について記された色々な本を持ってきては、読み聞かせてくれた。
かつてこの国に存在していた守護精霊は、火を司る神級の精霊だったそう。
ちなみに神級というのは、精霊の格と力を示す位階のことで、上から神級・帝級・王級・上級・中級・下級・微精霊の区分になっている。
そしてその見た目は巨大な鳥の姿。赫赫とした翼を一度広げれば、王都を包み込み、その寵愛は国を庇護する――なんて文献に書かれている。
巨大な火の鳥……それだけ聞いてイメージするのは、鳳凰だ。
「サイラスは、あったこと、ない?」
「私が生まれた時にはすでに不在となっておりました。それに、守護精霊は契約者である血族以外の前には滅多に姿を現さないと聞きます。文献に記された守護精霊の御姿があやふやなのは、その影響かと」
「そっか……」
会ってみたかったけど、本当に残念だ。
で、守護精霊はこの王国以外の国にも存在している。
各国を守護する精霊は、オブライエン王国にかつていた守護精霊と同じように、滅多に姿を現すことはないという。
つまり、僕が軽々に会うことは叶わなそう。
ぐぬぬ……。
でも、希望もあった。
守護精霊として国に根付いた精霊以外にも、同様の存在が世界中にいるそう。
もちろん数はそんなに多くないみたいだけど。
つまり世界中を歩き回れば、たくさんのもふもふさんに出会える可能性があるということだ。
それを聞いた僕は、どうにか新しい精霊さんを見つけられないか考えた。
精霊さんを探すためには外へ出歩く必要がある。
だけどエイダさんやメイドさんたちは、僕を庭園以外の場所には連れて行ってくれない。
まだ僕が幼いことと、王子であることが関係しているんだと思う。
そして庭園では今のところ、新しいもふもふさんとの出会いはなかった。
街とか、その外とかに行けば、変わるかもしれないんだけど……。
こうなったらサイラスさんの時のように部屋を抜け出して街へ繰り出してやる――という計画が一瞬頭をよぎった。
だけど小鳥さんに協力してもらうのが申し訳なかったし、何度も繰り返すとメイドさんにバレそうだったので、行動に移す前に没となった。
そんなわけで、守護精霊という存在の情報は、僕のもふもふ欲求を高まらせるだけで終わった。
……いや、別に不満はないですよ?
小狐さんやカワウソさん、小鳥さんに豆柴さん、子うさぎワンに子猫ちゃんは変わらず僕の周りにいてくれている。
それだけで十分幸せです。ほんとに。
それにしても君たち、またさらに大きくなっていないか……?
閑話休題。その後もひたすら治癒魔術を使いながら精霊さんたちをもふり、サイラスさんに本を読んでもらう日々を重ねるうちに、月日が流れていく。
言葉も流暢に話せるようになり、魔力切れもすっかり起こさなくなった。
そうして三歳が目前に迫った。
◆ ◆ ◆
「おうきゅうに?」
「そうよ。あなたが三歳の誕生日に、王宮入りするのよ。これからは一緒に暮らせるわね」
ある日、エイダさんが嬉しそうに話してきた。
この世界では誕生日を毎年のように祝う習慣はないけど、節目になる年は盛大に祝うそう。
その最初の節目が三歳の誕生日。
王族の場合はこの日に晴れて王宮入りを果たすらしい。
ちなみにこの次の節目が五歳。
魔力測定やらなんやらが行われて、素質に応じた教育が始まる。
王宮かぁ。
正直、この国を取り巻く状況やヴェロニカ、そして王子たちとのことを思うと、彼らと一緒に暮らすのは大変そうだなぁという気がしてならない。
でもサイラスさんの話では、王宮には立派な図書館があるそうだし、そこに所蔵されている本には興味があった。
王宮の図書館は管理が厳重で、持ち出しは禁じられている。
以前に図書館の存在を聞いた時、サイラスさんに「もちだせないの?」と訊ねたら、神妙な面持ちで「シリル王子がお望みでしたら、必ずお持ちいたします」と返された。
なんだか怖かったので「いらないいらない!」と断っておいた。
それにしても……。
僕はちらと、小さなテーブルを挟んで向かいに座るエイダさんを見る。
今日のエイダさん、なんだかオシャレ……?
銀色の髪はいつも以上に綺麗に巻かれていて、普段は着けていない小粒の宝石みたいなものを髪の細部に散りばめている。
服もなんというか、よそ行きのドレスみたいな感じ。
違和感を覚えてエイダさんを見つめていると、遠くから蹄と車輪の音が聞こえてきた。
「お越しになられたみたいね」
エイダさんが勢いよく立ち上がる。
椅子に座ったまま困惑した僕の傍でかがみ込むと、彼女は僕の頭を撫でながらにこりと微笑んだ。
「シリル。今日はあなたのお父様が会いにきてくださったのよ。さっ、一緒にお迎えに上がりましょう」
僕の父親……ということは、王様?
生まれてから二年以上も会ったことのない人と、これから会うの!?
さらに戸惑う僕だったけど、エイダさんたちに連れられて、建物のエントランスへと向かう。
玄関ポーチになっている場所で待っていると、ロータリーへ一台の馬車が入ってきた。
すっと頭を下げるエイダさんたちに倣って、僕も頭を下げてみる。
「シリルは賢いわね」
褒められた。
御者が御者台から降りて、馬車の扉を開く。
そっと優雅な足取りで、一人の男性が姿を現した。
「出迎えご苦労」
さらりとした金髪を陽光に透かし、ねぎらいの言葉をかけてくる端正な顔立ちの美丈夫。
一層頭を深く下げるエイダさんたちと違い、僕は思わず目を奪われる。
男性の赤い瞳が僕を射抜く。
この人が、僕のお父さん……。
いやそんなことより――。
僕は、彼の頭上に意識が持っていかれている。
キラキラと輝く金髪の上には、シマエナガを彷彿とさせる白色のふわふわもふもふがちょこんと座っていた。
か、かわいい!!!!




