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末っ子転生王子のもふもふ精霊無双〜厄介払いで送られた辺境領で精霊たちを撫で回していたらみんな神級になっていた〜  作者: 戸津 秋太
一章 王宮編

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第17話 治療

 僕が暮らす宮殿は、思っていたよりも広い場所らしい。

 小鳥さんの力で夜空を飛びながら、僕は地上を見下ろす。


 見渡す限り広がる庭園や並木に森、そしてそれらを接続するようにいくつも伸びる道。


 道の終端にはいくつもの建物が並んでいる。

 僕が暮らしていたあの三階建ての建物よりも、大きく、そして複雑な造りをした建物はいくらでも見つかった。


 進行方向に、一際巨大な建物――宮殿が見えてきた。

 見たところ、僕の暮らす建物と同じ三階建て。

 でも一階一階の高さのゆとりが違う。

 全高でいえば二倍はあるかもしれない。


 中央棟からさらに両側に翼棟が伸びているから、その広さや部屋数は計り知れない。


 ……あれがもしかして。


 位置的には、僕が暮らす建物の裏手。

 初めて庭園へ出た時に、エイダさんが「大きくなったら一緒に暮らせるわ」と言いながら示していた方向。


 たぶん、あの建物が王宮なのかな。


 ただ、どうやらサイラスさんはあの建物にはいないらしい。

 ぐいと飛行方向が変わる。


 そうして見えてきたのは、石造りの円塔だった。

 速度が遅まり、円塔の外壁に張り付くようにして飛ぶ。


「あうあーう?(ここにサイラスさんが?)」

「チュンチュン!」


 斜め前を飛ぶ小鳥さんからの返事に少しだけ緊張する。

 僕が部屋を脱走したことはバレちゃいけないからね。


 かなりの高さのある円塔の中腹。

 その外壁にある窓の前で、ようやく小鳥さんが止まった。


「チュン!」


 小鳥さんに促されるままに、僕は恐る恐る窓から中を覗く。

 すると――。


「あう!?(サイラスさん!?)」


 紙の束がたくさん積まれた部屋の中。

 木の板が張られた床に、サイラスさんが仰向けで倒れていた。


 寝ている? いやいや、そんなわけない!

 一体いつから!? ってそんなことよりも!


 僕は慌てて窓ガラスを持ち上げようとする。

 こんな状況でバレるバレないなんて気にしていられない。


 だけど赤子の筋力では窓は微動だにしない。

 困り果てる中、小鳥さんが「チュン」と鳴いた。


「あうあと!(ありがと!)」


 窓が風で持ち上がる。

 小鳥さんにお礼を言いながら、僕は窓から室内へ転がり込む。

 大人では通れない窓の大きさだけど、赤子の僕なら通れる。


 そうしてサイラスさんに駆け寄って、まずは息を確認した。


「うぅ、うぁ……」

「あーう(よかった)」


 息はある。

 でも、苦しそうだ。


 もしかしてと思って額にピトッと手を当てる。

 熱い。熱だ。風邪?


「あう!(あ!)」


 でもそうだ、風邪なら僕にもなんとかできる。


 僕は懐から肌身離さず持っている魔鉱石を取り出す。

 そうしていつぞやサイラスさんがそうしてくれた時のように、僕は魔鉱石を彼の胸の上へそっと載せる。


「あいあううあ、あうあーい、あああーあう(『水と風の精霊よ その慈愛をもって 彼の者を癒したまえ』)。ああーい!(【癒しの手(ヒーリング)】!)」


 魔鉱石が煌めいて、不思議な淡い光がサイラスさんの全身を包み込んでいく。


「うぅ、ぁ、すぅ……」


 サイラスさんの苦しげな表情と寝息が穏やかになっていく。

 額に手を当てると、先ほどまでの熱が一気に治っていた。


「ああう(成功だ)」


 でも、このまま床で寝るのはよくないよね。

 部屋を見渡すと、壁際にベッドが見えた。


「……ああう(あの、小鳥さん)」


 窓から外を覗き込む。

 外でパタパタと羽ばたいたままの小鳥さんに、おずおずと声をかけた。


 サイラスさんを、ベッドまで運ぶの手伝っていただけませんか……。


「チュン!」


 パタパタと嬉しそうに室内へ飛び込んできた小鳥さん。

 サイラスさんの体がふわりと浮かび、壁際のベッドへ優しく下ろしてくれた。


 本当にありがとうございます……!


 僕はメイドさんがしてくれたみたいにサイラスさんに寝具をかけた。


 あ、そういえばこの魔鉱石、残した方がいいのかな。

 というのもこの治癒魔術、発動した後も少しの間効果が続いている。

 たぶん、触媒である魔鉱石に魔力か何かが残っていて、それが尽きるまでってことなんだろうけど。


 だからサイラスさんも僕に治癒魔術を使った後、この魔鉱石を置いていったんだ。


 でも、この魔鉱石が無くなると、治癒魔術が使えなくなる。

 そうなったら、精霊さんたちをもふることだって……。


「すぅ……うっ、っ、すぅ……」


 サイラスさんが一瞬だけ苦しげな声を漏らした。


 何バカなことを考えてるんだ僕は!

 どう考えてもサイラスさんの容体の方が大事でしょ。


 ……かなり後ろ髪を引かれる思いで魔鉱石をサイラスさんの下に残し、僕はベッドを離れる。


 サイラスさんのことは気になるけど、あまり長時間部屋を空けるわけにもいかない。

 まあ治癒魔術の効果は僕が身をもって知っているし、このまま休んでいたらサイラスさんも治ると思う。


「おああう(お大事に)」


 窓の縁に足をかけ、僕は呟く。

 そのまま小鳥さんが、また部屋から連れ出してくれた。


「…………てん、し……?」


 風に包まれる間際。

 サイラスさんが寝言で何か言っているような気がした。





    ◆ ◆ ◆





 無事に部屋へ戻った僕は、またそそくさとベッドの中へと入る。

 メイドさんは変わらず編み物をしていた。

 僕の不在はバレていない。よかった。


「チュンチュン」


 小鳥さん本当にありがとう。

 枕元でちょこちょこと飛び跳ねる小鳥さんの労を労うべく、密かに手を伸ばす。

 ……あ、でも魔鉱石がないから、このままだとまた熱が出ちゃうのか。


 それは困る。


「チュン?」


 ごめん小鳥さん!

 なんとかして魔鉱石をゲットして見せるから、それまで我慢してください!





 ……なんて思っていたのに。

 翌日。庭園でのお散歩を終えて部屋に戻ると、ベッドの上に魔鉱石があった。


 な、なんで?

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