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末っ子転生王子のもふもふ精霊無双〜厄介払いで送られた辺境領で精霊たちを撫で回していたらみんな神級になっていた〜  作者: 戸津 秋太
一章 王宮編

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第11話 疑い

 庭園から戻ってくると、部屋からベッドがなくなっていた。

 正確には、これまで使っていた木の柵がついた赤ちゃん用のベッドが。


 代わりに部屋の中央には天蓋付きの広々ベッドが置かれている。

 歩けるようになったから、赤ちゃんベッドからも卒業ということらしい。

 僕が庭園にいる間に入れ替えるなんて、業者の人の仕事は早いなぁ。


 なんて思いつつ、僕はベッドへ寝かされる。


「シリル王子、大丈夫ですからね〜」

「ほーら、王子のことが心配でみんな来てくれましたよ〜」


 ベッドの傍らには動物のぬいぐるみをたくさん手にしたメイドさんたち。

 柔らかな声で寝かしつけてくる。

 みんな、いつも以上に優しくしているのは、さっき僕が盛大に泣き喚いたからだろう。


 自分で言うのもあれだけど、僕は滅多に泣かない。

 お腹が空いてもうんちをしても、精々メイドさんに気付いてもらうために目配せをしたり手を動かしたりするだけだ。


 まあ僕はこれでも大人だからね。理性が勝る。

 魔鉱石の時は泣いたじゃないかって?

 ……だってあれがないと毛玉さんたちをもふれないもん。

 そりゃあ抑えられないよ。


 まあつまり何が言いたいかっていうと、僕が泣いたことにメイドさんたちはおろおろしているということ。

 ひとまず部屋に戻ってきたから、寝かしつけて、落ち着いてもらおうとしているんだ。


 正直まったく眠たくはない。

 だけど僕のことを心配するメイドさんたちの困り顔を見ると、罪悪感が湧き上がる。

 だってさっきのは嘘泣きだもん。


 仕方ないので僕はゆっくりと目を瞑る。

 程なくして、僕が眠ったと勘違いしてくれたメイドさんたちが離れていく気配を感じた。


 ……それにしても、色々と不穏だ。


 僕は目を瞑って狸寝入りを決めたまま、庭園での出来事を振り返る。


 突風に吹き飛ばされたヴェロニカは、側仕えを引き連れてそそくさと引き上げていった。

 その後、僕たちは再び庭園を見て回り、こうして部屋に戻ってきたんだ。


 エイダさんとは建物に入る時に別れた。

 別れ際のエイダさんの申し訳なさそうな表情が脳裏から離れない。

 エイダさんがそんな顔をする必要なんてないのに。


 本当に色々と起きた初めての外出だった。

 おかげで、僕は思い知った。

 どうやらエイダさんも、そして僕も、難しい立場にいるらしい。


 初めて兄姉と会った時、男子たちから感じた不穏な雰囲気。

 あれは気のせいじゃなかったんだ。


 ……もしかしたら、王位とかが絡んでいるんだろうか。


 それ以外に王子たちから敵意を向けられる心当たりはない。

 長兄、つまりは王太子が順当に王位を継承するものだと思っていたけど、その前提が間違っているのだとしたら、ヴェロニカがエイダさんに嫌がらせをする動機にも合点がいく。


 ……まあ、すべては僕の推測だ。

 だからこそ、必要性を感じた。


 この世界に転生してから、僕はずっと毛玉さんをもふることに全力を尽くしてきた。

 僕が王子であることを知っても、この世界にいるであろう未知のもふもふさんたちと出会う一助になるだろうぐらいに考えていた。


 でも、僕の立場はそんな呑気なものじゃなさそうだ。


 だから知る必要がある。

 この世界のこと、この国のこと、僕や周りの人たちのことを。

 そして――。


 僕はゆっくりと目を開く。


 目の前に広がる天蓋。その付近で揺蕩う、毛玉さんたち。

 その中には、あの庭園で突風を生み出したように見えた緑色の毛玉さんの姿もある。


 もふもふで可愛い毛玉さん。

 この子たちのことも、僕は知りたい。


 僕の思い上がりでなければ、毛玉さんはあの時、僕の気持ちを汲んでヴェロニカに風を叩きつけた。

 嬉しいとか、すごいとか、そういう思い以上に湧き上がったのは、申し訳なさだ。

 人を傷つけるようなことをさせて、申し訳ないという思い。


 僕の勝手だけど、この子たちにそんなことはしてほしくない。

 ……まあ、おかげでエイダさんがぶたれずに済んだんだけど、それはそれ、これはこれだ。


 何にしても、僕はもっとこの子たちが何者かを知らないといけない。


 なんてことを考えた翌々日。

 お医者さん……じゃなくて、宮廷魔術師のサイラスさんが部屋を訪ねてきた。





    ◆ ◆ ◆





「サイラス様、本日はいかがなさいましたか?」


 昼食を終えた時分に部屋を訪ねてきたサイラスさんに、メイドさんが対応する。

 僕は床でぬいぐるみ遊びをしている風を装いながら、彼らの会話に耳を傾ける。


 サイラスさんは、以前に魔鉱石を回収に現れた時とは違って、どこか困ったように苦笑した。


「実は、ヴェロニカ王妃陛下より、調査を命じられまして」

「調査でございますか?」

「ええ。……先日、こちらの庭園を訪れた際に、何者かに魔術を行使された疑いがある――と。ああもちろん、皆さんを疑っているわけではありません」


 言いながらサイラスさんは室内にいるメイドさんたちを見回す。


「皆さんが魔術を使えないことは承知しております。そもそも突風を引き起こす魔術が使えるのでしたら、宮廷魔術師になれますよ。――と、ヴェロニカ王妃には申し上げたのですが、調査をしろと頑なでして」


 弱りましたと言わんばかりに肩を竦めるサイラスさん。

 なんだろう。中間管理職ばりの悲哀を感じる。


 ……というか、突風の魔術ってそんなにすごいんだ。

 じゃあ緑の毛玉さん、すごい存在なんじゃ……。


 いやそもそも。


 サイラスさんは調査に来た→ヴェロニカに突風を放った存在を探している→緑の毛玉さんだと発覚する→捕まる


 ……そ、それはやだ!


 僕は必死に頭上を浮かぶ緑の毛玉さんにアイコンタクトを送る。

 逃げて! ここから逃げて!


「ふむ……?」


 そんな僕の視線を訝ったのか、サイラスさんは頭上を見上げ、首を傾げた。


 ……そっか、そうだった。

 毛玉さんは誰にも見えないんだった。

 じゃあ捕まるわけがないか。


 ほっと胸を撫で下ろしていると、サイラスさんが歩み寄ってきて、その場に片膝をついた。


「こんにちは、シリル王子。おや、まだ魔鉱石をお持ちいただいているのですか。光栄に存じます」


 柔らかな物腰で頭を下げてきたサイラスさんは、僕の手元にある魔鉱石を見て、笑みを浮かべる。

 ヴェロニカという嫌なやつと会ったばかりだから、サイラスさんの優しい雰囲気が心に沁みる。


 僕は感謝も込めて魔鉱石を持ち上げ、元気に笑い返す。


「あーい!(こんにちは!)」

「ふふっ」


 サイラスさんが微笑を零す。

 ……が、彼の眉間に皺が寄った。


「……ふぅむ? シリル王子、そちらの魔鉱石、少し見せていただいてもよろしいですかな」

「あーう?(え?)」

「ご心配には及びません。すぐにお返しいたしますよ」

「あうう……(それなら……)」


 元々これはサイラスさんのものだ。

 無理を言ってもらったのは僕の方。

 それにサイラスさんなら嘘は吐かないだろう。


 そう思って、僕はおずおずと魔鉱石を差し出した。


 サイラスさんは「ありがとうございます」とにこやかに受け取ると、中空に魔鉱石を透かしてまじまじと眺める。

 そして――。


「――やはり。魔力の残滓が色濃く残っている」


 え? 残滓?


「王子に献上してから数ヶ月。私の魔術が残っているはずがない。……どなたかこの魔鉱石で魔術を――いえ失礼」


 魔鉱石を持ったままメイドさんたちへ視線を向け、すぐに一人納得するサイラスさん。

 ……なんだか、まずい気がする。


「あーい!(返して!)」

「こ、これは失礼を。シリル王子、お貸しいただきありがとうございました」


 僕が叫ぶと、サイラスさんは律儀に返してくれる。

 いい人だ。少し胸が痛む。


「しかし間違いない、一体どうして、おかしい……」


 魔鉱石を受け取り、そそくさと離れようとする僕の背後で、サイラスさんはぶつぶつと呟いている。

 そして、ハッと息を呑む気配がした。


「もしや、シリル王子。その魔鉱石で、何かなさいましたか?」


 ……ナニモシテナイヨ?

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