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乙女ゲー世界の非合理、理系社畜が完全論破!〜コスパ最悪の婚約破棄とヤバい公爵を捨て辺境でホワイト就職しました〜  作者: 月神世一


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EP 6

インフラ完備の辺境村で神福利厚生!? 月兎族の村長と関西弁の猫耳財務官に拾われ、手取り25万のホワイト就職キメました

王都ムーンキャピタルを脱出してから数日。

私とコン太(荷物持ちの元・聖獣)は、荒野に続く街道をひたすらに歩いていた。

「……ふしゅぅ。暑い、死ぬ。蒸れるわ……」

「きゅぅぅ……」

真夏日にタイベックスーツ(化学防護服)を着込んだままの行軍は、控えめに言って地獄だった。

だが、あの悪臭と雑菌にまみれた王都の汚物を靴裏に付着させているかもしれないと思うと、防護服を脱ぐ気にはなれない。

私は【ネット通販】でポチった『経口補水液(OS-1)』をガブ飲みしながら、ひたすら歩き続けた。

そして、地図アプリ(通販で購入したGPS機能付きスマホ)が示す緩衝地帯の目的地にたどり着いた時、私は自分の目を疑った。

「……嘘でしょ?」

私が立ち止まったその先。

広大な農地を抜けた先に現れたのは、中世ファンタジー風の薄汚い村落などではなかった。

「ア、アスファルト……!?」

そこにあったのは、見事に舗装された黒いアスファルトの道路だった。

しかも、道路の端には完璧な傾斜カントがつけられ、U字溝とグレーチング(格子状の金属蓋)による『排水システム』が整然と整備されているではないか。

「電柱がある! 信号機みたいな魔導具もある! ちょっと待って、あの青と白のストライプの看板……『タローソン』!? その奥にある24時間営業っぽい看板は『ルナキン』!? ファミレスとコンビニがあるの!?」

「キュピ!?」

私はタイベックスーツのまま、アスファルトの地面に崩れ落ち、グレーチングを愛おしそうに撫で回した。

「あああ……排水溝よ……。雨水と生活排水を分離して処理する、近代都市計画の結晶……! これよ、私が求めていたのは見掛け倒しの大理石なんかじゃない、この実用性と機能美なのよ!」

感動のあまりグレーチングに頬擦りしそうになっていると(防毒マスク越しだが)、不意に頭上から声が降ってきた。

「あら? 見ない顔ね。新規の移住希望者かしら? それとも、新手の不審者?」

「お嬢、どう見ても不審者やろ。全身真っ白で顔面に変なガスマスク付けて、グレーチング撫で回しとるんやで。完全に通報案件や」

振り返ると、そこには対照的な二人の人物が立っていた。

一人は、頭にウサギの耳を生やした可愛らしい少女。

動きやすい現代風のラフな服装に、なぜか足元はゴツい安全靴スチールトウを履いている。ポッケからは飴玉の袋がはみ出しており、優しげな雰囲気を漂わせていた。

もう一人は、頭に猫の耳を生やした、コテコテの関西弁を喋る細身の青年。

スーツ崩れのような服装で、手にはキセルを持ち、脇にはなぜか黄金に輝く『算盤そろばん』を抱えている。

私はハッと我に返り、慌てて立ち上がった。

いくらインフラに感動したとはいえ、第一印象は重要だ。私は【ネット通販】のインベントリにタイベックスーツとガスマスクを一瞬で収納し(機能的なお着替え機能)、元の男爵令嬢の清楚なワンピース姿に戻った。

「失礼いたしました。私はエミリア・シフォンヌ。ある事情で王都から逃げてきた者です。こちらの村で、移住と就職を希望しております」

私が深く一礼すると、猫耳の青年は「おぉ、一瞬で服が変わったで! 空間魔法の使い手か?」と目を丸くし、兎耳の少女はパァッと顔を輝かせた。

「歓迎するわよ! 私はこのポポロ村の村長、キャルル・ムーンハート。こっちはゴルド商会から出向してきてる、財務担当のニャングルよ」

「よろしゅうな。ワイがこの村の金庫番や。……で、アンタ、ウチの村で働きたいって言うたな? 何か特技はあるんか?」

ニャングルが商人の目になり、算盤をチャキッと鳴らす。

私は姿勢を正し、前世の社畜時代に培った営業スマイルを浮かべた。

「はい。デスクワーク全般、在庫管理、経理補助、マクロを組んでの帳簿のデジタル化が得意です。また、料理もプロ並みとはいきませんが、栄養バランスと原価率を考慮した実用的な献立の作成が可能です」

「ほほう、帳簿の管理と原価計算ができると?」

ニャングルの猫耳がピクリと動く。

「お嬢、これは拾い物かもしれんで。最近、村の特産品(月光薬やらメロロンやら)の取引量が増えすぎて、ワイ一人じゃ経理の処理が追いつかへんかったんや。しかも前村長が資金を持ち逃げしたせいで、帳簿がぐちゃぐちゃやし」

「えっ、村長が資金を持ち逃げしたんですか?」

「せや。ゲートボール大会で魔族の未亡人に引っかかって、高飛びラビリンスしよったんや。お陰で村の財政は火の車、ワイが裏で色々と算盤弾いて補填しとる状態やねん」

なんて治安の悪いエピソードだろうか。だが、王太子や氷血公爵の狂気に比べれば、横領事件など『よくあるコンプライアンス事案』に過ぎない。

ニャングルはキセルをふかしながら、手元の算盤を凄まじいスピードで弾き始めた。

パチパチパチパチッ! と、目にも留まらぬ速さで珠が弾かれる。

「……よし。ほなら、役場の事務方としてワイのアシスタントをやってもらおうかな。給料は……初任給で『手取り25万円』、ボーナス年2回。もちろん、社会保険と雇用保険も完備や。残業代は1分単位で全額支給するで。どうや?」

「て、手取り25万円!? 社保完備!? 残業代1分単位!?」

私は雷に打たれたような衝撃を受けた。

前世のブラック企業では、手取り18万で見込み残業月60時間という地獄だった。それに比べて、なんという圧倒的ホワイト待遇。インフラが整っているだけでなく、労働基準法まで完璧に遵守されているではないか!

「やります! やらせてください! 骨の髄まで働きます!」

私が食い気味に即答すると、ニャングルは「骨の髄まではいらん、定時で帰れや」と苦笑した。

「それじゃあ、採用決定ね!」

キャルル村長がパチンと手を叩き、私の両手をギュッと握りしめた。

その可愛らしい笑顔の奥に、ほんの少しだけ、瞳孔が開いたような底知れない熱が混じっているのに気づいた。

「とりあえず、住む場所がないでしょ? 役場の職員寮ポポロ・コーポは今、変な連中(神界公務員や聖獣)で満室なの。だから、私と共同生活(村長宅)になるけど良いかな?」

「えっ、村長のご自宅にですか? それは家賃が浮いて助かりますが……」

「ふふっ。いいのいいの、広いから。その代わり……」

キャルルは私の耳元に顔を寄せ、甘い、けれどどこか逃げ場のないヤンデレ特有の重低音で囁いた。

「美味しいお料理、毎日期待してるよ♡ ……ずっと、私のそばでご飯作ってね?」

「ヒッ」

背筋に悪寒が走った。

この村長、可愛い顔して、なんか愛情が激重ヤンデレな気配がする。

だが、家賃タダで手取り25万、しかもこの完璧なインフラ環境だ。少々のヤンデレくらい、上司への接待だと思えば安いものである。

「か、神ぃ……! まともな人たちに、ようやく出会った気がするわ……!」

私は感涙にむせびながら、キャルルの手を握り返した。

「キュピィ(おれもジャーキーもらえるかな)」

足元でラバーブーツを履いたコン太も、尻尾を振って喜んでいる。

こうして、理系社畜OLエミリアは、乙女ゲーの狂った王都を捨て、インフラ完備の辺境『ポポロ村』での最高にホワイトな就職をキメたのだった。

だがこの村が、王都とは全く別ベクトルの『カオスの吹き溜まり』であることに気づくのは、役場での初仕事を終えた数日後のことである。

読んでいただきありがとうございます。

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