EP 9
連携奥義! 貧乏神の強制デバフとヤンデレ村長の物理打撃からの、蒼氷の騎士による『絶対零度・一閃』!
「キャァァァッ!」
「逃げろ! バケモンだ!!」
古代兵器『死蟷螂機』の咆哮が、ポポロ村の広場に響き渡る。
小悪党の逆恨みによって解き放たれた体長5メートルの生体機械兵器は、禍々しい魔力を全身から立ち昇らせ、両腕の鋼鉄の鎌を振り上げていた。
「エミリアちゃん! あのデカブツの弱点は!?」
ダブルトンファーを構え、ウサギの耳をピンと立てたキャルル村長が叫ぶ。
私は即座にタブレット端末を開き、【ネット通販】のオプション機能である『高精度スキャンアプリ』を起動した。
「……ダメね! 全身が古代の『魔力防壁』で覆われているわ! 物理耐性も魔法耐性もカンスト状態。このまま攻撃しても、装甲に弾かれるだけよ!」
画面に表示された死蟷螂のステータスは、圧倒的な防御力を示していた。
分厚い外骨格に加えて、自己修復機能まで備わっている。中途半端な攻撃では、すぐに再生されてしまうだろう。
「ギャハハハハハ! 無駄だ無駄だ! その古代兵器にはどんな攻撃も通じねえ! お前ら全員、ミンチにしてやるぜ!!」
死蟷螂の後方で、腕を砕かれた小悪党が下品な笑い声を上げている。
だが、私たちは誰一人として絶望などしていなかった。
「ふふん! どんなに固い鎧を着てたって、中身が『すってんてん』になっちゃえば怖くないもんね!」
みかん箱の上から、紫の芋ジャージを着たリーザが飛び降りた。
彼女の顔には、先ほどまでのライブで見せていた『宇宙一のアイドル』としてのキラキラした笑顔はない。
あるのは、他者の資産を根こそぎ奪い尽くす、資本主義の悪魔(貧乏神)としての凶悪な笑みだ。
「リーザ! クラウス君! 合わせるよ!」
キャルルが号令をかける。
「まかせて! 悪い子のステータス、ぜーんぶ吸い込むわよおおっ!」
リーザは段ボールとガムテープで作った【お賽銭箱型掃除機】を構え、死蟷螂の巨体に向けて狙いを定めた。
「スイッチ、オォォォンッ!!」
ブォォォォォォォォォンッ!!
段ボール箱から、凄まじい吸引音(魔力駆動音)が鳴り響いた。
その瞬間、死蟷螂の全身を覆っていた禍々しい魔力防壁が、まるで黄金の砂のように分解され、ズルズルとリーザのお賽銭箱の中へと吸い込まれ始めたのだ。
『キ、キシャァァァ……!?』
死蟷螂が戸惑ったように鳴き声を上げる。
無理もない。リーザのユニークスキル【貧乏神】は、対象の『運気』『全財産』、そして『バフ(強化状態)』を強制的に没収し、虚空(神の予算)へと消し去る理不尽の極みである。
「な、なんだぁ!? あのガラクタの箱は!」
小悪党が目を見開く。
「すごいわ、リーザさん! 死蟷螂の魔力残量がみるみる低下していく! 魔力防壁、完全消失! さらに自己修復機能のエネルギー(内部資産)まで枯渇状態よ!」
私のタブレットの画面で、ボスの防御力数値が「9999」から「1」へと垂直落下していく。
恐るべき対物理・対経済用EMP兵器。
相手の『貯金(魔力)』を強制的にゼロにする、凶悪すぎるデバフだ。
「おっしゃあ! 今だ!!」
装甲の魔力が剥がれ落ちた瞬間を狙い、キャルルが爆発的な脚力でアスファルトを蹴り砕いた。
ダァァァンッ! とクレーターを残し、彼女の小さな体が砲弾のように死蟷螂の懐へと潜り込む。
『キシャァッ!』
死蟷螂が迎撃のために鎌を振り下ろそうとするが、それより早くキャルルが深く沈み込んだ。
タローマン特注の安全靴に、銀色の闘気と紫電がバチバチと収束していく。
「月影流――顎砕きッ!!」
ドゴォォォォォォォォンッ!!!
キャルルの闘気を纏った強烈な蹴り上げ(サマーソルトキック)が、魔力防壁を失った死蟷螂の顎(頭部装甲)にクリーンヒットした。
常軌を逸したウサギ獣人の脚力が、体長5メートル、重量数トンはあるはずの巨大な生体兵器を、文字通り『宙にカチ上げた』のだ。
「す、すげえ……! あのバケモンが浮いたぞ!?」
広場の村人たちから歓声が上がる。
「い、いけぇぇぇ! 潰せ!!」
小悪党が焦って叫ぶが、宙に浮いて体勢を崩した死蟷螂は、もはや無防備な標的でしかない。
「クラウス!!」
キャルルが叫ぶ。
「はいっ!」
子供たちを庇うように立っていた銀青色の髪の青年が、美しき青氷のロングソードを構えて前に出た。
彼の翠の瞳は、極限まで研ぎ澄まされた冷徹な光を放っている。
「『フリーズ』!!」
クラウスが左手を突き出す。
大気中の水分が瞬時に死蟷螂の関節部に絡みつき、空中で『パキパキパキッ!』と分厚い氷の枷となって対象を完全に拘束した。
『キ、ギギッ……!!』
空中で身動き一つ取れなくなった古代兵器。
クラウスは深く息を吸い込み、右手のロングソードを上段に構え、膝を折って跳躍の姿勢をとった。
「――理不尽な暴力は、ここで断ち切ります」
タンッ!
無音の跳躍。
クラウスの体が、重力すら無視したような滑らかな軌道で、空中の死蟷螂の眼前にまで到達する。
ロングソードの刀身に、凄まじい密度の冷気が収束していく。
私の理系脳が、再びその現象を解析しようと悲鳴を上げた。
(分子の運動を完全に停止させる、極限の冷気魔闘気……! 熱衝撃を一切出さずに、対象の結合エネルギーだけを断ち切る絶対の剣!)
「最大奥義」
クラウスの声が、凛と響き渡る。
彼が剣を振り抜いた瞬間、空中に青白い、美しすぎる一筋の閃光が走った。
「絶対零度・一閃!!」
――スゥッ。
爆音も、衝撃波もなかった。
ただ、音もなく。
強固な鋼鉄と腐肉で構成された死蟷螂の巨体が、頭の先から尾の先まで、見事なまでに『真っ二つ』に両断されたのだ。
ズシンッ……! ズシンッ!!
両断された死蟷螂の残骸が、広場のアスファルトに落下する。
切断面は鏡のように滑らかで、さらに細胞の一つ一つまでが絶対零度で完全に凍結されているため、体液の一滴すらこぼれ落ちていない。
完璧な、そして美しすぎる一撃。
「……あわわ、わ……」
ドスッ、と。
背後で腰を抜かした小悪党が、地面にへたり込んだ。
彼の頼みの綱であった古代兵器は、ポポロ村の防衛システム(極貧アイドル、ヤンデレ村長、気弱な氷剣士)の前に、手も足も出ずに完全粉砕されたのだ。
「あ、あ、あああ……」
小悪党の股間から、生温かい液体が広がっていく。完全に失禁していた。
着地したクラウスは、ロングソードの氷をパキパキと解き、いつもの無骨な短剣に戻して鞘に収めた。
そして、へたり込んでいる小悪党の方へと静かに歩み寄る。
「ヒィィィッ!! 殺される! 殺されるゥゥッ!!」
「……反省して、くれますか?」
クラウスは、小悪党を見下ろし、コテンと首を傾げた。
その顔は、先ほどまでの『蒼氷の騎士』の冷徹な表情から一転し、いつもの「オドオドした気弱な青年」に戻っていた。
「二度と、村のみんなを怖がらせるようなことはしないでください。約束、できますよね?」
純度100%の、怒りも憎しみもない、ただただ真っ直ぐな説教。
だが、先ほどの神業のような一刀両断を見た直後の小悪党にとって、それは悪魔の宣告よりも恐ろしいものだったに違いない。
「や、約束します! 二度と悪さはしません! すみませんでしたァァァァッ!!」
小悪党はアスファルトに額を擦り付け、ボロボロと涙を流して土下座した。
「ふぅ……。終わったわね」
私はタブレット端末を閉じ、大きく肩で息をした。
古代兵器の襲来という未曾有の危機は、ものの数分で完全鎮圧された。
だが、私の心臓の『バグ』だけは、いまだに激しく警報を鳴らし続けている。
(……ズルいわ。あんなの、チートじゃない。普段はあんなにポヤポヤしているくせに、剣を持たせたら誰よりも強くて、誰よりも優しいだなんて)
私は、土下座する小悪党に「怪我、痛みますか? 役場にお薬ありますよ?」と本気で心配して声をかけているクラウスの背中を見つめていた。
ロジックが、崩れる。
損得勘定が、消し飛ぶ。
私が前世から積み上げてきた『理系社畜としての防壁』が、彼の存在によって、少しずつ、けれど確実に溶かされていくのを感じていた。
読んでいただきありがとうございます。
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