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乙女ゲー世界の非合理、理系社畜が完全論破!〜コスパ最悪の婚約破棄とヤバい公爵を捨て辺境でホワイト就職しました〜  作者: 月神世一


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20/24

EP 6

ファンの時間と全財産を奪い尽くす! 極貧人魚姫の強欲なアイドル哲学に、理系社畜は深く共感する

ポポロ村広場での『異世界初・スパチャライブ』は、文字通り熱狂の渦の中で幕を閉じた。

ライブ終了後、私たちは回収したお賽銭箱とペンライトの売上を抱え、キャルル村長の自宅へと凱旋した。

「いっやぁ〜! まいどあり! ほんまにまいどありやでぇ!!」

リビングの巨大なダイニングテーブルに、ジャララララッ! とお賽銭箱の中身がぶちまけられる。

大量の銅貨、銀貨、そして数枚の金貨。

猫耳財務官のニャングルは、黄金の算盤を弾くのも忘れて、札束(この世界では硬貨だが)のプールにダイブせんばかりの勢いで金貨に頬擦りをしている。

「すごい……! さすが私のエミリアちゃんだね! たった一夜で村の税収が一気に潤っちゃった!」

キャルル村長は、ウサギの耳をピョコピョコと揺らしながら、私の腕にギュウウッとしがみついてくる。

「ええ、原価率とフリーミアムモデルの勝利です。これでしばらくは、村の財政も安泰でしょう」

私はキャルルのヤンデレハグ(腕の骨がミシミシ鳴る)を片腕で受け流しつつ、テーブルの向こう側を見た。

「ん〜〜〜っ! 美味ひぃぃぃぃ!!」

今日の主役である紫芋ジャージのアイドル、リーザ・シーラン・リヴァイアサン。

彼女は今、約束通り『目玉焼きとダブルチーズが乗った特大ハンバーグプレート』を、涙と鼻水を流しながら凄まじい勢いで胃袋に流し込んでいた。パンの耳とタンポポで命を繋いでいた彼女にとって、これはまさに天上界の神々の食事だろう。

「ゆっくり食べていいのよ、リーザさん。誰も取らないから」

私が【ネット通販】で取り寄せた高級ウーロン茶を差し出すと、リーザはゴクゴクと一気飲みして「ぷはぁっ!」と満足げな息を吐いた。

「エミリアお姉さん、ほんとにほんとにありがとう! 私、こんなに美味しいお肉食べたの、王宮を出てから初めてだよぉ!」

満面の笑みを浮かべるリーザ。

ニャングルとキャルルが「売上の集計と帳簿付けをする」と言って別室(書斎)へ移動し、リビングには私とリーザの二人だけが残された。

温かいハーブティーを口に運びながら、私はふと、ずっと気になっていた疑問を口にした。

「ねえ、リーザさん。貴方はどうして、そこまで『歌うこと(アイドル)』が好きなの?」

「え?」

「貴方は海中国家シーランの王女様でしょう? 黙って実家に戻れば、こんな極貧生活をしなくても、暖かいベッドで美味しいものが毎日食べられるはずよ。それなのに、王族の身分もプライドも捨てて、みかん箱に乗ってまで歌に固執する理由が分からないわ」

理系社畜の視点から言えば、彼女の行動はリスクとリターンが全く見合っていない。

だが、リーザはハンバーグの皿を置き、とても真剣な、そして少しだけ大人びた表情で私を見つめ返した。

「エミリアお姉さん。私がステージに立って歌うとね、ファン達の『時間』を奪うことができるの」

「……時間を、奪う?」

「うん」

リーザは自分の胸に両手を当て、碧眼の奥に、ただの純真さではない『ある種の狂気』にも似た執着の炎を揺らめかせた。

「みんな、お仕事や生活で辛いこと、考えなきゃいけないことがたくさんあるはずでしょ? 今日のおじさんたちだって、腰が痛かったり、明日の畑仕事が不安だったり。でもね、私が歌っているその瞬間だけは、全部忘れて、私だけを見てくれるの」

彼女の言葉に、私はハッとした。

「だから、私は……ファン達の『世界』そのものになりたいの。彼らの視線も、おスパチャも、心も、時間も、何もかもを全部奪い尽くして……その代わり、彼らの人生に『宇宙一の幸せな時間』を味わわせてあげるんだ」

リーザは両手を広げ、まるですべてを抱きしめるように微笑んだ。

「私は運命。私は物語。だから貴方達の全てをちょうだい♡ Love & Money!! ……これが、私のアイドルの流儀だよ!」

「…………っ」

私は、言葉を失っていた。

ただの天然でアホの子だと思っていた彼女の奥底にあったのは、底知れない『強欲』だ。

だが、それは決して利己的なだけの悪意ではない。

相手の時間とリソースを根こそぎ奪う代わりに、確かな価値(多幸感と癒し)を提供する。

それは資本主義における『究極の等価交換』であり、最高のエンターテインメント・ビジネスの真髄そのものだ。

「……ふふっ。あははははっ!」

私は思わず、肩を揺らして笑い出してしまった。

「エ、エミリアお姉さん? 私、変なこと言った……?」

「いいえ! 素晴らしいわ、リーザさん! 貴方は真のエンターテイナーにして、最高のビジネスパーソンよ!」

私はリーザの手をガシッと握りしめた。

「見返りを求めずに自己犠牲を払うような生き方より、貴方のその強欲さの方が、よっぽど合理的で美しいわ。奪うなら与える。与えるなら奪う。その完璧なトレードオフの哲学、理系社畜として心の底から共感したわ!」

「ほ、ほんと!? えへへっ、エミリアお姉さんに褒められちゃった!」

リーザが嬉しそうに笑う。

私は彼女の手を握りながら、脳裏に一人の青年の姿を浮かべていた。

(……それに比べて、あの男はなんなのよ)

今日のライブの最中、広場の隅で控えめにペンライトを振っていた、銀青色の髪の青年――クラウス。

リーザのように「奪う」こともしない。

私のように「対価(給料)」を求めることもしない。

ただひたすらに、自分が傷つくことも厭わず、他者のために無償の優しさを提供し続ける、究極の自己犠牲。

『エミリアさんが無事でよかったです。僕の怪我なんて、かすり傷ですから』

いつか彼が言いそうなそんなセリフを想像しただけで、またしても私の胸の奥がドクンッと不規則な鼓動を刻む。

(ああ、もう! 腹立たしいわね。あんなコスパ最悪で破綻した生き方、私のビジネスロジックで言えば絶対に許容できないはずなのに!)

完全に理解不能エラーだ。

リーザの『強欲な等価交換』には100%の共感と賛辞を送れるのに。

クラウスの『無償の愛』に対しては、ロジックが通じず、ただ心臓のバグ(トゥンク)を誤魔化すことしかできない。

「……エミリアお姉さん? 顔、赤いよ? 熱でもあるの?」

「な、なんでもないわ! さあ、冷めないうちにハンバーグの続きを食べなさい! 明日もライブの残務処理でこき使ってあげるからね!」

私は顔の熱を隠すように、少し早口で言い放った。

リーザは「わーい! 明日はウインナーも食べたいな!」と無邪気に笑っている。

こうして、理系社畜の私と極貧人魚姫の間に、単なる『プロデューサーとアイドル』という枠を超えた、奇妙で強固なビジネスパートナーシップが結ばれた。

ポポロ村の夜は、平和で、暖かくて、そして少しだけ私の心をかき乱す。

この完璧なホワイト・スローライフがずっと続けばいいのに。

だが、この世界の『神々(運営)』は、私たちの平穏をそう長くは許してくれないらしい。

ポポロ村の静寂の裏側で。

ライブの熱狂に乗じて村に侵入しようとする、不穏な『悪意』の影が忍び寄りつつあることに、私たちはまだ気づいていなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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