表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲー世界の非合理、理系社畜が完全論破!〜コスパ最悪の婚約破棄とヤバい公爵を捨て辺境でホワイト就職しました〜  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/25

EP 13

赤ペン添削で完全論破! 「戻ってこい」と喚くアホ王太子の復縁要請(無給残業の強要)はROIゼロなのでシュレッダー行きです

ポポロ村でのホワイトな日々は、まさに私の前世からの悲願を具現化したようなパラダイスだった。

朝はキャルル村長の作る絶品朝食を食べ、役場では構築したマクロを走らせてサクッと業務を終わらせ、定時になればサウナやルナキン(ファミレス)へ繰り出す。

そんな完璧なワークライフバランスを謳歌していたある日の午前中。

「お嬢、王都からお嬢宛てに郵便やで。……なんやこれ、無駄にエエ匂い(香水)がプンプンしよるわ」

ニャングルが顔をしかめながら、一通の封筒を私のデスクに放り投げた。

見れば、最高級の羊皮紙で作られた封筒には、王家の紋章である『月と剣』のシーリングスタンプが押されている。

「……王都から? 嫌な予感しかしませんね」

私はペーパーナイフで封を切った。

中から出てきたのは、王太子アルベルトからの親書……というか、便箋5枚にも及ぶ長々とした手紙だった。

『愛愛しいエミリアへ。

突然姿を消した君を思い、私は夜も眠れない日々を過ごしている。

あの夜会での婚約破棄は、君の私への愛を確かめるための、ほんの少しの試練サプライズだったのだ。それなのに、君があのように怒って飛び出してしまうとは、少し短気だったのではないか?

だが、私は寛大な心で君の非礼を許そう。

実を言うと、君がいなくなってから、王都の魔導鉱石の物流がなぜか滞っており、財務局の数字もよく分からないことになっている。あの男爵令嬢は可愛らしくて癒やされるのだが、悲しいかな、彼女は一桁の足し算すら間違えるのだ。君のように気の利く事務処理は期待できない。

国が、いや、私が君を必要としている!

今すぐ王都へ戻りなさい。そうすれば、これまでのことは水に流し、もう一度私の婚約者(ただし試験期間を設ける)として迎え入れてやろう。

追伸:

君の家の弁護士から莫大な違約金の請求書が届いているが、何かの間違いだろう。早急に取り下げるように。』

「…………」

私は手紙を読み終え、無言のままスッと立ち上がった。

そして、役場の隅にある魔導シュレッダーへ向かって歩き出そうとしたが、思いとどまった。

(いや、待ちなさい。これをただ捨てるだけでは、あのアホ王太子は『手紙が届かなかった』などと都合よく解釈して、また粘着してくる可能性があるわ)

ここは一つ、社会人としての『ビジネスの基本』を、彼の空っぽの脳髄に叩き込んでやる必要がある。

「【ネット通販】起動」

空中の検索窓に打ち込むのは、『採点用 赤ペン(極太・速乾性・10本セット)』である。

――ポンッ!

空間から現れた真っ赤なペンを握りしめ、私は王太子の手紙をデスクに広げた。

ここからは、理系社畜OLの容赦ない『赤ペン添削デューデリジェンス』の時間だ。

「まず、冒頭! 『愛愛しいエミリアへ』? ビジネス文書において『拝啓』も『時候の挨拶』もないとは何事ですか! いきなり本題に入るならせめて『件名』を記載しなさい!」

シュバッ! と、冒頭の文章に赤い取り消し線を引き、『※ビジネス文書の基本フォーマットを学習すること。減点10』と書き殴る。

「次に『婚約破棄は試練サプライズだった』? 馬鹿を言うな。多数の貴族の前で行った破棄宣言は、口頭契約の破棄(債務不履行)として完全に成立しています! 証人も多数存在します!」

『※虚偽の事実による自己正当化。コンプライアンス違反。減点20』

私は怒りのままに赤ペンを走らせる。

「『物流が滞り、財務局の数字がよく分からない』? だからあの夜会で私がホワイトボードを使ってプレゼンしたでしょうが! シフォンヌ伯爵家の特恵関税が撤廃された結果、王都のインフラが崩壊し始めているだけの自業自得です!」

『※マクロ経済学の基礎知識が皆無。経営層としての資質ゼロ。減点30』

「『男爵令嬢は足し算を間違える』……そんな不良債権ポンコツを自分の意思で選んだのは貴方でしょうが! その尻拭いを私に無給でやらせようという魂胆が透けて見えます! これが一番許せない!」

『※業務の押し付け(無給残業の強要)。労働基準法違反。減点30』

「そして極めつけ、『婚約者(試験期間つき)として迎え入れてやろう』だと!? どの口が言っているの!!」

私はペンを握る手にギリィッ! と力を込め、手紙の最後に極太の赤い文字で総評を書き込んだ。

『【総評:0点(不採用)】

貴殿からの復縁要請(という名の無給労働オファー)につきまして、慎重に検討いたしました結果、誠に残念ながら今回はお見送りさせていただきます。

現在、私は手取り25万円、完全週休二日、残業ゼロ、家賃補助100%という完璧なホワイト環境に身を置いております。

貴殿のオファーは「無報酬」「劣悪な人間関係」「無限のサービス残業」「経営者の無能による国家破綻リスク」という、ROI(投資利益率)が完全にマイナスに振り切れた最悪のブラック案件です。

二度と私に連絡してこないでください。』

「ふぅ……」

赤ペンで真っ赤に染まった5枚の手紙を眺め、私はようやく肩の息を下ろした。

完璧な論破(添削)である。

「お、お嬢……あんた、えげつないな……」

一部始終を見ていたニャングルが、ドン引きした顔で私の背後から覗き込んでいた。

「王太子の親書を、赤ペンで学校のテストみたいにバツつけまくって……。これ、そのまま送り返すんか?」

「ええ、もちろん。ですが、これだけではタダ働きになってしまいます」

私は【ネット通販】でもう一つ、『複写式 請求書(インボイス対応)』を取り出した。

そこにサラサラとペンを走らせる。

【ご請求内容】

・ビジネス文書 添削および経営コンサルティング費用:金貨100枚

(※前回の婚約破棄に係る違約金とは別枠となります。期日までにお支払いがない場合、年利14.6%の遅延損害金が発生いたします)

「よし。これを添削済みの手紙にホッチキスで留めて、と」

ガチャン!

私は分厚い手紙と請求書をまとめ、新しい封筒に叩き込んだ。

「ニャングルさん。これを王都の財務局宛てに、一番早い魔導便で送付してください。あ、送料は着払いでお願いしますね」

「……お嬢、ワイは金の亡者やけど、あんたの資本主義の悪魔みたいなところ、ほんまに恐ろしいと思うわ……」

猫耳をペタンと伏せながら、ニャングルは封筒を受け取った。

「当然の権利を主張しているだけです。相手が王太子だろうと、理不尽な労働搾取には法と経済の力で徹底的に抗う。それが、ホワイト・スローライフを守るための私の流儀ですから」

私は空になったコーヒーカップを置き、満足げに伸びをした。

ストーカー公爵は内容証明と物理キックで追い払い、アホ王太子は赤ペン添削とコンサル料請求で完全に論破した。

これでついに、私の過去(乙女ゲーのしがらみ)は完全に清算されたはずだ。

「よし! 今日の午後こそは半休を取って、キャルル村長やマンミアさんたちと、ルナキンでパーッと歓迎会(という名の女子会)をやりましょう!」

「おっ、ええな! ワイも経費で落ちるなら行くで!」

「ニャングルさんの分は実費です」

「ケチやな!」

窓の外には、ポポロ村の青々とした太陽芋の畑が広がり、インフラの整ったアスファルトの道がまっすぐに伸びている。

理系社畜OLが勝ち取った、手取り25万の異世界ホワイト就職。

私の本当の人生スローライフは、ここからようやく幕を開けるのだ。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ