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そばにいてね  作者: ニシン兄


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9/11

冷たい温もり

いつも私の作品を読んでいただきありがとうございます。こちらは第九章です。お待たせいたしました。

この作品もとうとう第九章まで来ました。感想やアドバイスもどしどしお願いいたします!!

それでは、物語の世界へ行ってらっしゃいませ。

怯えるように震えた声だった。


しかしそれは、確かに私の知っているレナの声だった。


「え…?ナオ…?ナオなの…?ねぇ、うそ…ナオ…?(レナ?)」


スゥーっと冷たい風が前から吹いてきたのと同時に、私のよく知っている彼女が現れた。服も靴もボロボロだ。身も心もボロボロであることが伝わってくる。


あまりの驚きに、私の体は固まってしまった。しかし目の前の彼女は、いつもの彼女のようで違った。いつもの彼女なら、こういう時は私の心配をして、やさしく寄り添ってくれる。


でも違った。


彼女はギュッと力強く私に抱き着いた。


体が壊れそうだった。


彼女の力でさえ、今の私の体は耐えるのに必死だった。


レナは大粒の涙を流しながら、子供のように泣き始めた。私の服についていた灰の残りが、彼女の涙でにじんでいく。私も彼女をやさしく抱く。


私以上に、心も体もボロボロの彼女の姿を見て、冷静になれてしまっている自分が怖い。


彼女の泣き声がその場に響き渡る。心臓がバクバクと脈を打ち、その振動が私の体にも伝わってくる。必死に呼吸を整えようと、深呼吸を繰り返すレナ。そんな彼女の背中を、私はそっとなでた。


彼女の心配と同時に、かろうじて機能している五感をとぎすましている。彼女の声を聞きつけて"あれ"が来てしまうかもしれないという、別の心配をしている自分が憎い。


それでも、こうしてレナと再会できたことに、私も感情が込み上げてくる。ここにミユとサキがいないこと。無事にレナと会えたこと。いろんなことが同時に込み上げてきて、ようやく私の目から、たった一粒の涙が出た…


私の心配は不要だったのだろう。"あれ"はおろか、私たち以外誰もいない。


その場はまた静寂に包まれた。


レナは、まるで泣きつかれた子供のように、私に体を預けている。


こんなにも疲れ切った彼女を見るのは初めてだ。今だけは、とても彼女に頼るなんてことはできない。自分がこんなにも追い詰められているのに、彼女はいつも私たちのお姉ちゃんであろうとする。


私にはわかる。


ミユとサキ…。レナはこんな状況でさえ、二人の心配をしていることを...。


でもわからない。これまで私が経験してきたことを、いったいどのように彼女に伝えればいいのだろうか。


今にでも、レナが二人のことを聞いてくるのではないか。そんな心配が真っ先に頭をよぎる。そんな心配を払拭したいがために、私はとっさに口を開いた。


「レナ…サキはどうしたの…?私とミユが二人でトイレに行ったあと、いったい二人に何があったの?(私)」


自分を殴り飛ばしたくなった。


レナにとって、この質問がどんなに辛いものなのか。考えるまでもなかった。


しかし、私も同じだった。絶対にそんな質問はされたくなかった。私はまた、自分を優先した。


三人と過ごし始めたせいか、自分のことが嫌いになったのはかなり久しぶりだった。でもこの感覚はどこか懐かしい。


そんなことを思っていると、私の体が、また強い圧力を感じた。


ギュッと締め付けられるような感覚を覚える。同時に彼女が私の服に顔を押し付け、悲痛な叫びをぶつける。


渇き始めていた私の服は、彼女の流した涙でびしょ濡れだ。服についていた灰が濡れ、よりべっとりとした状態で私の服に張り付く。皮肉にも、彼女が頼ろうとしていた私は、自分を守るために彼女の心を破壊した。


こんな私に、彼女の気持ちを受け止める資格はない。そんなことも知らず、レナは私との再会を喜び、私を信じ、私に抱き着いて涙を流している。今の彼女にとって、私が唯一の見方だと思うと、より一層自分のことが嫌いになってくる。


(次"あれ"が現れたら、真っ先に私を消し去ってくれたらいいのに…)


ここから私たちは一体どうしたらよいのか。どこへ向かえばよいのか。この暗闇の中では、方向感覚なんて皆無だ。


山をおりて、駐車場まで行けばいいのか?いや、車のカギがない。そもそもどっちに進めば山を下ることができるのかわからない。どのみち逃げられないことを悟った私の体が、よりいっそう"あれ"を待ち望んでいる。


今の私は"あれ"が現れて初めて動き出すのだろう。いや、仮に"あれ"が目の前に現れたとして、もう私の体は動かないだろう。しかし、そんな私をこの地獄にとどめようとするかのように、レナが口を開く。


「サキはね……どこかへ行っちゃったの…。私とサキの二人で、ナオとミユを待ってた時、急に大きな化け物が現れて…。も、もちろん、一緒に逃げようとはしたの!!ほ、ほんとに!!でも…気が付いたら…私は一人だったの…サキが…どこか行っちゃったの…。(レナ)」


震えている...。


まるで、嘘がばれるのを恐れながらも、必死に嘘をつく子供のようだ。信じて!!といわんばかりの必死さが伝わってくる。どうやら彼女は、嘘のつき方を知らないらしい。


まぁ、そんなことはどうでもいい。サキがどうなったのか。私はそれをこの目で見た。


肌で感じた。


逆に、レナはまだサキがどうなったのかを知らない。おそらく、これからサキとミユを探しに行こうとでも言うのだろう。


彼女たちはもういない。


この事実を彼女に伝えるべきなのか。どちらにせよ、真実を伝える勇気は私にはなかった。今レナが真実を知ったら、いったいどうなってしまうのか。そんなことを考えていると、とうとう彼女の口から聞きたくもないあの質問がとんでくる。


「もしかして、ナオもあの化け物から逃げてきたの…?もしかしてミユとはぐれちゃったの…?(レナ)」


聞かれることはわかっていた。でも答えなんて用意していない。言葉がでない。その場は一瞬にして静寂と化し、凍り付いた。


冷たい汗が頬を滴る。


そんな状況の中、彼女はじっと私を見つめている。その表情からは、不安と、心配と、絶望と、恐怖と、後悔、そのすべてを感じた。私の無言という"答え"を、彼女は一体どのように受け取ったのだろうか。いずれにせよ、彼女は決して二人を探しに行こうなんて言わなかった。


すると、私の体がスゥーっと解放されるのを感じた。


気が付くと、ここまで完全に傷心しきっていたレナが立ち上がっている。私は必死に訴えかけた。自分の両足に、もう一度動けと。


しかし動かない...。そんな私を心配したのか、はたまた見かねたのか、レナが私の体に手をかけると、スゥーっと私の体を持ち上げた。


驚くほどに軽々しく私の体は持ち上がった。もう二度と、この膝を折り曲げてはいけないと、震える両足で、私は必死にその場に立つ。同時にレナの顔をみる。さっきまでぐしゃぐしゃだったその顔は、必死にいつもの顔を取り戻そうとしている。


しかしその表情からは、まるですべてを諦めたかのような、これ以上、もう何も失わない人間の強さのようなものを感じた。


彼女の中で、何か大きな決心をしたのが、私にまで伝わってくる。すると、彼女はギュッと私の手を握った。


「ナオは絶対私が守るから。絶対、絶対離さないから。大丈夫だから。私は絶対ナオをおいていかないから。(レナ)」


目の前の彼女は、ものすごく必死だった。でもなぜだろうか、やっぱり困ったときには、どうしても私は、レナに頼りたくなってしまう。


彼女に手を引っ張られながら、二人で山道を歩き始めた。力強く握る彼女の手からは、強い意志を感じる。視界もはっきりしない中、彼女はまるでどこに行くべきかを知っているかのように、迷わず進んでいく。一定のペースで、まるで機械のようにただただ前へと進んでいく。


ひたすらに山道を進む足音だけが聞こえる。心なしか、どんどん山の奥へと進んでいるような気がする。


「どこに向かってるの?(私)」


聞こえなかったのか、聞く気がないのか、彼女は何も言わないままだ。きっと必死なのだろう。私もそうだ。頭の中がぐちゃぐちゃになると、周りの声が全く聞こえなくなる。


そう自分に言い聞かせ、私はひたすらレナに引っ張られながら、山道を進んでいく。その場は二人の足音だけが響く。枝を踏んだり、土を踏んだり、音や足の感覚だけが、その場を教えてくれる。


心なしか、私の手を握る彼女の力が、より一層強くなったように感じた。


「レナ?このままどこへ向かうの?(私)」


「離さないから。大丈夫。ずっとそばにいるから。一人にはしないから。(レナ)」


「う…うん…(私)」


彼女の足元には一切の迷いがない。道なき道を進んでいるのがわかる。(いったいどこに向かっているんだろう。それに、レナは疲れてないのかな…)引っ張られるたび、彼女と同じペースで私の足が動く。自然と前かがみになった私の体は、一歩踏み出すたびに大きく揺れる。


(まだ着かないの…?)


自然とそんな言葉が、頭の中に浮かぶ。そんな私とは違い、彼女は全く息を切らしていない。というか、呼吸を感じない...。


私は思わずレナに聞いた。


「いったん…休憩しようよ…。まだまだ歩き続けなきゃ…ダメなんでしょ…?(私)」


その瞬間、ひたすらに動き続けるしかなかった私の足が止まり、上半身だけが、前に投げ出されるように感じた。同時に彼女の体にぶつかり、今度は後ろに倒れそうになる。私の手をギュッと握った彼女の手が、しっかりと私の体を支えている。


前から冷たい風が、私の頬を撫でるように吹くと、レナがこっちを向いた。彼女は笑顔だった。


「ナオ疲れた?じゃあ休憩しよう。慌てなくてもいいから。ほら、ここに座って。しっかり休憩すればいいよ。(レナ)」


地面に指をさしながら、嬉しそうにレナは言った。彼女が手を離した瞬間だった。私の体はその場にストンと落ちた。


彼女も私の横に座ると、そっと私によりかかった。その重さにおされ、私の体は隣の木に押し付けられる。立ち上がるには、またレナの力が必要だ。いつ"あれ"が現れるかわからない。動かない体が、より一層焦りを感じさせる。


しかし思ったよりも長く、レナはこの場で休憩するつもりのようだ。疲れているのだろうか。しかし、全く息が上がっていない...。彼女の体と木が、私の体を挟んで離さない。私はただ、レナが再び歩き出すのを、待つしかなかった...。


その時だった。まったく動きそうになかった体が、急に飛び跳ねるような感覚を感じた。


右手に氷の塊でも押し付けられたかのような感覚だ。


その氷の塊から逃げるかのように、右手は私の胸に飛びつく。心臓の鼓動を感じる。全く動く気配のない体とは反対に、心臓はひたすらに動き続け、私の体を必死に温めようとしている。


すると今度は、冷たい風が私の耳元を冷やす。


「ごめん、びっくりした?(レナ)」


その言葉を聞いて、私はようやく寄りかかった彼女の左手が、私の右手に触れたことを理解した。


いや、まだ理解できていない...。


気が付けば、体全体が氷のように冷たくなっていた。


まるで彼女に触れている部分から、体温を吸い取られているかのようだ。


冷や汗で服が濡れている。


服についていた灰はもはや服の一部となり、完全になじんでしまっている。私の体と、服についた灰、そして彼女の体が一つの塊となって溶け合っていくような錯覚に陥った。


だんだんと右腕の冷たさを感じなくなってきた...。


(レナ…ごめん…いったん…)


自分でも驚くほどに、冷え切った喉は声を発することを許さなかった。代わりに気持ち程度の吐息が、私の体温を外へと運ぶ。


「もう動かなくてもいいんだよ。私がいるから。ね?(レナ)」


彼女はそう言いながら、私の顔についた汚れをそっと拭いた。その指の動きは余りにもなめらかで、関節がない生き物のようだった...。


彼女が触れるたび、私の体は地面に氷漬けにされるような感覚に陥る。


彼女と目が合った。


こんな状況には似合わない、とびっきりの笑顔で私の顔をにらんでいる...。


その笑顔を見て、私は言葉を失った...。


静寂が私たちを包む。木々が揺れる音さえしない。この嵐の前の静けさには、もううんざりしている。


皮肉にも、これまでの"あれ"から逃げてきた経験が、思い出のように頭の中に浮かんでくる。


(また逃げなきゃな…いや、いっそ私も含めて、全部壊してもらおうかな…。うん、そのほうがいい。)


私は初めて、"あれ"が来るのを待った。望んだ…。


その時だ、まるで私の気持ちを理解したかのように、懐かしい振動が、地面から伝わってきた…。


暗闇の中、彼女の笑顔が一瞬にして崩れた瞬間を、私は見た。


いや、崩れたのではない。笑顔の形のまま、彼女の顔の皮膚が引きつり、獲物を死守しようとする獣の相へと変わっていた。


地面の振動と、彼女の震えがぶつかり合う。


彼女の震えは、おそらく恐怖なんかではない。背後から迫りくる"あれ"に対する、凄まじい敵意からの拒絶反応なのだろう。


私の口からは、絶望と安心の、大きなため息が出る。


ようやくこの時間が終わる。そう感じた。


少しずつ強くなるその振動を、彼女も感じたのだろう。私を気遣うように、そして追い詰めるかのように、彼女は私の体を強く抱きしめる。


本当に強く…。


地面の振動と、彼女の震えが私の体でぶつかり合う。


(苦しい…。)


締め付けられた体は、反り返り、レナの体におしつけられる。普通に呼吸することも許さない。


目の前が歪んでいき、自然と瞼がおりてくる。


(あぁ…私…死ぬのか…)


ようやく私は...やっとの思いで…死んでしまうのだろう…。


死への恐怖とか、生きる希望とか、そんなものが今の私にあるはずがなかった。


そう…そんなもの…もうどうでもよかった…はずだった…。


(助けて…)



読んでいただきありがとうございます。第九章いかがでしたでしょうか。

今回はこれまでの章にくらべて、少し長くなりました。(第一章を除く)


反省

章の長さや区切り、題名など、物語の構成やそれぞれの章のテーマなどを、シナリオ制作の段階でもう少しはっきりとさせておくべきでした。それぞれの章において、いろいろとばらつきが出てしまっております。

今作はとりあえず完結まで勢いで書いてみますので、応援よろしくお願いいたします。


感想やアドバイスなどもお待ちしております。

次回はいよいよ第十章!!現在制作中ですので、お楽しみに!!

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