光に魅入られて...
私の作品に興味を持っていただきありがとうございます。
こちらは第六章です。
物語の世界へ行ってらっしゃいませ!!
限界を迎えたはずの体が、壊れることを顧みず前に進み始めた。
なぜだろうか、いっそこのまま眠ってしまおうと思っていたはずが、たった一つの恐怖ですべてが変わってしまった。
頭の中で、"あれ"を見た記憶が蘇る。
皆いなくなった。
"あれ"が、私たちのキャンプを、
楽しい時間を、
一生の思い出を破壊した。
胸の奥で、"あれ"に対する恐怖と憎悪が込み上げてくる。
しかし同時に、"あれ"ではない、忘れてはいけない存在が頭をよぎる。共に逃げた...いや...逃げるはずだった...大切な存在...。
(ミユ...)
動き出したばかりの両足の勢いが、一瞬にして殺され、上半身が前方へ投げ出されそうになった。
必死に自分に言い聞かせる。彼女との最後の時間、目の前にいたのは、確かにミユだった。
しかしそうであれば、なぜ今彼女は自分と一緒にいないのか。
(は、はぐれちゃったんだよ。そう、一緒に逃げて、気が付いたらミユがいなかったんだよ...。だって...そうじゃなかったら...)
必死に自分に言い聞かせる...。
でも無理だった...。
"彼女"に触れたときの凍てつくような感覚を、忘れられるはずがない。自然と視線は両手に向く。反射的に"彼女"を突き落とした両手だ...。
心臓が焦りだした。体中の血液が、混乱して走り回るような感覚に襲われる。
肺も焦りだした。呼吸のしかたを忘れてしまったかのように、吐き出した空気を、必死に吸い上げようとする。
頭の中が真っ白になった。
気が付くと、両足が暴走したかのように動き出していた。暗闇の中、ひたすら進み続ける...。そして逃げ続ける...。"あれ"から...、"彼女"から...、罪の意識から...。
どれほど進んだだろうか...。暗闇が私の方向感覚を殺し、ずっと閉じ込める。唯一、この上り坂が、山を登っていることを教えてくれている。しかし、目的地もなく、足が動き続けるわけがなかった。
もし、この暗闇の先に皆がいて、バーベキューをしていて、私を待っていたら...。
暗闇の中、微かにでも、レナのつけてくれたあの火の明かりが見えたら...。
(私は何を考えているんだ...。でも...)
期待とか希望とか、そんなものではない。こんなことでさえ、何か考えていたかった...。頭の中にいつまでもい続けようとする恐怖体験を、消し去りたかった。必死に重たい頭を上にあげ、少し上のほうを見上げる...。
しばらく私は、その場で固まっていた。上を見上げても、どうせ暗闇だという根拠のない核心をしていた。いっそ暗闇であってほしかった...。
しかし私は、その場で固まってしまった...。
自然と目が見開き、顎が脱力したかのように下に落ちる。
そこには無限に広がる夜空の光があった。
この場が真っ暗闇であることを改めて教えてくれている。写真や映像では見たことのあったそれは、これまでの写真や映像が偽物だと感じてしまうくらいに輝いていた。
「あれは...オリオン座...」
私は支配された。いや、自ら選んだのかもしれない。暗闇を進み続けた私にとって、それはすべてを許してくれる女神様のようで、私を包み込んでくれるような優しさを感じた。
中学生のころ、理科の授業で星について勉強していた記憶が思い出として頭の中に浮かぶ。
白い光や少し赤い光、強い光や弱い光。一つ一つが同じようで違う。
(流れ星とか...さすがにないか...)
気が付けばそんなことを思っていた。
(綺麗...)
その瞬間、私の視線は一瞬で下に落ちた...。
私の体から非情にも悲鳴が聞こえたのだ。最後に食事をしたのはいつだっただろうか。空っぽの胃袋が、私を夜空の支配から解放した...。
(うるさい...)
腹部に左手を強く圧し当てた。
さらに体が悲鳴を上げる。鳴りやむはずがなかった...。
腹部と同時に、足元に広がる暗闇が私の視界を埋め尽くす。まるで、私が夜空の幻想から帰ってくるのをずっと待っていたかのように...。
私は逃げるように視線を上に向けようとした。
すると上から、ぽつんと何かが、私の頭を押さえつけるかのように垂れてきた。
一回...いや、二回、三回とぽつぽつ水が降ってきた。上を向くな、逃げるなと言わんばかりに、どんどん勢いが強くなっていく。
(嫌だ...)
慌てて両手を額まで上げ、自分の視界を守りながら、さっきまで空にいたあの女神様にもう一度助けを求めようとした。
逃げようとした...。"あれ"から、"彼女"から、罪の意識から...。
私の頭を殴り続けるその勢いに逆らい、私はもう一度夜空を見上げた。
真っ暗だった...。
ストンッと両手が落ちた。あっという間に、女神さまは私を見放したのだろうか...。おそらくそうだ。罪から逃げようとする私を、女神さまは見抜いたのだろう。
だが、ようやくこの暗闇から逃れることに対する諦めがついたと思うと、変に脱力感を覚え、緊張していた体が一瞬でほぐれたような感覚に陥る。
視線がゆっくり下に落ちていくその時だった。
夜空ではない、自分から少し上くらいの場所だ。遠くに、でも自分の足で行けそうな距離に、ぽつんと一つ、オレンジ色の光が見えた...。
足が動き出す。せっかく諦めた私にとって、その光が希望のように見えてしまった。あそこに向かえば何かが変わると、そう思ってしまった。
暗闇を照らすオレンジの光、それはかつてレナが火おこしをしてくれた時のそれを思い出させる。びしょ濡れの体が、そうであってほしいと願っているだけかもしれない。
同時に、ミユと二人で目撃したあの惨状の記憶も蘇る...。
真っ暗なキャンプ場...。それを私はすでに見た。サキとレナがいたはずのあの場所...。そこに置き去りにしてしまった相棒のことが頭をよぎる...。
どことなく、また皆に会えるかもしれない、何事もなかったかのようにキャンプができるかもしれないと、そんな気持ちがわいてきてしまう。
私はその光に吸い込まれていくかのように、暗闇の中、山道を進んでいく。
ぐっしょりとした服、水を吸いすぎた靴、踏み込むたびに足を掴んで離さない地面、それらすべてが、あの光から私を遠ざけようとしているように感じる。でも私は止まらない。あの光にたどり着くまでは、止まれない。その一心で今の私は自分で一歩を踏み出している。
近づくにつれ、その光がどことなくゆらゆらと揺れているように感じた。そしてだんだんと、火柱へと姿を変えていく...。
まだ遠くだが、確かにあれは火柱だ。レナがつけた小さな火とはわけが違う。あれは炎だ。こんな山の中で、存在していいのかと疑いたくなるような大きな炎。
そもそもこんなずぶ濡れの状態で、なぜ火柱ができてしまうのか私にはわからなかった。そう思った瞬間、ひたすら私の体に、空から打ち付けられるこの液体が、やけに油のようにドロッとしているように感じた...。
ここから見ているだけでも、炎が勢いを増していくのがわかる。
自然と歩くペースが速くなる。早くあの光まで行ってあげないといけない気がした。
慌てて足を動かしたその時、左足が大きく後ろに引っ張られるよな感覚に陥る。同時に体が前に叩きつけられた。必死に立ち上がろうとするも、地面は私の力を受け止めてくれない。
これまで私の足をしっかりつかんで離そうとしなかった地面が、急に私を嫌いだしたかのように無視する。
体を動かし、必死に手を伸ばす。たまたま触れた岩場に、全身でしがみつく。
降る続ける液体が、私の体をその岩場に押さえつけようとしているように感じる。その勢いに私は逆らい続ける。なんとしてでも、私はあの炎のもとへ行きたい。
(待ってて...)
誰が待っているかなんて知らない。誰もいないかもしれない。しかし勝手に、頭の中でそんなことを思う。
岩場に体を預けながらゆっくりと、でも確実に光のほうへと進む。
だんだんと視界が明るくなってきた。
ようやく私は到着した。しかし体が震える。なぜが、この場に来てから一歩を踏み出せない。視線も下を向いたまま。前へと向けられない。この先で待ち構えている何かに対し、直感的に拒否反応が出ているとでもいうべきか。
しかしその時、これまで私の体を濡らし続けた液体が止み、スゥーっと重荷が消えていく感覚に陥る。まるで顔を上げろと言っているようだ。
恐る恐る重たい頭を上げた...。目の前の光景を見た私は、いったいどんな表情をしていたのだろうか...。
どうやら彼女は、まだ肉を焼いているみたいだ...。
巨大な火柱の中で、自分の体も焼きながら...
読んでいただき、ありがとうございます。いかがでしたでしょうか。
この章は、制作に少し時間がかかりました。表現の仕方や、改行など、何度も試行錯誤をしてとりあえず勢いで書いたところも否めません。
ご感想やアドバイスいつでもお待ちしております。また、応援したいと思ってくださった方はぜひともお願いいたします。励みになります!!
第七章投稿予定ですが、第六章に引き続き制作が少々難航しております。
第五章までは、事前に書いた簡易的なシナリオを主軸に、コンスタントな投稿を続けてきましたが、第六章からは、シナリオも含め、いろいろと見直しを行っております。
気長にお待ちいただけますと幸いです。
第七章もお楽しみに!!




