一寸先は...闇...?
この作品に興味を持ってくださり、ありがとうございます。こちらは第三章となっております。
第一、二章がまだの方は、ぜひそちらからお読みください。
それでは、物語の世界に行ってらっしゃいませ。
疲れているのだろう。私はゆっくりその場で暖をとり、肉が焼けるのを今か今かと待ち続けた。そしてこの素晴らしい時間をしっかりと思い出にしようと、レナがカメラを回す。
「はーい、こっち見てー。(レナ)」
みんなそれぞれ好きなポーズをする。私はシンプルにピース。頑張って笑顔になったつもりだが、あまり自信はない。しばらくポーズしていると
「動画でーす。(レナ)」
その一言でまた場が和む。するとよっぽど疲れた顔をしていたのか、サキが私に声をかけた。
「ナオお腹すいてるでしょ?テントから紙皿と紙コップ、あとタレ持ってきて。そうすれば準備万端!!(サキ)」
サキはニコッとした笑顔でそう言った。それにしても、昔から顔に出るタイプだとは感じていたが、サキに気を使われるほどなのは我ながらびっくりした。それでも目の前で良い匂いを漂わせながら、きれいな茶色に変化していく肉を前にして
「了解!!(私)」
と久しぶりに大きな声が出た。私は食べるのが好きだ。それに目の前でサキが焼いてくれた肉だと思うとさらに食欲がわく。唾を飲み込み、急いでテントに向かおうとしたその時、
「ナオ―、私トイレ行きたいから一緒に行こー?(ミユ)」
ミユが私に甘えるようにお願いしてくる。大学でも、ミユがよく周りの誰かをトイレに誘っているところを見かける。思えば、私もしばらく行ってなかった。
「いいよ。一人だと危ないしね。(私)」
「ちょっとお腹痛いんだよね...。(ミユ)」
「うん、大丈夫。(ミユ)」
トイレは少しだけ山を下る必要があったがそこまで遠くはない。来た時に場所は確認済みだ。ちなみにサキとレナは二人で待機。あっちも二人でいたほうが安心だろう。あっという間に真っ暗になった空のもと、懐中電灯を片手にミユと二人で山を下る。
ギリギリ二人が横に並んで歩けるくらいの広さで、足元には山道らしく、石や枝などがこれでもかと落ちている。自分たちの足元だけが懐中電灯に照らされている。そのため、正面を見てもそこは真っ暗で何も見えない。文字通りお先真っ暗だ。
来たときは登っていたためかなり大変だった山道も、下るとなれば確かに足が軽い。というか、自然と早歩きになる。さっきサキとミユに驚かされたせいか、無意識に後ろを警戒していた。ちなみに後ろを振り返ろうとは思わなかった。振り返ってもどうせ真っ暗。それに先ほど、テントの重りを運んだ時に感じた、ミユに対する違和感が、頭の中をよぎる...。
自分からミユのほうを見ることができない。せっかく二人でいるのに、まったく会話が弾まない。何もされていないのに、体から冷や汗が出ている。そんな空気の中、ひたすらに山を下っていく。懐中電灯で照らさないと何も見えないため、慎重に進まないといけない。安全な柵があるわけでもないし、道中電機は一切ついていない。あたり一面、本当に真っ暗だ。
「ねえねえ…(ミユ)」
(びくっ!!)
「なに?…(私)」
ミユが口を開いた。
「今日寝る前に怖い話大会しない?(ミユ)」
ミユはこういうのが大好きだ。そして私がこういうのを苦手としているのも十分知っている。
「絶対いや!!それなら私はすぐ寝るからね!!(私)」
「えー、怖がってるナオを見るのが楽しいのになー。(ミユ)」
相変わらずのミユのようで、少し違う。元気が無さそうだ。しかし、せっかく会話が始まったのだ。この会話を途切れさせないよう、私は必死に話題を作った。
「そういえばミユって、バイトしてたよね。確かカフェだっけ?(私)」
「そうだよ…(ミユ)」
「どうしてカフェを選んだの?家から近かったから?(私)」
「う、うん…(ミユ)」
なんだかミユの様子がおかしい。声が小さく、息が荒い。お腹を押さえている。足取りも重い。苦しそうだ。
「ミユ、大丈夫?(私)」
「…えへへ…大丈夫…だよ…ちょっとお腹…が、痛くて…(ミユ)」
私は知っている。ミユは強がりだ。私の前では絶対に弱みを見せない。だからこそ、この言葉はミユからの最大のSOS。
「もうすぐだと思うから、トイレ、あと少し。(私)」
それにしてもかなり山を下った気がする。そろそろ着いてもいいころだ。私は懐中電灯であたりを照らす。するとぽつんと一つ、トイレがあった。まるで、今そこに現れたかのように...。
いったいいつ建てられたのだろうか。懐中電灯で照らしたその建物は、まるで今そこの地面から顔を出したお化けのような不気味さを感じる。光が届かない奥が、息をひそめてこちらを見ているようだった。
ミユに肩を貸すと、彼女が完全に私に体を預けているのを感じた。彼女に合わせ、ゆっくりと入り口まで足を運んだ。
「ナオ、マジサンキュ!!(ミユ)」
ミユが笑顔になった。
「それじゃ、ちょっとだけ待ってて。怖くなっても勝手に逃げちゃだめだよ?(ミユ)」
そう言うと、ミユは一人でトイレの中へ入っていった。ついでだ。私も行こう。トイレの中に入ると、中は意外と広かった。一つドアが閉まっている。おそらくミユが入ったのだろう。でも全く音がしない...。
シーンと静まり返ったその場所では、私以外に、人がいる気配がしなかった。スゥーっと冷たい風が私の背中を押すようにして吹いた。トイレの奥が、私を飲み込もうとしているようにさえ感じた。最も出口に近い個室を使い、急いで手を洗うと、私は足早に外に出た。また暗闇が私を迎える。まだミユはいない。苦しそうだったし無理もない。でも早くミユには出てきてほしい。
サキとレナに連絡しようと思ったが、スマホをテントにおいてきてしまった。
(ほんと、こういう時に限ってだ。)
あいかわらず鳥や虫の鳴き声はいっさい聞こえない。代わりに、冷たい風が私の鼻から体に入り込み、内側から私を冷やしていく。周りの木々が、風と共に揺れ動く音がかすかに聞こえる。私はその場でじっと、ミユを待つしかなかった。
どれほど時間がたっただろうか、トイレから水が流れる音が聞こえた。もうすぐミユが出てくるのがわかる。充電が心配で、懐中電灯の電源は切っていた。再び電源をつけ、トイレの入り口の足元を照らす。
その時だ、心臓が飛び出そうだった。体中に鳥肌が立ち、とっさに懐中電灯の照らす先を自分の足元に切り替える。足が見えた。ミユ…の足が...。
当たり前である。ミユじゃなかったら、いったい誰だというのだ。しかし、もう一度彼女の足元を照らす勇気がない。そのため私はミユに声をかけた。
「大丈夫?かなり苦しそうだったけど…(私)」
すると目の前の暗闇から、冷たい風と共に返事が聞こえた。
「...大丈夫だよ…(ミユ?)」
確かにミユの声だ。でもその返事を聞くと、なぜか体が固まった。なぜなら、返事にあまりミユっぽさを感じないからだ。すると暗闇から徐々に足音がこちらに近づいてくる。私は思わず目をつぶり、もう一度ミユに話しかけた。
「ミユ?懐中電灯ある?トイレに忘れてない?(私)」
あまりにもとっさに出た言葉だった。すると
「…大丈夫だよ……(ミユ?)」
同じ返事が返ってきた。さらに足音が近づいてくる。
コツ、コツ、コツ、コツ…
「ほら!!(ミユ?)」
「きゃーーー!!(私)」
私の甲高い声が山の中に響き渡る。足に力が入らない。立ち上がれない。心臓がバクバクと脈を打つ。全身に血が猛スピードで駆け巡るのがわかる。
(はぁ、はぁ、いやだ、ミユ!!)
しりもちをつくと同時に懐中電灯を手放してしまう。するとそのまま転がった懐中電灯は私の目の前に広がる暗闇を照らした。
(ひぃ!!)
体中が震え上がる。いやでも目の前の明かりが目に入る。すると…そこには….ミユがいた…..。
「アハハハハ、どう?怖かった?アハハハハ(ミユ)」
どうやらまたミユにしてやられたようだ。
「ミユ!!やめてよ!!(私)」
体の奥底にたまっていた恐怖が一気に口から外へ出た。
「ごめんごめん、ナオが一番いい反応をしてくれるからさ、つい。(ミユ)」
ミユにはまだ笑顔の余韻が残っている。
「まさかこんなことやるために私をトイレに誘ったわけ?そんなに私を怖がらせるのが楽しいわけ?(私)」
震える喉からはっきりと声が出た。
ミユの表情がかわり、私は我に返る。
「いや、ナオと一緒に行きたかった。それだけ…」
ミユは私と目を合わせようとしない。一瞬にしてこの場が凍てつく。何も聞こえないこの時間が、私の心を締め付ける。こんなはずではなかった。懐中電灯がミユを照らし、どうするべきかを私にゆだねているようだった。
懐中電灯を拾い、自分の足元を照らす。さっきよりもミユがぼんやりとしか見えない。今なら、少しミユに声をかけられる気がした。もう喉は震えていない。でもなぜか、うまく言葉が出てこない。
「早く戻らないと、サキたちが心配しちゃう。(私)」
先に歩き出すことで、ミユにも帰ることを促す。しかし彼女の足音は聞こえない。代わりに不規則に鼻をすする音が聞こえる。
「ミユ?いくよ。(私)」
少しずつだが足音が聞こえる。だが彼女はまだ暗闇の中だ。まるで自分の姿を隠しているかのように。懐中電灯の明かりが、木々の根元を細かく照らす。息が上がる。汗が冷たい。彼女の足音を気にしながらも、少し距離を置いて歩く。すると彼女の震えた声が私の足を止める。
「待ってよ…(ミユ)」
低く震えるような声だった。思わず私は振り返った。そこには相変わらずの暗闇が広がっていた。そこからコツコツと彼女の足音だけが聞こえてくる。私はじっと彼女が来るのを待った。
するとぼんやりとした彼女の姿が、うつむきながらこちらに近づいてきた。いつもの、ちょっと頼りない笑顔。でも来た時の元気は完全に消えていた。頬が妙に白い。唇の色が薄い。
「おいていかないでよ…(ミユ)」
どっと重たく冷たい風が彼女の声を運んできた。語尾が少し掠れているように感じたが、気のせいだろう。しかし初めてミユが見せた様子に、私の意識は支配された。
「うん...もちろんだよ。一緒に戻ろう。サキとレナが待ってるよ。(私)」
疲れていながらも、私は頑張って笑顔を見せた。自然と彼女に手を差し伸べ、気が付くと隣り合って一緒に歩いていた。
息が上がり、冷たい汗が首筋を滴る。額からもぼたぼたと垂れ、胸元をつかむとぐっしょりと濡れていた。一歩一歩が地面に沈み、鈍い音をたてる。地面が私の足をしっかりとつかんで離さないようだ。しまいには、冷たい向かい風が私の体を押し戻そうとする。私の体は、まるで重りを何個も背負っているかのように、地面に引っ張られる感覚だ。
しかしこれらよりも私を苦しめることがある。どれだけ登っても、いっこうにサキたちがいる場所が見えてこないことだ。目印となる火の明かりが、こんな暗闇で見えないはずがない。
「ねぇ、なんか変じゃない?(ミユ)」
震えた声が私の足を止めた。足元を照らしていた懐中電灯を、自分たちの周りへと向ける。するともうすぐそこに、私たちがキャンプをしていたあの場所が広がっていた。たった今、そこに出現したかのように...。
真っ赤な火で照らされているはずのその場所は今、懐中電灯の明かりで照らされている。そんな中、変わらずにたたずむテントが、この場所の異質さを際立たせる。
ゆっくりと足を踏み出し、さらにテントに近づく。すると感じていた異変が確信へと変わっていく。やはり、火柱は跡形もなく消えている。熱も感じない。まるで初めから、そこに火なんてなかったかのようだ...。
読んでいただき誠にありがとうございます。いかがでしたでしょうか。第三章はこれにて終了です。
睡魔と戦いながら書いた章なので、誤字脱字がひどいかもしれません。
また、少し急展開過ぎたかもしれません。
第四章も投稿予定です。感想やアドバイス、お待ちしております。




