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[BL]めぐりくる心の名において  作者: 地底乃人M


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12/31

バス停にて


 ほんとうの気持ちをことばにあらわせない性分の湯村とちがい、水島は誰とでも親しい口を利ける男だ。帰りのバスを待つ湯村のところへ、自転車のハンドルを押しながら近づいてきた。



「星野さんは、いいの?」


「まだ教室にいる。彼女、サークルにはいってるから、帰りは別々なんだ」


「そっか」


「いいもなにも、いっしょに帰る約束もしてないし」


「星野さんは、水島が誘えば断らないと思うよ」


「その話はいいよ。おれは、さっきのつづきを云いに来たんだ」



 ガチャンッと、自転車を停めてとなりにならぶ水島は、しばらく沈黙した。教室でなにかを云いかけたのはたしかにつき、湯村は耳だけかたむけた。やがて、水島はいつもより声を低めて語りだした。



「おれさ、告白されたんだ」


「……そう、よかったね(星野さんに?)」


「よかったかどうかは、最後まで聞いてから判断しろよ。相手は男なんだぜ」


「男……?」


「ああ、全然知らないやつ。玄関でラブレターをよこされて、今もここにあるけど……、こういうのは、ひとに見せるもんじゃないよな」



 水島の間口の広さに驚いたが、男女ともに気心を許せる人物であることは湯村も納得した。水島は、わずかなやりとりで相手の信用をえる達人だ。しかも、簡単には裏切らない。リュックのポケットをさぐるふりをするだけで、実際のラブレターは(たとえ友人の湯村であっても)見せなかった。



「……どうするの、返事」


「それなんだけど、湯村に相談があって」


「ぼくに?」


「悪いけど、男とはつきあえない。だから、断ろうと思うんだ」



 水島のことばを受け、血の気が引いてゆくのがわかった。急ぐわけでもないのに、早くバスがこないか、車道へ身を乗りだした。


「そんなにまえにでたら危ないぞ」


 湯村の上膊をつかむ水島は、「やっぱり、こんな話きかされたくないよな。ごめん」と、ひとこと詫びた。もとの位置へ引きもどされた湯村は、「そんなことない」と首をふったが、自転車のペダルに足をかけ、「またな」と走りだす。水島はもっと相談したかったはずなのに、湯村が動揺したことで早々に切りあげた。



「み、水島、待って……!」



 自転車のスピードに追いつけるほど、俊敏ではない。バス停から動けない湯村は、あわてて携帯電話を手にしたが、指が慄えてうまく文字を打てなかった。


「どうしよう、水島……、水島……」


 もともと人づきあいは不得手だが、水島にたいして、あまりにも無力すぎる。彼がラブレターの件で困っていることは明白につき、友人としての義務を果たそうと思った湯村は、到着したバスを見送り、教室へもどった。女子学生の話し声が聞こえる。星野の姿を見つけると、はじめてじぶんのほうから歩み寄った。


「ちょっと、いいかな」


「あれ、湯村くんじゃない。帰ったんじゃなかったの」


「水島の家を知りたくて……」


「水島くんの? たしか、本町の郵便局の近くだって聞いたけど、住所までは知らないわ」


「わかった。ありがとう」


「え? まさかさがすつもり?」


「うん。ぼくは、行かないと」


 気ぜわしく教室をあとにすると、女子学生の笑い声が廊下までひびいた。「なにあれ、必死じゃん」「あのふたりって、あやしい関係なの?」「いやいや、どう見ても水島くんはノーマルでしょ」「湯村くんって、そっち側(、、、、)なのかなぁ」「そっちって?」「受け身って感じ」「たしかに、云えてる。前髪が長くてわかりにくいけど、かわいい顔してるもんね~」



 大学のある地域にくわしくない湯村は、携帯電話で本町の郵便局を検索すると(もう指の慄えはとまっている)、地図を表示して向かった。表札や庭の自転車に目を配りながら歩いていると、運よく、コンビニの駐車場に水島のものと同じ自転車を発見した。追いついたと思い、横断歩道の信号待ちをしていると、うしろから手のなかに指がすべりこんできた。


「うわ!?」


 その感触に驚いて反射的にふりはらうと、「過剰反応だな」と茶化された。


「鷹尾さん」


「おまえ、こんなところで、なにやってるんだ?」


 図面ケースを肩がけにしてたたずむ鷹尾は、今朝も木立ちの途中で顔をあわせていたが、湯村の記憶はぼんやりとして、あいまいだった。


「あなたこそ、授業にはでないくせに、どうして大学にくるんですか」


「いきなりだな」


「鷹尾さんだって、いつもいきなりです」


「そのほうが愉しめるだろ」


「な、なにを……?」


「湯村がうろたえる姿とか」


「そういうのは、もう充分です」


 信号の色が青に変わったので、横断歩道へ向きなおると、うしろ抱きにされて赤面した。西陽(にしび)(かげ)っていたが、視野はまだ明るい。通行人だけでなく、コンビニの自動ドアからでてきた水島に、湯村と鷹尾のようすは見て取れた。



「は、はなして……!」


「さわぐと、よけいに目立つぞ」



 トートバッグをふって抵抗すると、さらにきつく抱きしめられた。耳もとに感じる鷹尾の息づかいが、湯村の全身を熱くする。反応するまえに、なんとか鷹尾の腕をはらいのけた。


「どこへ行く」


「バス停です」


「ここまできてあきらめるのか」


 鷹尾のせりふは、これまでの経緯(いきさつ)を見ていたかのようで、湯村はムキになって云い返した。


「ぼくは最低な友人だ。彼が悩んでいても、なんの力にもなれない。こんなところまできて、それがやっとわかった」


 陽気にふるまういっぽうで、水島は困っていた。大学では誰よりも近くにいて、気づくことができなかった湯村は、鷹尾に八つ当たりをした。


「お子さまだな」


「どうせ、ぼくは子どもだ。あなたみたいに、器用には生きられない」


「湯村は、おれのなにを知っているんだよ」


「さあ、なにも知りません。失礼します」



✦つづく

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