第四十話 メレス邸でのひと時…… その1
「――帰ったわよぉーーッ!!」
「お、お邪魔しますっ!」
現在時刻は午後の十七時を過ぎた頃、イルマはセラの屋敷に泊まるため、セラと二人で屋敷の玄関口に入っていた……
「…………はい。お帰りなさいませ、お嬢さ――まっ!?」
「あぁー、アンナ……今帰ったわ!」
「おっ、お嬢様っ!?ど、どうされたのですかっ!?その、お姿はっ!?……それに、隣の方は……」
「……ひっく!うぅー……ちょ、ちょいとお酒を飲んでてねっ!……この子は、イルマよ……私の、お友達!」
セラがアンナと呼んだそのメイドは、セラを見るなりその表情を大きく変えて驚いている……
「お嬢様!!大丈夫ですかっ?」
「ええ!ちょっと、酔ってるだけよっ!だから、心配はいらな――」
セラはイルマの肩から手を離して独り立ちしようとする――
「――おっとっ!?」
だが、イルマの肩から手を離した直後!セラはガクン、と崩れるように膝から床に落ち、手をついた。
「――お嬢様ッ!!」
アンナと呼ばれるそのメイドはセラが突然、膝を突いて床に崩れ落ちたので慌てて駆け寄る――
「……なんか、眠いな……すっごい眠い、飲み過ぎた……か……?」
「だ、大丈夫ですか!?お嬢様っ――どこか、お体にご異常が――」
「……あぁーー、いや……ちょっと、眠いだけよ……」
「セ、セラ……大丈夫……?」
アンナはセラの肩に手を置き介抱している……イルマも心配そうな顔をしてセラを見て……
「…………んーー……イルマ……私、ちょっとだけ眠るわ……せっかく、お泊まりしに来てくれたのに……悪いわ、ね……」
「だ、大丈夫だよっ!あたしは……だから、ゆっくり休んでね!」
「……ええ。そうするわ…………ありがとう」
セラはメイドのアンナに支えられて歩き……屋敷の中へと入っていった……
……………
………
「…………広い、部屋だなぁーー……」
少しして、イルマは……セラが休みにいった後、他のメイドに案内されて屋敷内のとある部屋に入っていた。
「こちらの部屋をご自由にお使いください、イルマ様」
「は、はいっ!あっ、ありがとう……ございます!」
イルマが軽いお辞儀をすると、屋敷のメイドは部屋を後にした。
「………………さて、どうしよっか…………うーーん、まずは……」
イルマは部屋の中を徐に歩き出し……窓際まで来ると薄い白いカーテンを開け、窓を開ける――
「…………んーー、綺麗……」
イルマは窓を開けて外の景色を眺めている……時は夕刻、空を真っ赤に染めながら太陽が、西の地平線へと沈んでゆく……都市の通りは帰路につく人々と、これから夜の街へ繰り出す人々で溢れていて……今は、ここ商業都市の一日の中で最も華やかしい時間帯の一つだ。
「……あたし、なんだか……やっぱり、未だに実感がないなぁ……つい、この間までは……こことは真逆、見渡す限りの大自然に囲まれた辺境の……なぁーんにもない、あたしが生まれ育った故郷の村…………なんていうか……ここに来てからずっと…………あたし……」
イルマがここ商業都市メルトアを訪れて、はや一ヶ月程……少女は、自分のいた辺境の村との文明のあまりもの違いに圧倒されながらも、なんとか……ここでの暮らしに適応しようと頑張ってきた……だが、やはり……まだ慣れてはいないようで……
「…………んーーー、これから……も、上手くやってけるかなぁ……あたし」
イルマは色々と考え込みながら部屋内をぼーっと見渡して、少し歩き……窓際の近くにある本棚の前にくると手を伸ばし……そこから一冊の本を取り出した……
「……海底遺跡に眠る……海の、秘宝……?」
イルマは窓際にある本棚の前で、取り出した本の作品名を読み……静かに本の表紙をめくり、読み出す……
「……………………………………………………………」
本棚の前で立ったままページをめくり、イルマは本を読んでいる……
「…………………………………………………(これ……おもしろいかも……)」
…………イルマは本を読んでいる……この作品の、大まかな内容はこうだ……この世界の、広い海……その海の底の底……果てしない広大な海のどこか……その海底深くに存在するといわれている海底遺跡、その遺跡のどこかに眠っているといわれている海の秘宝を……とある一人の探検家がその生涯をかけて追い求め続けたというのが、この作品の大まかな内容だ。
「……………………ふふふ……この主人公…………(生身のまま、泳いで海の底に行こうとするなんて……)」
イルマは小さく肩を揺らし、楽しそうに笑っている。
「……………………んーーー、やっぱり……こんな場所にでも、いたりするんだぁ……」
イルマの読んでいる本の主人公はどういうわけか、生身のまま海底の奥深く……海の底に近い付近まで到達できたようで……片手に持つ光源とともに海の、さらに奥……伝説とされた海底遺跡のある場所を目指して泳いでいた……だが、その道中で見たこともない未知の魔物に遭遇…………その魔物に襲われて探索は中断せざるを得ない状況になるも……無事、地上へと帰還…………だが……
「…………あぁーー、足……無くなっちゃったんだ……」
本の主人公は未知の魔物に襲われるもの、なんとか生き延びることができたが……魔物との交戦で片足を失う重傷を負ってしまったようだった……
「…………………………すごいなぁ……この人……」
本の中の主人公は片足を失った……だが、それをものともせずにその後も何度も目的の海底遺跡を目指して、海の底……奥深くへと潜り続けたようだった……
「…………んーー、座って読もっか……」
イルマは部屋内にあるベッドに腰掛け、本の続きを読み進めていくのであった……
…………………
……………
………
「………………………………あぁーーー、さすがに……やめちゃうんだぁ……」
現在時刻は午後の二十時半を過ぎた頃……イルマはベッドに座り、部屋内にある本棚にあったとある一冊の本を読み続けていた……
「…………そっかぁ……やっぱり、見つけられなかったんだ……」
イルマは現在、本を半分近くまで読み進めていた…………本の中の物語は一つの節目に入っていて、とある探検家の主人公は海の底にある伝説の海底遺跡を追い続けていたが……その後の探索も失敗が続いていき……とうとう片手まで失ってしまい、その結果……主人公は道半ばで自身の夢を諦めてしまったようだった……
「………………んーー……この後、どうなるんだろ……?まだ、半分以上もページが残ってるけど……」
イルマは本のページから視線をずらし、虚空を見つめている……
「……………………そういえば、海……といえば、アリス……アリスは人魚だったから、もしかして……なんか、知っていたりして…………」
イルマは、ぼーっと……何にもない虚空を見つめながら、セラと商人護衛の依頼で足を運んだ、港町エレイム……そこで出会った人魚の少女アリス……イルマはその人魚の少女のことを考えている…………っと、そんな時――
「――失礼します、イルマ様」
「――えっ!?」
ここ、セラの屋敷で働いているメイドの一人が突然……イルマのいる部屋に入ってきて――
「…………お寛ぎのところ恐れ入ります、イルマ様……今晩のお食事とご入浴のお時間について伺いに参りました…………お食事、ご入浴……どちらからになさいますか?」
部屋に入ってきたメイドは淡々と実務的に喋り、イルマに用件を伝える……
「…………え、えと……う、う―ん………………そ、それじゃあっ――……お、お風呂からでっ!…………お願い、します……」
イルマは少し慌てながらも、メイドの用件に答えて……
「……分かりました。ご入浴からということで…………では、参りましょう……ご案内いたします……大浴場へ――」
…………………
……………
………
「………………ふぅーー、あったかぁーい……」
少しして、イルマは……メイドの案内で屋敷内にある大浴場に訪れ……中に入り、頭と体を綺麗に洗って汚れを落として……大浴場の中央にある大きな浴槽の中の湯に浸かっていた……
「……ああぁぁぁ…………それにしても、ほんっと大きなお風呂だなぁ……」
イルマは大理石で形作られた大きな浴槽の端の方でダラリと体重を預けて湯に浸かっている……その肌はお湯の熱でほんのりと桜色に染まり……少女は、頬をほてらせて静かに目を閉じている……
「…………こりゃぁー……いいねぇ…………疲れが……消えてく…………ああぁぁ……」
イルマは目を閉じ、全身の力を抜いて温かい湯に身を委ねている……
「…………………………そういえば……セラ、大丈夫かなぁ……お酒には強いって言ってたけど……あれだけ飲んだら、さすがに……」
そんなことを口ずさみながら、イルマは……ゆっくりと目を開けて上を向き、天井の方をぼんやりと見ている……天井には美しい紫色の魔石灯が幾つも付いており、大浴場の中を淡い光で照らしていた。
「……………………あたし……これからも上手くやってけるかなぁ…………セラと……」
イルマは、大浴場の中の色鮮やかなステンドグラスの窓を眺めながら……そんなことを考えて……
「…………………………んー……んーー…………な……なん、か……急に…………んーー……あ、あったかく……なりすぎちゃった、かな……?」
何やら……イルマは急に、そわそわと体を動かし始めた……
「…………んんーー……」
……落ち着きがない様子で、イルマは……辺りを、大浴場の中をキョロキョロと見渡し……
「…………(そういえば……昨日……して、なかった……よね……?……あたし)」
イルマは両手でお股……下腹部の辺りを触りはじめた……
「…………………ぁ……ぅ…………うぅ………………あぁ……」
イルマは少し息を荒げ、股を開き……両手の……指で、自身の下腹部……秘所を優しく触っている…………………………そして――
「…………ま、まずぃ……ね……こ、こんな……場所で…………なに、やって……あたし――」
イルマは手を止めて、自身の秘所を触るのをやめると――突然立ち上がり――
「――こ、ここじゃダメだ……で、でも………………うぅ――…………どっ、どこか――」
イルマは、自身が浸かっている大きな浴槽の中で立ち上がると――首を振って、辺りを見渡す――……少女は落ち着きがなく、その顔……表情はかなり焦っているようで……
「………………あっ、後で――後でまた、入るからッ――」
少女……赤髪の少女は、自身が浸かっていた大きな浴槽から勢いよく出ると――落ち着きがない様子で大浴場を小走りで出て、脱衣所の中に入る――
「…………ぁ、あたしッ――」
……………
………
…………………………現在……少し時間を置いて……ここ、メレス邸内の……大浴場の中には、人の姿はなかった………………だが、不思議なことに……何処からともなく……妖しい声が、恐らく……大浴場を出てすぐにある、脱衣所の中から……聞こえていて………………
……………
………
………………こうして、時間は……時間は、ただ……ゆっくりと、ゆっくりと……過ぎていくので……あった――
―――――――
―――――
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