第三十九話 飲み過ぎには気をつけて……
現在、時刻は昼の十二時を過ぎた頃……イルマとセラの二人はスキル鑑定所を後にし、セラの案内でこの都市のとある飲食店に訪れていた。
「ん〜、楽しみーっ!絶対美味しいやつじゃん!この、ピザってやつっ!」
「ふふふ、ここのピザは絶品よっ!なんでも……この店の料理長は、ここメルトアはもちろん……国外、他の国にまでその名が知れ渡るほどの腕の持ち主みたいだから!」
「……そんなに凄いんだぁー!あたし……ピザ、まだ食べたことないから……超楽しみっ!はやくこないかなぁー」
イルマとセラは店内の席に座り、注文した料理がくるのを待っていた……
「…………ねぇ、セラ……さっきから何読んでるの?」
「……んー……新聞よ、今日のね」
「へー、セラって新聞とか読んだりするだぁー」
「ええ、毎日読んでるわよ。今日は、まだ読んでなかったから……さっき買ったのよ」
「ああ……そういえば、なんか買ってたね」
セラは席に足を組んで座って新聞を読んでいる……
「……ねぇねぇ、なんて書いてあるのっ?今日のやつ……」
イルマは首を傾け、隣に座っているセラが読んでいる新聞を覗き込む……
「んー?別に、大したことは書いてないわね……アルセデス、私の祖国の高位貴族が襲撃されたってだけ」
「……ええ!?それって……結構な大ニュースじゃないっ?」
「……まあ、最近はよくあることだし……特に、アルセデスでは……」
「……じゃあ、死んじゃったの?その、偉い人……?」
「いや、公爵は……当主の人は生きてるみたいね。まあ、それでも……その公爵の一族の人間や関係者はかなり殺されたみたいだけどね」
「……やっぱり、滅び神の祝会の人……なの?殺ったの?」
「ええ。犯行声明もでてるみたいね。……アイツら……何が目的なのかしらっ?」
「……滅び神の人達って……セラの国と敵対してるんだよねっ?」
「そうよ、まあ……なんでアイツらが私の国の貴族や王族を狙うのかはよく分かんないんだけどね」
「そ、そっかぁ……」
「ほんっと迷惑な話だわ。あんなヤバい奴ら、関わりたくもないわ!……まあ、でも…………い、いやっ!……う、うん……そ、そうね…………」
「……セラ?」
セラは何やら、複雑な表情で考え込んでいる……と、そんな時――
「――お待たせしましたっ!ご注文の品になります――」
このお店の女性店員が二人のいる席に注文した料理を持ってきた。
「おぉーっ!!きたぁ――」
イルマの目前には、大きな皿がある……皿の上には一枚の円形の生地があり、生地はこんがりと黄金色に焼き上がっていて、その上には色鮮やかな赤色のトマトソースが広がり、その熱でとろりと溶けた白いチーズが表面を覆っていた。
「おいしそう……」
イルマはテーブルの端に置いてあるピザカッターを使ってピザを切り分けていく……
「……ここを持つんだよね」
イルマは食べやすくカットしたピザの縁の部分を持つ、縁の部分には所々に焦げ目がついており、チーズの表面はぷくぷくと泡立っている……
「……おぉっ!すっごい伸びるっ――」
ピザを持ち上げると溶けたチーズが糸を引く……イルマは、あーんと口を開けて少し顔を近づけてピザを食べる……
「――んん〜〜!!美味しいぃ〜!」
イルマはモグモグと噛んで食べて頬がふっくらと膨らみ、本当に幸せそうな顔をしている……
「……ふふふ」
そんなイルマをセラは、テーブルに肘をついて片手の甲で頬を支えながら笑みを浮かべ、ぼんやりと見ている。
「…………美味しい?」
「……うんっ!!これめっちゃ美味いよッ!」
「そう……」
セラも目前にある自身が注文したピザを切り分け、食べる……
「……んんー、やっぱりオレンジって何にでも合うねっ!」
イルマは口のまわりについたソースを舌でペロリと舐めて、グラスに入っている冷たいオレンジジュースを飲む……
「……ジュースもいいけど、私はやっぱりこっちの方がいいわ!」
セラは大きめのグラスに入った冷たいビールを飲んでいる……
「……ええっ!?お酒飲んでるのっ!?セラっ!」
「……んん?だって、ピザといえばビールでしょっ?」
「で、でも……まだお昼――」
「――何言ってるのっ?昼間っからお酒を飲めるのは冒険者の特権よっ?」
「特権……」
「そうよ!それに……お酒っていうものはね、飲みたい時に飲むのが一番美味しいんだからっ!……今がそうなの……(色々と、あるけど……今考えたってしょうがないっ!……飲もう、今は……)」
セラはグラスに入ったビールをゴクゴクと飲んでいき……全てを飲み干す……そして――
「……すみませんっ!ビールの大ジョッキを追加で一つ――あー、やっぱり二つでっ!」
「――はい!かしこまりましたっ!」
セラは女性店員にお酒を追加で注文する――
「……セ、セラ……そ、そんなに飲むの……?」
「……ん?あったり前でしょっ!まだまだ飲むわよ!」
「……そ、そっかぁ……(大ジョッキって……いま全部飲んだやつだよね……?)」
イルマはセラの行動に少し驚いている……
……………
………
「――ぷはーっ!くぅー、効くわこれ!!」
セラは大ジョッキ片手にビールをゴクゴクと飲んでいる……顔は少し赤みがかっており、だんだんと酔ってきている。
「あぁー、最高!生き返るわぁー……」
ドンッ!と、セラはグラスに入ったビールを飲み干し、席のテーブルに勢いよくそのグラスを置いた。
「あーー、やっぱりビールだなぁー、ビールがいっちばん美味いわぁー……」
セラは大ジョッキに入ったビールを全て飲み干すと休む間もなく、次の一杯へと向かう……
「……あーーー、うんっまっ!」
セラは大ジョッキ片手に背もたれに深く寄りかかり、足を組んで気分よく余韻に浸っている。
「セ、セラっ!ちょっ、の、飲みすぎだよっ!」
「んーー?そんなことないわよぉー、だって……まだ、えーーと……四、五……うふふ……まだ六杯目じゃないっ?ぜーんぜん、大した事ないわっ!」
セラはグビグビと喉を鳴らしてビールを飲んでいる……飲み干した数はすでに五杯、それも全て大ジョッキでだ……
「あーー、やっぱ酒はいいなぁー…………幸せ、だわ……」
「……ビ、ビールってそんなに美味しいのっ?に、苦いんじゃ……」
「うふふ、それがいんじゃないっ?」
「苦いのが、いいの……?」
「……なんていうか、解放されるのよ……疲れが消えてって……嫌なことを……忘れられる……この苦味は、特別よ!」
「そう、なんだぁ……」
「イルマも、飲む?」
「……んーー、あたしは……いい、かな……今日のところは……ま、また……いつか、飲んでみるよ!」
「ふーん、そう……」
イルマは以前、セラと二人でお酒を飲んだ時のことを思い出しているようで……
「……それにしても……ここのピザは本当にビールによく合う、ふっくらとしてるのに表面はカリッとしてる……この店のピザ生地は最高ねっ!」
「だよねっ!チーズもすっごい美味いよっ!この……噛んだ後に伸びるのが……」
二人は完璧な焼き加減で形作られたピザを食べ、楽しそうに……食事を満喫している。
「……にしても、イルマって本当にオレンジが好きなのね」
「うん、大好きだよ!故郷の村でも毎日食べてたし……」
イルマはオレンジジュースを味わいながら飲んでいる。
「ふふふ、ならっ――今度、いいとこ連れてったげる!」
「……いいとこ?」
「ええ。あるのよ、この都市の近くに……広大なオレンジ畑が……」
「そ、そうなのっ!?」
「この都市、メルトアは世界的にもかなり需要のあるオレンジ輸出の名産地でもあるの、だから……ここにはオレンジを使用した様々な物があるのよ!食べ物から飲み物、美容品から動物などの飼料までねっ!」
「……あーー、だからかぁー……街の通りを歩いていると、オレンジを使った商品がいっぱいあったよ」
「入浴剤なんかもあってかなりいいわよっ!」
「……そんなものまで……(入浴剤、オレンジ風呂かぁ――いいなぁー、それ……)」
イルマは架空を見つめながらぼーっとしている。
「――っま!私は――」
セラは大ジョッキに入ったビールをゴクゴクと飲み――
「――ジュースもいいけど、やっぱりっ――こっちのがいいわねっ!!」
セラは席の背もたれにだらりと身を寄せ、気分良さげに笑みを浮かべている……
「……ふふ、飲み過ぎないようにね……」
イルマはそんなセラを見て、クスリと笑い……二人は食事をゆっくりと楽しむのだった……
…………………
……………
………
「……あ"ーーーー、あ"ーーー、あ"ーー……」
「セ、セラ!の、飲み過ぎだってっ!?」
「え"ぇーー、なん、て……?」
「だっ、だからっ!お酒飲み過ぎだよぉーッ!!」
現在時刻は午後の十六時を過ぎた頃……イルマとセラの二人はここ、メルトア市内のとある通りを歩いていた……
「……あぁーー、飲み……過ぎぃ……?なん、でよ……だって、私……まだ、十杯っも……飲んで、なかったじゃないっ?」
「十杯って……とっ、とにかくっ!飲み過ぎだよ!」
「んーー、飲み過ぎって……んーーー、でも……私……酔ってなんか、ない……わよ!」
「……十分酔ってるよ」
「そ、そうっ……?」
セラはフラフラと……イルマの肩を借りて、ゆっくりと歩いている……
「あの大きさのグラスで九杯は、さすがに飲み過ぎだよ……セラ」
「えぇーー、でも……途中何度か、おしっこ行ったよ!!シャアアーーーって!」
「……関係ないよ、多分……それ……」
「え"ぇーー!?いやぁ……抜けるでしょぉー、アルコール……」
「…………」
イルマは呆れた顔をして、セラを横目で見ている。
「…………んーーー、酔ってるかぁーー、私……あんまし酔ったりとか……しないんだけどなぁー……」
「……あれだけ飲んだら、誰でも酔うよ……」
セラはかなり酔っている……体中にアルコールが回っていて……酔いつぶれる寸前だ……
「家まで送るよ、あたし……」
「…………悪いわ、ね………………ふっ、ふふふ、ふふふふふ……」
「……ん?どうしたの?」
何やら急にセラが、足を止めて笑い出した……イルマは、そんなセラを不思議そうな顔をして見て……
「……ち、違うわッ!違う……少し、違う……」
「えっ?何が、違うの?」
「……送るだけは、違う…………と、まる……泊まるのよッ!」
「……えっ?泊まるって……?」
「……今夜、イルマは……"私の屋敷に、泊まるのよ"!!」
「…………う、うん……あたしは、別にいいけど……なんだか、急だね…………何で?」
「……んーーー、なんとなくっ?」
「……そ、そっかぁ…………じゃ、じゃあっ!お願い、します……」
「ふふふ……なによ、それ……」
「い、いやぁ……お、お泊まりする……から?」
「……ふふ、お利口さんね……イルマは……」
「そ、そうかなぁ……」
「そうよ…………じゃあ、行こう……」
「うん……」
こうして、二人は……セラの屋敷へと歩いて行くのであった……
……………
………




