第四十一話 メレス邸でのひと時…… その2
「あぁーーーー…………やっちゃった……」
一人の少女が歩いている……美しい赤い髪と透き通る青い瞳をもった一人の少女だ……少女は白を基調とした床まで届くロング丈のネグリジェと、綺麗な刺繍が施されている同じく白を基調としたロングガウンを重ねて着ており、手にはガラス製の高価なグラスを持っていて、その中には氷と水が入っていた……
「…………はぁーー、昨日……しとくんだった…………それなら……」
少女は手に持っているグラスに口をつけ、氷の入った水を一口飲む……
「………………あたし……何やってんだろ……人の……それも、セラのお家で……」
少女は頭に乗せている少し大きめのタオルで、濡れた自身の赤髪を拭きながら……屋敷内の長い廊下をゆっくりと歩いている……
「…………でも……悪い、ことじゃぁ……ない、よね……だって…………みんな、してることだし……あたしだって……………………うっ、うんっ!は、はははは……だ、大丈夫大丈夫!…………うんうん……」
少女は何やら納得したようで……一人で頷いている。
「…………そっ、それにしてもッ――ほんっと大きなお家だねっ!!……あたし、こんなに広いと迷子になっちゃうかもっ――それに――」
「――こんな所で何をされているのですか?」
「――ひゃぁいっ!?」
突如!背後から何者かに声をかけられて、イルマはビクッとする――
「………………屋敷の……メイド、さん……?」
イルマが振り返ると――そこには、この屋敷内で働いているメイドの一人がそこにはいた……
「……イルマ様、ご入浴の前に申し上げた通り……一階の食堂にて今晩の夕食の準備ができております…………お料理が冷めぬうちに、どうぞ食堂へお運びくださいませ……」
屋敷のメイドはその表情を一切変えずに、無表情で淡々とイルマに声をかける。
「…………え、えとぉ……しょ、食堂って…………」
イルマは困り顔でメイドの顔を見ている……どうやら、屋敷のどこに食堂があるのかが分からないようだ。
「………………そうですか……では、ご案内します。どうぞ、こちらへ――」
メイドは何かを察したようで、イルマへ自身について来るようにと促し……歩き出そうとする――
「――はっ、はい……」
イルマは返事をすると、小走りでメイドに近づき――二人は、屋敷内にある食堂を目指して歩き出した……
…………………
……………
………
「……………………(んん〜〜、美味しいっ!!)」
少しして、イルマは……屋敷のメイドに案内されて食堂に訪れると、指定された席に座り……その席のテーブルの上に用意されていたありとあらゆる食事をイルマは……手を軽く合わせて、美味しそうに食べていた……
「………………(おぉ〜〜、これもなかなか……)」
イルマは手に持つフォークで、テーブルの上の御馳走の数々を口に運んで順に食べていく……
「…………………………(んんーー…………料理はすっごく美味しい…………でも……)」
イルマは、グラスに入っている冷たいオレンジジュースを飲みながら……目だけを動かして前方を見る……すると、そこには……とある一人の人物がいて……
「………………(き、気まずい……なぁ……)」
イルマの座るテーブル席の向かい側……真正面に位置するその席には、一人の中年の男性が座っている……整えられた短い銀色の髪と綺麗な黄金色の瞳をもった一人の男性だ。
「…………んん……」
イルマはジュースを飲み干し、空になったグラスをテーブルに置くと……何を思ったのか…………じーーっと、自身の前方の席に座っている銀髪の男性の方を見出して……
「…………………………ん?」
「――あっ……」
イルマが銀髪の男性の方を見ていると……不意に、男性もイルマの方を見て……二人は目が合った――
「……あっ……え、えと…………そのぉ……」
緊張した様子でイルマは、あたふたしている…………そんなイルマを見て銀髪の男性は――
「今宵の料理はお口に合いましたかな?イルマ殿……」
銀髪の男性……この屋敷の主人でありセラの父親、メレス伯爵家の現当主である、エデン・メレスがそう言った。
「――はっ、はい!!……お、美味しい……す、すごく美味しいですっ!」
イルマは少し慌てた様子で返事をして……
「………………そうですか……それはよかった……」
セラの父、エデンは落ち着いた様子で水の入ったグラスを手に取り、口をつけて静かに飲む…………イルマ同様、エデンも食事の最中だ……
「…………(んーー……いや、とかじゃないけど…………あたし、セラと一緒か……一人でゆっくり食べたかったなぁ……)」
イルマは難しい顔をして、少し遠慮をしながら用意された食事を食べている…………偶然、偶々セラの父……エデンと夕食の時間が重なっていたのだ……
「…………(セラも一緒だったら…………さすがに、二人きりは気まず過ぎるよ……)」
現在……ここ、食堂の中にいるのはイルマとエデン伯爵だけだった……少し前までは伯爵のお付きのメイドが何人かいたが、伯爵が何かを言うと……メイド達は全員、食堂を後にした……
「………………(とっ、とにかくっ!ご、ご飯……速く食べちゃおう!…………気まずいし……)」
イルマは大きめの容器に入っている冷えたオレンジジュースを空になったグラスに注いで、用意された料理を黙々と食べている………………と、そんな時――
「……イルマ殿、娘は……セラは元気にしているかね?」
「…………え?」
イルマは突然の質問に少し驚き、きょとんとした表情で目を見開いてエデン伯爵の方を見る――伯爵は少し戸惑いながらも、真剣な眼差しでイルマの方を見ている……
「…………え、えと……げ、元気ですよっ!すっ、すっごくっ――」
「………………そう……か……」
イルマが少しだけ興奮した様子で、エデン伯爵にそう言うと…………伯爵は落ち着いた様子で視線をずらした……その表情には、心持ち安堵の色が浮かんでいて……
「…………(なんで……そんなこと聞いてきたんだろ…………セラのお父さん……)」
イルマは不思議そうな顔をして、ほんの少し眉をひそめる………………そして――
「…………あ、あの……セラのお父さん…………」
「……ん?……何かね?イルマ殿……」
「……こっ、こんな質問するのっ――少し……変かもしれないんです、けど……」
イルマはかなり緊張した表情でエデン伯爵の方を見て――
「…………セっ、セラと……セラと伯爵様は…………あんまり……喋ったりとか、は……しないん、でしょうか……?……例えば、お家とかで…………」
「………………」
イルマが緊張した様子でそんなことを聞くと…………エデン伯爵は、何やら……急に複雑な表情を浮かべ出して…………
「……………………(あっ……あれっ?…………これ……やっぱり……聞いちゃ、まずかった……かな……?)」
イルマは焦り顔で冷や汗を流しはじめ……落ち着かない様子で周囲をキョロキョロと見回し始める…………少女はかなり動揺しているようで…………
「…………あっ……え……えと…………セラのお父さ――」
「――そうだね、イルマくん……君になら――」
「――えっ?」
イルマが焦って何かを言おうとしたその時っ――突然!セラの父、エデンが喋り出して――
「君になら話せる……いや……話さねばならないことだろうね……」
「…………えっ……あっ、あの――」
「――いやっ!分かっているっ――イルマくん、君には知る権利があるッ!」
「…………んんっ?……知る……権利……?……あっ、あの……一体、なんの――」
「――セラのことだよ!!」
「…………セラの……こと……?」
エデン伯爵は興奮した様子でイルマに話しかけている……
「……あの、セラの……何を――」
「――あの娘のっ――"過去の話さっ"!」
「………………セラの……過去……?」
「ああ、そうだよ」
イルマは、突然のセラの父……エデン伯爵の態度の変わりように驚きながらも……セラの過去……という単語に興味を持って……
「…………あの、なんで急に……セラの過去の話に――」
「――あの娘はね、本当に可哀想な子なんだ……だから――」
「……あれっ?あたしの話……聞こえてないっ――」
「――話そう!いやっ――話さなければならないんだっ!!君はっ――セラの、"大事な友"なのだからねっ――」
―――――
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