贖罪:トリスタン・バラメーダ
こちら番外編です。
アイリーンを二度目の断罪をしようとしたトリスタン・バラメーダの話です。
何故、彼はアイリーンを断罪しようとしたのかを描きます。
誤字脱字や感想をお待ちしております。
あの断罪劇から半年後、私は刑に服すことになった。
私は悪役令嬢と呼ばれたアイリーン・ダンマルタンに対して厭忌のあまり冤罪に企てた罪で裁かれた。
結果として、私はユステリア様の温情により僻地フォボスへと流罪となった。
フォボスは海岸から約1kmほど沖にある小島群で、周辺の海域は干潮の差が激しい場所である。
私の処遇はバラメーダ家を除籍され、この僻地フォボスで禁足と相成った。
それはかつて私が若きアイリーン・ダンマルタンに対して行った裁きの結果と同じものであった。
まるで・・・あの悪役令嬢と同じだ。
一つ違うとすれば、私は死ぬまで永遠にこの地で生きなければならないと言うことだ。
私は荒れ狂う海を見ながら、王都にいる家族を思う。
私が裁かれた後、私の妻と息子は罪を問われなかった。
爵位の降格もなかった、
これもユステリア様とレティオール様の温情だった。
息子は私の代わりにバラメーダ家を継いだが、私は妻と離婚となった。
妻は私と一緒に僻地に同行しようとしたが、私はそれを許せなかった。
環境の厳しい場所に王都で暮らした妻が耐えられるはずがなかったからだ。
妻は私の気持ちを理解してくれた。
妻との別れの日のことだ。
妻は私にこう告げた。
「あなたが王妃様に想いを寄せていたのは知っていました」
その言葉に私は「申し訳なかった」と頭を下げた。
妻はすべてを知っていたのだ。
20年前のあの断罪の日、悪役令嬢のアイリーン・ダンマルタンは我々の前で罪を認めた。
彼女は王家の命によりミランダ国の辺境の地であるガニメデに流刑となった。
それは王太子であるユステリア様との婚約解消を意味し、聖女たるレティオール様が新たな婚約者として認められた瞬間だった。
レティオール様は私にとって憧れの人であり、想い人であった。
だが、聖女であるレティオール様は王家の血を引くユステリア様と結ばれる運命であった。
王家と聖女の婚姻はこの国の習わしである。
私に入り込む隙間などなかった。
その悔しさがあったのだろう。
私はアイリーン・ダンマルタンを恨み続けた。
また、私は悪役令嬢を嫉妬へと駆り立てた令嬢たちを当然許すつもりはなかった。
彼女たちが残した証拠を集めると、次なる手を打つことにした。
要は彼女たちの家を脅したのだ。
これは私の父からのアドバイスであった。
今後、ユステリア様の側近となる私が他の貴族より政治的に有利になるための手段だった。
令嬢たちの両親たちは自分たちの娘が罪を犯したことを知ると脅しに屈した。
令嬢たちも自分たちが犯した罪の大きさを知ると逃げるように他の家へ嫁いでいった。
私はその後、順調に出世を果たした。
ユステリア様が現王になると私も内務大臣となった。
その裏では私に屈したあの令嬢たちの家々の助力があったのは言うまでもない。
だが、私は慢心はしなかった。
自分の力でこの国を豊かにしようと心掛けた。
いや、王妃になったレティオール様に認めてもらいたかった。
しかし、そんな私にある問題が突き付けられた。
内務大臣になって5年後、悪役令嬢の追放から10年後。
聖女たるレティオール様の力が弱まってきたのだ。
レティオール様は王妃になってからも聖女としての活動を続けてきた。
その間にも政務を続け、ユステリア様のお子を二人出産した。
その影響か、治癒の力が年々弱まってきていることに私は気付いた。
毎月送られる部下からの報告では治癒を受ける人数が少しずつ減少していた。
私はこれが魔力が減り始めているのではと思い始めていた。
結果が数字として出た限り、私は対処しなければならなかった。
私はユステリア様にご報告した。
レティオール様を魔力の治療すべきではと進言し続けたがユステリア様はそれを許しはしなかった。
しかし、ユステリア様はレティオール様の魔力が減ってきていることを頑なに認めなかった。
ユステリア様はレティオール様が聖女でなくなることを恐れたのだ。
そのため、私はすぐに大司教と話をした。
「このままではレティオール様の立場が危うくなります」
大司教はすぐに新たな聖女候補を密かに探し始めた。
しかし、ユステリア様には秘密裏に動かなければならない。
対抗勢力のある貴族連中にその噂が入るだけで、レティオール様の立場は悪くなってしまう。
しかし、聖女候補はなかなか見つからなかった。
神の神託も降りてくる気配もなかった。
大司教からは「カルタゴ国へ支援を求めるのはいかがでしょうか?」と提案してきた。
カルタゴ国が医学の進んだ国であるのは知っている。
だが、レティオール様やユステリア様の立場を考えると容易に認める訳にはいかなかった。
そんな時だ。
あの忌まわしき悪役令嬢が再び、私の前に現れたのだ。
ガニメデが所属する地方長官からある報告が届いた。
それは罪人アイリーン・ダンマルタンが治癒の力で医療活動を行っていると言うものだった。
その時、私はある考えた浮かんでいた。
これまでの罪を許す代わりに、悪役令嬢に治癒の力を使わせる。
しかし、その後の報告が私の考えを変えた。
あの女は僅かな人数しか治癒の力を使えないと言うのだ。
その瞬間、私は最悪な答えを導いてしまう。
・・・あの女がレティオール様に呪いをかけたのだ!
今になればそんなことはありえないのだが、私は変わることなく悪役令嬢に憎悪と偏見を持っていた。
あの20年前の忌まわしき行いを思い出すだけで、私はあの女が今回の件に彼女が関わっているはずだと。
私は悪役令嬢に会うため、ガニメデへ向かった。
ガニメデに到着すると、私はすぐに悪役令嬢と面会した。
古びた修道院の一室に案内された私の前に、あの女は現れた。
20年の年月がそうさせたのだろう。
そこにはあの女の老いさらばえた姿があった。
私は惨めな女だと思いながら、彼女に蔑む言葉を投げかけ続けた。
しかし、私の皮肉な言葉に対して悪役令嬢は「そうですか」としか答えない。
悪役令嬢が自分の立場を理解していることに私は満足する。
所詮は罪人は罪人だ。
永遠に苦しめばいいのだ。
私は本題に入った。
悪役令嬢の治癒の力を見たいと伝えると、彼女は指示に従った。
彼女は私の前で治癒の力を使った。
確かに彼女の力は本物であった。
だが、やはり僅かな人数しか治癒の力が使えなかった。
私は確信した。
この女がレティオール様に呪いをかけたのだと。
無性に腹が立った私は悪役令嬢を罵倒し殴りつけてやった。
しかし、私の前にあの男が現れた時から私は破滅の道を歩み出していた。
その男が悪役令嬢の前に立ち塞がると、私や衛兵たちを叩きのめしたのだ。
しかも、その男は私の名前を知っていた。
「トリスタン・バラメーダ」
私は自分の名前を呼ばれただけで、言い知れぬものを感じてしまった。
私は王都へ逃げ帰った。
だが、私はあの女を許す訳にはいかなかった。
あの女しかレティオール様の魔力を奪った者はいないのだ。
私はユステリア様へあの女の讒言を行った。
忌まわしき20年の復讐が今、行われていると。
ユステリア様はすぐにあの女の拘束を命じた。
騎士団はガニメデへすぐに派遣され、悪役令嬢は拘束された。
幸い、そこに私に抵抗したあの男はいなかった。
だが、悪役令嬢は王都へ輸送されて幽閉された。
私が悪役令嬢と会うと、明日、レティオール様を呪ったことで裁くことを告げた。
悪役令嬢は無実だと私に抵抗したが、私は彼女を殴って黙らせようとした、
だが、悪役令嬢は私を睨み付けるとこう告げた。
「私は自分が悪役令嬢だと思っております。否定もしません。ですが、今回の件はまったく身に覚えのないことです」
まだ罪を認めようとしない。
だから、私はあの男も一緒に裁いてやると告げてやった。
その時の悪役令嬢の動揺振りは可笑しくて笑いが止まらなかった。
その場で泣き崩れる悪役令嬢に満足した私はその場を離れた。
平静を失い続ければいいのだ。
だが、翌日裁かれたのは私だった。
裁きの場にあの男が現れたのだ。
裁きの日。
私は拝謁の間で悪役令嬢が王妃に呪いをかけたと告発した。
悪役令嬢は私の告発を否定した。
私にとっては予定通りであった。
なにせ、今回は大きな証拠があるのだ。
私は衛兵に指示をして悪役令嬢の手首にあるハーネスリングを奪うとそれが呪いの品であると告げた。
誰もが私の話を信じようとしていた。
齎した結果に満足した私だったが、その時間もすぐに消え去ってしまった。
私たちの前に、カルタゴ国からの使者が訪れたのだ。
そして、私の前に現れたのはあの男だった。
何故、この男が現れたのか理解できずにいると男はとんでもないことを話した。
「久しぶりだな、トリスタン・バラメーダ。私に襲い掛かったあの日以来だな」
男はユステリア様たちの前で私がガニメデで起こしたことを話し出す。
「ユステリア王よ、この者はアイリーン嬢を攫おうとしたので、俺が止めに入ったのだが何故か俺も襲われたので少し懲らしめてやった」
「トリスタンよ、それは本当か!?」
あまりのことに私は答えることができなかった。
その上、男が自分の名前を告げた時、私は絶望に包まれることになった。
「その話は後だ。まず、ユステリア王よ。初めてお目にかかる。俺はカルタゴ国のフェルテス・フォン・ロートリンゲン。現王の弟だ。本日はアイリーンのためにこの場に参上した」
・・・馬鹿な。
そんな男が何故、何故・・・悪役令嬢の側にいるのだ!!
しかも、フェルテスと名乗る男は悪役令嬢と愛し合っていると言う。
そんなことがあってなるものか。
だが、私はさらに絶望の淵に陥れられる。
「アイリーンは5年前から治癒の力を使っている」
ユステリア様たちが私に視線を向けてくる。
そんなことを私が知るはずもない。
私はあくまで悪役令嬢が裁きたいだけだ。
だからこそ、このハーネスリングを・・・・・・。
その時、フェルテスが私を睨み付けてきた。
「お前、それはどうした?何故、お前がそのリングを持っている?」
どうしてそんなことを聞いてくるのかはわからなかった。
「・・・これはその女が持っていた呪いのリングだ」
「呪いだと?」
「そうだ!そうに決まっている!!」
「ふざけるな!!」
私はフェルテスに殴り飛ばされた。
父に幼い頃に殴られて以来のことだった。
「これは俺がアイリーンに渡したものだ。何の権利があってお前がそれを持っている?」
「嘘だ・・・」
私は完全にミスを犯してしまった。
これがフェルテスの言う通りの品なら、私はカルタゴ国に無礼を働いたことになる。
カルタゴ国の現王の弟が贈ったものを無理やり奪った上に、呪いの品と宣言してしまったのだ。
しかも、私が悪役令嬢に暴力を働いたことでフェルテスの怒りをさらに買ってしまった。
私は胸倉を掴まれるとお腹を大きく殴りつけられた。
重い痛みの中で吐き気を催した私は、その場で投げ捨てられた。
私は蹲ったまま思った。
どうしてだ。
私は痛みの中で言い訳を考えようとする。
だが、フェルテスはさらに私を追い詰める。
私が罪を軽くすることを条件にレティオール様の代わりにしようとしたこと。
それができないとわかると、あの女を冤罪で嵌めようとしたこと。
そして、私がレティオール様の魔力が枯渇したことを隠していたことを。
私は完全に追い詰められてしまった。
レティオール様も私が魔力の枯渇を秘密にしていたことを知ってショックを受けてしまった。
すると、あの忌まわしき女がレティオール様の治療方法を語り出したのだ。
その話を聞いた私は冷静さを完全に失った。
私にとってレティオール様を救うのは私自身であらなければならない。
それをこの悪役令嬢に横取りされることが許せなかった。
私は隠し持っていた短剣を取り出すと、悪役令嬢に襲い掛かった。
だが、私はフェルテスに殴り飛ばされ意識を失った。
気がつくと私は貴族用の牢の中に収監されていた。
この時になって私は自分が犯した罪を理解した。
そして、私はもう終わったのだと知った。
半年後、私の裁判は終わった。
私は何故、アイリーン・ダンマルタンに罪を着せようとしたのかその理由を語った。
私の言葉にユステリア様は無言のままで聞き、レティオール様は涙を流した。
ユステリア様は私の進言を裁判で語ることはなかった。
ユステリア様は相変わらず逃げに回っていた。
これもレティオール様を守るためだろう。
でも、いつかはこの事実は明かされる。
その時になってユステリア様がレティオール様を守り切れるかどうか・・・もはや願うのみである。
そして、私は傍聴席にアイリーン・ダンマルタンがいないことを知った。
彼女ももう私には興味がないと知ると何故か悲しくなってしまった。
これが20年後に下された私の天罰だと思うと、せめて彼女にだけは今の私の姿を見て欲しかった。
私はこうして流刑の判決を受けて、僻地フォボスへ移された。
それから7年。
私はただ罪を償う日々を送った。
私の卑しい思いはすでに消えていた。
その間、王都の様子が息子から送られてきた。
ユステリア様は結局、私の進言を受け入れられなかったことをレティオール様に責められた上、貴族院に責任を追及されて王から退位した。
レティオール様も王妃から退位して二人は王家の保養地であるエオスへ隠居なされた。
その後を継いだお二人の長子様は聖女の神託が下ることを待たず、カルタゴ国に協力を求めて医療の発展に尽力をした。
聖女の神託は今もない。
だが、カルタゴ国の善意により多くの医師がこの国に生まれたのは喜ばしいことであった。
アイリーン・ダンマルタンと言えばあのフェルテス・フォン・ロートリンゲンと結婚をした。
彼女は今でもガニメデやその周辺の町で医療活動を行っていると聞き及んでいる。
その彼女の元には多くの若い人材が訪れ、その地で医療活動に参加している。
この種子がのちにこの国の至る場所に広がると思うだけで、彼女はもはや悪役令嬢ではなく聖女になったのだと思う。
アイリーン・ダンマルタンに許されるとは思ってはいない。
だが、私は罪を償い続けることで彼女への謝罪となれば良いと思っている。
ただ、ただ、それだけで良いのだ。




