第5話 悪役令嬢(ヴィラネス)は生き続ける。
最終話となります。
〇主な登場人物
アイリーン・ダンマルタン
・・・元貴族の令嬢。38歳の修道士。
20年前に起こした聖女への虐待事件で有罪となり辺境地であるガニメデへ流罪となる。
その後、今日まで修道士として町の人々に奉仕をして罪を償い続けている。
人々から悪役令嬢と言われていたが今は忘れられた存在になっている。
フェルテス・フォン・ロートリンゲン
・・・冒険者。実はカルタゴ国の王族出身で現国王の弟。アイリーンを愛しており、彼女を救うために身分を明かす。
ユステリア・オブ・ランカスター
・・・ミランダ国王。アイリーンの元婚約者。聖女であったレティオールをアイリーンから救い、彼女と結婚する。トリスタン様の讒言で妻であり聖女のレティオールの力がアイリーンによって奪われたと思い彼女を裁こうとする。
レティオール・オブ・ランカスター
・・・ミランダ国の王妃で聖女。アイリーンから恨みを買って虐待を受けていたがユステリアに助けられた後、彼と結婚する。20年後、聖女の力が失われてしまい、トリスタンの讒言でアイリーンが聖女の力を奪ったと教えられる。
トリスタン・バラメーダ
・・・ユステリアの側近。内務大臣。聖女であるレティオールに憧憬を抱いており、聖女のが失ったのは悪役令嬢のアイリーンだと讒言する。20年経った今でもアイリーンを恨んでおり、その理由も異様なものである。
あの断罪の日から2年が経った。
私は40になった。
あの出来事の後も私はガニメデで町で医療活動に奉仕していた。
いつもの日々が戻った。
二年間の間に私の周囲は少しばかり変わったかもしれない。
王都での断罪劇は冤罪として正式に王家より謝罪を受けた。
そして、私の罪は正式に許されることになった。
私を冤罪に陥れようとしたトリスタン様は法の下で平等に裁かれた。
トリスタン様が何故、私を陥れようとしたのか。
その理由は私の予想通りだった。
トリスタン様は聖女に憧憬を抱いていた。
その想いとは別に、トリスタン様はレティオール様を一人の異性として愛慕を覚えていた。
しかし、レティオール様は聖女を経て王妃となった。
トリスタン様の想いは儚くも散ってしまった。
その想いはやがて歪んでゆくと、悪役令嬢だった私への怨嗟へと変わった。
ある日、トリスタン様はおもいがけず私のことを思い出したそうだ。
内務大臣である彼は各地域の報告書に目を通していた際、偶然にも私の名前を見つけた。
この時、私が医療業務として治癒の力を使っていることを知った。
罪人である悪役令嬢が治癒の力で医療行為を行っていると知った時、彼の中で何かが壊れたそうだ。
のちに裁判でトリスタン様はこう話した。
あの悪役令嬢だったアイリーン殿がレティオール様と同じ力を使って人々を救っていると聞いて・・・怒りを覚えてしまった。
アイリーン殿が罪を償い続けていることを私は認めたくなかったのだと思います。
アイリーン殿がレティオール様のように治癒の力を使っていることを認めたくなかった。
どうしてか?
あの悪役令嬢ですよ。
レティオール様に失礼ではないですか。
あの方は聖女だ。
悪役令嬢が聖女と同じ力など使ってはいけないのです。
20年も経った今になってどうしてアイリーン殿にいわれのない罪を着せようとしたのかって?
わかりきったことですよ。
聖女を・・・レティオール様を守るためですよ。
レティオール様の治癒の力が年々、弱まっていることは気付いていました。
あれだけ力を使い続けていたのですから。
私は何度もユステリア様にお伝えはしておりました。
ですが、ユステリア様は何も手を打とうとしなかった。
理由はわかっています。
愛するレティオール様が治癒の力を失った時、王妃の座を失うことを恐れたからです。
あの方はレティオール様しか愛せない方ですからね。
その結果がこれだ。
レティオール様は力を失った。
そんな時です。
アイリーン殿が治癒の力で医療活動を行っていると知ったのは。
だから、私はアイリーン殿に罪を許すことを条件に王都に来てもらいレティオール様の代わりに治療活動をさせようとした。
ところがどうです?
アイリーン殿は2,3人ほどしか治癒の力が使えないと言う。
私はその話を聞いて使えない女だと思いましたよ。
せっかくレティオール様の代わりを務めさせようとしたのに。
悪役令嬢は所詮、悪役令嬢だと。
だからこそ、アイリーン殿に罰を与えなければならないと。
今回も悪役令嬢は聖女に無礼を働いたのです。
今度こそ悪役令嬢に死を与えると。
せめて、20年間の間に亡くなってくれていれば良かったんだ。
トリスタン様の動機に底知れぬものを私は感じた。
でも、今の私には興味はなかった。
私は私の立場を理解していたし、私には想い人であるフェルテスさんの存在があったからだ。
むしろトリスタン様の供述を聞いたユステリア様とレティオール様の方が衝撃を受けていた。
近くにいたトリスタン様にそのような思いがあったとは知らなかったからだ。
のちに私の元にお二人の連名で手紙が届いた時、そこにはトリスタン様の異様性に気付かなかった自分たちを恥じており、私に迷惑をかけて申し訳なかったと書かれていた。
私は二人に返信をしなかった。
今回の件はもう終わったことであり、私は割り切っていつもの生活に戻りたかったからだ。
レティオール様が治癒の力を失ったことについては、ユステリア様がカルタゴ国へ支援を求めたことをフェルテスさんが教えてくれた。
「今更だけどね」
フェルテスさんは少々呆れ気味に私に話してくれた。
「ユステリア王から兄上にとりなしをお願いされたけど、俺は自己責任でやってくれと断ったよ。今まで何も考えずに20年間もほったらかしにしたんだ。それくらいは自分たちで対応しろってね」
フェルテスさんとしては今も私への冤罪行為が許せないのだろう。
その気持ちは心から嬉しかった。
その後、フェルテスさんからは王都の話を聞かなくなった。
時おり町で王都の噂を耳にするが、私はその話を聞き流すのみだった。
トリスタン様の裁判は半年後に結審した。
トリスタン様は貴族の地位を剥奪されて終生、流刑となった。
私と同じ道を歩むことになった。
私はその話を聞いても何も答えることはなかった。
この年は私にとって大きな出来事があった。
フェルテスさんから私に婚姻を申し込まれたからだ。
私は彼に返事をする前に一つだけ質問をした。
「フェルテスさんはどうしてカルタゴ国の王族のことを隠していたんですか?」
「ああ、それね。俺は兄上と違って側妃の子なんだ。だから、最初から国を出るつもりだったんだ」
「そうなんですね。でも、冒険者になったのはどうしてなんですか?」
「俺が幼い頃に読んでいた冒険者の本があってね、それに憧れただけ」
「それだけなんですか?」
「うん。あと理由をつけるとするなら兄上とは仲が良かったから兄上の子供を跡継ぎにすればいいと先にお願いしたのもあるかな」
フェルテスさんとしては自分はあくまでカルタゴ国の王族に何かがあった時の保険としての立場で良かったそうだ。
でも、私が冤罪で拘束された時に初めてカルタゴ国にいる王に助けを求めて、一時的に王族の立場に復帰した。
「でも面白かったのは兄上ではなく王妃の義姉上が俺に〈さっさと救ってきなさい!!〉って発破を掛けてきたことかな」
「そんなことがあったんですね」
「うちの家族、変わっているでしょ?でも、それが良いとこなんだよね」
「羨ましいです」
私にはもう家族はいない。
フェルテスさんの話は羨ましい。
そう思っていると、急にフェルテスさんが私の前に膝をついた。
そして、私の前に新しいハーネスリングを見せた。
「だから、一緒に家族にならない?」
「えっ?」
私は思わず声が高く浮わついてしまった。
「それってプロポーズですか?」
「そう。どうかな?」
「私でいいんですか?」
「駄目かな?」
「お願いします」
私はそう言うとフェルテスさんに跪礼した。
それに続いてフェルテスさんが私にハーネスリングをつけた。
「これで悪役令嬢は卒業だね」
「はい」
私の罪は22年後にこうして許された。
私の心もようやく償いを終えたのだと教えてくれた。
悪役令嬢はもういない。
私はこの場所でこの後も変わらない日常を送ると思う。
そう、愛する人が側にいてくれる。
それだけで私には十分なのだから。
これで完結となります。
最後までお読み頂きましてありがとうございます。




