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落日の悪役令嬢(ヴィラネス)  作者: 宮城谷七生
4/8

第4話 冤罪と真実の狭間にあるもの

第4話となります。

「アイリーンさん!!」


フェルテスさんは私に駆け寄ると強く抱き締めてくれた。


「アイリーンさん、遅くなってすまない。間に合って良かった」


「・・・ありがとうございます」


私の瞳から涙が落ちる。


「よくここまで頑張ったね」


「はい。でも、フェルテスさんはどうやってここに?」


「兄上に頼み込んで急いで使者を立ててもらったんだ」


兄上とはどういうことなのか?


私は首を傾げる。


「どういうことですか?」


「事情は後で話すよ、それよりも誰がこんなことをしたんだ?頬が紅くなっているじゃないか」


フェルテスさんはトリスタン様を睨み付ける。


「お前は・・・」


「久しぶりだな、トリスタン・バラメーダ。私に襲い掛かったあの日以来だな」


「トリスタン、お前は何をしたんだ!?」


ユステリア様がフェルテスさんの態度を見てトリスタン様を問い詰める。


「それは・・・」


「ユステリア王よ、この者はアイリーン嬢を攫おうとしたので、俺が止めに入ったのだが何故か俺も襲われたので少し懲らしめてやった」


「トリスタンよ、それは本当か!?」


ユステリア様がトリスタン様に尋ねるが彼は答えることができないでいる。


「その話は後だ。まず、ユステリア王よ。初めてお目にかかる。俺はカルタゴ国のフェルテス・フォン・ロートリンゲン。現王の弟だ。本日はアイリーンのためにこの場に参上させて頂いた」


私は驚いた。


私だけでない。


この場にいる全員が同じだった。


まさか、フェルテスさんがカルタゴ国の王族出身で現王の弟君とは・・・。


「しかしながら、何故あなた様がアイリーンのために動くのですか?」


「そうです。二人はどのような関係なのですか?」


王妃様も私とフェルテスさんの関係が気になっている。


「私たちは愛し合っております」


フェルテスさんが私に微笑みかける。


それはいつもの笑顔。


その笑顔が私を安心させてくれた。


「まさか、このような罪人を?」


トリスタン様が声を震わせる。


「黙れ。お前に彼女を責める資格はない」


フェルテスさんの責めにトリスタン様は言葉を紡ぐことはできない。


フェルテスさんは私を強引に攫ったことを暗に責めてくれているとわかる。


「ユステリア王、彼女はすでに20年もの間、罪を償い続けております。医療行為もその一環です。俺はその様子を10年、彼女の側で見続けていた」


「10年も・・・」


ユステリア様もレティオール様も驚きの声を上げる。


トリスタン様も目を大きくする。


「この場にいる貴殿らよりも俺はアイリーンを知っているぞ」


「しかし、彼女は王妃様に呪いをかけたはずです!」


トリスタン様がまだ抵抗しようとする。


「トリスタンと申したな。お前は何故、王妃殿に呪いをかけたと思うのだ?」


「そ、それはアイリーンが治癒の力を得たからで・・・」


「そう思うのなら貴殿に尋ねる。アイリーンは治癒の力をいつ得たのか知っているのか?」


「それはわかりませんがごく最近では・・・」


「まさか、この1年ほどとか言うのではないだろうな?」


「違うのか?」


ユステリア様が身を乗り出した。


「ええ。アイリーンは5年前から治癒の力を使っている」


「馬鹿な!?」


その場にいる全員がこの事実を知らなかったことに私がむしろ驚いてしまった。


もしかしたら、トリスタン様は悪い事実を隠そうとしていたのかもしれない。


だが、フェルテスさんのおかげでこの話は露見した。


トリスタン様の顔色が青ざめているのがわかる。


この人は卑怯な方だ。


「俺が現場にいる限り、その事実は変わらない。俺も彼女の治癒の力で治してもらったんだ・・・ん?」


フェルテスさんはトリスタン様の方を見て何かに気付いた。


「お前、それはどうした?何故、お前がそのリングを持っている?」


「・・・これはその女が持っていた呪いのリングだ」


「呪いだと?」


「そうだ!そうに決まっている!!」


「ふざけるな!!」


フェルテスさんがトリスタン様に詰め寄ると信じられない勢いで彼を殴りつけた。


その勢いはトリスタン様が壁に叩き付けられたほどだった。


「これは俺がアイリーンに渡したものだ。何の権利があってお前がそれを持っている?」


「嘘だ・・・」


トリスタン様はようやく事の重大性に気付いたようだ。


フェルテスさんはカルタゴ国の王族だ。


その贈り物を無理やり奪った上に、呪いの品と宣言してしまったのだ。


これは完全にカルタゴ国への無礼に値する。


そのことに気付いたトリスタン様は自分が愚かなことをしたと震え出していた。


「アイリーンさん、彼に何をされたか教えてくれる?」


「彼はフェルテスさんからもらったリングを呪いのリングだと辱めながら無理やり取り上げたわ。そして、私が抵抗したら勝手に怒って私は殴られた」


「いや・・・待って・・・」


トリスタン様がその場を取り繕おうとする。


でも、フェルテスさんは待ってはくれない。


今度はフェルテスさんはトリスタン様の胸倉を掴むと彼のお腹を大きく殴りつけた。


謁見の間に大きな音が響き渡る。


「ぐえっ!!」


トリスタン様が悲鳴を上げて痙攣を起こす中、フェルテスさんは彼の体を床に投げ捨てた。


惨めな声と共に、トリスタン様はその場に蹲った。


「まったく酷いものだ。彼女の話も聞かずに俺が渡したものを呪いの品だと決めつけるとは。これは外交問題ですよ」


「申し訳ない!」


ユステリア様が席を立つとフェルテスさんに頭を下げた。


続けて王妃様も頭を下げた。


「ユステリア王。何度も言うがカルタゴでは治癒の力は魔力を持つものなら誰でも習得できる。アイリーン嬢も我が国出身の医師がガニメデにいたから習得できたんだ」


「・・・フェルテスさん」


私の目が涙で潤む。


本当にフェルテスさんを信じて良かった。


「アイリーンさん、君は素晴らしい人だ」


その言葉に私はフェルテスさんの胸に飛び込んだ。


そして、私は声を上げながら涙を流した。


「よく頑張ったよ」


「うん」


私が泣き止んだ頃、フェルテスさんがユステリア様に話を振った。


ここからフェルテスさんが今回の件の核心に迫り始めた。


「さて、ユステリア王よ、今回の王妃殿の力が失われた件だが調査がそもそも間違っていると気付かないのですか?」


「それはどういうことですか?」


「まず、20年も経った者があなた方に復讐をすることがありえますか?」


「・・・それは私にはわからない」


ユステリア様もまだ私に偏見をお持ちだった。


これだけはどうにもならないようだ。


「俺から見れば呪いと言う言葉を彼女に投げつけること自体、彼女をスケープゴートにしようとしているとか思えない」


「だが、我が妻は治癒の力を失ったのは事実だ」


「だからこそ、何故治癒の力が失われたのか冷静に考えなければならなかった。そうだね、アイリーンさん?」


「はい」


フェルテスさんはある確信を得ていた。


それは私も同じだった。


「では、俺がその答えを話そう」


フェルテスさんは話を続ける。


「今回の王妃殿の件は治癒の力の使い過ぎ、これこそが原因だ」


ユステリア様やレティオール様、その場にいる皆が言葉を失った。


「アイリーンさんもそのことに気付いていたんだろう?」


「はい。話を聞く限りそれしか原因はありえないと思っていました」


「どういうことなのだ、アイリーン?」


「王妃様は聖女として20年あまり多くの人々を治癒してきました。しかし、私たちには老いと言う時間が存在します。老いはどんなに力があろうとも己の体に宿す命を削り取ってしまうものなのです。それは魔力も同じです」


「そう、それこそが魔力の源となるもの、つまりは生命だ。そこで王妃殿に尋ねる。あなたは20年の間、1日にどれだけの人々を治癒してきましたか?」


フェルテスさんは王妃様に尋ねる。


「公務がなければ1日に100人ほどです」


「疫病や戦闘が起こればもっと多くの人々を治癒しますか?」


「ええ、もちろんです」


「それは素晴らしいことです。ですが、それだけの人数をほぼ毎日のように治癒すればどうなっていくか誰もが想像できるはずだ」


そこでユステリア様が気付いたようだった。


「まさか・・・」


「そうです。原因は魔力の枯渇です」


レティオール様が口元を押さえる。


彼女も自分がそのような状態にあったのだと初めて知った。


「俺は皆に聞きたい。何故、誰も王妃殿の魔力量を心配しなかったのか?誰の目から見ても王妃殿の魔力が尽き果てることは考えられたはずだ。だが、ここにいる皆がそのことに全く気にかけないで平気でいた。それが慢心だと知らずにだ」


フェルテスさんは床に倒れたトリスタン様を静かに睨む。


「いや、一人気付いていた者がいる」


「それは誰だ?」


「そこにいる男だ」


フェルテスさんがトリスタン様を指差した。


「ひぃ!?」


トリスタン様が恐怖のあまり顔を隠して蹲る。


「トリスタン・バラメーダ、お前は何故、アイリーンに会いに来た?」


「そ、それは彼女に治癒の力があると聞いたからです」


「だが、お前は尋ねたはずだ。アイリーンが治療できる人数を」


「お待ち下さい!アイリーンさんは治療できる人数は何人ほどなのですか?」


王妃様も私の治癒の力がどれほどのものなのか知りたいようだ。


「私が使える力はいつも2人です。多くて3,4人ほどしか使えません」


「それなら私の魔力を奪うほどではないとわかるではないですか!トリスタン様、何故、その話を私たちに伝えなかったのですか?」


王妃様もやっと気付いてくれた。


私の力は到底、王妃様に及ばないことを。


そればかりかその人数では影響力など皆無であることを知ってくれた。


私は安心した。


これで完全に誤解は解けたのだ。


フェルテスさんはトリスタン様を断罪し続ける。


「トリスタン、お前は内務大臣として王妃殿の治療した人数を知り得る立場にいた。そして、年々治療した人数が減ってきたことに気付いた。そうなると王妃殿の立場が危うくなってしまう。なにせ、お前はアイリーンを断罪した一人であり聖女を崇拝していた。だから、お前は密かにアイリーンの罪を許すことで王妃殿の肩代わりにさせようとした。だが、アイリーンが治療できる人数は限られていた。そうなると身代わりにする計画はできなくなる。そこでお前は次の手を考えた。アイリーンが王妃殿に呪いをかけたと言う噂を流して、彼女を再び断罪して王妃殿を守ろうとした。どうだ、反論はあるなら聞こう」


トリスタンは顔を埋めたまま何も答えてくれない。


「お前は悪役令嬢であったアイリーンなら何度も傷ついても構わないと思った。幾ら年月が経とうとも。だが、お前は間違っている。アイリーンは変わった。過去の自分を戒め、傷ついた者たちを救うために独学で医学を学びながら治癒の力を培っていった。俺はそんな彼女をずっと見続けてきたんだ」


フェルテスさんは私の傷ついた手を見つめる。


「見ろ、この手がすべてを語っている。彼女が罪を償い続ける手だ」


フェルテスさんは私の手に口づけをしてくれた。


「フェルテスさん」


私は頬を赤らめた。


「トリスタン、お前は何故このようなことをした?」


「・・・聖女を守るために決まっているじゃありませんか!!」


トリスタン様が私を指差した。


「この女は悪役令嬢です!どんなに月日が経とうともその事実は変わりません!ならば死ぬまでそれ相応の罪を償い続けさせねばなりません!」


「それはお前の偏見でしかない」


フェルテスさんは呆れていた。


「違う!」


「ではお前には罪がないと言うのだな?」


「・・・何が言いたいんですか?」


「お前は聖女である王妃殿の魔力の件を知っていて何もしなかった。それは国家を揺るがすものだと理解していたはずだ」


「違う!!違う!!」


トリスタン様が首を横に振ってフェルテスさんの問い掛けを否定する。


「否定をすると言うことはわかっていたと言っているようなものだ。だったら、どうして王妃殿を医師に見せなかった?見せていたらそれなりの対応ができたはずだ」


「私は・・・私は・・・」


トリスタン様が繰り返し呟き続ける。


もうこれ以上足掻いてもどうにもならないのに、この人は何がしたいのだろう。


私もトリスタン様が哀れにしか思えなくなってきた。


「俺はカルタゴ出身だ。魔力の枯渇については治療法を知っている。当然、アイリーンもだ」


「・・・そんなの私が知らないのは当然ではないか」


「知らないで済むと思っているとは悲しいものだ」


そう、知らないと言うのは許されないはずだ。


「アイリーンさん、魔力の枯渇の治療方法だけど、どうすればいいんだっけ?」


私は頷くと治療法を話す。


「まず、王妃様を休ませることから始めます。その後は純度の高いポーションを飲みながら蓄積した疲れをなくして体力を回復していけば大丈夫です」


「それだけで良いのですか?」


「はい。魔力の枯渇は人間の疲労が原因です。疲労さえなくせば徐々に魔力は回復しますので大丈夫です」


「それに王妃殿の件をきちんと調べていれば、カルタゴの治療方法も手に入ったはずだ。だが、トリスタン、お前はそのことさえ気付かずにアイリーンの呪いだと思い続けた。お前がそれほどまでにアイリーンを憎いのはわかった。だが、お前は大臣だ。公明正大でなければならないのに私情を挟んだ」


「うるさい!!」


トリスタン様が立ち上がると、胸元から短剣を取り出した。


悪役令嬢ヴィラネスは断罪されなければならないんだ!!」


トリスタン様が短剣を向けたまま私に向かってきた。


私は恐怖のあまり動けなかった。


すると、私の目の前でトリスタン様が遠くへ吹き飛ばされた。


そして、トリスタン様は気を失っていた。


「愚かな・・・」


フェルテスさんが私を救ってくれた。


「今度はお前が断罪される。お前は俺の愛する人を傷つけた。その罪を知るがいいさ」


フェルテスさんはユステリア様に体を向けた。


「王よ。これでアイリーンは無実だと証明されたがよろしいか?」


「ああ。今回はこちらの落ち度であった。改めて謝罪する」


「では、アイリーンは罪を償ったと書類で頂きたい」


「わかった。すぐに用意させよう」


「ありがたい」


「アイリーン」


ユステリア様が私の前に跪く。


「これまでの無礼を許してくれ」


「私からもお願い致します」


続けてレティオール様も私に謝罪してくれた。


「ありがとうございます」


私は二人に跪礼きれいをした。


「行こうか」


「はい」


私はフェルテスさんの手を握り締める。


これで全てが終わったのだと。


「では、私たちはこれで失礼する」


私たちはこのまま謁見の間から退場した。


もうこの場所には戻ることはない。


過去に愛した人、過去に嫉妬を覚えた人と会うこともなくなる。


20年と言う歳月を経て、私は悪役令嬢ヴィラネスと言う名を捨てて新しい人生へのスタートラインに立つことができた。



こうして私の二度目の断罪は終わった。


そして、私は20年振りに正式に罪を許されると居るべき場所へフェルテスさんと共に戻った。

次回が最終話となります。

更新は2/25を予定しております。

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