第030話 ファンタジー大戦
そもそもおっさん、この世界にやって来て生まれたての小鹿と同じだった。
『どうなされました?』
「え、えっと、怖いんだ」
会社帰りに怪奇現象に巻き込まれたおっさんは震えていた。
『お気持ちお察しいたしますが、震えていても現実は何も変わりないかと』
「貴方はだーれ?」
謎の声が瓦礫の山と化した廃墟をバックに響いていて。
この世界にやって来た当初は、おっさん、その声だけが頼りだった。
謎の声は調停者を名乗り、おっさんのスキルやら世界観を説明し。
そのすぐ後にシーラと出会って、今にいたる。って感じ?
賢者は状況を整理したおっさんにまなじりを下げる。
「得心いったかの?」
た、たばかられたでおじゃる!!
エグゼ様は端からすべてを知っていたのでおじゃる!!
「賢者の石でつくられたあの暗雲を払うには、同じく賢者の石が必要なのだ」
「……けど、賢者の石には人間の心臓が必要で」
「ふぉっふぉ、そうじゃの。才蔵殿はそこに引っかかっているのであったな」
そうですよ、おっさんみたいな生半可な人間には誰かの犠牲は重過ぎる。
だが賢者の石がないと、とエグゼ様は追求する。
「この好機を逃してしまう。今はエルゼルを筆頭とし、お主のホムンクルス達が戦場で生死を懸けて戦っておるのじゃ。おっさんが賢者の石を作ってくれれば、後はわしがなんとかしよう」
「……それでもおっさんは、背負えない」
「困ったのお」
おっさんだって現状をどうにかしたいさ。
けどおっさんは別の道を模索し始めている。
賢者様や、アネッタ、ゼルエルには悪いけど、他の方法で世界の再生の道を歩めないのか?
その時、おっさんの脳裏にミリアとの記憶がよぎった。
確かミリアは――どうしようもなくなったら相談して来ていいよ。
と、何か名案があると言っていた気がした。
「ミリアに一度会わせてもらってもいいですか?」
「よかろう」
そこでおっさんと賢者様の幽体離脱は解け、時計の針も進むようになった。
アネッタは敵の追手を相手するかどうか迷っていたようで。
「おっさん、貴方が何も責任を感じることはないの。ただ私が死んで、それで世界は平和になるだけなのよ。貴方は平和になった世界でシーラさんと一緒に世界を再生さればいいの」
「アネッタ、答えを出す前にちょっと確認したいことがあるんだ。少し待ってくれ」
「確認したいことって?」
おっさんは近くにいたミリアの方を向いた。
ミリアは動じることなく、おっさんを見ている。
「どうした?」
「ミリア、賢者の石を作るのに人間の心臓が必要ってわかった時、妙案があるって言ったよな?」
「ああ、言ったとも」
賢者エグゼも彼女の妙案を知りたがっていた。
「ミリア殿、それは一体どういう名案なんじゃ?」
「人間の心臓が必要なのだろ? なら、死した英雄の心臓を使えばいいのではないか?」
その時、同席していたアネッタとエグゼ様ははっとした様子だった。
「聖剣! マルコが使っていた聖剣を使えってことね?」
「失念していた、あれには確かに死した人間の心臓が宿されている」
二人はミリアの提案に合点がいったようで、大手でミリアを褒めていた。
「やるじゃないミリア」
「余り褒めるな、吐き気がする」
「ふぉっふぉっふぉ、将来有望なお嬢さんだの」
聖剣。ていうと、ロイドが裏庭の貯蔵庫に保管していた奴だよな?
黙って使用する訳にもいかず、急いでロイドを探すことにした。
コネクトロを使って、ロイドに緊急の連絡を入れる。
『おっさんか? 無事に戻れたんだな、よかった』
「ありがとうロイド、それで、今どこにいる?」
『今はドワーフ軍の待機所で出番待ちしてる』
ドワーフ軍?
「あのさロイド、お前が大事にしている聖剣が必要になったんだ。あれを譲ってくれないか」
『……何に使うんだ?』
「賢者の石の触媒に使う、だから聖剣は消えちゃうけど、それしかもう方法はなさそうなんだ」
『なら、取りに来いよ。聖剣は今、俺が担いでいる』
「まさか、ロイドは出兵するつもりなのか?」
『エルドラドにいた裏切り者たちが反乱を起こしたんだ』
まずいまずいまずい!
おっさんはすぐにアネッタに状況を説明し、ロイドを確保してもらうことにした。
「今アネッタをそっちに送った、反乱軍なら鎮圧してくれる」
『駄目だ、間に合いそうにない』
「じゃあ聖剣を持って全力で逃げるんだッ!」
そこでロイドとの通信は途絶えた。
賢者エグゼは焦燥感を覚えたのか、無数の光弾魔法をコロッセオ目掛けて打った。
コロッセオ付近にいたモンスターの群れが一掃される。
「アネッタが戻るまでわしらでここを死守するぞ、才蔵殿」
「おっさんのスキルは戦闘能力皆無なんですよ!」
賢者がなおも無数の光弾を戦場に打ち込むと、起こしてはならないものを起こしたようだ。藪をつついて蛇を出す、といったようにコロッセオは地下から出てきた巨人によって倒壊する。
「ふぉ、巨人を地下に隠していたとは、なかなかやりおるのぉ」
賢者は巨人の登場に高揚しているみたいだが。
おっさんはいきなり巻き起こったファンタジー大戦に、困惑するしかなかった。




