第026話 この世界の生き残り
奴隷剣闘士としての初戦を辛勝すると、コロッセオのギャラリーは沸きに沸いた。
おっさんとライオットは両手で歓声に応え、退場すると。
「待ちなさい新人、君に少し聞きたいことがある」
支配人の吸血鬼に呼びだされてしまった。
ライオットは嘆息をついて手のひらで顔を覆っていた。
◇ ◇ ◇
うかつにもクラフトを吸血鬼の前で使ってしまったおっさんは、彼の私室に通された。
彼はボトルに入った赤い液体をグラスに注ぎ、おっさんに差し出す。
「飲むかね?」
「遠慮しておきます」
「……さっきのあれは一体」
スキルについて聞かれようとした時、おっさん早口で弁解した。
「おっさんは召喚士一族の末裔で、さっきのはおっさんだけができる特殊召喚を使いました。あれの名はロードローラー改と言いますが、俗にいうロボット。人が乗り込んで操縦するために造られた無機質の道具です」
その説明に吸血鬼は流し目を寄越す。
嘘くさい――と言っているみたいだ。
「嘘じゃないです、英雄マルコの名に誓って」
「……なるほど、君は」
ドクンドクン、と心臓が早鐘を打つ。
おっさん、もしかしたら敵の危険因子認定されて、始末されちゃうかも。
「英雄マルコを尊崇しているのだね? いわば私の同志だ」
おお!
もしかしてこの吸血鬼、馬鹿なのか?
英雄マルコの名前を口にしたら、喜々とし始めたぞ。
「召喚士の末裔といったな、一族の名前は?」
「き、霧島です」
「霧島……たしか英雄のパーティにそんな名前がいたな」
ほんまぁ?
「合点がいった、であれば少し相談があるのだが」
「なんでしょう?」
そこで吸血鬼の彼は長身の体躯でおっさんを懐に抱きとめた。
え、この人まさか――と乙女心をきゃるると高鳴らさせると。
「私の傀儡にならないか? 私も吸血鬼になる前はこうやって可愛がられたものだ」
「か、可愛がられちゃうの?」
「そうだとも、私の傀儡になれば、好きな思いができるぞ」
え、えっと、ど、どうしようかなー? きゃぴ。
なんて演じるのにも限界がある。
我に返ったおっさんは隠し持っていたゴルディッグの枝葉からにんにくをクラフトして懐に忍ばせた。
吸血鬼の彼はふと、哀愁に満ちた目をとった。
「……冗談だ、君は剣闘士達の間でも人気が高い。奪うつもりはない」
と言って、彼はおっさんを元居た牢屋に帰してくれるのだった。
牢屋に戻るなり、ライオットから睨まれる。
「あいつの毒牙に掛って来たのか?」
「いや、何事もなく帰された」
「気をつけろ、どんな術使ってるか知らないが、あいつは人間を吸血鬼に変貌させる」
おっさんが居た世界だと、吸血鬼に血を吸われた人間は吸血鬼になる説があったな。
ライオットはそれはまぁそれとして、と前置きを伝えるとレディボーンの粉末を渡してきた。
「美味しいもの、食わせてくれる約束だろ?」
彼や、他の牢屋にいた剣闘士がおっさんに注目した様子だ。
次はどんな美味しいものを食べさせてくれるのだろう?
といった期待の眼差しに、おっさんは失笑している。
ゴルディッグの木と、レディボーンの粉末、毎日出される水を使い。
今度はカレーとカレーうどんをクラフトした。
ライオットを始めとし、牢屋に捕らえられていた剣闘士が静かに食べている。
「うめぇ、うめぇよ」
「こんな美味しいもの食べていると、生きる気力がわいてくる」
うむうむ、おっさんも同意だね。
「カレーは美味しいかな?」
おっさんの牢屋から他の剣闘士に声を掛けると、感謝される。
「俺は生涯この味を忘れない」
「お、俺もだ」
じーんとしちゃったね。
向かいにいた二人組の女性剣闘士はおっさんに求婚してくる。
「私、次の試合で生き残れたらおっさんと結婚するんだ」
無論、一時の冗談ではある。
同室していたライオットは闊達に笑うと。
「その女は死神だ。俺の前のパートナーにもそう言って、むざむざ死なせたしな」
ふ、ふーん、フラグ建築士なんだ?
……ちょっと聞き込みいれてみるか。
「ライオットの前のパートナーはいつ亡くなった?」
「二週間ぐらい前か」
「ここにいる奴隷剣闘士の生存率は?」
「言ったろ、半分は初戦で死ぬ」
じゃあ。
「その時死んだ剣闘士はどう処理されるんだ?」
「……恐ろしいこと聞くな、死んだ連中は、招かれた吸血鬼やゴブリンの餌になる」
く、なら心臓も食われるか、それとも処分されちゃうんだな。
ライオットはその質問をおっさんの不安と誤解したらしく、肩を叩く。
「お前は俺が守るし、他の連中にしたってお前が作るご馳走目当てで生き残るよ。あいつら悪食だしな」
他にも聞きたいことは沢山あった。
賢者エグゼ様は吸血鬼の支配下に生存した人間がいると言っていた。
あれは事実で、現にここには十数名の人間が生きている。
奴隷剣闘士として。
ならそれ以外に生きている人間はいないのか聞いた所。
答えは――いる、だった。




