第025話 ロードローラ改
エルドラドで千年祭を堪能していたが、誘拐されて、今は奴隷剣闘士。
落ちる所まで落ちたなぁ、神展開!
と自虐しても、それは虚勢にしかすぎない。
おっさんは何があってもめげないファイティングスピリッツを燃やし。
一人で牢屋の中を確認していた。
岩壁で覆われた牢屋に、格子の張られた窓。
窓からは例の暗雲が見えるあたり、ここは地下じゃないらしい。
不思議なことに、格子には出入口となる扉が見当たらなかった。
おっさんがGのようにカサコソ動いていると、ライオットから声を掛けられた。
「何やってるんだ?」
「ここから脱出したい、今すぐ!!」
そう思って色々調べていた最中、と伝えると。
「……脱獄したところで、殺されるか野垂れ死にするかだな。ここをどこだと思ってるんだ? 魔族の中でも最強の一角と謳われている不老不死の吸血鬼族の支配地だぞ」
エグゼ様が当面の敵としている吸血鬼か。
おっさんがノーム様の力を借りて発現した裏レシピに、攻略の鍵となる賢者の石があって。
それには人の心臓が必要だ。
ここにいる剣闘士は、どこか命を捨てているように思える。
な、なら、犠牲になった人が出た時、その人の心臓を頂けないだろうか……。
いかんいかん、邪な考えは捨てろ。
実力から考えてその犠牲になるのは、俺自身だぞ。
おっさんは死に直面する想像から鳥肌を立たせ、冷や汗を流した。
通路の先から固い地面をコツコツと鳴らす足音が聞こえる。
足音の主は奴隷剣闘士の飼い主で、吸血鬼の一人だったようだ。
吸血鬼は複数の骨の戦士を従えておっさんの牢屋の前で止まった。
血走った眼、蒼白の顔貌に長身痩躯。
おまけに血なまぐさい臭いを周囲にまき散らしている。
「ライオット、君の出番だ」
その吸血鬼にライオットは名前を呼ばれ、おっさんの肩を掴む。
「出番だとよ、お前は俺の後ろに隠れていればいい」
く、くそ! やるしかないのか!
おっさんは立ち上がり、足を震わせる。
向かいの牢屋にいた女性剣闘士が、ライオットを発破した。
「おっさんを死なせるんじゃないよライオット!」
その声を皮切りに、牢屋にいた剣闘士達が威勢のいい声をあげた。
「おっさんは俺達の希望なんだから! 絶対守れよ、絶対な!」
「死ぬなよおっさん!」
その声に反応した吸血鬼が、おっさんの顔を見る。
「人気者だな新人、かつてこれほどの人望を持った新入りがいただろうか」
「は、はは」
「不思議だよ、見るからに弱そうなのに」
吸血鬼は胸元から手帳を取り出し、すらすらと何か書いていた。
「何をお書きになっているんですか?」
おっさんが質問すると、吸血鬼は手を伸ばし、格子をふっと消す。
得体の知れない力でおっさんを吸い寄せ、喉をわしづかみにして。
「これは人間観察日記、英雄マルコに尊敬の念を贈り、真似ている。今日は君という新人が不思議にも人望を得ているので、記録しておいたよ。光栄に思うがいい」
と言って吸血鬼は手を離した。
おっさんはたまらず咽て、その場で息を乱してしまう。
吸血鬼はおっさんの姿を睥睨し、無様だなと口にしていた。
「では行こうかライオットに、剣闘士諸君の期待の新人。臆することはない、今日は君達の勝利という筋書きになっている。最近剣闘士の負けが続いていたしね。相手はレディボーンを従えた骨の王、ボーンキングだよ」
……レディボーン?
その名を耳にしたおっさんはライオットに耳打ちした。
「できればレディボーンの骨を持って帰りたいな」
「……何故だ?」
「ラーメン以外の食べ物がクラフトできる」
レディボーンの粉末があれば、カレーと裏レシピのカレーうどんが作れる。
お腹を空かせた剣闘士には打ってつけだろう。
おっさん達は骨の戦士を従えた吸血鬼について行き、光る入り口へと向かった。
入口の脇に控えていた生きる骸からライオットは斧を受け取る。
おっさんも見習って斧を受け取るも、斧の重さに前のめりに倒れた。
派手に転びながら舞台に入場したおっさんを、人間じゃない観客は笑った。
ライオットはあきれた声を出しながらおっさんに手を差し伸べていた。
「お前、本気かよ。守ると言ったが、限度があるぞ?」
「気にするな、今のは油断を誘うための演技だ!」
部隊はローマにあるコロッセオのような感じだ。
円状の大きな建物に主賓の吸血鬼や、それに従うドワーフ、ゴブリンといった観客の目があって。所々監視役の骨の戦士が槍や長剣を構えて直立不動で目を光らせている。
これは逃げられるような状況じゃあないな。
おっさん達が出てきた入口の対面に、敵の入口が備えられていた。
そこから今日の試練の相手となるレディボーン――短剣装備の骸骨と。
黒い王冠を被り、黒い外套を羽織ったキングボーンが現れる。
ライオットは初めて戦うおっさんに助言をさずけてくれた。
「レディボーンは基本的に無視、キングボーンをぶっ殺せば自然と黙る」
「お、おう!」
おっさんは膝をがっくがくと震わせ、ライオットの後ろに隠れた。
そしたら観客席から野次が飛ぶんだ。
「なんだよあいつ、戦意の欠片もねぇぞ!」
「今日はキングボーンにベットした方が賢明だな」
野次に隠れるよう、ライオットは小声でつぶやいた。
「……連中は逆転劇みたいな演出が好きだ。だから最初は追いやられた振りするぞ。壁際にタッチしたら二手に分かれて、お前は露骨に悲鳴上げてレディボーンを引き寄せ、そのすきに俺がボーンキングを獲る」
お、OK!
ということで試合開始、作戦通りおっさん達は壁際に追いつめられる。
背中で壁にタッチすると、ライオットが左に駆け始めた。
おっさんは反対側の右から円を描くように走ろうとするが。
「あいて!」
地面の砂に足を取られてこけた。
普段からあまり運動しない罰のように。
その光景にライオットが声をあげる。
「馬鹿野郎! レディボーンが!」
そう、雑兵だと思われていたレディボーンはおっさんに接近していた。
おっさんの異世界物語は、ここで終わっちゃうのかな?
覚悟を決めていると、目にミリアの姿が映った、走馬灯だろうか?
その時、ミリアとの思い出がよみがえる。
「おっさんの言うロマンの塊とやらは、総じて美しくない。が、これは少し気に入った」
それは廃墟と化した街の整備をミリアとしていた頃の思い出で。
ミリアはおっさんがクラフトした重機をお気に召さなかった。
しかし、ある重機を目にしたミリアは少し気に入ったといい。
「操縦法を教えてくれない?」
「いいぞ、だけどこれのどこが気に入ったんだ?」
「え? モンスターの群れを虫けらのように始末できそうな所?」
「なにその悪魔的な理由」
おっさん、あの時はミリアの思想に引いていた。
それが絶体絶命の状況を打開するヒントとなった。
『ロードローラー改のレシピを獲得しました』
レディボーンが肉薄する中、おっさんは手にしていた斧と砂、会場の壁を媒介にし。
ミリアが「モンスターの群れを虫けらのように始末できそう」といった重機を召喚!
おっさんは俊敏な動きで乗り込み、ざわめく周囲の声に応えた。
「これの名がなんだって!? これは――ロードローラーだッッ!!」
では発進!! ロードローラを前進させ、レディボーンの群れを圧壊する。
レディボーンはメキメキメキと、音を立ててつぶされる。
目の前ではライオットがキングボーンと競り合っていた。
「退けライオット!」
「なんだそれ! おま! ちょっと待て!」
「と言われて待つ馬鹿がどこにいるかああああああ!」
おっさんのボルテージはMAXになり、危うくライオットをひき殺しそうだった。




