第024話 牢獄の塩野菜ラーメンは格別なり
おっさんの本名は霧島才蔵といい、周囲から名前だけは褒められていた。
――格好いい名前ですね、忍者の末裔みたいで。
そう、おっさんの家は実は忍者の末裔だったらしい。
まぁ今は普通の家庭ですが。
家族は割と優秀な人間が多く、おっさんはちょっと不出来で。
一人地方に就職して、気づけば窓際族あつかいさ。
待機所という名の牢獄には、おっさん以外にも十数名の人間が囚われていた。
おっさんはここの慣例に従い、自己紹介代わりの昔話を語り聞かせる。
向かいの牢屋にいた二人組の女性は、おっさんの話に興味を持ったようだ。
「忍者の末裔?」
「そだよ、まぁおっさんは忍術なんて一切習わなかったけど」
「よくわからないけど、強いってことだよね?」
「そうとは限りますん!」
人類は絶滅したと聞かされていたけど、いる所にはいるじゃないか。
牢獄にはこうやって男女で隔たれた二人組が牢屋に入れられていた。
なんでも同じ牢屋にいる人はパートナーで。
日替わりで代わる試練に生死を懸けて生き抜いているらしい。
「酷い趣味だな、観客とかいるの?」
同室していた剣闘士のライオットに聞くと、彼は皮肉調に笑う。
「ああ、吸血鬼に成金のドワーフ、頭の悪いゴブリン様なんかもいらっしゃるぞ」
……はは。
おっさん、ここにいた時には身ぐるみ?がされてて。
助けを呼ぼうにも、付けていたコネクトロも取られちゃったようでね。
おまけにアイテムボックスも取られたみたいで。
おっさんが得意とするクラフトも使えないと来たもんだ。
はは、笑えない。
牢屋の中にはなぜか植えられたゴルディッグの木があった。
それと今日の食糧であるコップ一杯の水と、パン。
惜しい、あと黒曜石さえあれば塩野菜ラーメンが作れるのに。
「ライオットさん、黒曜石ってないかな?」
「……何に使うつもりだ?」
「えっと、黒曜石と、そのゴルディッグの木の枝をちょっと拝借すれば、美味しいものが作れる」
ああ、それと水ね。
するとライオットは静かに手招きして、おっさんを近寄らせた。
「嘘じゃねぇだろうな?」
「おっさんは正直な性格を売りとしてるからな、嘘じゃない」
ライオットは確認すると同時に、背後から黒曜石を取り出した。
よし! 後はこれを。
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レシピ名:塩野菜ラーメン
必要材料
・ゴルディックの枝葉
・黒曜石
・水
[作成]
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塩野菜ラーメンの作成ボタンを押し、クラフトする。
「ほらこれ、塩野菜ラーメン。召し上がれ」
ライオットは突然出てきた塩野菜ラーメンに驚愕するよう目を見開く。
塩野菜ラーメンの匂いに、固唾をのんで。
「……マジか」
震える手で受け取った。
「おっさんの分も残しておいてくれな」
「あ、ああ、じゃあ……食うぞ?」
「毒なんて入ってないからどうぞ」
そしてライオットはラーメンに一度口をつけると、一気に食い散らかした。
「あ、全部食べちまった」
「なぁあああああああああああ!?」
おっさん、ショックのあまり絶叫してしまう。
まぁいいのさ、おっさんのクラフトはここからが真骨頂!
ライオットが食べた塩野菜ラーメンの黒い丼、これ実は黒曜石。
あとレンゲと箸、これ実はゴルディッグの木とくれば。
水さえあれば塩野菜ラーメンと、裏レシピである豚骨ラーメンがクラフトできる!
「それはなんだ?」
「豚骨ラーメン、おっさんはこっちの方が好き」
「ちょっと分けてくれないか?」
ああ、いいぞ。
よほどお腹が空いていたのか、ライオットはおっさんの手から豚骨ラーメンを奪う。
「やべぇ、うめえ」
うんうん、そうだろ?
「ご馳走様……あ、お前の分残しておくの忘れてたわ」
「おぁあああああああああああ!?」
おっさんとライオットの様子を他の牢屋にいた剣闘士が目耳していたようだ。
向かいにいた女性二人組の剣闘士がおっさんに声を掛ける。
「私達にもくれよ、後でいい思いさせてやるからさ」
「じゃあお水くれないか?」
彼女は1メートル弱離れている向かいの牢屋から手を伸ばして、コップを渡そうとするも。
「と、届かない」
「がんばれおっさん、なんとかしてくれない?」
と、二人して格子の隙間から最大限手を伸ばして汗くせしていると。
彼女のコップがフワ、と宙を浮いていた。
宙を浮いたコップは器用な感じでおっさんの手に渡ると、隣から声がした。
「協力する代わりに、俺にもそれくれないか?」
「お、おう! ありがとう」
どうやら捕らえられていた剣闘士たちは空腹に耐えかねていたようだ。
みんなしてコップの水を差しだし、おっさんのラーメンで胃袋を満たす。
最後におっさんも格子越しに手を伸ばし、ラーメンを食い終え。
残った丼を横にして格子をくぐらせ、ライオットに渡した。
向かいの牢屋にいた女性二人組から謝礼代わりの投げキッスをもらった。
「霧島才蔵って言ったっけ? どうやってそれ作ったの?」
「スキルだよ、俺のスキルはクラフトって言って――」
牢屋にいたみんなに、自己紹介の続きとしてスキルについて話した。
そしたら遠くから「ありがとう」「あんた最高」などといった声があがった。
同じ牢屋で壁を背もたれにして座っているライオットは不敵な感じで笑う。
「凄い奴が来たもんだ、お前だけは何があっても俺が守ってやる」
「そうしてくれると助かる、おっさんは戦闘能力皆無だからね」
ところで。
「生死を懸けた試練って具体的にどんな感じなんだ?」
「試合の内容は直前になって伝えられる、新人の大半は最初の試合で死ぬ」
……ごくり。




