山間の小国
周囲からは次第に木が無くなり、風も冷たい。
そんな中をイネスは足取り軽く進んで行く。
やがて谷の下に石造りの家が並ぶ集落が現れる。
いや、集落という規模では無い。
中規模な都市だ。
国と聞いて居たがこれ程とは。
◆
日が暮れる前に、その町へたどり着きそして宿へ。
「今年の一番客だよ」
そう言われ歓迎される。
最初の旅人は春の使いと呼ばれるらしい。
「ガイドも連れずよく来れたね」
「森の精が一緒だったからね」
その言葉に、イネスの正体に気付いたらしい。
彼女によるとこの先のブリズニツ側にエルフの隠れ里があるらしく、交流もあるだろうとの事。
「今年は、良い年になりそうだ」
それは、良かった。
「去年もガイドを連れずに来た人が居るでしょ?
その人と同じ道を辿ってるんだ」
フロウさんの事だ。
「いや、去年は居なかったと筈だよ」
宿の女将が怪訝そうな顔をする。
「え? でも、麓の町ではそう言ってた。
それで、ブリズニツで再会してるんだよ」
「いつの話だい?」
「秋頃」
「うーん、他の宿でもそんな話は無いと思うけどね」
女将の様子に嘘をついて居る様には見えず。
どういう事だろう。
「寄らずに行ったのかもね。
麓の町で聞いて見ると良いよ」
「そうします」
「今日は、腕によりを掛けて食事を用意するからね」
「楽しみにしておきます」
何故、フロウさんはここを避けたのだろう。
その理由が皆目見当がつかない。
◆
翌日。
天候が悪化しそうだという事でその日の出発は断念する。
ならばと、一度冒険者ギルドへ顔を出し所在報告。
ついでに依頼を見るが……。
「無いね」
「無いすよ」
他の町ならば壁に貼られて居る依頼が一枚も無い。
「元々そんなに依頼の来ないところなんすよ」
そう、三つ編みの受付嬢がつまらなそうに言う。
ギルドの建物も、他の町よりこじんまりとして居る。
「請ける冒険者の数がが不安定で配達は専門の運び屋が居るし、討伐もみんな血気盛んなんで魔獣なんか男女問わず喜んで狩りに行きますからね」
「へー」
「なんで、冬は傭兵として出稼ぎに出る様な土地柄っす。
特にブリズニツの方へは沢山行ってますよ。
一応、宗主国なんで」
「へー」
「今は居ないですけど、ブリズニツの王はここの王でもあって、お姫さんが嫁いでくる筈だったんですけどね」
「え、ミラーシャ姫が?」
「まあ、決まる前に国が無くなった見たいすけど。
仮にも第一王女がこんな辺境に嫁ぐなんて嫌がらせだろうななんて噂してました。
ほら、処刑されたお妃さんの子じゃ無かったですし」
「そうか……。でも、その方が幸せだったかな……?」
山の上とは言え、星の輝く夜空は綺麗出し、下界のしがらみとは縁遠く暮らせそうだ。
「どうすかね。肝心の嫁ぎ先の男が……」
「ういぃーっす」
ギルドの扉が開き一人の男が現れる。
「あー、お久しぶりです。ルトさん」
「おぉー珍しい。人が居るぜ」
「春の使いすよ」
「あぁ、今年も男か」
「残念。男女二人組す」
「あちゃー。今年は縁起が悪い」
「そうなのか」
「本人の前でそんな事言っちゃダメすよ」
「まあ、迷信だ。
ルト・スコルピオ。ようこそ天上の楽園、スコルピオへ」
ルトと名乗ったその男は短い顎髭を生やし厚手のコートを身にまとっていた。
「ヒザマル・ソラーレです。
レーヴから来ました」
差し出された右手を握り返しながら答える。
「ブリズニツへ?」
「ええ」
「何でわざわざ?
そんなナリだ。冒険者だろうが、レーヴにいた方が仕事は多いぜ?」
「人を探しに」
「そうか。人探しかー」
「ルトさんは何しに来たんすか?」
「マロンちゃんの顔を見に。そのついでで依頼を持って来た」
そう言って、一枚紙を取り出し、受付嬢へ渡すリト。
受付嬢はそれを見て、眉間に皺を寄せる。
「これは……ちょっと受けれないすかね。一応預かりますけど」
「駄目かぁ!? ブリズニツの未来がかかってるんだけども」
「うーん……傭兵なら問題ないんすけど……」
「まーあ、駄目なら酒場に貼っとく事にする」
「その方がいいすね。
て言うか、何でブリズニツの未来の為に動いてるんすか?」
「成り行きだぜ!」
「お父上が聞いたら怒りますよ」
「大丈夫! 弟が家を継ぐ事が正式に決まった!」
「ならこの国の未来も明るいすね」
「そうだろうさ!」
二人のやり取りに取り残され、立ち去ろうかと考え始めた時に、受付嬢がこちらを見て言った。
「さっきのミラーシャ姫の旦那さんになる筈だった男っす」
「え!?」
「いやぁ、その話、承服して無いから!
どう言う事かじっくり説明するから今度食事行かないかい?」
受付嬢の言葉をルトは笑いながら否定し、そして、ナンパする。
「行かないす」
それは、あっさりと拒否される。
ザマァ。




