09 王位簒奪の真実 (モーさん視点)
大人は大変、というお話。
とりあえず茶を飲み茶菓子を食べて腹を落ち着け、アリィの保護者の話し合いが始まった。
「では我々からお話しましょう。アリノーリア様がここに来た理由や本来の保護者である妃殿下のことなど」
国家機密になるだろうことをレナードはんは話し始める。
少し緊張しているようやが、信用してもらわんと話は進まんしな。
とりあえず、おかしいことだらけやもん、話聞かなな。
「前国王陛下と妃殿下が結婚されたのは七年前。なかなか子供を授からなかった妃殿下でしたが、結婚から五年後に妊娠、その後出産されました。そして出産直後に反逆により前国王陛下が殺害されました。
殺害者は南領の領主であったカジット。王位継承権はアリノーリア様がお生まれになったことにより五位になっていました。
カジットは妃殿下に横恋慕していたのは有名な話で、前国王陛下を殺することで妃殿下を手に入れたかったようです。」
「そのカジットが国王になるのは反対はなかったんかいな」
「王位継承権の上位の方はカジットに王位を譲ったことになっています。人質や交換条件があったようですが、殺害まで至ったのは前国王陛下だけでした。
諸領では南領はカジット新王に賛成でしたし、西や北領は不干渉でした。東領がかなり反発していまして、アリノーリア様の逃亡も東領の反発に乗じてになります」
正直政治やら国のことなんかはようわからん。
わしは果物をかじりながら、胡乱な表情で会議を清聴しておく。
「西や北……魔物が多い地域ですね」
「はい。カジットは前国王陛下の清廉潔白な政治が行き過ぎ、本来救える人々に手を差し伸べない国になっていると主張していました。弱者にも優しい国をというのが建て前で、賄賂やコネを認めさせたかったようです。北領や西領ではそもそも賄賂なんかではやっていけませんから、お家騒動に関わらない立場だったわけです」
「なるほど。魔物が多い地域で賄賂なんかで何とかしようとしても、魔物に商隊がやられたら一発で賄賂分が吹き飛んでしまいますものね。よくも悪くも実力主義、といったところでしょうか」
「東領領主は賄賂やコネを嫌いましたが、東領だけで反対しても無理だと理解していたようです。そこで領内で暴動が起こるのを黙認し、カジットの息のかかった商人に攻撃をしかけていたようで」
「結構陰険やな」
笑てまう。人間世界って何をしたいんかさっぱりわからんわ。
「おかしなのは王都がある中央領で、官は反対も賛成もほとんど表明しませんでした。一応妃殿下とアリノーリア王女殿下を質にとられているためとなっていましたが、流れに逆らわずといった雰囲気で」
「あら……、もしかして。いやでも……」
エレーナが何かを思いついたようで、急に顔を真っ青にさせてブツブツ言い出した。
「どないしたん」
「……先にアリノーリア様が行く先をお話した方がよろしいかと思いますので説明します」
「兄ちゃんの話はええんかいな」
「私の推測とあわせてモリッツ様の意見もお聞きしたいのです。その時にもう一度。よろしいですか?」
「さよか。ええよ」
「構わないです。どうぞ」
兄ちゃんらもわしも頷く。別に誰から話したって構わんしな。
さすが巫女頭なんか、ひとつ深呼吸をすると気持ちを切り替えたようや。
「まず、アリノーリア様の儀式の結果、四つ星が確認されました。これは上から二つ目の加護の強さになります。普通赤子でこれほど強いことはないので、成長とともに五つ星になるのではと予想されます」
「五つ星……」
兄ちゃん姉ちゃんが目を見開いた。五つ星。そんな加護持ちの守護精霊がわしなんかでいいんやろかとちょっと思てまうわ。いや、上位精霊はんに頼まれているから逃げられへんのやけど。
「こちらにどうぞ。地図を見ながらお話しましょう」
エレーナが立って先ほどの柱のもとに行く。みんなでぞろぞろとついていき、柱を囲んだ。ちなみにわしは浮いとる。
「先ほど上位精霊様のお告げがこの地図にうつりました。これは今回の加護持ちにどこに行ってほしいかを伝えられています。アリノーリア様は西領のベルゼネブに行くようにお告げがありました」
巫女頭は地図を指差した。水盆の上にある地図は巫女頭が指差したところだけ濡れている。
人間の兄ちゃんらには見えてへんやろが、わしら精霊ならばこの地図は色付きに見えとる。精霊が強いところは鮮やかな色がつく。四属性全部の精霊が強ければ白くなり、逆に精霊がいない地域は黒くなる。
ベルゼネブと呼んだそこは真っ黒や。ベルゼネブだけが黒いんやない。そこから西にかけてが黒く染まっとる。精霊の力が弱い。つまり魔物が多い地域になる。
正直言うて、赤子が行くような場所やない。しかし、五つ星確定のアリィに行ってほしいというのもわかる。
「ベルゼネブ……実は我々もそこへ行こうと」
「はぁ!? 本気かいな」
わしはレナードはんを凝視した。怯む様子もなくレナードはんはうなづいた。
「妃殿下の弟君がいらっしゃいますので、それを頼って。王都から離れ、魔物の地域に近づく方が追っ手も少ないと考えまして」
エレーナがため息をついた。なんや。
「その弟君は加護持ちでは?」
「ええ。土の加護持ちだと聞いております」
兄ちゃんらは怪訝な顔をしてエレーナの様子を伺う。エレーナは地図のベルゼネブをトントンと指を叩きつける。
「何年も前からベルゼネブに水の加護持ちを送っています。多分、水の上位精霊様のお考えだけでなく、各属性の精霊様のお考えかと」
「ここに何があんねん」
正直言うて、こんな不毛な土地は放っておきたいぐらいや。しかし、エレーナは首を振った。
「何もないんです。ないから精霊様が強くなれないんですよ。何とか加護持ちを送って魔物がこれ以上こちらに来ないように頑張っている防波堤がベルゼネブなんです」
「なるほどな。アリィがここに行く理由はわかるわ。今も強い加護持ちがここにはおらんのやな」
魔物がこれ以上来ないように。言うのは簡単や。でも、今はきっと少しずつおされていっているんやろうな。
「ええ。強い加護持ちが一人いれば他の属性の精霊様も強くなれますからね」
「そうなのですか?」
不思議そうな顔でキースはんが聞く。
「そやで。例えばアリィは水やから、水と一緒に土や風が強くなりやすい。水と土で木が生えて、水と風で雨が降る。木が生えれば燃やせるから火が強くなれるし、火と水で湯になれば人間は凍えなくてすむやろ」
「火が強い場合は?」
「魔法使いがいれば炎の魔法で魔物を一網打尽にしてしまうな。どっちかというとその方が話は早い。魔物が灰になれば栄養になって土が肥えるし、魔物もいない分、人や獣が生きれるからな」
なるほどと二人は頷くが、まぁこのあたりは色々あるからな。
「で、アリィの話とどう繋がるんや?」
「多分ですが、妃殿下が強い加護持ちだったのではないかと思うのです。けれど、妃殿下は陛下との結婚のために神殿に行かず儀式を受けていません。加護持ちの兆候があったのを無視している可能性もあります。
子どもが出来なかったのは精霊の祝福がなかったから。しかし、子どもが出来た。これは精霊様が神殿に行かない妃殿下に業を煮やし、子どもができるように加護を与え、妃殿下を呪い持ちに堕とした可能性が考えられます」
「な、そんなことが……」
一気に言い切る巫女はんに兄ちゃんらが驚く。わしは頭痛がするのをこらえた。
こういうことがありうるか、と聞かれればありうるねん。
加護が強い加護持ちには精霊が近づく。早く上位精霊と儀式をするように促す。
加護が弱いやつが儀式せんかっても諦めるだけやけど、強い加護持ちやったら「何で神殿行かんのや!!」と思てまう。気性が荒いやつが、最後まで加護持ちの傍で言い続けるんや。
精霊やって何度も言い続けたら疲れてまう。愛情が憎しみに変わって呪いになってしまうねん。
加護が強いやつに関しては子が生まれるかどうかも精霊が関わる。そりゃアリィは超ど級の精霊の感情を浴びて産まれてきたんやろうな。
「つまりあれか、アリィは母ちゃんの尻拭いさせられてんのか」
「そうなりますね。妃殿下自身も神殿で儀式を受け、試練を受けなくては王都の水の精霊がおかしくなったままになります。
多分、前王陛下が殺されたことに対して反発があまりないのは精霊側の誘導でしょう。
以前呪い持ちが発生した時もその村全体がおかしくなったことが報告されています」
「おかしく……ですか」
「王都ではここ数年、井戸水が枯渇したり濁ったりしていませんか?」
「……濁っていた報告は聞いています。皆、漉して飲んでいると」
「流行病は?」
「死亡するほどではないですが、腹下しをしているものは多かったような……」
部屋に沈黙が落ちた。兄ちゃんらはどう判断すればわからんのやろう。
エレーナはわしを見た。どう思うか目で問うてくる。わしはため息をついた。
「多分、巫女はんの考えで当たりやろうな」
「そうですか。ということは、今王都は危険地帯になっていますね」
「王都ってどこや?」
「ここです」
エレーナが地図を指差した。
黒くはない。黄土色や。
「そして、ここが魔の森です」
エレーナが次に指差したところは赤茶や。
あかん、これはあかん。
「もともと、魔の森は風の加護が薄い場所でした。それゆえ魔物が発生していたのです。それを逆手にとって前王はここを訓練所としていたわけですが……」
「いや、ここも水の加護も落ちとる。火と土の加護だけで持ちこたえとるだけや」
「王都はどうですか?」
「火と風と土が揃っとるけど、水が呪いになってるんやったら他の精霊も逃げ出しよるやろ」
エレーナが頭を抱えた。わしも抱えたい。
「つまり、それはどういう…」
キースはんが只ならぬ雰囲気に恐る恐る聞いてきよる。
言いたないけど、言わな始まらへん。覚悟を決めた。
「このまま呪い持ちが王都におったら、王都と魔の森がつながる。そしたら魔の森と同じように魔物が王都に出るようになって、王都陥落やな」
「「な!?」」
レナードはんもキースはんも驚いたまま動けなくなってしもた。
わしはため息をつく。精霊の嫌な性や。
「呪い持ちについた水の精霊はよほど怒っとるな。状況考えたら旦那が死んだ時点で呪い持ちが神殿に行けば良かったのに動かへんかったから、今度は王都自体を消しにきよったで」
「そんな、一人の人間でそこまで……」
「一人で町を興せるのが五つ星の加護持ちや。一人で町を壊せるのが呪い持ち。おかしくないやろ」
「そんな……では、どうすれば」
「王妃殿下を攫ってでも神殿にお連れして儀式を受けていただくしかないだろう」
レナードはんは拳を握り締めとる。ぎりっと歯を食いしばる音までした。
「いくつかお聞きしたい。呪い持ちである王妃殿下をお連れする時に注意するべきことはあるのだろうか?」
「あんまりひとつの村にとどまらんことや。その土地の水の精霊が弱る。後、火の加護持ちは近づけん方がええ。呪い持ちについとる精霊の勘に触る」
「わかった気をつけましょう。次に儀式を行っていないのになぜ精霊がつくのですか?」
「加護持ちには精霊が働きかけをする。その働きかけを受けて加護持ちが神殿の方へ向かうならそのまま放っておくんやけど、なかなか神殿に行かないようやと何度も何度も精霊が働きかけを続けるんや。正直これはめっちゃ疲れる。弱い加護持ちにはそない何度もやらへんねんけどな、強い加護持ちやと精霊側が惚れ込んでしもて、やめられへんようになるんや」
「……恋焦がれる、ということでしょうか?」
キースはんの言葉にわしは頷く。
「似とるな。愛情が憎しみに変わってまうねん。おかしくなった精霊が守護精霊のように加護持ちにつくようになる。でも加護持ちと一緒におっても魔力は増えへん。変わりに周りの精霊の力を吸うようになる。これが呪いや」
「……呪い持ちの状態で死亡したらどうなるのですか?」
「最悪やな。ついていた精霊が発狂してまう。基本的に精霊は何が何でも呪い持ちを助けるから死ぬ可能性は低いんやけどな」
「……わかりました」
レナードはんとキースはんは視線を合わせる。わしはエレーナを見た。
「呪い持ちに関しては表立って公表はできないでしょう。今は王妃殿下は幽閉の身。傍若無人な国王陛下に耐え切れず逃亡、その後水の神殿に身を寄せるという形がよいかと思います」
「水の神殿としてもそれで結構です。ただ、アリノーリア様を王都にもう一度お連れするのは……」
「アリノーリア様と我々は王都には戻りません。軍の伝を頼り、王都近くのマティス村の仲間に連絡します」
「わかりました。私からは申し上げることはありません」
レナードはんがわしを見る。
「モリッツ様、何かございますか?」
「……わしに敬語はええよ。とりあえず長い付き合いになるやろし」
「わかりました」
「……上位精霊はんは王都がおかしいことになっとんのにアリィに他所にいくように指示を出しとる。多分、王都の後始末をつけるのは王妃はん本人や。アリィは……長い間母親には会えんまんまになると思う」
アリィ本人はそこまで母親に対して思い入れがあるように見えんけどな。
「……そうですか」
「うまく行くように祈っとるわ」
「ありがとうございます」
上位精霊はん。
何が面白いやねん。やっぱり訳ありやないか。
まぁ、アリィのためや、いっちょ頑張るか。
大人たちはみんなでげんなりです。
作者も一緒にげんなりでした。
もっとほのぼのを目指しているはずが何だこの暗い話は。
そして、ここまでで書き溜めてあった分は終わりです。
次からは遅くても一週間に一度ペースぐらいで進めていければいいなぁと考えています。
オヤジ成分が足りないですよね。ベルゼネブはオヤジがいっぱいのはずなんです。神殿にオヤジが詰まっているのはさすがに嫌だったんです。
次はアリィちゃんのターン!




