08 保護者会議 (モーさん視点)
「面白い子がいるから、君に頼むね」
わしが水の上位精霊はんに頼まれたんは赤さんやった。
赤さんのくせに四つ星かいな。
面白いやなくてめんどくさい感じがするわ。
あ、加護の強さを表すんは星で表すねん。
一番弱いのが一つ星、一番強いのが五つ星や。
加護は強くなったり弱くなったりする。
加護っちゅうんは精霊を元気にする力や。正直言うてそれだけでは加護持ちの人間に恩恵なんてあらへん。
精霊が元気になって、豊作になったり、空気や水が綺麗になったりして、人間に見返りがある感じやな。
今、赤さんが四つ星で、精霊に働きかけをしていれば五つ星になるやろな。
正直、砂漠にオアシスができるレベルやねん、五つ星て。
つまり、僻地行き決定やなこれは。
赤さんはわしを召喚した後寝てしもた。
上位精霊はんも実体化しとったし、赤さんに負担かかっとったんやろな。
加護持ちと精霊を繋ぐために神殿がある。上位精霊はんが実体化したのも、赤さんの魔力を引き出して加護の力を使わせるのが目的や。
そうすることで加護持ちの力を普通の精霊が使えるようになる。
そいから、この儀式で正確な加護の強さがわかる。上位精霊はんを人型で実体化してたから星四つ。星五つになるとそのまま水から離れて加護持ちの隣に立てるようになるらしい。
加護の力は精霊が使っても減らへんとは言うけど、実は加護持ちと精霊とで魔力を循環させるだけなんや。
普通の精霊が加護持ちの魔力を使うためには上位精霊が道を作っておいてやる必要があるだけやねん。
もちろん上位精霊はんも赤さんに魔力は返してあるけど、初めてで体の中の魔力を一気に使えば負担もかかったわけや。
赤さんが起きてから話をした。
異世界からの渡り人やったんやと。渡り人は色々あるとは聞いたことあるんやけどほんまやな。
昔は魔力がえらく高いやつがおったと聞いたけど、赤さん、いやアリィは加護がえらく強かったんやな。
つか、魔力の循環も自分でやってしもたでアリィ。基本的に魔力の循環は精霊側からするもんやのに。
これは確実に厄介ごとが舞い込むな。しかも性格もお人好しや。自分を大事に生きてほしいわ。
保護者の兄ちゃんらに世話焼いてもろてご飯も食べた後、アリィはまた寝てしもた。そりゃまだ赤子やもんな。これが普通やな。
ちなみにわしはアリィが世話焼かれとる間は姿を消しとった。だから、まだ保護者の奴らとは話とらん。
甲斐甲斐しくアリィの世話をする姿は好感を持てる。お父ちゃんって言うより年の離れた兄妹って感じやけど、大事にされているのはわかる。
アリィが寝たんを確認してからわしは巫女のとこに行く。あ、もちろん飛べるで。本性は水やから、水蒸気での移動も可能やしな。実体に慣れるために部屋を出てからは姿を表す。アリィがおった部屋は二階。ふわふわと飛びながら階段をおりた。
途中で何回か巫女にすれ違う。黙ってお辞儀してくれるけど、それやと手ぇ振っても見えんがな。
目的地はアリィと儀式をした隣の部屋や。水の儀式の気配がすんねん。上位精霊はんのお告げやな。
部屋の前におった巫女にもお辞儀され、パタパタと手を振ったら気付いて振りかえしてくれた。うんうん。わし可愛いやろ。
ドアがない部屋にすいっと入って、小さな机の上に降りる。さほど広くないけど、中央に柱が建っとる。腰の高さまでのその柱の前に女が立っていた。
儀式の時におった巫女や。難しい顔で柱を睨んどる。実際には柱の上に水盆に乗せられた特別製の地図を睨んどる。この神殿を中心にした地図や。
「巫女はん」
わしが声をかけると、あわててこちらを向きお辞儀した。地図に集中していて気付いとらんかったんやろな。
「ようこそおいでいただきました」
「よろしゅうな。そろそろ保護者含めて話しよか」
「はい。よろしくお願いします」
巫女はんは部屋の外にいた年下の巫女に伝言しにいき戻ってきて改めてこちらに向き直る。
「今代の巫女頭を務めておりますエレーナと申します。無事召喚の儀がお済みになられたこと、誠にお喜び申し上げます」
エレーナは深く頭を下げてお辞儀する。わしはパタパタと手を振った。
「そんな大層にせんでええで。わしはそないエラないし」
「あ、そうですかー? 助かりますよー。もう前の守護精霊さんめっちゃ固くってー。這いつくばる勢いでしたからー」
「……態度の豹変早すぎないか?」
さっきの礼節はどこいったんやろなぁ。なんや、幻でも見ていた気分やわ。
「あ、何かいりますー? 秘蔵のお茶入れちゃいましょーか?」
一応精霊や言うても実体化したら飲み食いできるからな。歓待は素直に嬉しいんや。嬉しいんやが。
「秘蔵って、腐ってたりカビとらへんやろな」
「あははは、大丈夫ですよー。変な味したら吐き出せばいいんだし」
「いや、おかしいやろその前提!」
「まぁまぁ。あ、最近流行りのお店でクッキーも買ってあるんですよ。全部食べちゃって粉しかないですけど、精霊は体小さいから大丈夫ですよね」
「いらんわ! 今代の巫女頭、こいつでええんか!?」
「いやぁ、すんばらしいツッコミですね。相方お願いしたいぐらいです」
「いや、わしアリィの守護精霊やし」
「あ、名前もう聞いたんですね」
……やられた。これか。
わしは苦虫を噛み潰した顔をしとるやろうな。巫女、エレーナがニヤニヤしている。
「契約もお済みのようですね。名もお決まりになりましたね」
「仮や。わしは「モー」って言うんやと」
アリィのネーミングセンスがないだけやけどな。
さすがに真名をモーさんというのは受け入れられん。
「あら? 余りに落ち着いていたのでアリィちゃんは渡り人かと思ったんですが。名前もお聞きになったのでは?」
「アリィとしか聞いとらん」
これは嘘やけどな。アリノーリアまで知っとるし。
「ふむ。四つ星ですから仲良くなりたいと思うだけで契約できたということですかね」
「まぁそやろな。契約自体そない難しいもんでもないし」
「ふーむ……」
巫女は腕組みして考えとる。
まぁ、アリィの落ち着きぶりからして普通の赤子やとは思わんやろうな。渡り人やと疑うのもおかしなことやないやろう。
「精霊様。エレーナ様。レナード様とキース様がお越しです」
部屋の入口で控えの巫女はんが知らせてくれた。後ろにさっきの兄ちゃんたちがいる。
「ようこそお越しくださいました。お疲れのところ申し訳ありません」
「いや、アリノーリア様のことだ。我らのことは気にせず詳しく教えてもらいたい」
兄ちゃんらはそう言うと騎士の礼をとる。主君のためなら頭を下げるのを厭わん姿勢も好感が持てるな。
「わしがアリィの守護精霊や。よろしゅうな」
「アリノーリア様を守護していただき、ありがとうございます。私がレナード。こちらがキースです。アリノーリア様のお世話と護衛をしております。至らないことも多々あるかと存じますが、どうぞよろしくお願いいたします」
「そない固くなくてええで」
「ありがとうございます。では守護精霊様。我らは何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
兄ちゃんの質問にグッとつまる。兄ちゃんが不思議そうにするが、兄ちゃんは悪ない。ああ、悪いのはセンスないアリィや。
ニヤニヤとエレーナが笑とる。むかつくやっちゃな。
「モーとアリィに呼ばれた」
レナードいう兄ちゃんは戸惑った顔をしたが、キースはんの方はなるほど、と呟く。
「そう言えば、アリノーリア様に牛の絵本を読んでさしあげました。覚えていらっしゃったんですね」
キースはんは他意なく言う。ほんまの赤子やったらな、それでええねん。キースはんの反応もおかしないねん。
「だから、まぁまだちゃんとした名はないわけや」
「守護精霊様は男性でよろしいのでしょうか?」
「そやな」
「出過ぎた真似とは存じますが、仮の名としてモリッツなどいかがでしょうか。しばらくは仮の名としてお使いいただき、本当の名は必要な時に用意されては。アリノーリア様はまだお小さいので良い名はなかなか思いつかないと思うのです」
キースはんナイスフォロー!
つか、多分このままモリッツが定着やろな。アリィにセンスを求めたらあかん。
「わかったわ。ならモリッツと呼んでくれるか」
「かしこまりました、モリッツ様」
とりあえず自己紹介の段階で躓いてしもたな。
やれやれと机の上でうなだれた。
と、その時ノック音が部屋に響く。
「エレーナ様。お茶の準備が整いました」
部屋に戻ってきた控えの巫女はんがカートをおしてやってきた。
「ありがとう。では皆様。こちらにどうぞ」
巫女はわしが座っていた小さな机ではなく、部屋の奥にある六人掛けのテーブルセットを勧めた。
いすに座ると姿が見えんから、わしは飛んでいってテーブルの一角に座る。全員が座ると茶が配られた。
さすがにきちんとわしの前にも小さいサイズのコップと茶菓子が置かれている。まぁさっきのは冗談やろうけど。
「あ、モリッツ様。茶菓子は私が食べてあげますよ」
「いや、おかしいやろ」
「そんな小さな体で大きなクッキー三枚とか無理ですよね」
「見た目と精霊が同じやないの分かっとるやろ!」
わしらが言い合うのを、兄ちゃんらはポカンとした顔で見ていた。
二人の緊張をほぐすため、か?
「隙ありです!」
そんな風に思たらクッキーが皿ごとかっさらわれた。
「おい! お前本当に巫女頭か!?」
「ふ、私に勝とうなど十三年早いと申し上げましょう!」
「微妙な数字やな! 根拠あんのかいな!?」
「……乙女は永遠の十七歳なのですよ!」
「さては、そろそろ色々大台に乗るわけや。三か? 四か?」
「ひどいです! 精霊様に慈悲はないのですか!?」
「ならクッキー返せや」
「それはないな」
「とうとう敬語まで消えとるがな!」
「敬語さえ使っていれば敬っていると誰が言った!?」
「いや、最初から敬う気ゼロやろ! これで敬われていると感じたら頭おかしいで!」
「そんな、私の信仰心をお疑いになるなんて……!」
「じゃあクッキー返せや」
「それはないな」
「貢げや! 信仰の対象から奪いとるアホがおるか!」
「水の精霊様は人に施しを強要するのですね」
「わしか!? わしが悪いんか!? おかしいやろ」
「汝、隣人を愛せと精霊様はおっしゃいました」
「いや、ゆうとらん。そんなことゆうとらんよー上位精霊はんは」
「そもそもモリッツ様は守護精霊で牛ですから隣人じゃないですしね」
「え、何? わし、搾取される側?」
「牛なんですから乳ぐらい絞り出してくださいよ」
「いや、わしオスやから出えへんで!」
「ならば肥え太り、肉を差し出せばいいのです」
「それはもう搾取やのうて、死んどるやん!」
「大丈夫、あなたのことは忘れません。食べるまで」
「それは食べたら忘れるんやろう!」
「当たり前です。昨日の晩御飯を何食べたかなど、普通覚えていないでしょう!」
「もう嫌や、こんな巫女!」
わしはがばりと机に倒れ込んだ。これ以上何言うても無駄や。
「さて、心温まる触れ合いはこれぐらいにして」
「温まっとらん。誰が温まるねん」
ついつっこんでしもた。あかん、無視や無視。
「私です。モリッツ様にはこちらを」
巫女はんはわしの横にコトンと別の皿を置いた。
「召喚直後はこういうものの方がよろしいかと」
皿には果物が何種類か乗っとる。赤や黄色の果物はどれも瑞々しい。
「……最初から出せや。素直やないなぁ」
「私が素直な時は天変地異の前触れですね」
「やな宣言やな」
水の精霊は水を好むねん。食べ物だってクッキーより水分が多い果物の方がいいんや。
気遣いなんか何なんか。苦笑いしかできんわ。
エレーナ暴走中。
いい人です。いい人なんですけど、おちょくれる対象はおちょくりたい人なんです。
精霊なのに神殿? 神殿なのに巫女? とか思いますが
まあ、そのあたりはアバウトでいっかーと適当に進めています。




