04 籠カゴ加護〜
次の日、朝から神殿に行くことになった。
私はつばのひろい帽子をかぶり、フリルとレースがついた可愛い水色のドレスを着てる。私の髪も水色だもんね。今日は神殿に行くから晴れ着らしい。いつ買ったんだこんな服。
ちなみにお漏らししないように同色のカボチャパンツもしっかりはいた。
今日はレナードさんに抱っこしてもらう。レナードさんたちも今日はちょっとパリッとした服だ。さすがに騎士服どはないけど、商人としての一張羅ということなんだろう。
赤い髪のレナードさんは、焦げ茶のジャケットが素敵だ。キースさんは紺色のベストに白いシャツ。爽やか路線がいいね。
つか、道を歩いていると結構女性が熱い視線を二人に送ってる。
すまんねこぶつきで。あ、そんなことは関係ないのかな? 目の保養かな?
「アリィ。ほら見てごらん。あれが水の神殿だよ」
てくてく歩いて十分ぐらいすると、白い石造りの建物が見えた。キースさんも指差しているし、あれが水の神殿なのね。
近くに寄ってわかったけど、神殿は半分ぐらいは湖の上にはみ出すように建ってた。
三階建てぐらいで、窓にはステンドグラスがはまってる。壁には特に何かレリーフはなくて、ステンドグラスを際立たせているみたい。色んな色のステンドグラスは幾何学模様のようだ。
ヨーロッパの聖堂なんかを予想していたから素朴な印象を受けるが、貧乏くさいより清貧を尊ぶ感じかな。
「今日は休みじゃないから空いてるね。良かった良かった」
キースさんが言うように人通りはさほど多くない。この世界には休日があるのか。
神殿の前には優しそうな女の人が立っている。
「おはようございます。参拝ですか?」
ストレートの黒髪がさらさらと風に流される。シャンプーの宣伝みたいだ。すごい艶。
お姉さんは巫女とかそういうのかな。水色のシンプルなワンピースに半袖の紺のカーディガンを羽織っている。
清楚だ。いいなあ。なんつーか、可愛い。にっこり微笑まれただけで嬉しくなる。
「神託を希望でしたら、別室にご案内しますが」
「いや、参拝でいい。気を使わせた」
おや、レナードさんもお姉さんに見惚れましたか? この人、ファンとかついてそうだもんな。
「そうですか。ではそのままお入りください。水の精霊様を祀った台座がありますので」
開け放たれた扉の向こうは礼拝堂か何かだろう。一番奥に階段があり、石の台座が置かれている。
「台座ですか?」
「ええ。その台座に精霊様が座られるんですよ」
なるほど。そういうのなのか。
「どうぞお入りください」
お姉さんに促されて、三人で扉をくぐる――
キンコンカンコーン
え? のどじ○ん?
軽快なチャイムが神殿内に響いた。
「「「!!」」」
「?」
神殿の中にいた、水色ワンピの人たちが一斉にこちらを向いた。
「レナード様、撤退しますか」
「いや、いきなり逃げれば不自然だろう。用意だけしておけ」
そうね、追われているんだもんね。
めっちゃ気の抜けた音がしたけど、ちゃんと警戒する二人はすごいなぁ。
「失礼します。別室にご案内したいのですがよろしいでしょうか」
神殿の中ほどにいた女の人が近づいてきた。
緊張した様子のキースさんが私とレナードさんをかばうように前に立った。
「何故?」
「ご伝言、聞いていらっしゃいませんか? あら、じゃあその女の子かしら」
伝言、つまり水の精霊との夢のことか。
「ん」
「アリィ!?」
私はレナードさんにしがみつくのをやめてお姉さんに手を伸ばした。二人が驚いているけど、ここは私が一番に警戒をとかなきゃダメでしょ。
「あ、やっぱりあなたがご伝言を受けましたか。パパに抱きついていいですよ〜。みんなで一緒にいきますからね」
パパだってー。キースさんの子供設定なんだけどレナードさんがパパに見えるのかー。
設定変えたほうがよくない? あ、でもキースさんとレナードさんだったらやっぱキースさんの方が女性と縁がありそう……いや、レナードさんももてそうだけど、あんまり関心なさそうというか。
いやいや、いらんことを考える前にちゃんと返事だ返事。
「あぃ」
「ではこちらへ。悪いようにはしませんので」
お姉さんが連れてきてくれたのは、半分ぐらいが池になっている部屋だった。
んー、これって湖につながっているってやつなのかな? 半分ぐらい湖の上に建ってたんだし。
「私はこの神殿巫女のエレーナです。名前をお伺いしても?」
少し威圧感のある言い方だ。お姉さん、ちょっと怖い。
見上げるとレナードさんとキースさんが顔を見合わせている。
意を決したように、レナードさんがエレーナさんを見据えた。
「その前に聞きたい。水の神殿はどこの国にも組しないというのは本当か?」
「本当です。水の利権は容易く国力バランスを崩しますので。我々は中立でありたいと願っていますし、その力もあります」
エレーナさんは言い切った。すごーい。
レナードさんはすぅっと息を大きく吸い込んだ。
「俺はレナード・アルセット。レトニア王国の騎士だ」
「私はキース・マニエット。同じくレトニア王国の騎士です」
「そしてこちらが」
おお、ついに聞かされる私の名前!
「今は亡きレトニア王国ヤール国王陛下のご息女である、第一王女アリノーリア・レトニア様です」
……思った以上に大物だったのね私!
「あらまぁ」
エレーナさんの反応に、レナードさんとキースさんが二人でずっこけます。
「反応が薄いですねー」
「いえいえ、充分驚いてますよ。王女様無事だったんですねー」
「あぁ、幸い追っ手は一度しかかからなかったからな」
「ふーむ。まぁ政治は無関係ですら気にしないでください」
扱い軽かった。まぁいいや、私も心は庶民だし。
「三人で王都からここまで? よく赤ちゃんの世話ができましたね」
「まぁ、アリィが賢くて救われている」
「そうなんですかー」
まぁ普通ならママを恋しがって夜泣きとかするだろうからな。
夜泣きは基本ないです。泣きたくなる時は確かにあるから、キースさんかレナードさんに添い寝をお願いする。人肌があればいけるみたい。
「詳しい話は後にして、アリノーリアちゃん。こんにちは」
「こわー」
エレーナさんが私に少しだけ近づいてきた。
こんにちはは言えないので、こわー……。怖くない、怖くないんだよ。
「お返事上手ねー。あのね、ちょっとお願いなんだけど、ここのお水でお手手洗ってくれるかなー」
「あぃ」
エレーナさんはそこのところつっこまなかった。よかったわ。
レナードさんにおろしてもらって、池の方まで歩きます。あ、歩けるようになりましたよ! 両手を前に出しながらバランスとらなきゃ無理だけど!
「ぶふっ!」
何やらエレーナさんが吹き出した。
「う?」
振り返ると、エレーナさんが苦しんでる。え、何があったの!?
振り返った拍子で座っちゃったじゃないか。
「ふ、振り向きまで可愛いすぎる!」
「アリィ、気にしなくていいよー。手を洗っておいでー」
キースさんが手をひらひら振ってくれました。了解の意味をこめて、こちらも手を振っておきます。
「バイバイまで! 可愛い!」
エレーナさん、赤ちゃん好きなのかな。この時期の赤ちゃんは確かに保護欲をかき立てられるようにみんな可愛いもんね。
で、泣いたらうざがられるんだろう。
たまに制御できなくて泣く時があるので、泣かないように注意しながらどっこらしょっと立ち上がる。
「お尻がぷりって! ぷりって!」
「はいはーい。エレーナさん、ちょっと大人しくしときましょーねー。うちの上司が苛立ってるからねー」
もう後ろは気にしないことにしよう。うん。
部屋はそれほど広くないので、私が歩いても池まですぐ着いた。
池の縁にしゃがもうとしたけど、頭が重くて落ちそうだ。
ごろっとうつぶせで寝っころがり、両手を水の中に浸してみる。そのままこすりあわせる。
「うー?」
冷たくて気持ちいいねー。
で?
待つことしばし。
『やぁ』
ざばーっと池の真ん中が噴水みたいに盛り上がって人型になった。
おお、映画とかでこういうシーンあるね。
少年って感じ形になって、片手をあげている。
「う!」
私は返事だけ返した。手を上げたら確実に落ちる。
『あ、もう水に手をつけなくていいよ。落ちそうだね』
「あぃ」
ふぅ、やれやれ。ずぶ濡れ回避できたよ。
まぁ、禊ぎとかで入らなきゃダメとかじゃなくてよかった。赤子だ、確実に溺れる。
ん? ベビーのスイミングスクールとかあるから、案外いけるのか? 脂肪たっぷりだし浮くかも? にしても怖いから試さないけど。
『来てくれてありがとう。やっぱりなかなかないぐらい水の加護が強いね』
「うー?」
そんなの自分でわからないんだけど。
どこかおかしそうな様子で水の精霊さんは話を続ける。
『この声は君にしか聞こえてない。でも、いつまでもここで話せないから、下位精霊を君につけるよ』
精霊さんが言うや否や、男の子のそばに小さな水球が浮かび上がった。
その水球がくるくると回った後、とある形になる。
「もー?」
うし?
え、水の精霊さんで牛?
『よし、後はこの子に頼むから。頑張って。じゃねー』
「う?」
男の子、消えました。
え、説明は? 色々説明不足だと思うんだけど。
あれ、でも何だか眠気が……
はい、水の精霊様はここで退場で
下っ端精霊さんが次から頑張ります。
牛です。牛。




