26 エイダさんのおうち
一週間して。
レナードさんとキースさんは旅立っていきました。
半年から一年は帰って来れないんだとか。かなり寂しくて思わず泣いてしまったのは仕方ない。苦楽を共にしたんだから仕方ないのだ。
まだ一歳のため、もちろん引き取り手がいる。レオナルドさんとエイダさんの養女として引き取られることになった。
レオナルドさんは辺境伯だし、領主館に住んでいると思ったら実は別に家があるらしい。
何でも領主館は基本的に役所の設備なので、住めないことはないけど住居スペースは少ないんだとか。
領主というなの元に呼び出しが多いのも嫌なんだとこぼしていた。
一週間滞在した領主館を離れ、叔父夫婦の家に連れていかれた。
領主館からさほど離れていないところに叔父夫婦の家はあった。
そこは何ともお洒落な、そして雑多な雰囲気の家だった。
少しだけ小高い丘にある二階建ての家はポツンと一つだけで建っていた。漆喰の壁で、焦げ茶色の玄関扉にはガラスがはめこんである。周りを金属の葉で飾ってあるからかまるで雑貨屋のようだ。石造りの町で漆喰を使うなんて、この家はお金をかけて作られたのだろう。しかし領主の館とは思えないほど質素でもある。
「どうぞー」
レオナルドさんに抱かれ、エイダさんがドアを開けてくれて家に入る。中に入ると物の多さに驚かされた。
正面の奥は作業部屋のようだ。作業部屋の入り口が広いおかげで玄関からでも中の様子が見える。
作業部屋には分厚い広い机があった。何度も塗料を塗っただろう机の茶色には深みがある。
作業部屋の奥には勝手口だろう。虫除けの網戸だが、外は明るくて見えない。
そしてそこに行くまでの右手の壁は全て棚。天井まで届きそうな棚だ。一つ目の棚には薬草が、次の棚には船の模型が、三つ目の棚には盤面のゲームが飾られていた。棚には隙間なく物が置かれ、船にいたっては棚のへりにかけて飾られているものまである。
玄関から左手を覗いてみるとリビングだろう部屋があった。もちろん、ここも物が溢れていた。
窓際にはベンチが置かれ、その上に籠が並んでいる。一つには布が、隣には乾燥させた花が、そのまた隣には小瓶が。
無垢材のようなリビングテーブルの上は何も置かれていないが、テーブルの横には木箱が積まれている。もちろん小箱からは色んなものが溢れている。
リビングの奥はキッチンだろうが、キッチンの前には棚があり、野菜や果物が所狭しと置かれて、調理器具も吊されていた。
天井だって紐が張ってあって、毛皮や薬草が干してある。
まぁここまでものが集められたものだ。ものがない場所はどこだと聞きたくなる。
そして驚くことに埃っぽさが全くない。汚さも感じない。散らかっている、というよりただただ物が多いだけ。ここまでものが多いのに、いちいち掃除しているんだろうか?
「散らかってるでしょー。ごめんなさいねー」
エイダさんは悪いとは思ってないだろうな。口調が軽い軽い。
対してレオナルドさんはちょっぴり怒だ。抱かれている私は少しだけ首をすくめた。
「なんか、また増えてない?」
「あ、バレた〜? 実は可愛い布見つけてね〜。ほら、これで巾着とか作ったら可愛いと思って」
エイダさんは籠の一つを取り出して、布を見せてくれた。生成のこれはリネンだろうか、日本で流行っていたナチュラル系っぽい。
「で、いつ作るの?」
「えーっと。いつか?」
「はぁ。もうそのまま売り出しなさい」
「じゃ、じゃあ薬草入れにするわ! それなら売れるでしょ!」
いつものんびりしているエイダさんがちょっと慌てている。少し面白い。
「そう言って置いてあるものがどれだけと思ってるんだ。いい加減、家から物を減らしてくれ」
「いいじゃない。誰も困ってないでしょ!」
「アリィを今日からうちで預かるんだぞ。アリィが暮らせる家にしろ」
まぁ赤ちゃんがいる家でものが多いのは危険だもんね。
「……分かった。片づけるわ」
ハッと気付いたように文句を言っていたアマンダさんは一転やる気を見せた。腕まくりを始める彼女を
レオナルドさんはため息をつきつつ苦笑した。
「アリィ、見てるといいよ。面白いから」
エイダさんはキッチンから大きな籐の籠を持ってきた。中は空っぽだ。
「シリィ! お願い!」
エイダさんが叫ぶと、エイダさんの目の前に緑の鳥が現れた。おお、前に現れた精霊さんですね!
「エイダ。私は掃除婦じゃないんですが」
「アリィが今日からここに住むのよ! この子のために頑張って!」
エイダさんが私を指差すと緑の鳥、シリィは大きく翼を広げた。
「仕方ないですねぇ。じゃあちょっといいところを見せましょうか」
「お願い!」
クルリとシリィが部屋の中を飛んで回る。
風が起こり、埃がフワフワと舞い上がった。と、思うと風に乗ってエイダさんの持っていた籠の中に吸い込まれていく。埃に光が反射してキラキラと輝いていた。
「ふわぁぁあ」
「ね、スゴイだろう」
部屋が綺麗な理由がわかりました。そりゃ、お掃除簡単ですよね。
「じゃあ次は薬草ね」
「はいはい」
エイダさんは空の木箱を持ち上げた。シリィがまた一回り飛ぶと、部屋にあった薬草が風に乗って次々に木箱の中に飛んでくる。干してあったものも、籠に入っていたものも全てだ。
そんな調子でどんどんと籠や木箱の中にものが入っていった。
全部終わった後には大量に仕分けされた箱と籠があるだけで、飾ってあった船の模型や盤面のゲームでさえ箱に入れられていた。
「薬草と毛皮は売れるし、布は赤ちゃんが触っても大丈夫だからこの下に入れて。模型やゲームは戸棚の中に入れてと」
さすがに木箱や籠は風では飛ばせないらしい。エイダさんがドンドンと片付けていく。
ものの四半刻ほどだろうか。雑多な家だったのがサッパリとした広い家に変わっていた。
「おーしまい! レオ。後でこれは道具屋に持っていってね」
「了解。最初からやってくれればいいんだよ」
「なーにーよー。物に囲まれた暮らしって素敵じゃない」
「はいはい。とりあえずお茶でも淹れよう」
「そうね。 アリィ、どうぞ座ってね〜。シリィ、ありがとう〜」
いそいそとエイダさんはキッチンに向かった。シリィは姿を消し、レオナルドさんは私を木のベンチに座らせて、いや立たせてもらった。
レオナルドさんは木箱を玄関まで運ぶみたいだ。
私は暇なので精霊たちに机に出てきてもらった。今まで? 適当に漂いながらついてきてるんだよね。
『今日からここに住むんやな』
『いい家じゃのう。落ち着くわ』
『アリきゅん疲れてない〜?』
『我らも掃除を手伝うべきであったか?』
三等身の精霊たちがわちゃわちゃしているだけで和むわぁ。
「あら、モリッツたもお茶飲む〜?」
モーさんたちが姿を見せたのに気付いたエイダさんが声をかけてきた。
「いやいや、構んといてや〜」
「遠慮しなくていいのよ〜」
「じゃあアイリスお茶欲しい〜」
「はいは〜い」
さすがアっちゃんは遠慮しないな。
エイダさんがお茶を持ってきたのとレオナルドさんが戻ってきたのは一緒だった。美味しそうにお茶を飲み干すレオナルドさんは幸せそうだ。
「領主の割にはつつましい生活しとるんやな」
皮肉るわけではなく疑問だと言わんばかりのモーさん。レオナルドさんは苦笑した。
「僕は土の加護持ちだから、薬草を育てたり木を植えたりするのが仕事なんだ。エイダは狩りがうまくてね。さっきの毛皮もエイダが狩ったものなんだよ」
おおっと、エイダさんの印象が変わっちゃうんだけど。
風の加護持ちだからかな。獲物の匂いとか風でわかる、とか?
まぁ、エイダさんの方が尻にひいていそうだもんね。
「エイダは向かうところ敵なしだからね」
「あら、そんな私を心配して犯罪者のようにつきまとったのはどこの誰かしら〜」
「犯罪者って、ひどくない?」
「扉に鍵がかかっているか窓が簡単に壊れないか確認したり、私が出かけるたびに追いかけてきたりしたのはだあれ?」
ストーカーだ。ストーカーがいるよ。
「じゃあ何で結婚したのさ」
「仕方ないじゃない。あなたぐらいしか適齢期の男がいなかったんだから」
はいはい。照れ隠しですね。
『これはラブラブだねえ。え、何で子どもいないの?』
『使命によるのかのぅ。普通はどこに住むかが使命じゃが、エイダが狩りをしとるというなら魔物退治も使命にあるのかもしれん』
『じゃあ夫婦なのに子供できないでしょ?』
『大丈夫よ! 湖が出来たら魔物の勢いが減って使命が変わるよ! アリきゅんファイト!』
『え、つまり私次第ってこと?』
『まぁ気長にいくしかしゃあないわな、こればっかりは』
『ラジャー』
あのシリィさんとも話せないかと思ってキョロキョロしたけど、シリィさんの姿は見えなかった。
ちょっぴり残念だ。
「さて。今日は家でゆっくりするけど、明日からの予定を伝えておくね」
レオナルドさんはモーさんたちを見た。まぁ、保護者ですもんねぇ。
「僕もエイダも仕事がある。でもベルネゼブには子供を預かるようなとこはないんだ。だからアリィは領主館の冒険者ギルドに連れて行く」
「OKだよ〜。一週間で領主館は探検済みだしぃ〜」
アッちゃんは片手を上げて返事した。まぁ、アヒルだから羽なんだけどね。
「食事の用意やその他のことはギルド受付のクリスティーナに任せてある。が、細々したことは君たちに頼みたい」
「わしらが親代わりか」
「精霊をこんな風に使って悪いけど」
「アリきゅんのお世話を他の人たちに取られるよりずっといいわ!」
「私もアリィちゃんと一緒にいたい〜」
アッちゃんがバサバサと羽をはためかせ、エイダさんが体をくねくねさせる。
「エイダは諦めようね。お休みの日は一緒に遊べるし、仕事が終わったらちゃんと迎えに行くから」
レオナルドさんはそんな様子も気にせずに他の三人に話しかけている。
「了解やで。まぁ、任しとき〜」
「き〜」
調子に乗って、一緒に返事をしておく。夫婦にはクスクスと笑ってもらえた。
『ま、中身大人だしね〜』
『まぁなぁ』
今日もありがとうございました。




