22 やってきましたベルネゼブ!
夏に始めたこの話。もう世の中の季節は冬になってしまいました。
でも、物語では二ヶ月しか進んでおりません。
やっぱり1歳児ではなかなか話が進まんなーとは思います。
やってきましたベルネゼブ。
『すごい岩山……』
砂埃で遠目には見えなかったけど、ベルネゼブが近付くに連れてまず目をひいたのは岩山だった。
アメリカにあるグランドキャニオンをご存知だろうか。あの岩山は赤いイメージがあるが、実は夕焼けに照らされて赤いのであって、本来はそこまで赤くない。実際ものすごく赤いのはレッドロックキャニオンの方だ。
この岩山はレンガのように赤い。まさにレッドロックキャニオン……
そういえば赤い岩山といえば、オーストラリアにあるエアーズロックもある。が、あれは本当に一箇所だけ山が残っているが、ここの岩山はどこまでも続く山脈だ。エアーズロックを思い出すよりも、グランドキャニオンを思い浮かべたのはそういう理由だろう。
というか、西に西に来たはずだし、あれか、西部劇か? カウボーイか!?
それはさておき、その岩山より手前に城塞がある。
岩山と同じ色の赤い城壁。かなり大きな町のようだけど、城壁のこちら側にひとつ門がついていて、他にも明り取りと思われる窓がたくさんついている。
今までの町や村にはこれほど立派な城壁はなかった。ここだけ特別仕様なんだろうな。
城壁や物見やぐらなんかは中世ヨーロッパを彷彿とさせる造りだ。あれ? アメリカどこいった。
「あれが勇者の町、ベルネゼブか……」
感慨深い、という風なレナードさん。キースさんもほぅーっとため息をついている。
「う?」
「ちょうど絵本があるから、読んであげようね」
揺れる馬車の中でも本が読める謎の三半規管を持つキースさんが本箱から一冊本を出してきた。
「ベルネゼブまではまだまだかかるからね」
キースさんに頭を撫でてもらった。
普通の三半規管しか持たない私はキースさんのそばでゴロゴロしながら話を聞くことにする。
***
昔々のお話です。
魔物たちが今よりずっと私達の近くにいて、みんな怯えて暮らしていました。
町から出ただけで魔物に襲われたり、小さな村では村の中にまで魔物がやってきました。
そんな時、勇者様が現れたのです。
勇者様は言いました。
「別の世界にいた僕は神様に頼まれてこの世界にやって来ました。僕がこの世界を救ってみせましょう」
勇者様はそう言うと、仲間を集めて旅に出ました。
勇者様は魔物が多い西へ西へと魔物を倒しながら旅を進めます。
そして西の森の端にたどり着くと、仲間たちに言いました。
「ここに魔物たちが入ってこれないように壁を作ろう」
勇者様はそう言うと、なんと一晩で岩山を作ってしまったのです。
毎日毎日ひとつ、またひとつと勇者様は岩山を作りました。そしてひと月後には長い長い岩の山脈が出来上がったのです。
しかし、左右に伸びた岩山の一ヶ所だけがぽっかりと谷になってました。なぜ岩山をここに作らないのかと仲間たちは聞きました。
「どこから魔物がくるかわからないよりは、魔物が出てくる場所がわかる方がいい。ここに町を作ろう」
勇者様はそう言うと、今度はその谷の前に大きな大きな城塞都市を作り上げたのです。
「俺には大した加護がない。俺が出来るのはこれぐらいだ」
勇者様はそう言うと、仲間たちとともにベルネゼブと名付けたその町に住み、魔物の討伐に尽力しました。
今、私達が平和に暮らしているのは勇者様たちのおかげなのです。
***
「おしまい」
キースさんが本を閉じました。
えええ!? 人工!? 人工なの、この岩山!!
いやー、湖作れって言った精霊さんにもびっくりだったけど、昔の勇者様が岩山作ったんだったらその無茶振りもわかるかも。
それにしても勇者様、本当にこんなセリフを言ったんだろうか。後世までこんなセリフ残されてちゃ黒歴史にもほどがあるんだが。
ページから見て、あの勇者物語には他にも小話が沢山ありそうだ。今はベルネゼブに関するところだけ読んだのだろう。
『あれ、勇者様って土属性? モーさんは火って話してなかった?』
『む? モリッツ。勇者が土属性なのは有名な話じゃぞ』
『えー、モーちゃん知らなかったのー? ちょーびっくりなんですけどー』
『うっさいな! ちぃと間違うただけやろ!』
『火の魔法使いも勇者の仲間におったはずである。モリッツ殿はそちらと勘違いしたのではあるまいか?』
カエちゃんがフォローを入れたら、モーさんはカエちゃんの隣にすぐさま飛び移り肩を組んだ。
『さっすがカエサル! いいやつやなぁ!』
『ちょっとー。モーちゃん、アリきゅんに嘘教えたの謝んなさいよー』
『まぁまぁ』
アッちゃんの頭をヨシヨシした。アッちゃんは少し不服そうだけど、アリきゅんがいいなら、とひいてくれた。
アッちゃんはギャル系の喋り方だけど、実はあんまり気が強くない。ギャル系の子って前世でも繊細な子が多いって聞いたけど、攻撃的口調は先に口撃して身を守るためなんだろうなぁ。
私たちがわちゃわちゃしてるのをキースさんはニコニコしながら眺めていた。
精霊と契約する前はキースさんやレナードさんと遊んでいる時間が多かったけど、最近は保父さんのように見守っていてくれることが多い。
確実におかん属性が育ってますよキースさん!
日が傾く頃、大きな大きな門の前についた。
「よく来たな。加護持ちか?」
門番に立っていたのは強面だけど気のよさそうなおっちゃんだった。日に焼けた肌は浅黒く、黒髪がちょっぴり寂しくなってきていた。
何よりその顔に大きな傷があるのがすごいね。一本だけじゃなくて何本もあるよ。がたいもでっかいし、きっと強いんだろうな。
「ひとりだけだがな。……辺境伯に取り次いでもらえるか?」
「加護持ちが来たら辺境伯に会わせるのが決まりなんだ。声を潜めなくても大丈夫だぜ、騎士さんよ」
「わかるか」
「ベルネゼブには訳ありも多いんだ。貴族だってえらそうにしなけりゃ誰も気にしねぇよ」
門番のおっちゃんはそう笑うとレナードさんに紙を渡す。
「そうは言っても礼儀とかがあるんだろ。名前とか聞かねえからこの手紙に用件と名前書いてくれ。封をしたら辺境伯まで届けるからここでちょっと待てばいい」
「わかった」
レナードさんは何か書き始めたのだが……
……こりはいかん。
「きーちゅー、ちょいれ〜」
「え、アリィ、今?!」
「いまー」
「ありゃ、じょーちゃんトイレか。おっちゃんが連れて行ってやるから来い」
「あいあいさー」
「おい、クリ坊。ここ任せたぞ」
「はいはい。行ってきてくださーい」
おっちゃんの後ろにいた若い門番さんが手を振って応える。おっちゃんは手に持っていた棒を門番さんに渡すと両手を広げて馬車の前にきた。
「よっしゃ来ーい」
「だーいぶー」
馬車の荷台からおじちゃんの胸に飛び込んだ。うし、いい体だね! ちょっとだけお腹に色々ついてるけど。
「走るぞー」
「うほほーい」
がばりとおっちゃんにしがみつくと、おっちゃんもしっかり抱えてくれた。
多分もよおす人って多いんだろうね。門から近いとこにトイレはあった。
「抱えとくか?」
「や!」
自分でできるもんを発動して、おっちゃんには扉の外で待ってもらう。
「最後紐を引けば水が流れるからなー。無理なら言えよー」
水ですと?
そこにあったのは金属でできた洋式トイレだった。座るとこだけは木で出来てあるけど、ニスが塗ってあるのかピカピカしてる。
中を覗くと茶色の水が。
すごいね勇者様。水洗トイレ作っちゃったか。
よいしょよいしょとトイレによじ登り、用を足した。紐を引けば確かに水が流れた。とはいえ、最低限の水が流れただけだけど。イメージとしてはボットン便所に近いんじゃないだろうかコレ。
一緒についてきている精霊さんたちにお願いして、タンクの水を増やしてもらう。再度紐を引けば水が勢いよく流れた。うむ、これぞ正しい水洗トイレだ。
多分、タンクに水を入れるのは人力なんだろうな。
再度タンクの水をいっぱいにしてもらってから、おっちゃんに声をかける。
「でけたー」
大きな声で言えばおっちゃんが扉を開けてくれる。
「おお、一人で出来たか。凄いなぁ」
そうですよねえ、まだ一人でトイレが出来るには早いですよねー。
とは言えないので、えへへ〜と返しておきます。
「ほら、帰るぞ。パパたちも待ってるだろ」
「あい」
またおっちゃんに抱っこしてもらい、馬車に門のところに戻った。
『すごいね、ベルネゼブには水洗トイレまであるんだ』
『そやな〜』
今までの村に水洗トイレはなかった。さっきのやつも日本から考えればそれほどすごいわけじゃない。飲み水でトイレを流すのは日本ぐらいだし。泥水でトイレを流すぐらいは地球ではちょこちょこある。
とはいえ、地球でもトイレがきちんとしているのは先進国ぐらいで、ボットン便所は珍しくない。
今までの村もほとんどがボットン便所だった。勇者様が衛生観念は広めてくれていたようで、その辺ウンチだらけとかはなかったし、村でも比較的綺麗だった。
『勇者様がいたのっていつだったのかなぁ』
しばらくして町の中に入れてもらえた。そうすれば先ほどの思いは強くなる。
建物が全て二階建て以上だった。これは今まで見たことがない。
赤茶けた石壁はやっぱりあの岩山と同じ色だ。石を四角く切り出してレンガみたいに積んである。
馬車が走るところも石畳だ。いや、歩道と車道がある。車輪溝まであるぞ。
道に向かって竈が作られている。竈には金属製の鍋が二つはめ込んである。鍋にはそれぞれスープが煮込まれていて美味しそうな匂いがする。町行く人が足を止め、そのスープを買っていくようだ。
今までの町や村にはなかった近代的なものを感じた。別に近代建築だけが近代的なものじゃない。江戸の町だって木造だけどエコな町として有名だ。
近代的というのはシステムの話だ。町の仕組みを隅々まで考えて作ったんだろうな。
胸が高鳴る。
私はギュッと馬車の縁を握り締めて町を見つめた。
ということで、ようやく到着しましたベルネゼブ。
書き始めた段階ではちらとも考えてなかったはずの勇者様。
適当に書いた失敗が複線になりました。行き当たりばったりってスバラシイ。
それより何よりおっちゃん成分が足りない。なぜレナードさんを格好良くしてしまったんだ自分。




