17 守護精霊たち (リュー視点)
モーさんが前回いなかった理由です。
アリィちゃんが昼寝をした後の精霊たちの会話です。
「ではアリィ、これから宜しく頼む。わしに出来る最善を尽くそう」
『本当はアリノーリアっていうんだよ。リューちゃん、よろしくね〜』
アリィと触れた手から温かな魔力がわしに流れ込み、体の輪郭が形づくられていくのを理解した。
わしが実体化するのと同時にアリィは目を瞑り、そのまま眠ってしまう。小さな赤子にとって魔力を使うのは負担であろう。眠るのは立派な自己防衛じゃ。
『やっぱアリィと契約したら実体化しよったな』
『む? そなたの時は違ったか?』
モリッツが腕組みして考えておる。
『カテナの上位精霊はんが実体化までしてくれてん。わしとの契約の時には気ぃ失わへんかったで』
『なるほどな。しかし、実体化できるほどの魔力、やはり四つ星ということか?』
『わしもそう思っとってんけどな。なんやちゃうんちゃうかと思てんねん』
『違う、とは何がかの?』
モリッツは馬車の外をチラリと見る。アリィの保護者たちが用事を終え、こちらへ向かってくる。
『今はまだ姿見せんでええやろ。姿消しとき』
『ふむ。そうじゃな。こう、こうかの』
初めての実体化ゆえ、姿を意識して隠すのも初めてじゃ。
モリッツは一つ頷いた。どうやらうまく出来ているらしいの。
「モリッツ、アリィは寝てしまったのかい?」
金髪の男が心配そうにアリィの顔を覗きこんだ。気付かぬアリィはスースーと規則正しい寝息をたてておる。
「寝てしもたわ。疲れたんやないか?」
「初めて魔物を見たしね。怖かったかもしれないね」
「怯えてはおらんかったで。あんま気にせんでええんちゃうか?」
「そうかい? まぁ、また起きてから様子をみようか」
続いて赤髪の男もこちらにやってくる。
「キース。こちらは済んだ。血を落としてくるか」
「いえ、もう少し先に進んでからで大丈夫です。レナード様さえ落としておけばアリィも気にしないでしょう」
「わかった。では俺が馬の用意をしよう」
「わかりました」
そう言うと金髪の男は袋を馬車の上に置き始める。縄で固定するようだ。
赤髪の男はアリィに毛布をかけ、枕を用意してやる。確かにひとりは血を流さないとアリィの世話は出来ないじゃろうな。
アリィがグッスリ眠っているのを確認するとモリッツを見た。
「モリッツ、アリィのことを頼むぞ」
「任しときい。それより助けてくれておおきにやで」
「気にするな。それが俺たちの仕事だ」
そう言うと赤髪の男は馬の世話に向かった。
しばらくするとガコンと馬車が動き出す。二人並んで御者台に座っているようだ。
『さて、話の続きをしよか。加護持ちの魔力の話やったな』
『うむ。四つ星の魔力が凄いと話しておったな』
モリッツはノンビリとアリィの腹にもたれて座る。わしもアリィの足に座った。
『加護持ちやから魔力が多いとは限らん。四つ星やから精霊の実体化できる。実体化には魔力が必要や』
『……そう言われれば矛盾を感じるのぅ。大体加護持ちでも魔力が多くないというのもおかしな話か』
『今までわしは矛盾に感じてへんかった。せやけど、アリィの魔力循環を受けるうちにちょいちょいわかるようになってきてん』
『わかる、だと?』
『そうや。わしは魔力循環を受けると単に魔力が増えるんやと思っていてん。でも実際には魔力と一緒に知識も増えてきよんねん』
『……なんだそれは』
わしも下位精霊までなったことはあるが、そんなことを感じたことはない。
それはモリッツの魔力の多さによるものだろう。わしと比べると雲泥の差だ。見えるわけではないのじゃが、感じる魔力の量はわしよりずっと多い。
『多分、中位精霊や上位精霊になれば理由がわかるんやと思うわ。んで、さっきの矛盾やけど、多分加護持ちは魔力の総量は多ないねん。けど回復力がすごいんやろな』
『回復力、か』
『そや。実体化するほどの魔力を使ったらすっからかんになりそうやのに、アリィは結構すぐに魔力循環しよった。わしらの魔力を回復させるように、自分の魔力も回復させられるんやろう』
『ほう。そういうものか』
モリッツの説明に矛盾は感じられん。わしの魔力が少ないゆえに理解が進まんのかもしれんがの。
これは早くアリィに魔力循環をしてもらい、モリッツに追いつかねばなるまいな。
『さらに恐ろしいことに、アリィの魔力循環はえらい効率がええねん。四日でこの魔力量って半端ないわ。器の成長が追いつかへんねん。しかもこっちの意思に関係なく循環できよるしな』
『……アリィは一体どこでその技術を手に入れたのじゃ?』
『ほら、それや。今までのわしらならスゴイなぁ言うて終わりやろ? それがちゃうねん』
『ふむ、確かにの。今までより見えているものが増えているように感じるかの』
わしら下位精霊より弱い精霊に上級精霊、中級精霊、下級精霊がおる。そのものたちには確固たる自我はない。もっと単純な喜怒哀楽ぐらいのものじゃ。理屈を説明されて疑問を感じるなどしないであろう。
『な。まだ一回しかしてへんけど、なんや違うのわかるやろ。正直しんどいねん。他にもいけに……仲間がでけて、めっちゃ嬉しいわ』
最初にアリィに怒っておったのは単純に魔物に対してかの。他にも精霊と契約することを嫌がる嫉妬や独占欲かと思っておったのじゃが。
『誤魔化せておらんぞ』
『うっさいボケ』
『わしはボケておらんぞ』
『わかりやすいボケはいらんねん』
『おぬしの腹をたてているところがわからぬのう』
『もうええ。とにかくアリィがなぜ魔力循環がうまいかはわからん。が、多分わしら二人でも荷が重いやろう』
『そうかもしれんの。それでどうするのじゃ』
『さっき魔物が出たっちゅうことは、この辺に他にも弱った精霊がおるかもしれんやろ。もうすぐ夜やし、新たな生贄仲間をちと探してくるわ』
『仲間をつければ許されるものではないやろ』
『とりあえず、アリィ頼んだで』
モリッツは言うが早いか馬車から出ていきよった。
迷子にならぬかなどとは聞かぬ。加護持ちと守護精霊とは糸のようなものでつながっておる。モリッツがアリィを見失うことはないのじゃ。
ガタガタと馬車が揺れる。わしはアリィの腹の上に移動して座る。呼吸に合わせて腹が上下する。少し煩わしいゆえ、滑りおりて脇腹にもたれかかる。
ちょうどいい塩梅に自然と笑みが浮かぶの。モリッツはごちゃごちゃ言うておったが、わしはゆるゆると魔力循環をしながら体を休めることにした。
オヤジが増えずに可愛い精霊ばかり増えます。
早くベルネゼブについてくれ。オヤジ成分が補給できないではないか。




