第92話 俺なりの答え
午後4時ごろ……。
旅館の一室。
ロビーでの「誰が旅館を継ぐか」という話し合いから、実に2時間が経過していた。
沈黙が支配する室内。
俺は座椅子に深く腰掛け、腕を組みながら「どうするべきか」を必死に考えていた。
雫ちゃんは、窓際にある椅子に座り、外の景色を眺めながら物思いにふけっている。
俺は勇気を出して、そんな彼女の背中に声をかけた。
「雫ちゃんは……旅館を継ぎたい気持ちはあるの?」
「……」
雫ちゃんは考え事をしているのか、俺の呼びかけに返事がない。
「雫ちゃん?」
俺は座椅子から立ち上がり、返事の無い雫ちゃんに近づいて、その肩をトントンと軽く叩いた。
「は! な、なに?」
雫ちゃんは意表を突かれたのか、ビクッと肩を跳ねさせた。
「ごめん、声掛けたのに返事がなかったから……驚かせちゃったね」
「う、ううん? 全然気にしないで」
ハッとして、少し照れたような表情を見せる雫ちゃん。
俺は言葉を選びながら、改めて核心を突く質問をした。
「雫ちゃんは、旅館を継ぎたいの?」
「そ、そうだね……」
返事が曖昧になる雫ちゃん。
急に「実家を継いでほしい」と言われたのだ、無理もない。
おばあちゃんの言うことを聞くということは、つまり、雫ちゃんがずっと抱いていた『自分の店で料理人になる』という夢を、半分諦めることに繋がってしまう。
雫ちゃんは、再び寂しそうに窓の外へ視線を向けた。
「そんなの、聞かないでよ……」
少し気怠そうな、迷いを含んだ声が返ってくる。
「ご、ごめん……意地悪な質問だったね」
なんとか、俺にできるアドバイスはないか。
俺は、頭をフル回転した。
「お、おばあちゃんも『すぐに決めなくて良い』って言ってたし! 店長も継ぎたいような雰囲気があったから、まずは店長としっかり話してみようよ!」
雫ちゃんに、なんとか明るい情報を……そう思って言葉を紡いだ。
すると、窓の外を見ていた雫ちゃんがこちらを向き、俺の目をじっと見つめて問いかけてきた。
「つばさくんが、本当の彼氏だったら、私にどうして欲しい?」
「ほ、本当の彼氏……だったらか……」
俺は、雫ちゃんの夢を知っている。
その夢のために、彼女がどれだけ努力をしてきたのかも知っている。
しかし、おばあちゃんに恩返ししたいという彼女の優しさも痛いほどわかる。
それなら、答えは簡単だ。
「雫ちゃん、こうしない?」
俺は、雫ちゃんに俺の素直な思いをぶつけることとした。
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