第90話 雫ちゃんとの思い出
「つばさくんは、雫といつ出会ったのかい?」
「はい、中学生の時、同じクラスでした」
「そうかい、そうかい」
流石ちゃんとの馴れ初めに、興味津々なおばあちゃん。
「そんな昔から知り合いだったのかい」
「は、はい……。雫さんは、バドミントン部の部長で、私はバレー部の部長だったんです」
雫ちゃんのおばあちゃんとの顔合わせ。
初対面ということもあり、俺はかなり緊張していた。
雫ちゃんがあれだけ細かく設定を書いていたのだから、きっと神経質で厳しい人なのだろうと身構えていた。
しかし……。
「それで、つばさくんったら、バレー部の部長だったのに、時々バドミントン部の友達と遊んでいて、顧問の先生に怒られていたのよ」
「そうなのかい。面白い子だね」
俺たち三人は、中学生時代の思い出で盛り上がる。
おばあちゃんも、孫の昔話を聞けてご満悦の様子である。
その話……俺はすっかり忘れていたが、あれは俺が雫ちゃんと話す機会を作るために、バドミントン部の友達に頼み込んで、ラケットの握り方から打ち方のコツまで教えてもらっていた時のことだ。
完全に忘れていた俺の行動を、雫ちゃんは覚えていたのか。
「つばさくんとお付き合いするって、あの頃の私たちに話したら、どんな反応するかな?」
雫ちゃんは、いたずらっぽく俺の顔を覗き込む。
当時の俺が知ったら、きっと喜びを爆発させるだろう。
「き、きっと唖然とするだろうね」
「ね!」
それからも、俺たちは、過去の話から喫茶『alive』での生活の話で盛り上がった。
おばあちゃんにも、ボロが出ずにその場が終わる……かに見えた。
「そ、それで……雫達は、結婚前提のお付き合いなのかい?」
「!」
け、結婚か……。
それも聞かれると思い、俺と雫ちゃんは事前に打ち合わせをしていた。
「も、もちろんだよね? つばさくん!」
雫ちゃんが笑顔で答え、俺もそれに続く。
「は、はい! 中途半端な気持ちでお付き合いはしたくないので……」
そういうと、おばあちゃんは感慨深く頷いた。
なんだか、ひどく悪いことをしている気分になる。
俺がふと雫ちゃんの方を見ると、彼女もギュッと下唇を噛んでいた。
やはり、彼女も思うことはあるのだろう。
「そうかい、それなら……つばさくんに一つ頼みたいことがあるのよ」
おばあちゃんが、俺に頼み事?
何だろう……と身構えていると、おばあちゃんは静かに、しかしはっきりとした口調で話を続けた。
「この旅館を、あなた達二人に継いで欲しいのよ」
りょ、旅館を継ぐ?
その言葉を聞き、俺と雫ちゃんは、おばあちゃんに嘘をついていることに、罪悪感を、さらに深めるのであった。
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