第88話 ど天然なのか? 雫ちゃん?
俺は、衝撃の事実を雫ちゃんから聞かされた。
ずっと彼氏がいると思い込んでいた彼女が、まさかのフリーだったのである。
よくよく考えれば、バイト中もまったく男の気配はなかった。
それに、彼氏がいるのに、住み込みバイトは、するわけが無い。
……俺が彼氏だったら、絶対に猛反対する。
俺は動揺を隠すために、窓の外を見渡して精神を落ち着かせた。
――こ、ここらへん温泉街か?
おばあちゃんは、元料理人と話していたけど、もしかしたら、旅館とかで働いていたのかもしれない。
「じ、事情は分かった……他に適任はいないの?」
俺は少しずつ冷静さを取り戻し、さらに質問を重ねた。
「うーん……いないかな?」
雫ちゃんは、首を少し傾げて考える。
ちょうど、車が赤信号に捕まり停車した。
「私が過去の話をしたのは、つばさくんを含めた『alive』のメンバー。それと、本当に信頼してる女友達だけだから」
雫ちゃんは、少し恥ずかしそうにこちらを向いて話を続けた。
「私の家庭のこと、知ってる男の子は……つばさくんだけだよ」
「え? 俺だけなの?」
「うん。……元彼にも言ってなかったし」
元彼にも言ってないのか。
「わ、私の事情を知らないと、私の《《彼氏のフリ》》なんて出来ないでしょ?」
「ま、まぁそうだけど……」
信号が青になり、再び車は走り出した。
確かに、雫ちゃんの複雑な家庭事情を知らなければ、彼氏のふりなんて務まらない。
おばあちゃんからすれば、孫の過去や事情は、当然彼氏にも伝わっていると思うのが普通だ。
「それで……彼氏のフリ、してくれるよね?」
「う、うん…だけど……」
「ん?」
俺は、眉間にシワを寄せた後、雫ちゃんにひとつ質問をした。
「おばあちゃんに嘘をつくことになるけど、本当に良いの?」
雫ちゃんは、フゥと小さく息を吐く。
「う、うん……そうしないと、無理やりお見合いさせられちゃうし」
俺の個人的意見としては、おばあちゃんと話し合った方が良いと感じたのだ。
きっと、おばあちゃんも分かってくれる。
……だけど、雫ちゃん本人には、言えなかった。
雫ちゃんなりに、しっかりと考えた決断だからだろう。
しばらく、二人の間に沈黙が続いた。
「わかった。お、俺で良いなら……彼氏のフリ、まかせて」
「ほんと? ありがとう……! じゃあ、これに目を通しておいてほしいな」
雫ちゃんに促され、俺は車のダッシュボードを開けた。
中に入っていたのは、小さなメモ帳だった。
俺はそのメモ帳を取り出し、パラパラと目を通す。
――これは……?
【雫のプロフィール】
得意なもの:何かを作ること、ゲーム
苦手なもの:大きな音、チャラ男
見た限り、雫ちゃんのプロフィールである。
彼氏のフリをする上で、目を通す必要があるのか……? と思いながらも読み進めると、思わず目を疑うような〈設定〉が書き込まれていた。
好きな色:水色
告白場所:水族館
……
……
1日チュウの回数:5〜10回
ブラジャー色:ピンク、赤紫
えっ……?
ここまで、詳しく設定(妄想)する必要あるのか!?
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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