第87話 衝撃
俺は熱海に来ている。
理由は、雫ちゃんに呼ばれたからだ。
そして現在……俺たちは、雫ちゃんのおばあちゃんが待つ実家へと車で向かっているのであった。
「付き合ってほしいって、それってつまり……」
「あ、ううん! そういう意味じゃないの!」
――そ、そういう意味じゃない?
俺が早とちりして、勘違いをしたのか。
いや、あの言い方は勘違いせざるを得ないだろう。
「実はね、私のおばあちゃん……」
「う、うん」
俺はゴクリと唾を飲み込む。
「わ、私にお見合いをさせたいらしくて」
「お、お見合い?」
雫ちゃんがお見合い?
実家を継がせるためだろうか。
「おばあちゃん、私のことを心配してくれていてね。もし、おばあちゃんが亡くなったら、店長と二人を残してしまうって……だから、頼りになる人を早く見つけて欲しいんだって」
「な、なるほど……」
雫ちゃんは両親と縁を切っていて、頼れる身内は今は店長のみ。
雫ちゃんはしっかりしているが、まだ二十歳になったばかりだ。
自分がいなくなった後、孫が天涯孤独になってしまうのではないか……おばあちゃんが不安になる気持ちもよくわかる。
「おばあちゃん、今回命に別状はなかったけど、死ぬかもしれないと悟った時、私の将来を真剣に考えてくれたみたいで」
なんて、孫想いの良いおばあちゃんなのか。
雫ちゃんが、そんなおばあちゃんを大切に想う気持ちにもすごく納得がいく。
「だけど、そもそもまだ結婚するつもりもないの」
「雫ちゃん、料理の仕事就きたいって言ってたもんね」
「そう、だから、おばあちゃんには悪いけど、お見合いしたくない……だから、つばさくんに〈彼氏のフリ〉をしてほしいの」
理由はわかった。
……ただ、ひとつ納得いかないことがある。
「あの……何というか」
「ん? どうしたの?」
雫ちゃんは、車のハンドルを握りながら、チラッと俺の様子を窺う。
「し、雫ちゃんの彼氏に、直接お願いすればよかったんじゃ……」
俺は重い口を開き、ずっと抱えていた素直な疑問をぶつけた。
すると、雫ちゃんはポカーンとした顔を見せた。
「つ、つばさくん? 私が彼氏と付き合ってたのって……何年前の話をしてるのよ」
「え、えっ……今、付き合ってないの?」
「付き合ってないよー。何言っているんだか」
ま、まさかの衝撃発言に動揺が隠せない。
なぜなら俺は、雫ちゃんには親密な彼氏がいると思い込み、これまでずっと一線を引きながら話していたからだ。
その彼女に、彼氏がいない……フリーだった。
……この重大な真実は、蜜柑にも桃果ちゃんにも、絶対に話すことはできない。
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