第86話 呼び出し先は熱海
「次は、熱海。熱海です」
――やっと、着いたか……。
実家から電車を乗り継ぐこと、約2時間。
数日泊まれるだけの荷物を詰めたリュックを背負い、俺は電車を降りた。
改札に携帯をかざすとピッと電子音が鳴り、その音は、海風の混じる澄んだ空気に吸い込まれていった。
俺は、駅のロータリーを見渡す。
「つばさくーん!」
遠くから、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「雫ちゃん! 元気だった?」
「うん! 遠いところ、ありがとうー!」
俺は遠路はるばる、雫ちゃんの実家があるこの熱海へと呼び出されていたのだ。
◇
事の発端は、2日前に遡る。
「つばささん……。その手紙は、雫さんからでした」
喫茶『alive』の郵便受けに入っていた一通の手紙。
桃果ちゃんからそれを受け取った時、宛名には俺の名前が書かれていた。
「誰からだ?」と疑問に思いながらも封を開け、俺は真っ先に一番最後の部分〈差出人〉を確認した。
『つばさくんへ……雫より』
手紙の主は、雫ちゃんであった。
おばあちゃんの話を聞いた後に、雫ちゃんからの手紙……。
『alive』のメンバーには言えない、なにか重大なことがあるのかと思い、俺は覚悟を決めて手紙を読んだ。
『本当ならば、電話とかメッセージアプリで連絡をしたかったけど、訳があり、手紙で連絡します。つばさくんにしか頼れない……大きな相談があります。』
俺にしか頼れない……大きな相談とは何だろうか。
『内容については、後で詳しく話すけど、明後日の10時に、熱海に一人で来てほしいの』
えっ……熱海?
確か熱海は、雫ちゃんの実家があるところ……今、彼女が帰省している場所だろう。
そこに突然の呼び出し……。
「何か書かれていたんですか?」
疑問に思い、手紙を覗き込もうとする桃果ちゃん。
「ん? この店の帳簿の付け方みたい」
「帳簿の付け方、ですか……」
俺は、桃果ちゃんに咄嗟に嘘をついた。
実際には手紙は二枚あり、帳簿の付け方が書いてある紙も同封されていたのだ。
おそらく、この帳簿のメモは、俺が皆に誤魔化せるように用意したダミー。
「毎日書かないと、ごちゃごちゃになるから、まとめておいて欲しいんだってさ」
「なるほど……でしたら、今まで買ったものをまとめたレシート持ってきますね」
そう言うと、桃果ちゃんは、店のカウンターへ向かった。
一人で来てほしいとは、一体何事なのだろうか。
◇
俺は、車の助手席に座った。
運転席には雫ちゃん。
どうやら本当に一人で迎えに来てくれたらしい。
「わざわざ迎えに来てくれて、ありがとうね」
「うん。こっちこそ来てくれてありがとう」
「それで、俺を熱海まで呼んだ理由……。教えて?」
俺が理由を聞こうとする。
雫ちゃんはハンドルを強く握ったまま、ゴクリと唾を飲み込み……思い詰めたような顔で言い放った。
「あのね……私と、付き合ってほしいの」
……は、はぁ?
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