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第7話 初めてのライブ

 突然だが動画配信者についての考えを述べたいと思う。


 彼らは天才だ。


 そもそも動画配信者とは、ネット上の無料動画サイトに自作の動画を投稿し、広告収入を得る人たちを指す。


 トップレベルになると何千万、何億円を稼ぐらしい。すごすぎる人たち。


 一介の高校生には信じられない世界だ。


 トップレベルは国公立大学を卒業した学歴のある人はもちろんのこと。


 容姿の良い人から素の頭の良さが抜群に良い人など様々だ。


 カインが驚いた動画で、おすすめの本を紹介する動画があった。


 動画配信者が動画内でマイケル・サンデルの『これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学 』 (早川書房) を紹介していた。


 マイケル・サンデルはアメリカの哲学者、政治哲学者、倫理学者であり、ハーバード大学の教授。『これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学 』 (早川書房)は哲学の授業の教材にもなっている。


 カインも一度、この本を読んだことがあるのだが、途中で読むのをあきらめた。


 内容が難しすぎてまるで頭に入ってこなかった。


 そんな本が動画で紹介されていたのだ。動画配信者の頭の良さにびっくりした。


 トップレベルは抜群の天才だ。


 しかし、ここで注目してほしいのはあまり日の目を見ない人たち。


 俗にいうゲーム実況者だ。


 カインはゲーム実況が好きだ。


 それもマイナーなソーシャルゲームのやつが好きで、チャンネル登録者数も数百人から数千人と規模の小さいゲーム実況者が好きだ。


 中には何万人ものチャンネル登録者数を抱えている大型のゲーム実況者もいるが、やっぱりこじんまりとしたものが良くて毎日のように見ている。


 トップレベルの動画配信者は天才ぞろいだがゲーム実況者も負けていないと思う。


 ソーシャルゲームの実況者は頭が良くて面白い。


 例えば、ガチャ動画。


 これは自分で何万円、何十万円を課金してガチャを引きまくる動画なのだが。


 ガチャ画面だけではどうしても飽きてしまう。


 そこでゲーム実況者たちは間を持たせるためにコメントを残す。


 ゲームのガチャを引きながらおもしろおかしいことを喋る。


 これがまた面白い。


 まるでアマチュアのコントをやっているようで、ガチャの一喜一憂が画面を通して伝わってくる。場慣れもあるだろうが、あれは頭が良くてはできない芸当だ。


 ゲーム実況者の良さはまだまだある。


 例えば、キャラの性能紹介。


 ガチャで引いたキャラを実際に戦わせて現環境にどんな利点があるかを説明する。


 これがまた面白い。


 カインはソシャゲの攻略ウィキなるものを参考にしてゲームをプレイするのだが。


 ゲーム実況者のキャラの性能紹介はそれを上回るものがある。


 攻略ウィキだけでは気づけなかった発見を、ゲーム実況者は伝えてくれる。


 まるで研究者のごとく。彼らはキャラの一長一短を、ゲーム攻略を教えてくれる。


 きっと一日中やりこんでいるに違いない。


 一日中プレイ、かつ、廃課金の為せる業でトップランカーに食いこんでいく。


 カインはそんなゲーム実況者たちが大好きだった。


 だから思いついた。ライブの無料配信を。


 アイモリclubのライブを無料で公開し、動画配信者たちの会社と協力して広告収入を得る。そんな作戦だ。


 ライブが無料なのに対してノアイが驚きの声をあげていたが、実態はライブの無料配信だった。


 無料(ここ重要)で見れる動画配信アイドル。それがアイモリclub。


 もちろん今後グッズ展開し収益をあげるつもりだが、今はネット配信だけで良い。


 共同生活三十日目。


 今、目の前で踊っている少女たちが、カインの撮影するカメラを通して世界中の人たちに公開されている。そう考えるとワクワクした。


 序盤は完璧だった。


 カインが根回しした結果。


 著作権うんぬんを突破し、アイドルアニメの曲と踊りを使わせていただけることに成功。それも別々のアニメ三つから許可を得た。


 オミナの好きなアイドルアニメの振り付けをそのままにライブした。


 有名なアニソンに会場は大盛り上がり。ネットの評判も上々だった。


 問題はここから。


 三つのアイドルアニメそれぞれの有名なのをフォーカスしてライブしたが、最後は自分たちで考えたオリジナルのアイドルソングを歌わなければならない。


 一応、プロのダンサーに振り付けしてもらい、音楽家のマリーが作詞作曲したが、果たして観客やネットのユーザーに受けいれられるかどうか。


 運命の分岐点に思えた。


 センターのオミナが苦しそうだ。手が震えている。軽度の過呼吸かもしれない。


 それでも彼女は倒れない。歯を食いしばり、無理やりにでも笑顔をつくって観客に声をかける。

 

「最後になります。私たちがつくったオリジナルの曲です。聞いてください」


 音楽家のメリーがつくった曲のイントロが流れる。


 この一か月間、カインの知らないところで一生懸命に練習したオリジナル。


「曲名は、スタート。私たちの始まりの一歩です」


 オミナたちが踊り出す。


 ノアイに小声で聞くと、作詞はオミナやハマダも協力して三人で考えたらしい。


 スタート。春の新生活を思わせる陽気な曲だった。


 オリジナルの曲や踊りにアイドルのモリが共鳴し、レベルが二十になる。


 ノアイが国歌を歌いながら戦った時のレベルが二レべだったことを考えると『スタート』は十倍の二十レベルを叩き出した。


 これはアイドル戦士として十分に通用するレベルだ。


 アイドルのモリ計画は大成功。カインなりにやり遂げた感は出た。


 会場を埋め尽くす見物人。たくさんの拍手が鳴る。


 アンコールッ! アンコールッ!


 オミナたちが引っこんでも声はやまない。


 ショッピングモールで開かれたライブは小さいものだったけれど、多くの人を魅了したのは事実だ。カインは録画を停止し、撮影を終える。


 あとは動画配信でどれだけの視聴者がついてくれるか。それだけが心配だった。


 アンコールッ! アンコールッ!


 裏に引っこんでいたオミナたちがステージに出現する。


「おまたせしました。もう一曲だけですよ」


 会場がワーッと沸く。


 オリジナル曲スタートのイントロがかかる。


 苦しそうだったオミナはダンスに参加せず、歌い始める。


 オミナがソロで歌い、横の二人がダンスに専念するようだ。


 その瞬間。

 

 エマージェンシー。


 突如、大和丸の船内を流れる放送。


「緊急警報。中型のクラーケンが出現。近くのものに捕まり揺れに備えてください」


「こんなときに嘘だろ?」


 突然のアナウンス。カインは怒りを隠せない。


 初めてのライブ。大成功に終わったけれど。


 オミナたちに最後まできっちりアンコールを歌わせてやりたい。


 カインは動く。


「僕がクラーケンを止めてきます。みなさんはそのまま続けてください」


「ちょ、ちょっと。カイン君!?」


 ノアイからアイドルのモリをひったくる。


 そのままショッピングモールの窓まで走り、開いては勢いよく海に飛びこむ。


 大海原に出ると強烈な潮の匂いがした。


 聖遺物アイドルのモリには飛行能力がある。


 魔法使いが乗るホウキのようにすいすい空を走り回る。


 振り落とされないように両手でしっかりつかみながら、モリの能力を発動させた。


 海面に衝突する直前、モリが光り輝き急上昇する。


 そのまま任意で滑空し、大和丸の甲板まで移動した。


「あいつか」


 カインの視界には大和丸と同じぐらいの大きさのクラーケンが映った。


 中型が一匹。小型のクラーケンが数十匹。大和丸の進路を塞いでいる。


 船内でエマージェンシーが出るときはレーダーに映らなかった、もしくは早すぎて接触を避けられなったクラーケンと対峙した時だ。


 大和丸は頑丈なので中型のクラーケン程度ではビクともしないが揺れはひどい。


 ライブは一時中断となり、避難勧告が発令する。


「僕たちのライブを邪魔しやがって絶対に許せない。一撃で仕留める」


 カインは両足を踏ん張り、右手を大きく振りかぶる。


 一呼吸おいてそのまま右手を振り下ろし、アイドルのモリを射出した。


 モリは加速し、ぐんぐんスピードを増して中型クラーケンに向かう。


 途中、中型の周囲を浮遊していた小型のクラーケンが何匹も集合し、盾となる。


 小型のクラーケンを木端微塵にするモリ。けれども中型に当たる前に速度を失い、カインのもとにブーメランのごとく戻ってくる。


 何度かやれば中型のクラーケンに必ず届く。


 そう感じたカインは投擲を繰り返す。


 二度目。三度目。四度目。五度目。


 五分ほどそうしただろうか。


 しかし、そのたびに小型のクラーケンが中型の盾となり、モリの攻撃は届かない。


「くそっ、威力が足りない」


 モリは時間の経過とともにレベルを落とし、普通のモリにスケールダウンする。


 レベルゼロになったモリは飛行能力を失くして無力に。カインは攻撃手段を失う。


 迫ってくる中型のクラーケンに何もできず、甲板に崩れ落ちる。


「中型に素手でかなうはずがない。僕はどうすればいいんだ?」


 強化人間のお披露目会で溺れた悪夢が蘇る。


「今まで一体何のために頑張ってきた。あいつらに復讐するためだろう? なのに何もできなくて悔しい。両親の仇を討つためだったのに、僕はみじめだ。泳げない。女の子とまともにしゃべれない。プロデューサーなのに何の役にも立たない。僕はアイドルの錘じゃないか?」


「――そんなことありませんっ!」


 甲板の扉が勢いよく開く。マイクを握りしめたオミナが登場した。


「カインは私をアイドルにしてくれました。声をかけてくれました。メールしてくれました。たくさんお世話してくれました。口下手でもアイドルになれました。重しになんてなってません。クラーケンと戦うのは立派です」


「もっと先輩と一緒にアイドルやりたいです」メリーが続く。


「立ち上がれ。アイドル屋!」ハマダが顔を出す。


「みんな……」


 カインは一人で戦い続けてきた。


 大和丸でも強化人間になってもプロデューサーをやっても結局は一人だった。


 表面的に仲の良い友人・知人はできても最終的には一人ぼっち。


 なぜなら両親を失った悲しみは誰にも分かち合えないから。


 復讐に燃えるカインは、たった一人で強化人間に応募し、苦しい練習に耐え、アイドルを集め、自分勝手な行動に走った。孤高の復讐者を気取っていた。


 攻撃だってライブを中断されたから怒ってやったのではない。クラーケンすべてに怒っているからやったのだ。カインの自己中心的でモリを奪い、独断専行した。


 他人はどうでもいい。大和丸もタニザキもノアイもアイドルも、クラーケンを倒すためのただの道具だ。そう思っていた。


 でも違った。


「カイン君。ライブ、スタートだ!」ノアイがミュージックをかける。


 カインには仲間がいた。一緒に戦ってくれる友がいた。


 全身の血液が熱くなる。


 アイドル戦士が歌う。曲はスタート。


 ハートが燃える。


 歌姫たちが全身全霊を懸けて大声を張り上げる。


 カインは立ち上がった。ライブは貸し切り。最高のバックミュージックを受ける。


「ここで決めなきゃカッコ悪いよな」


 アイドルのモリを拾い上げる。


 奇跡が起きる。モリのレベルはゼロから二十レベル、そして、三十になっていた。


 アイドルの必死さにモリが答えたのだろう。十レベルも上がっている。


 彼女たちの命懸けのライブに報いなくては。


「プロじゃなくてもいい。甲子園児みたいに泥臭くて文化祭ノリのアイドル」


 カインは大きく振りかぶり、投擲。


「それがアイモリclub。最高のアイドルだ」


 彗星のごとく射出されたアイドルのモリはすべてを貫く。


 中型クラーケンのどてっぱらに風穴を開ける。


 巨大な敵は大量出血。即死。そのまま海の底へ沈んでいった。


 勝利する。


「やったぁああああああ!」


 大和丸の至る所で歓声が上がる。


 ノアイがカメラで生放送していたからだ。


 そのため、カインの戦闘やアイドル戦士の活躍は大和丸の全員に知れ渡った。


 スタートが歌い終わり、ノアイが静かに撮影を終える。


 カインは正座し、空を見上げながらガッツポーズした。


「うぉおおおおおお! 勝ったー!」


 嬉しさのあまり雄叫びを上げた。


☆☆


 ショッピングモールにあるATMに諭吉40人を投入する。


 カインの借金は無事に返済。意気揚々とATMの個室を出る。


 一応の結果報告。


 中型クラーケンを倒した後、タニザキさんにこっぴどく叱られた。


 強化人間をやめたカインが勝手にモリを奪って戦闘に参加したのだから当然だ。


 しかし、厳重注意に終わった。そのあと、なんか表彰を受けた。


 ノアイやオミナたちみんなで喜んだ。打ち上げをした。


 アイモリclubは解散の危機を免れる。


 動画配信の広告収入だけで余裕で黒字になった。


 その分野の専門家いわく、ライブだけではここまで視聴数は伸びなかったらしい。


 ノアイが撮った生放送のおかげで人気に火が付き爆発的に視聴数が伸びたらしい。


 ただのアイドルではなくクラーケンを倒すために生まれたアイドル。


 戦闘シーンを見せれば嫌でも興味を引くに違いない。


 カインの戦闘シーンと命懸けのライブは相乗効果を生み、動画は急上昇した。


 みんなクラーケンにおびえていたのだ。


 絶望という壁を穿ち、希望という風穴を開けたのだから人気は当然かもしれない。


 初めてのライブは大成功。


 アイドル戦士を投入した初めての戦闘にも大勝利した。


 ところ変わって副館長室。


「カイン君。君に強化人間の復帰を命令します」


 借金を返済した後、タニザキさんに表彰される。


「これからも大和丸の平和をよろしくお願いします」


 アイドルのモリをもらい受ける。持ち主がノアイからカインへ正式に変わった。


「はい、任せてください、それから……」


 カインは微笑む。


「アイモリclubのプロデューサーも、任せてください」


「ええ、期待しています」


 カインのお仕事はまだまだ続く。

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