第6話 アイモリclub始動
共同生活六日目の夜。高熱とショックで気絶したカインは目を覚ます。
部屋ではセーラー服のノアイが横になって寝ていた。
ずっと看病してくれたらしい。ありがたい。
起こさないように部屋を出ようとすると、スカートの中が見えそうになっていた。
チラリズムは男の美学である。
生まれて十七年。パンチラは何度か見たことがある。
女子が無防備だった小学生時代はノーカンとして中学ではまったく見れなかった。
中学生はスカートの中に体操服の短パンをはいている場合が多い。
唯一にして最も価値があるのが高校生時代だ。
カインは高校一年生の時に、二回だけパンチラに遭遇したことがある。
スカートの中に体操服の短パンをはかないとはいえ高校生はガードは堅い。
二回もパンチラをおがめたことは幸運だっただろう。
一回目は隣の席の女子。
彼女が椅子に座りながらこっちを向いたときに青色のパンティーをおがんだ。
高校に入学して初めておがんだパンチラに、高校生のスカートの中はパンツなのだと衝撃を受けた。中学とのカルチャーショックに歓喜した。
その後、チラリズムとの孤独な戦いが始まった。
パンチラを待つのである。待つだけ、自分からは手出ししない。
スカートめくりなど言語道断。
そんなことをすればクラスの女子から総すかんを食らう。
暇があればスカートを眺め、暇があればスカートを眺めた。
待ち一方。戦いは長期戦に突入する。
スカートは自分からめくれてはくれない。
覗きは美学に反する。カインは突発的なチラリズムを待ち望んだ。
転機が訪れたのは夏。体育祭のシーズンだ。
体育祭で出し物をするのだが、カインたちはダンスを披露することに決まった。
その練習で、制服を着た女子がお手本のダンスをしたときにジャンプした。
ふわりとまくれるスカート。純白だった。
アニメや漫画に出てくるお手本のような純白のパンティー。
カインは長い戦いに勝利し、無事二回目のパンチラに遭遇した。
その後、高校生活は順風満帆になるはずだった。
クラーケンが襲ってくるまでは。
結局何が言いたかったのかというと、カインは十六歳になって二回しかパンチラをおがんでいない。強化人間になり、訓練しているときはチラリズムを遂行する暇すらなかった。
そんでもって現在。カインの目の前には無謀な姿で寝ているノアイがいる。
三回目のパンチラチャンスだ。
ちょっと角度を変えて少し屈めばスカートの中を覗ける。
ノアイは気持ちよさそうに寝ている。
まさかカインが襲ってくるとは露ほども思っていないような気持ち良い寝顔だ。
スカートの中を見るくらい……と思ったが、自分を信じて看病までしてくれた女の子の恩をあだで返すような真似はしたくなかった。無邪気な顔に毒気を抜かれた。
なにより主体的な行動によって起こるパンチラはパンチラではない。
チラリズムの美学に反する。
ノアイにタオルケットをかけて潔く部屋を出た。
玄関に行くと女性用の靴が四つもあった。
二つは同居人のオミナとメリーのもの。
スニーカーはノアイとして、もう一つはハマダさんか。
どうやらハマダさんも泊まっているようだ。
どんどん大所帯になっていく共同生活に苦笑いする。解散するかもしれないのに。
台所に移動し、誰にも聞かれないのを確認してからタニザキさんに連絡する。
時刻は夜の十時。電話するには失礼な時間だが、どうしても話しておきたかった。
タニザキさんに電話がつながる。
『やあ、カイン君。どうしたんだい?』
「今日は風邪ひいてすみません。お見舞いの品ありがとうございました。ノアイから受け取りました」
『元気そうじゃないか。最近、働きづめだったから十分に休んでください』
「ありがとうございます。ところで……」
お礼をそこそこにして単刀直入に切りこむ。
「幻のアンドロイド、聖遺物セブンが見つかったと聞きました、本当ですか?」
カインは興奮を隠しきれない。タニザキさんも興奮しているようだ。
『ああ、昨日のことだ。深海で眠っているセブンを発掘した。まだスリープ状態だけれども起動したらきっと人類に役立ってくれるだろう』
情報公開制度があるため軍事機密は公開しなければならない。アンドロイドもこれに該当する。タニザキさんの言葉に嘘偽りはないようだった。
男は度胸。カインは勢いそのままに聞いた。
「聖遺物セブンが起動したら強化人間はお払い箱ですか? アイドルのモリは? 今、つくっているアイドルグループは解散ですか?」
強化人間の存在理由はクラーケンを倒して日本を奪還すること。
聖遺物セブンが代わりに日本を奪い返してくれるならそれはそれでいい。
問題はアイドルたちだ。
アイドルのモリによって集められた彼女たちが、アイドルのモリよりも強い聖遺物が発見されたからもういらない、と言われるのは非常に酷ではないか。
せめてアイドルたちを守りたかった。
「僕やノアイ、強化人間たちは仕方ありませんよ。アンドロイドに人間は勝てない。補助でもなんでもします。だからオミナは、メリーやハマダ、彼女らのアイドル活動だけは続けさせてください。お願いします」
十秒ほど間が空く。長く感じられた。
『勘違いしないでほしい。聖遺物セブンが起動したからと言って強化人間がお払い箱になることはない。実験データを取って安全性が確認されるまで実践投入はしない。少なくとも一年は強化人間の力が必要だ』
「でも今日、ノアイがやめさせられるかもしれないって……」
『それはノアイ君の勘違いだ。学者が聖遺物セブンの研究で忙しくてクラーケン討伐が後回しになっただけ。彼女にも十分に休んでほしいと伝えてください』
ほっとした。聖遺物セブンの実践投入はまだまだ先。ノアイは大丈夫そうだ。
『けれど残念なのはアイドルグループの方だね。聖遺物セブンが見つかったのでアイドルのモリに回す予算が、あちらにとられてしまう』
「え、それってどういうことですか?」
『アイドルのモリ。そのレベルをあげるために結成されたアイドル戦士に回す予算がなくなった。税金は使えない。こうなった以上、もし収益が見こめなければアイドル戦士は解散だ』
「そんな……」
『君や彼女たちには本当に申し訳ない。すまない。収益の見こめないアイドルたちに税金を投入できるほど私たちは裕福ではないのだ。今後、多くの税金が軍事費という形でセブンに投入されるだろう。これもすべては日本を取り戻すためだ』
そして、タニザキさんは一か月後までに利益が出なければ解散すると続けた。
今までは楽しくアイドルを育てていればよかった。方針なんて何もない。
ただアイドルのモリのレベルをあげるだけで良かった。
それがいまや集客や収益を求められる。それが普通なのかもしれないが。
カインは興奮した。今までがイージーモード過ぎたのだ。ここからが本番。
タニザキさんは一か月後に利益が出なければ解散すると言った。
なら利益が出せれば? それで万々歳なのだ。
カインはたぎった。
「わかりました。僕が求めているアイドルが大衆に受けることを証明して見せます。一か月後にライブして成功すれば、利益が出れば、ずっと続けてもOKですよね?」
『ええ、そうです。期待しています』
タニザキさんとの通話を切る。
女性が苦手だから何もできない。そう思っていた。
弱音ばかり言っていられない。
ハマダさんと毎日しゃべって女性苦手を克服するまで、時間は待ってくれない。
なんとかしなければ一か月後に解散だ。
本当の意味での、カインの戦いが始まった。
☆☆
まず初めにカインがやったことは共同生活を捨てることだった。
十分な睡眠の確保。
仕事が忙しいと言い訳して外出。夜はカラオケか漫画喫茶に入って睡眠をとった。
解散の危機はハマダさんを通してメンバーに知らせた。
メリーが加入したことにより知名度は急上昇していたが成功する保証はない。
万が一にも解散するかもしれないと伝え、メンバーを励ました。
次にカインは、ショッピングモールのライブ会場を予約した。
その次にカインは、ダンスレッスンを始めた。
動画配信者でつくった会社には踊ってみたで有名なプロのダンサーが何人かいた。
彼らを雇うために四十万円の借金をして、一か月間、みっちりレッスンを頼んだ。
曲はまだできていなかったが、基本となる動きを教わった。
最後にカインは、アイドルグループの名前を考えた。
数時間、頭を悩ませた結果。
アイドルのモリのために集まったアイドル、ということで。
アイモリclub。というユニット名にした。
clubは、文化祭のノリでクラブ活動するアイドル、というイメージからつけた。
略してアイモリ。
直球すぎるかもしれないがカインのネーミングセンスではこれが限界だった。
やれることは全部やった。
動画配信者の会社に頼んで宣伝を流してもらったし、大和丸のセンター街で、毎日チラシ配りをおこなった。とにかくやれることはすべてやった。
アイモリclubのプロデューサーなのに、二十日間ほどハマダさん以外のメンバーと顔を合せなかった時期があった。それでよかった。カインは素人なのだ。
作詞作曲、ダンス、衣装はすべて彼女たちに任せる。そう決めたのだ。
月日は瞬く間に過ぎていった。
☆☆
共同生活三十日目。
ライブ当日の朝。一足先にショッピングモールの設営会場に行くとノアイがいた。
「おはよう、カイン君。アイモリclubの様子を見に行かなくて大丈夫?」
「信じてるから大丈夫。それに、お前のほうが詳しいだろ?」
この一か月間。ノアイはアイモリclubにつきっきりだった。
マネージャーとして一緒に生活。練習から雑用、家事まで幅広く手伝ってくれた。
「僕の代わりに共同生活を管理してくれてありがとうな」
「ひっさしぶりの休みでやることなかったから手伝っただけだし」
「この一か月間どうだった?」
「えっと、オミナはむちゃんこ頑張って練習してて、メリーは寝ずに歌詞とか曲とか考えてて、ハマダは家庭教師しながらもみんなをまとめてた。すっごい楽しかった」
ノアイは一か月間におこった出来事を詳細に話す。
パジャマパーティーをしたり、恋バナをしたり、みんなで女子会を開いてたくさんおしゃべりしたことなどを教えてくれた。すごく幸せな表情を見せる。
その表情を見て、カインは、ノアイだって女の子なんだなと実感した。
強化人間として苦しい練習を耐えてきたが、周りは男ばかりだった。
ノアイの周りには、一緒にいて楽しめる女友達が欠如していた。
彼女だって本当は普通の学校に通って、放課後とかに楽しくおしゃべりするような青春がしたかったはずだ。
「なあ、ノアイ、お前……」
「ん?」
……このままアイモリclubに入らないか?
そう誘おうとして言葉をつぐんだ。最後まで言えなかった。
ノアイは防衛のかなめだ。アイドルごっこにかまけている暇はない。
「……いつでも遊びに来いよな。僕ら友達だろ」
「いつから私はお前の友達になった。でもいいぜ、暇なときは遊びに行ってやる」
カインの描く理想のアイドルユニットは三人だった。
でもそれが、今、四人に変わった。
オミナ、メリー、ハマダ、そしてノアイ。
アイモリclubは四人で完成形だ。
いつか近い未来、日本を取り戻して平和になれば、ノアイを絶対に誘おうと。
カインは心に決めた。
好きとか嫌いとか恋愛感情などではない。ただいつも他人のために戦っている強化人間の少女を仲の良い女子グループに入れてやり、幸せそうに笑っている姿を見せてほしかった。それが理想と重なった。それだけだ。
だってノアイはアイドルになりたがっているんだから。
本人に言ったら否定するかもしれないけれど。
ノアイはアイドルに興味津々なのだ。
だれが好きこのんで一か月も住みこみでマネージャーを務められるだろうか。
一年間一緒にいたカインだからわかる。ノアイはアイドルが好きだ。アイモリclubのメンバーが大好きなのだ。
「悪い。そろそろ準備しなきゃ」
「お前一人で設営すんの?」
「ああ、人件費は極力削らなきゃならないから」
ただでさえ四十万円も借金しているのだ。
今日ライブが失敗すればどの道おしまいだ。
「手伝うぜ」
ノアイが進んで手伝ってくれる。
もしかしたらこのために早く来たのかもしれない。
「悪い。恩に着る」
ノアイのおかげでショッピングモールの設営は着々と進んだ。
☆☆
共同生活三十日目。
休日のお昼。ショッピングモールは家族連れが目立つ。
すべての準備を終え、ノアイと一緒に観客席に座る。
大型のカメラを構えて撮影の準備を始めた。
最初はドキュメンタリーを撮るために用意したカメラだったが、今、役に立った。
ノアイはアイドルのモリを構えてレベルを測る。
「私の時は二レべだったけど、あいつらに未来の可能性を賭けたいんだ」
アイドルのモリのレベルが上がれば、聖遺物セブンにたどり着けるかもしれない。
モリのレベルがどこまで上がるのかを見守った。
「ところで、チケットを販売してないけどいいのか?」
「ああ、無料だ」
「は、そんなんじゃ利益出ないだろ。バカじゃない!」
「静かに。黙って」
司会のお姉さんが出てくる。
たくさんの拍手が鳴る。
毎日チラシを配った甲斐あり、無料ということも助長して、満員御礼だった。
アイモリclubの三人が煌びやかな衣装に身を包んでステージにあらわれる。
カインはカメラの録画スイッチを押す。
初ライブ。始まる。




